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わずか3週間で10個のAIツール開発に成功!アンラーンプログラム「GPT Bootcamp」とは

昨年11月にChatGPTが登場して以来、特に開発現場においては大きな技術革新が起きている。その中で、従来の開発手法や思考を手放して、よりスピーディに世の中の変化に適応しながら新機能を開発するためには、どのような工夫が必要なのだろうか。

組織人事コンサルティング企業でありながらプロダクト開発の内製化に取り組み、ゼロから約70人規模のエンジニア組織の構築に成功した株式会社リンクアンドモチベーション​​。

同社では、 組織改善プロダクト「モチベーションクラウド」のリリースからわずか6年で「モチベーションクラウドシリーズ」のMRRを3.28億円(2022年末)まで成長させた。

そして、このコア事業をさらに大きく伸ばす鍵となるのが「早期かつ全社的なGPT活用」だと判断し、2023年4月からの3ヶ月間を集中的なアンラーン(=学び直し)期間と定めて、「GPT Bootcamp」を実施。

具体的には、約70人規模の開発組織全体で従来の手法での開発業務を止めて、GPT技術を活用した新機能のリリースや開発チームの業務プロセス改善に取り組んだという。その取り組みの結果、さまざまな成果が創出され、あるチームでは3週間で10個のAIツール開発に成功したそうだ。

そこで今回は、本プロジェクトを牽引したDeveloper Productivity Unitのマネジャーを務める河野 智則さんと、イネーブリングチームでテックリードを担う伊藤 遼さんに、同社のアンラーンプログラム「GPT Bootcamp」の全容について、詳しくお伺いした。

※本記事では、ChatGPTやOpenAI APIなどのLLM技術を包括してGPTと表現しています

開発チーム全体でGPT活用を推進し、コア事業を成長させることを決意

河野 私は、サイバーエージェントでのプロダクト立ち上げや運用を経験し、同社子会社の開発責任者に従事した後、2020年にリンクアンドモチベーションに入社しました。

その後はSREのEMとして開発生産性の向上に取り組み、2023年にSREやイネーブリング、QAなどのチームを束ねた「Developer Productivity Unit」を立ち上げ、マネジャーとして統括しています。

このユニットでは、会社全体の開発生産性を向上させる仕組みづくりや、エンジニア一人ひとりが、会社やプロダクトに誇りを持って開発に取り組めるように、開発者体験を高める役割を担っています。

▼Developer Productivity Unit マネジャー 河野 智則さん

思い返すと、昨年11月にChatGPTが公開されたのを皮切りに、多くの方がAI機能を活用するようになりました。そして公開当時、私たちは、インターネットやスマートフォンの登場に匹敵するほどの技術革新が起きたと感じました。

実際に、これまでは人が書いたコードをコンパイラや静的解析でチェックしていた状態から、今ではAIが提案したコードをもとに、人がどのコードを採用するかを判断するようになりました。そうした点で、エンジニアの開発体験にも大きな変化が起きています。

また、ChatGPTを代表する対話型AIでは、会話のような雑多な非構造データをうまく解釈してくれ、それを機能開発に取り込めるようになりました。この変化を活用することによって、私たちのコア事業である組織コンサルティングサービスを大きく成長させられると感じ、GPTの早期かつ組織全体での活用を決めました

少数精鋭でGPT導入に挑む中で、「アンラーン」の重要性に気付いた

河野 開発組織全体でGPTを業務活用できる状態を目指して、まずはスモールスタートする形で、2023年2月に開発メンバー5人で本格的なGPT導入に着手しました。

その結果、翌月には「AI組織改善アドバイザー」のβ版など、複数の新機能を早期リリースすることができ、GPTを活用すれば新たな次元で機能リリースや業務改善ができるという確信につながりました。

しかし、私を含めてこの時に参加したメンバーが実感したのが、従来の手法や思考の癖を取り除いて学び直す「アンラーン」が、とても重要かつ難しいということです。

例えば、新機能を考える際には、これまでのように構造化されたデータをもとに設計するのではなく、非構造化データかつ、自然言語処理を活用する開発でどのように価値提供するかを考えなければいけません。そういった、前提の変化への適応は思った以上に大変でした。

今回のGPT導入に限りませんが、人間の特性として現状維持バイアスがあります。現在の状況より好転すると分かっていても、変化を避け「これまで馴染みのあるものを踏襲した方が楽だ」と考えてしまいがちです。そのため、GPTのような新たな技術を学び直すための工夫が必要だと考えました。

この体験から、開発組織全体でGPT活用を進めるため、2023年4月にアンラーンプログラム「GPT Bootcamp」を開始しました。

従来の手法での開発業務を止め、GPT活用に挑む「GPT Bootcamp」を始動

河野 GPT Bootcampは、「GPT技術の習得」を目的に置き、従来の手法での開発業務を止めて、GPT技術を活用した新機能のリリースや、開発チームの業務プロセス改善に取り組むというものです。具体的には、デザイナーやPMを含めた開発メンバー約70人を対象として、3ヶ月のプロジェクト期間のうち、必ず3週間をGPTを活用した開発に充てることにしました。

このGPT Bootcampを設計する際には、「実効性を高める4つの仕掛け」と、「メンバーが安心・安全に開発できる4つのセーフティネット」を設けたので、その点についても触れられればと思います。

まず、やみくもにGPTを活用した開発に取り組んでもうまくいかないので、全体の実効性を高める4つの仕掛けとして、「目的・目標・対象・制約」を明確に定義しました。

▼GPT Bootcamp設計時に定めた「実効性を高める4つの仕掛け」

例えば制約については、個々人に3週間という制限を持たせることで、タイトなスケジュールの中でどう工夫するかを強制的に考えることになり、自ずとアンラーンされることを期待して設定しました。なお、この3週間の作業時間の確保については、先々予定していた開発項目の中で、GPTを使って開発スピードを向上させられるものを優先することで実現しています。

また、プロジェクトを実施した頃は、GPTを活用した企業の事例も少なく、非常に不確実性が高かったんですね。そのため、新機能を作っても使われない可能性が高いため、GPT Bootcampではできるだけ小さく機能開発をして、反応が良ければパブリックリリースしようと決めていました。

不確実性の高い新技術だからこそ、「4つのセーフティネット」が重要

河野 続いて、不確実性が高いGPT活用に臨むにあたって、「サポート体制・ガイドライン・コスト管理・勉強会」という4つのセーフティネットを設けて、メンバーが安心して開発に取り組めるように支援しました。

▼GPT Bootcampにて実施した「安心・安全を高める4つのセーフティネット」

まず1つ目のサポート体制については、最初にGPTの本格導入に取り組んだ5人のメンバーが主体となって、約70人の開発メンバーに対するレビューや技術相談、勉強会などを実施していきました。

2つ目として、GPTを開発業務で安全に利用するための「GPT開発利用ガイドライン」を策定しました。これによって「入力可能な情報・入力してはいけない情報・入力した場合のリスク」を事前に確認できるので、開発メンバーが迷わずに進めるような道標的な役割をしています。

▼GPT Bootcampに向けて定めた「GPT開発利用ガイドライン」の一部(※以後、継続更新)

3つ目のコスト管理としては、GPTの従量課金で想定以上にコストが掛かってしまうことを防ぐために、OpenAI APIのAPIキーをチーム単位で渡し、コスト超過の検知機能も活用しました。

4つ目の勉強会は目的ごとに設計して、大きくは以下のような内容で実施しています。

例えば「GPT基礎勉強会」は、開発チームを超えて経営層や事業責任者レイヤーの人たちにも受けてもらい、「GPTハンズオン会」は有志のエンジニアを中心に、GPTの特定の技術要素を深掘ってみるといった取り組みを行いました。

そして、週次の「GPTゼミ勉強会」は現在も継続していて、MetaGPTやChatDevといったより新しい技術に関する情報を共有したり、GPTのR&D部隊を組成して「組織開発×GPT」などをテーマに具体的な研究開発にトライしたりしています。

ここまでお伝えしたような「実効性を高める4つの仕掛け」と「4つのセーフティネット」をベースに、開発組織全体でGPT Bootcampに取り組んでいきました。

開発プロセスの改善に加え、全社の業務効率を向上させる機能を多数開発

伊藤 私は新卒で入社し、モチベーションクラウドの開発に携わった後、CREチーム(顧客信頼性エンジニアリングチーム)の立ち上げや新規プロダクトの立ち上げに関わってきました。

現在は、イネーブリングチームとして開発組織全体のメトリクス可視化や生産性向上に取り組みながら、GPTなど最新技術の取り入れにも尽力しています。

▼イネーブリングチーム テックリード 伊藤 遼さん

ここまで河野からBootcampについてお伝えしてきましたが、私からは具体的にどのようなアウトプットを創出できたかをお話しできればと思います。

なお、私が所属するイネーブリングチームは、主に社内の業務改善を目的としているので、GPT活用によって、内部の開発者へ良い影響を与えていくことに注力しました。その中では、自分たちだけが使えるものではなく、「他社にも提供できるクオリティのものを」という一段上の目標をチーム全員で掲げていました。

そういった背景から、顧客向けのプロダクト開発をしているメンバーは、5人前後でチームを組んで1つの機能を作ったのに対して、私たちのように社内の開発支援を主とするメンバーは、1人で1〜2つの機能を作ることにしました。

その上で、私たち開発支援チームのGPT Bootcampにおいては、最初にみんなでリアルで集まり、自社の開発プロセスで課題になっていそうな部分に対して改善アイデアを出し切るという、「GPTアイデアソン」からスタートしました。その後、アイデアの良し悪しを判断しながら、各自がGPTでの実装を進めてリリースしていきました。

結果的に、それぞれの開発プロセスに対して、以下に記載しているような新機能を実装しました。当初出た35のアイデアから21案が採用され、その後も継続的に使用する中でどんどん厳選していき、3週間で10個のAIツールを開発できた形です。これらの機能実装によって、開発スピードや精度を向上させることができています。

▼開発プロセスの改善に向けて、GPT Bootcampで実装した社内向け新機能

また、GPTは開発業務に限らず、社内の多くのメンバーに影響を与えられるものとして、3ヶ月に1度行う目標設定にもGPTを活用しました。

具体的には、各メンバーが自分の成長目標とそれを達成するためのアクションをシートに入力する際に、GPTからのフィードバックボタンを押します。そうすると、もっと具体性が必要だとか、どんな観点を追加すればより良くなるか、などを自動でフィードバックしてくれるんです。裏側では、適切な目標設定に必要な観点をあらかじめGPTにインプットしています。

▼メンバーの目標設定に対して、GPTからフィードバックしている様子(一例)

これまでは、人対人でフィードバックをもらいながら目標をブラッシュアップしていましたが、この機能を使えば、GPTと壁打ちをしながら内省できるので、人的工数の削減や目標設定の精度向上につながっていると思います。今では7〜8割のメンバーが活用してくれるほど、部署内に浸透した機能となりました。

河野 その他にも、ミーティングの内容を自動で文字起こししてくれる機能など、今では社内の多くの事業部が私たちが開発した機能を使ってくれていて、全社的な業務効率化を実現しています。

このように社内全体でGPTを活用する場合、一般公開されているChatGPTには個人情報を入れるのを躊躇したり、そもそも業務で使って良いのかという論点が出てきますよね。それに対して、自社内で安心して使える独自のGPTプラットフォームを開発してメンバーに提供することでハードルを解除したことも、今回の取り組みの成果として挙げられると思います。

GPT Bootcampでアンラーンを実現。今後はより高速に新たな価値提供を

河野 これまでの活動を通して、今ではプロダクト開発の現場ではもちろんのこと、全社的な業務プロセスの中でも、当たり前にGPTが活用される状態になってきたと実感しています。

また、アンラーンを進めて個々人のGPTへの抵抗感をなくしたり、新たな技術にアジャストするというGPT Bootcampの目的は、一定クリアできたとも感じています。とはいえ、実際に大きな価値を生むのはこれからです。

ここからは自分たちが身につけたGPTのリテラシーや技術力を磨き、これまでにない新たな顧客価値を届け、「リンクアンドモチベーションの競争優位性の1つはAI技術」というレベルまでやりきりたいと思っています。

伊藤 私も同じ思いを持っていて、今回は3週間でアンラーンするという取り組みでしたが、今後はより短い期間でアウトプットと検証を高速に回すことが、事業を変革する上でとても重要だと感じています。

今や開発現場では、ChatGPT以降に登場し続けているさまざまな技術を抵抗感なく活用することが当たり前になっています。なので、自分たちのスピード感をさらに高めて、より早く・より多くお客様へ新たな価値を届けていきたいです。

さいごに、リンクアンドモチベーションでは テクノロジーの力で「働きがいあふれる社会」を実現するため、共に歩んでくださる仲間を募集しています。ご興味を持っていただけた方は、ぜひご連絡いただければと思います。(了)

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