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ユーザー体験とグロースの二項対立を防ぐ。Meetyが実践する「PMF前夜」のプロダクト論

ユーザー体験とグロースの二項対立を防ぐ。Meetyが実践する「PMF前夜」のプロダクト論

〜多くの企業や個人が活用するカジュアル面談プラットフォームMeety。定量×定性でクリティカルな打ち手を導き、事業成長に寄与するプロダクトマネジメントの具体〜

PMFを目指してプロダクト開発に勤しむスタートアップ企業の多くが、「ユーザー体験とグロースのバランス」について悩んだことがあるのではないだろうか。

2019年に創業した株式会社Meetyでは、従来の採用プラットフォームで生まれていた申込者(応募者)と企業の期待値のずれを解消し、今の時代に合ったマッチングサービスを提供すべく、2020年10月にカジュアル面談プラットフォーム「Meety」をローンチ。

同社の代表取締役である中村 拓哉さんは、「特にシード期の企業はプロダクト開発における定量データが乏しく、定性的な仮説を元にどのようなユーザー体験が良いのかを探り当てる必要がある。その後、ある程度の定量データが蓄積されてからは、定性×定量の2軸を見ながら感度高くプロダクトマネジメントをする必要が出てくる」と語る。

ローンチ当初は定性情報から打ち手を練っていた同社でも、2022年4月頃から「サービスKPIの構造整理」「グロースサイクルの定義とプロダクト課題の整理」「データ分析の土壌作り」を行い、課題解決の優先度を明確にしたことで、それまで以上にスピード感を持って新機能の開発に着手できるようになったという。

今回は中村さんと、グロース・プロダクトマネージャー(以下、PM)​​を担う稲田 宙人さんに、PMF前のフェーズで、ユーザー体験を優先しながらどのようにグロース戦略を描いてプロダクトマネジメントを行っているのかについて、詳しくお話を伺った。

時代にマッチした、企業をウィンドウショッピングする世界観を創る

中村 僕は大学卒業後に株式会社Speeeで7年ほど、XR関連スタートアップで2年ほど勤めた後に、2019年5月に株式会社Meetyを創業しました。

そこからいくつかのプロダクトをピボットしながら、2020年10月にカジュアル面談プラットフォーム「Meety」をローンチしました。

僕たちがこのサービスを作ったのは、人材を募集する企業と申込者の期待値のずれを解消したいという想いがあったからです。

例えば「カジュアル面談に行ったら選考された」といったTweetがよくバズっていますよね。僕自身も実は「カジュアル面談って、めっちゃきな臭い」と思っていた一人で。

申込者としては本当にカジュアルに話を聞けると思っている一方で、採用目標を追っている企業からすると、カジュアル面談とは言っても「結局どうしたいの?」「面接もしないの?」と迫ってしまうこともあって。双方の期待値がずっと微妙にずれ続けているなと感じていたんです。

基本的に、世の中の採用サービスはどれもBtoCで設計されていて、企業の人事の方が求人を作って申込者とマッチングするという形ですが、今の転職市場におけるパワーバランスは申込者のほうが強くなっていますよね。

その市場感の中で、申込者が履歴書を準備したり、企業に自分からアポイントを取ったりする行為はあまりマッチしていないなとも感じていました。

こういった考えから、僕らは今の時代に合ったマッチングを提供するために、転職や採用を強く求めている層ではなく、「企業の中の人と話して勉強したい」「人脈を増やしたい」といった方々の繊細なニーズを拾い上げていきながら、ちょっとずつ溝を埋めるようなサービスを作っています。

▼代表取締役 中村 拓哉さん

現在、Meetyは月間7万人と500社ほどが利用してくださっていますが、ユーザーさんに対する確固たる価値を定義して提供するまでには至っていないので、まだPMF前のフェーズだと認識しています。

そもそも僕たちのPMFの定義としては、少なくともマネタイズできているかどうかではないと思っていて。スタートアップの多くは、めちゃくちゃ採用に困っていてバーニングニーズが顕在化しているので、採用系サービスとしてマネタイズすること自体はさほど難しくはありません。

一方で、Meetyは募集者と申込者が直接繋がるCtoCサービスにしているところが最大の特徴であり、特に申込者に徹底して寄り添ったサービスにしたいので、経済的な面とのバランスを取るのがすごく難しくて。

まずは、申込者が気軽に色々な企業をウィンドウショッピングする感覚で利用できる、ユーザーの心にぶっ刺さるような世界観を作りきった段階をPMFの入口として、その先にマネタイズがあるのかなと考えていますね。

初期は著名人の特集コンテンツ企画で、「鶏と卵」問題を突破

中村 これまでMeetyの成長に大きく寄与した施策は二つあって、その一つが「特集コンテンツ企画」です。

Meetyでは、まず募集コンテンツが作られて、それがSNSでシェアされて、それを呼び水にユーザーさんがMeetyを訪れて、会員登録して申し込むという大きな流れがあって。基本的には、最初のコンテンツを作る人たちが増えないとユーザーも増えず、グロースサイクルが回らないという構造になっています。

そのため、まずは発信者を集めなければいけませんが、ユーザーが少ないと発信者も集まらないわけで、そこにはいわゆる「鶏と卵の構造」があるんですよね。

なので、Meetyをローンチしてからの半年は、本当に目も当てられない状態というか、うんともすんとも…みたいな感じでした。

そこで、その状況を突破する一つの要因になったのが、特集コンテンツ企画でした。

例えば初期は、「iOSエンジニア特集」や「データアナリスト特集」のように、職種に特化した特集だったり、各種カンファレンスなどとコラボした企画を量産していましたね。

どのように発信者を集めたかと言うと、それぞれの領域で「神」と呼ばれるような有名な方々にTwitterでDMを送りまくって、Meetyを無料で使っていただきながらコンテンツ作りをお願いした形です。

その方々がSNSで発信してくださることで、Meetyとしては自然と集客されて会員が増えていくし、その方自身にも新しい出会いがあるといったWin-Winの関係を作ることができました。

それに連動して、スタートアップ界隈の発信力の強い企業や個人の方も続々とMeetyを利用し始めてくださったことが、二つ目のグロースの要因になっています。

最初の企画で組んでくださった方々が定着して、例えばLayerXさん、Ubieさん、メルカリさん、SmartHRさんといった著名企業にも使っていただけるようになり、それを見た他の企業も追随するように倍々で企業の登録が広がっていったことで、鶏と卵の問題を突破することができました。

直近では、2021年8月に開始した「#ウラ凸」という、Meety上に企業の特集ページを設ける企画に一番大きな反響があって、こちらも多くの企業から掲載のご希望をいただきましたね。

▼企業の「#ウラ凸」ページのイメージ(一部)

さらに非線形の成長曲線を描くために。サービスKPIの整理を実行

中村 このように傍から見ると、順調に事業が成長してきたように感じるかもしれませんが、実はユーザー数は一定の伸び率でしか成長していなくて、「これ、やばくない?」とも感じていたんですね。

PMFを目指して次のフェーズに進めるには、定性×定量の2軸で感度高くプロダクトマネジメントする必要があると思い、稲田さんに声をかけさせていただきました。

稲田 僕はこれまで、Repro株式会社で顧客のマーケティング運用や全社経営戦略の策定、新しいプロダクトの事業責任者などを担ってきました。

そして、2022年4月から副業という形でMeetyにジョインしました。Meety内での立ち位置としては、グロースとPMという二つの役割を担っています。

僕たちのプロダクトマネジメントにおける前提としては、立ち上げ期の短期的な視点では「供給」が重要になるものの、長期的な視点では「ユーザー(申込者)体験ファースト」でなければプラットフォームとして拡大できないという考えがあります。

ですので、Meetyへの参画後は「ユーザー体験ファーストの中で、どのようにグロースさせるか、どうやって折り合いをつけるか」というバランスに気を配りながら、ユーザー体験の設計に注力していきました。

▼グロース・プロダクトマネージャー 稲田 宙人さん

これまで僕が実施した取り組みとしては、大きく三つあります。一つ目が、サービスKPIの構造整理、二つ目がグロースサイクルの定義とプロダクト課題の整理、三つ目がデータ分析の土壌作りです。

まず一つ目のサービスKPIの構造整理についてですが、それまでは定量データが乏しかったので、開発チーム、デザインチーム、ビジネスチームという3つのチームの中で、どの部分の改善を優先度高くやっていくべきかという明確なジャッジ基準を持てていなかったんですね。

なので、まずは僕の方で初期分析をした上で、KPIレベルでの優先度を決めにいきました。

▼初期分析の際のディスカッションペーパー(全体像)

具体的には、申込者と募集者の双方でKPIツリーを書いていきながら、本当にクリティカルな価値を提供するためには、どのフェーズでどんな数値を取って、どういった観点でそのデータを活用すべきなのかということを整えていきました。

▼KPI構造をツリー形式で整理

そのステップを経て、各KPIにおける第一から第三までの優先順位と、主に「新規流入数」や「リテンション率」に課題があることを、このような形で明示していきました。

▼初期分析による「ユーザーの行動ステップと重点課題の整理」

グロースサイクルを定義し、注力すべきポイントと優先度を決定

二つ目の取り組みとして、Meetyが循環的に成長していくためのグロースサイクルを定義しました。

KPI整理の時にも顕在化していましたが、結局は面談数を増やし、申し込んでくれるユーザーを増やすことが一番の成長の起点になるので、PMF前の段階では下図の赤い矢印で記載している「コアグロースサイクル」に注力すべきだということを明確にしました。

▼Meetyのグロースサイクルのイメージ図

それ以外の黒い矢印も、本来リソースがあれば全てやるべきことなんです。例えば「シェアによる認知拡大」の部分を強化したいとなれば、そのための機能を考えることになります。

ただ、そこはファネルで考えると後ろの方で対象ユーザー数はそこまで大きくならないから、優先度は相対的に高くないよね、といった形で会話をしながら進めていきました。

そして、これまで整理したKPIを基に、プロダクト課題のロジックツリーを作成していきました。ここでは、課題であるイシューを構造的に分析する手法としてイシューアナリシス(Issue Analysis)を参考にしています。

イシューの欄には70個ほどの項目が入っていて、そこに対する数値分析と課題原因の仮説検証をした上で、プロダクトミーティングでは今打ち手を打つべき課題について、全員で話しながら合意形成していきました。

▼プロダクト課題を網羅的に並べたロジックツリー

ここで重要なのは、このロジックツリーは具体的な施策を検討する「施策リスト」ではないということです。ある課題に対して、なぜそれが解消されないのかをWHYで突き詰めて分解して、課題の優先度を決めるための「課題リスト」であるということは、すごく丁寧に説明をしていました。

また、仮説出しの時には、定量・定性のファクトベースで精度の高い仮説を出すべきだと思いますが、別にそれが正解でなくても良いと思っていて。大事なのは、課題の網羅性があって仮説の検証ができる状態になっていることと、いきなり施策に飛びつかないことという2点かなと思っています。

そして、この課題リストを基に打ち手の優先度を決定する際には、「そもそものサービス思想とアラインしているか」と「理想と現状のギャップ(課題解決した場合のインパクトの絶対値)とその実現性」という2軸をすごく重視していますね。

最後に、三つ目の取り組みとして、定量分析ができる最低限の環境を整えました。

それまではGA(Google Analytics)上のPV数やUU数といった簡易データしか取れていなかったので、そこでのイベント設計や実装をしっかりと行ったことと、新たに定性分析ツールを導入しました。

それによって、ユーザーがMeety上でどのようなフローをたどって、どういう風にコンバージョンしてくれたのかといった情報を取れるようにしていった形ですね。

ここでは、「木を見て森を見ず」状態を避けるために、ミニマムの計測体制から始めることが重要だと考えています。

というのも、結構やりがちなのが、まだユーザー規模やサービスフェーズがそこまで進んでいないのに、めちゃくちゃ精緻にデータを見て細かい数値にこだわってしまうという失敗です。

当然ながら、大雑把に数値を見れば良いという話ではありませんが、枝葉にこだわるのではなく、まずは大局の課題を捉えるための分析設計を行うことが、このフェーズでは重要なのかなと思いますね。

面談埋め込み機能やページ改良で、ユーザーの活用度を高めるフェーズへ

稲田 これらの取り組みによって具体的な施策を打てる段階に進んだので、直近では「面談埋め込み機能」の施策を優先度高く進めています。

例えば、すでにnote上では、Meetyの面談URLを挿入すると素敵なデザインで情報が埋め込まれるようになっています。

そのように、Meetyの面談を誰でも自分の好きなサイトに埋め込める機能と、面談にアクセスできるQRコードを発行できる機能を、今年9月に新規リリースする予定です。

▼note上にMeetyの面談URLを挿入した際の埋め込みイメージ

その施策に行き着いた理由として、今まではSNSでの拡散力にすごく助けられていたのですが、いわゆる「スタートアップ村」を越えて広がっていかないような感覚になってきている中で、新しいチャネルを開拓しなくてはいけないという考えがありました。

また、定量データも含めてユーザーのユースケースを見ていくと、企業の採用サイトやブログ、登壇資料などに、Meetyで挙げているコンテンツのテキストリンクだけを貼ってくださっている方も多いんですね。そこから、面談埋め込み機能の部分に伸び代があるなと感じたんです。

実は、GaudiyさんやNewsPicksさんなどでは、採用ページに自社で独自にMeetyの面談を埋め込んで、ごりごり使いこなしてくださっていたりします。

しかし、すべての企業がそれをするのは難しいので、我々の方で情報を埋め込みやすくして、かつ、Meetyのブランディングもしやすくするということを実現しようとしています。

▼開発中の面談埋め込み機能のイメージ

中村 さらに、課題解決の一つとして、ユーザープロフィールページと企業プロフィールページの改良にも着手しています。

今は各コンテンツのページしか設けていないので、企業プロフィールページ上では申込者が安心してカジュアル面談に臨めるような情報を網羅的に出せるようにしたり、ユーザープロフィールにおいては情報の寄り道要素を省いたりすることで、よりコンテンツに対してアクションしやすい仕様にしていきます。

稲田 ここでも一番大事なのはやはり申込者さんの体験ですよね。興味を持った企業名を検索した時に、事業の強み・弱みといった会社のリアルで赤裸々な情報が知りたいというニーズが一定数あるので、そういった情報もきちんと提供できるようにしたいと思います。

全ユーザーをサクセスさせる、精度の高いアルゴリズムを構築したい

稲田 このようにMeetyはPMFを前にして、まだまだ改善を繰り返しているフェーズにいるのですが、今後はコンテンツマッチの仕組みを再設計をしていきたいなと思っていて。

というのも、申し込み後のマッチング率自体は高いのですが、退会理由ではそもそも「申し込みたい面談が見つからなかった」といったお声も聞かれるので、コンテンツ自体とその当て方に課題があると感じています。

なので、継続的に使っていただく理由づけのためにも、ユーザーごとに最適な面談をこちらから提案して、ユーザーが意識することなく、自然・自発的に魅力的な面談に出会える状態を作るところにフォーカスしていきたいと思っています。

また、Meety上では明確に転職したいという方もいらっしゃれば、技術の情報交換がしたいといった方もいらっしゃって、ユーザーさんの温度感の幅が広いんですね。

なので、中長期的にはその温度感の広がりも加味したコンテンツマッチングアルゴリズムを作っていって、より精度高くマッチし合うようにしていきたいですね。

中村 僕は、冒頭にお話ししたユーザーの心に突き刺さるような、凡庸ではないプロダクトを創って強いPMFを実現したいということと、より多くのユーザーをサクセスさせたいという二つの思いを持っています。

第一に申し込みするユーザーの皆さん、次に募集されるユーザーの皆さんや企業さんのサクセスがあって、その次に僕らの事業が成立するという、それぞれのバランスを崩さずに事業として成立させていくことが、この先の半年くらいで挑むチャレンジになってきますね。

例えば、自分から申し込むのをためらってしまうユーザーさんや、自力での集客が難しい企業さんがいらっしゃるので、そこを僕らのアルゴリズムによってマッチさせたり、企業側が自分たちから能動的にお誘いできる機能を付与するといったことを考えています。

ユーザーさん、企業さんが今感じている課題の部分には繊細なニーズがいっぱいあるので、そこを一つひとつ解きほぐして、より皆さんがサクセスできるようにしていきたいですね。(了)

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