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物件やNFTは即完売。累計41億調達のNOT A HOTELが挑む「新しい暮らし」の体験設計とは

「世界中にあなたの家を」というコンセプトを掲げて2020年4月に創業し、住宅のD2C事業を展開するNOT A HOTEL株式会社

同社は、自宅にも別荘にもホテルにもなる全く新しい住宅を「NOT A HOTEL」と名付け、2025年度に全国30ヵ所へ拡大することを目指して建築と販売を進めている。

昨年情報を解禁した「NOT A HOTEL AOSHIMA」と「NASU」は、着工前にも関わらず販売後すぐに40億円の売り上げを達成したが、億単位の住宅の販売ページにショッピングカートを設け、「資料請求」ではなく「購入する」ボタンをつけたと聞いたら、誰もが驚くのではないだろうか。

著名な建築家と共に作り上げる「NOT A HOTEL」の建築エリアは、今後は日本に留まらず世界へと拡大予定だ。そのうち一軒でも所有権を購入したオーナーは、すべての住宅を利用できる「相互利用」の仕組みがあり、専用アプリひとつで自宅・別荘利用とホテル貸出を自由に切り替えることもできる。

さらに、一つの住宅を30日分から購入できるシェア購入や、年間1泊もしくは3泊利用できるメンバーシップNFTを販売するなど、かつてない画期的な企画を多く打ち出し続けているのも特徴だ。

アラタナ(現ZOZOTOWN)創業者で、NOT A HOTELの代表を務める濵渦 伸次さんは、​​「衣・食・住のなかで『住』だけは気軽に選ぶことができない。今目指しているのは、住む場所を自由にすることと、経年劣化と反比例するように住宅の価値を高め、NOT A HOTELが流通しやすいセカンダリーマーケットの仕組みをつくることだ」と語る。

今回は、同社でCXOを担う井上 雅意さんと、BizDevとしてNFT事業の責任者を担う小畑 翔悟​​さんに、NOT A HOTELが提供する「あたらしい暮らし」の体験設計の全容について、詳しくお話を伺った。

▼【左】井上さん【右】小畑さん

今までにない暮らしをオンライン販売する。「NOT A HOTEL」始動

井上 僕は、ヤフーでの新規事業立ち上げや、メルカリのCXOとしてデザイン統括などを担った後、2020年11月にNOT A HOTELに参画しました。現在はCXOとして、住宅を所有するオーナーを起点とした体験設計と、それを実現するためのソフトウェア開発を手がけています。​​

本日は、今年11月に一拠点目として宮崎県の青島にオープンする「NOT A HOTEL AOSHIMA」からこの取材に参加しています。本当にまもなくオーナーが住まわれるので、みんなでてんやわんやしながら何とか立ち上げようと奮闘しているところですね。

我々は「世界をもっと楽しく」をビジョンに掲げて、自宅にも別荘にもホテルにもなる住宅である「NOT A HOTEL」をオンライン販売していますが、第一歩はまさにこの地から始まりました。

2020年4月に代表の濵渦が創業した際には、青島に「一部屋300平米」のホテルを建設する計画でしたが、そのプランでは銀行の融資が受けられなかったことがきっかけとなり、着工前からオーナーに直接販売する現在のD2C事業へと繋がっています。

▼NOT A HOTELのビジネスモデル(同社提供)

※NOT A HOTEL社の創業ストーリーについては、代表の濱渦さんのnoteもご覧ください。

「オーナー体験の追求」に舵を切る決断。ソフトウェアをゼロから刷新

井上 多くのベンチャーでは、プロダクトアウトまでの期間は長くても1年ほどですが、「NOT A HOTEL」は作り始めてから約2年半でようやく一拠点目がオープンする形です。

事業の成長スピードを最重視することが多いベンチャーにとっては、2年半の準備期間というのは非常に長く、ここに来るまでは様々な紆余曲折がありました。

土地探しから住宅が完成するまでにはもちろん時間がかかりますが、実は2021年の初頭にオーナー向けのソフトウェア開発をすべてゼロからやり直したんです。これが僕らにとって大きな転換期になりました。

当時はとにかく少数精鋭のチームで作ることを目指していたので、社内の開発メンバーは2名だけで、外部パートナーの方々に主体となっていただく形で開発を進めていました。しかし、事業を進めていく中でNOT A HOTELとしてやりたいことや目指す方向がどんどん磨かれて、変化していったんですね。

そうすると、どうしても外部パートナーの方々との情報格差が出てきてしまって。そこで思い切って立ち止まり、より柔軟に開発できるベストな組織の在り方や技術へと見直すことを決断しました。

そういった背景があり、それまで外部の方頼みになっていたところから、あくまでも社員がコアになって、不足しているリソースは業務委託メンバーにサポートしてもらう形へと移行しました。

また、もうひとつの転換期として、2022年初めに「優れたホテルを作るのではなく、あたらしいオーナー体験づくりに振り切る」という決断をしています。

というのも、やはり僕らは“NOT” A HOTELなので。みんなと数ヶ月間議論する中で、それまで掲げていた理想のホテル体験ではなく、「オーナーの方々にとって、これまでにない最高の体験をどれだけ作れるかが勝負だよね」という考えに行き着いた形です。

専用アプリによるスマートホーム化で、世界中に自宅がある体験を

井上 オーナーを起点とした体験設計においては、まずは住まいとしての最高の空間を作り出すことが重要なポイントでした。

様々な建築家の方々と細部までこだわりながら設計しているので、住宅のパースなどからその世界観を感じ取っていただけたらと思います。

その上で、僕らがこだわっているのはテクノロジーを駆使したスマートホーム化による、あたらしい暮らしの開発です。

NOT A HOTELのオーナーは、世界中のすべてのHOUSEを相互利用できるようになるので、どの住宅でも自宅のような居心地の良さを感じられるようにするにはどうしたら良いのか。

それを突き詰めた結果、どの住宅に出向いた時も「オーナー専用アプリさえあれば、玄関の解錠をはじめ、全館の空調や照明などもボタンひとつで設定できて、自宅として必要なものはすべて標準装備され、AIコンシェルジュが困りごとを解決してくれる」という世界観の実現を目指すことにしました。

▼オーナー専用アプリの操作画面UI(イメージ)

その着眼点になったのは、従来のホテルに滞在した時の経験からでした。例えば、チェックイン・アウト時に手続きと待機時間が発生したり、必要な備品をフロントに依頼したり、照明のスイッチを一つひとつ押して回ったりといった経験をした方は多いことでしょう。

そういった小さな面倒ごとから生まれる宿泊者のニーズのほとんどは似通っており、それらはテクノロジーで解決できるものが多いと気付いたんですね。

体験設計においては、そういった困りごとやリクエストを先回りして想像して、「もうここにある状態」を作り上げていっている感覚です。僕らの場合、小さなコンビニや製氷機を完備したり、冷蔵庫までオリジナルで開発したりして、際限なくこだわってしまっていますが(笑)。

もちろん、優秀な運営スタッフがいつでもサポートできるような体制にしていますし、運営をすべて無人化しようとしているわけではありません。

人的なリソースは「食」に特化することで、オーナーが当日の気分で食事の内容まで選べるような、自宅にいる自由さと最高のサービスの両方を体験できるように設計しています。

加えて、オーナーが利用しない時はアプリで不在日を選択するだけで、自動的にホテルとして貸し出して収益を得ることができ、その運営はすべてNOT A HOTELが行うという仕組みがあります。

この時にホテルが稼働したかどうかは関係なく、弊社が買い取る形で収益保証が付いているものの、僕らは「投資用の住宅として広めたい」のではなく、これまでにないあたらしい体験そのものを作っていると考えています。

こういったチャレンジが本当にオーナーの方々に受け入れられるかどうかは、まさにこれから見えてくるところなので、正直ドキドキしているんですけどね(笑)。

あたらしい暮らしを全ての方に。47年保有のメンバーシップNFT開始

小畑 僕は、前職の仮想通貨の取引所でブロックチェーンやNFTに関する業務を経験した後、2022年2月にNOT A HOTELに入社し、現在はBizDevとしてNFT事業の責任者を担っています。

僕らはオーナー起点の体験設計に加えて、あたらしい暮らしをより多くの方に届けるために、販売方法も独自の設計にしています。例えば、一棟買いだと数億円する住まいを30日分(2,580万〜)から所有する形で、最大12人で共同購入できる「シェア購入」という仕組みを設けています。

そういった柔軟性のある購入の仕組みを設けながらも、さらに今年8月には「NOT A HOTEL NFT」をリリースしました。これは、年間で1泊もしくは3泊分利用できるメンバーシップ権をNFT化して販売するというものです。

簡単に仕組みを紹介すると、購入したNFTのカードにはランダムで特定の「日付」が刻印されます。これがNOT A HOTELに毎年宿泊できる記念日となり、そのメンバーシップ権は47年間保有できます。

そして、宿泊日の3ヶ月前には、ランダムで決まった宿泊先の情報に加えて、その鍵(THE KEY)が毎年NFTで届きます。このメンバーシップ権自体や単年の宿泊権は、都合に合わせてOpenSeaなどの世界中のNFTマーケットプレイスで売却したり、他の方にプレゼントしたりすることもできるという形です。

▼「NOT A HOTEL NFT」のメンバーシップカードとTHE KEY(イメージ)

このNOT A HOTEL NFTに限っては、通常の住宅購入のように登記して法的に権利を証明することはできませんが、ブロックチェーンで会員権の所有者を証明することで、利用だけでなく自由にその権利を売買できるようにしたというわけです。

このNFT事業を始めた背景は、やはりWeb3界隈が盛り上がっていて会社として何かできないかという観点はあったものの、僕たちがやりたいことを実現できる技術として結果的にNFTを選択したという順番が正しいかなと思っています。

というのも、シェア購入だとしても数千万円になる住宅の購入は誰もが簡単に決断できるものではありませんよね。加えて、契約時にはいわゆる重要事項説明や宅建業法に基づいた重たい手続きも踏む必要があります。

そういったハードルをなくし、もっと広くすべての方にあたらしい暮らしを届けるにはどうすれば良いか、と悩んで行き着いたのがNFTでした。

もちろんデジタルな会員権なので、ブロックチェーン技術でなくても販売できると思うんです。ただ、ある程度の流動性を生むことで会員権としての価値が落ちづらくなると考えると、世の中に流通させやすいという点がブロックチェーン技術を選択する最大のメリットかなと思っています。

そして、今年6月の「NOT A HOTEL NFT」サイトローンチ後のプレセールと、8月のパブリックセールでは併せて約3億円分がすぐに完売し、国内のNFTプロジェクトとしてもかなりの反響をいただきました。現在はウェイティングリストに登録いただいて、順番に購入のご案内をさせていただく方法を取っていますね。

旅する日も、利用するHOUSEもサプライズ。その仕組みのワケとは

小畑 実は、NOT A HOTEL NFTの販売にあたっては、「なぜ利用日を選べないんですか」とか「会員権の販売だと、もしNOT A HOTELが潰れちゃったら終わりだよね」といった、ある種ネガティブな反応をいただくこともありました。

もちろん、好きな利用日やHOUSEを選びたい方は、日付がオープンになっているNFTをセカンダリーマーケットで購入していただいたり、オーナーがホテルとして貸し出す日を選択して宿泊したりできます。

ただ、利用日とHOUSEがランダムにが割り当てられる仕組みによって、稼働率を100%にする前提で価格設定ができ、非常に安価に利用できるという大きなメリットが生まれていて。

例えば年間1泊のNFTメンバーシップ権は現在150万円で販売していますが、権利を保有できる47年で割ると1泊3万円ほどになります。室内の広さだけでも110平米以上のHOUSEが多いので、同等のホテルと比較しても、ものすごく安く利用できるんです。

また、もし僕たちが普通に1泊分の会員権としてNFTを発行するだけなら、ここまで反響をいただくことはなかったかなと思っていて。旅する日が決められて、毎年その日に新たなNOT A HOTELに出会うという、まさにミステリーツアーのような仕組み自体が、めちゃくちゃ面白いんじゃないかなと思うんです。

そして、10月1日にはNFTメンバーの方にご参加いただいて、初めてカードの日付をオープンするリビールパーティーを開催しました。

リビールのタイミングにはみんなでカウントダウンをしたり、中には「クリスマスイブ」や「奥さまとの記念日」が刻印された方もいたりと、とても高揚感のある場でした。

その場でNFTを交換し合う方々もいらっしゃって、一種のコミュニティが生まれるような光景がありましたね。

▼NFTに日付が刻印されるリビール時には、全員でカウントダウンをして盛り上がった

もう一点の「もし運営企業が潰れてしまったら」という反応については、現物所有ではなく会員権の販売なので本質的なリスクはあります。

ただ、利用者保護の観点から「供託」を行う設計にしていて、万が一事業運営が継続できなくなった場合でも、優先的にそこから弁済される仕組みにすることで財務的なリスクを軽減しています。

当然ながら、我々としてはお客様に長いスパンで最高のサービスを提供する前提で事業運営をしているので、今後の全国や海外での拠点拡大と様々な仕掛けによって、オーナーやNFTメンバーのみなさんの人生の楽しみが年々増していくようにしたいですね。

累計41億の資金調達を達成。さらなる「超ワクワク」を追求していく

井上 直近では、今年10月に約20億円の資金調達を実現したことで、これまでの累計資金調達は41億円を超えました。また、「PARTNER HOTELS」と称して、国内有数のホテルブランドにてNOT A HOTELと同じ仕組みで販売・運営を行う事業もスタートしたところです。

このように相互利用できる拠点を増やしていくことで、色々なところに自由に住むというライフスタイルが実現できれば、きっとその人の考え方や生き方がよりクリエイティブになっていくと思っていて。そういう人が増えると、ゆくゆくは世界がもっとクリエイティブになると思うんです。

そして、僕らが目指すようなあたらしい暮らしが当たり前になっていって、世の中がもっと楽しくなれば良いなと本気で考えています。

今後海外でも展開していく中では、各国の制度や法律も違うので、日本とはまた違う体験を設計していきたいと思いますし、まだまだできていないことだらけで手探り状態ですが、ソフトウェアと同様に住まい自体もバージョンを上げ続けていきたいですね。

小畑 僕自身は、やはりWeb3の概念や方向性がすごく好きで。NOT A HOTELはWeb3の企業ではありませんが、住宅というリアルのアセットと、ブロックチェーン上のNFTというトークンが紐づいているところがすごく特徴的かなと思っています。

そういう点では、Web2とWeb3をブリッジしているような事業を手がけていると思っていて。この先、どんなブリッジを作っていくかを考えながら、NOT A HOTELの世界観にきちんと合うようなプロダクトやサービス作りができると面白そうだなと思っています。(了)

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