- Unipos株式会社
- 代表取締役社長
- 斉藤 知明
CEOとCXOの分権が、意思決定スピードを上げる!「ユーザー体験」でつながる開発体制
〜組織のコミュニケーションは「ユーザー体験」を軸にデザインする。ピアボーナス「Unipos」の開発スピードを上げる、意思決定の「三権分立」とは〜
従業員同士で成果給を送り合うことができる「ピアボーナス」が、組織を強くする手段として注目を高めている。
このピアボーナスを簡単に実現するサービス「Unipos」を運営する、Unipos株式会社。
同社では、当初CEOとCXO(Chief Experience Officer)の役割が明確でなかったことから、意思決定スピードが落ちてしまうという課題を抱えていたという。
そこで2016年11月に、事業戦略をCEOが、プロダクト戦略をCXOが担う分権体制へと移行。
CEOが攻めるべきマーケットと顧客セグメントを決定し、CXOがペルソナからプロダクト戦略に落とし込むことで、無駄のない開発ができるようになったという。
そして、CEOとCXOの接点となる「ユーザー体験」を軸として、チーム編成や会議体などのコミュニケーションデザインを設計。
複数のペルソナごとに分けた職種横断のチームで機能の要件定義を行うことで、顧客の声を反映しやすい開発体制を実現したそうだ。
今回は、同社CEOの斉藤 知明さんと同CXOの矢口 亮太郎さんに、分権体制の背景から、開発をスムーズにするコミュニケーションデザインに至るまで、詳しくお伺いした。
意思決定スピードを上げるため、CEO・CXO・CTOの「三権分立」へ
斉藤 僕は、大学時代の起業を経て、2015年に第二新卒のエンジニアとしてFringe81に入社しました。現在は、Fringe81の子会社であるUnipos社でCEOを務めています。
矢口 僕はWeb制作会社でデザイナーとして働いた後、斉藤とほぼ同時期にFringe81に入社しました。現在は、Unipos社でCXO(Chief Experience Officer)をしています。
▼左:矢口さん(CXO)、右:斉藤さん(CEO)
斉藤 「Unipos」は、Fringe81の社内制度から生まれたピアボーナス(※)のサービスです。
※ピアボーナス:従業員同士で、感謝の言葉とともに成果給を送り合う仕組み
Fringe81では、6年ほど前から他薦MVP制度である「発見大賞」という取り組みを続けてきました。
この制度は当初、他のメンバーの「良い仕事」を発見し、それを紙に書いてダンボールで作った投票箱に入れる、という非常にアナログなもので(笑)。
その仕組みをシステム化して事業化を目指すことになり、2016年の7月から本格的な開発をスタートしました。
矢口 当時は8名ほどのチームでしたが、事業責任者の斉藤とデザイナーの僕が、ふたりとも「プロダクトマネージャー」のような役割を担っていたんですね。
そのため「プロダクトのこの機能を考えよう」となった時に、毎回どちらが担当するか確認したり、一緒に考えることにしたりと、お互いの領域が重なり合うことが度々ありました。
ただでさえ人数が少ない中で、貴重なリソースが無駄になってしまい、意思決定のスピードも落ちてきてしまって…。
そこで役割と権限を明確にするため、2016年の11月から、CEOが事業戦略を、CXOがプロダクト戦略を、そしてCTOが技術選定を担う「三権分立」の体制に移行しました。
CEOとCXOは「ユーザー体験」を接点に、責任領域を分ける
斉藤 その後Uniposは、2017年の12月にFringe81から分社化しました。現在は40名ほどの組織で、ビジネス側とプロダクト側のメンバーがおよそ半々で構成されています。
CEOの役割は、事業の戦略を定めることです。具体的には、攻めるべきマーケットの選定と、そのマーケットの中で注力すべき顧客セグメントの決定を行っています。
矢口 そこからペルソナの認識を擦り合わせ、プロダクト戦略へと落とし込んでいくのが、CXOの役割になります。
イメージとしては、CEOとCXOは「ユーザー体験」を接点とし、お互いに責任領域を担っているような形ですね。
▼Unipos社の組織図
斉藤 Uniposはそのサービス特性上、「すべての組織において存在し得るけれども、顕在化していない課題」を解決するような「水平型のマーケット」を対象としています。
そのため、対象となる顧客が広くなりがちなのですが、今のお客様にどれだけフィットしているか、また組織をあげて経営課題に取り組もうという機運があるかどうか、などを総合的に判断し、どのセグメントの顧客に注力するかを判断しています。
矢口 そして、そのセグメントに存在するペルソナを具体化し、課題をどう解決するか考え、CXOがプロダクトの機能に落とし込みます。
例えば、リリース当初お問い合わせの多かったITベンチャー企業だけでなく、企業規模が大きい企業にもニーズがあることが分かった時には、それに応じて機能のリニューアルを進めました。
具体的には、今までとは異なるペルソナを作成した上で、その企業にとって特にニーズのあるセキュリティ機能を強化し、関係部署とのタイムライン機能などを実装しました。
このように、CEOとCXOの役割と権限を明確にしたことで、お互いが各領域により注力できるようになり、意思決定のスピードが上がったと感じています。
ペルソナ別の「デザインスプリント」が、両サイドの連携を生む
矢口 僕はCXOとして、プロダクト戦略だけでなく、社内のコミュニケーションデザインも担っています。
Uniposのチーム編成の特徴は、CEOとCXOの責任領域がユーザー体験を接点としているのと同様に、「ペルソナ別」でつながっていることです。
具体的には、機能のアイデア出しや要件定義を短期間で行う「デザインスプリント」という手法を取り入れているのですが、これをペルソナで分けた職種横断型のチームで実施しています。
▼ペルソナ別の、プロダクト開発体制
例えば、プロダクト側の管理者向け機能チームが開発する「内部統制の機能」であれば、それを必要とする顧客と接している、ビジネス側のカスタマーサクセスやコンサルタントとともに、デザインスプリントを行っています。
このように、同じペルソナのお客様と接点を持つチーム同士で議論することで、必要とされている機能の認識にズレがないかを確認したり、要件定義の精度を高められると考えています。
斉藤 また、顧客からの機能要望については、ビジネス側がGoogleスプレッドシートに記入し、プロダクト側へと連携しています。
誰のどのような課題かを記入し、その課題を「課題の深刻度」「開発工数」などの項目で評価し、それぞれ1・3・5の3段階でスコアリングするんです。
そして、スコアの総合点をもとに、「すぐに開発する」「一旦検討する」といった開発の優先順位を決めています。
もちろん、一見課題の深刻度が大きくても、全体では課題を感じているユーザーの数が少ない場合もあります。
なので、そこは数値だけで判断せずに、定性的なインタビューなども加味することでバランスを取るようにしていますね。
全社で「言葉の定義」を擦り合わせる「UX Brief」とは
矢口 また、議論をより円滑に進められるようにするため、全社の話し合いで決まった「言葉の定義」を記した、「UX Brief」というドキュメントを作成しています。
というのも、例えば「緑色のプロダクトを作ります」といったら、みんな思い思いの緑色を想像してしまうじゃないですか。
これが「どの緑色なのか」を色番号で指定し、全員の頭の中のイメージを揃えることが、プロダクト作りにおいては重要だと考えています。
実際に、プロダクトを立ち上げたばかりの頃は、議論をするにもメンバー1人ひとりの持つイメージが統一されておらず、空中戦になってしまいがちで。
そこで、Uniposのビジョンや開発のコンセプト、プロダクトの立ち位置からペルソナに至るまで、1つひとつをUX Briefで細かく定義していきました。
また、言葉だけでは厳密に定義できない場合は、パラメータのグラフを使って「どっち寄りか」をビジュアル的に表現し、みんなの認識を合わせています。
▼実際にペルソナの認識を合わせた、パラメーター
例えば「大企業」というペルソナに対しても、人によってイメージが異なるので、そこはグラフを使って人数規模や男女比といった各要素を調整していきました。
このUX Briefは、全員が「同じ絵」を想像できる状態を作り、営業やプロダクト開発においても立ち戻ることのできる場所になっています。
メンバー1人ひとりが「役割」と「意思決定権」を持つ組織へ
斉藤 CEOとCXOの役割と権限を明確にしたことで、組織全体が活性化してきたなと感じています。
ひとつは、組織として「誰に何を聞けばいいのか」が明確になったことで、1人ひとりが以前よりも主体的に行動するようになりました。
さらに、意思決定に関わる人を、「横」のレイヤーではなく「縦」で切ることによって、より上位の意思決定に関わるメンバーが増えましたね。
例えば、ビジネス戦略について議論する際には、CEOとビジネス側の各チームリーダーが集まっています。
一方のプロダクト戦略については、CXOとプロダクト側の各チームリーダーが決めているので、CEOとCXOだけで決めることがなくなりました。
その代わり、「決めたことに対して、説明責任を持つこと」を唯一のルールにしていて。「なぜこのマーケットなのか」「なぜこの機能を開発するのか」といった議論はよく行われていますね。
矢口 Uniposは「すべての働く人にスポットライトを」というミッションを掲げています。その体験をすべてのユーザーに提供できるよう、今後もプロダクトを変容していく必要があると考えています。
そのために、もっと細かく権限を分けて、より多くの人に権限委譲を進めていけたらと思っていて。
今は三権分立ですが、40人40権分立みたいに、全員が異なる役割で意思決定権を持つような組織があってもいいと思うんです。
より自律的に動きやすい組織の形を、これからも模索していきたいと思います。(了)