• リンクトイン・ジャパン株式会社
  • 日本オフィス代表代行
  • 杉本 隆一郎

「ダイレクトリクルーティング」とは何か?日本の採用も、企業と個人がつながる時代へ(後編)

今回のソリューション:【ダイレクトリクルーティング】

〜海外では既に当たり前になっている採用手法「ダイレクトリクルーティング」。そのメリットと、採用実績を上げるためのポイントを解説〜

※【前編】はこちらです

採用の世界で注目が集まる「ソーシャルリクルーティング」や「ダイレクトリクルーティング」。両者に共通する要素は、転職の「潜在層」に対して、企業が自らアクションを投げかけていく方法であるということだ。

日本ではまだ一部業界のトレンドのレベルに留まっているが、海外ではすでに当たり前になっている採用手法である。

今回は、全世界で4億人が利用するダイレクトリクルーティング(ソーシング)のソリューション「LinkedIn(リンクトイン)」の日本法人で代表代行を務める杉本 隆一郎さんに、お話を聞く。

前編ではダイレクトリクルーティングについて解説をいただいたが、後編では企業の採用担当者が今すべきこと、そして日本の採用の未来について聞いた。

採用のための企業ブランディングや、継続的な情報発信が重要

ダイレクトリクルーティングで実績を出すための前提として、採用のための企業ブランディングが必要です。転職活動をまだ始めていない人にも「あの会社、いつも面白そうなことをしてるな」、と認知されていることで、その方とコンタクトを取った時に「知ってる会社だ!話を聞いてみようかな」となるわけです。

そこで、企業側は常に情報を外界に出して、どんどん個人にアプローチしていくことが大切です。撒餌ではないですが、あまり情報が出てこない会社は、興味を持たれることもやはり少ないので。LinkedIn上に限らずオンラインでの情報発信は、タイムリーに行っていく方がいいですね。

発信の中身としては、自分たちの会社にまだ興味を持っていない人にも刺さるような幅広いコンテンツが必要だと思います。

そもそも、何もしなくても自分たちに興味を持っている人しか選考に乗せることができていない、ということは大きな機会損失です。能力が高い人の興味を惹き付け、自社の人材プールに入れるための情報発信が必要になります。

ただ、そのようなコンテンツを作るのは、採用担当者だけでは難しいですね。実際に広報やマーケティングと採用チームがうまく連携しているところは、会社の見せ方も上手です

広報は会社をよく見せるためのコンテンツをたくさん持っているはずですし、マーケターは自社製品をプロモーションする方法を知っています。そういった、既に社内にある情報を採用目線で発信していけばいいということになります。

良質な「母集団形成」にも有効なダイレクトリクルーティング

このように「もともと自分たちの会社に興味がなかった人」にもアプローチを行い、企業の認知を高めていった後、採用のプロセスで言う「母集団形成」に入っていきます。具体的に言うと応募者を集めるということなのですが、重要なのはその母集団の質です。

例えばどこかの媒体を使って50名の応募があったとして、そこから書類選考や面接で振り落として最終的に5人しか残らない場合と、最初から本当に欲しい人材だけを5人集める場合とでは、母集団の質がまったく異なります。

ダイレクトリクルーティングであれば、実際に応募が来るまでにお互いにコミュニケーションを取り合うことになるので、質のいい母集団が形成されやすくなります。「どの人を落とそうか」と考えて面接をする時と比較しても、面接官の心の持ちようも変わります。

個人とつながることで、企業が人材を資産としてプールできる

また、ダイレクトリクルーティングの別のメリットとしては、一度形成した母集団を会社の資産としてプールできることです。例えばあるポジション1名の募集に対して素晴らしい人材が50名集まった時に、採用できなかった49名との関係性をそこで終わらせるのはもったいないですよね。

でも既存の採用スタイルですと、何年後かにまたそのポジションをオープンにした時に、再びゼロベースから母集団形成を始めなくてはいけません。

でもそもそもアプローチを自分たちからしていて「縁」ができていれば、採用できなかった人にも「皆さん今後のキャリアもありますけど、また声かけさせてくださいね」と伝えて関係性をつなぐことができます。

それを様々なポジションで繰り返していくと、いつの間にか自分の手元に「いつか機会があれば欲しい」という人材プールができていきます。

その人材プールをきちんとメンテナンスしておけば、後々「あの人いたぞ」と声をかけることができます。自分でマーケットを探して良い人材に声をかける、というのは時間がかかるプロセスのように思われがちです。

確かに最初はそうなのですが、そのプロセスをきちんと回していくことで、結果的にとてもスピーディーに適正な人材を見つけることができるようになります。長い目で見て、企業と人の関係性を資産として作っていけることが、ダイレクトリクルーティングの良さなんです

働き方がフレキシブルに変わる中で、企業ができることとは

このように、今後の採用領域で大切になってくるのは、企業と個人がつながっている状態を作り出すことです。日本では会社をやめてしまうと「裏切り者め!」みたいな雰囲気がありますが(笑)、それはもったいないですよ。

弊社でも退職したメンバーもいますが、別のスタートアップでまた生き生きと働いていて、弊社に良さそうな人材も紹介してくれています。また戻ってくる可能性もありますし、今や働き方はどんどんフレキシブルになっていますよね。

よく日本の企業さんが心配されるのが、人材マーケットの流動性が高まることで、優秀な人ほど頑張って採用してもすぐに転職してしまうのではないか、ということです。それに関してひとつ言えるのは、待遇が理由で入社した人は、その後もそれが理由で転職します。

やりがいの部分や業務内容で口説けた人は、そこをしっかり在職中にリテンションできていれば続くわけです。そこは各現場の方で把握して、きちんとコーチング、メンタリングをしていかないといけないと思うんですよ。

むしろ、ダイレクトリクルーティングを導入すると、採用のミスマッチを減らすことができます。「ちょっと話だけ聞きましょうか」という形であまり動機形成されないままプロセスに乗ってきてしまうということを避けることができるからですね。

採用担当者が自分で人材マーケットから良さそうな人を引っ張ってきて直接コミュニケーションを取ることで、お互いにある程度の共通認識を持った上で選考に進むことができるんです。

採用担当者の「プロ意識」が目覚めるダイレクトリクルーティング

私自身も楽天に在籍していた時に体感しているのですが、ダイレクトリクルーティングを取り入れると、採用担当者の仕事が変わります

従来は、現場に言われた要件のままに求人情報を作って、出して、「まだ応募来ないの?」なんて言われたりしていたわけです。それではただ、各部門の採用の下請けとして、現場と応募者をコーディネートするだけの役割にすぎません。

ただ今後ダイレクトリクルーティングが広まると、中途採用に関わる人のスペックが絶対的に変わってくると思います。そもそも不思議なのですが、日系企業の新卒採用チームって、新卒入社組のトップ10くらいが総出で、学生を頑張って口説きますよね。

それがなぜか中途採用になると、ジョブローテーションで回ってきた人がとりあえずエージェントとの日程調整をする。何故か、圧倒的に違うんですよね。新卒採用の場合は「◯◯さんの入社が決まりましたー!」という営業マインドがあるのに、中途採用はそこまで目立たない。

もともと日本は終身雇用の文化があったので、それも原因かもしれません。中途採用の担当者は、日本では1社あたりせいぜい2名、大企業でも10名ほどですよね。でもアメリカの場合は、1社で何十人も抱えていることも当たり前です。

そして彼らは営業マンと同じように、自分が何人引っ張ってくるかということをコミットしています。あくまでも「何人採ったか」で評価される。日本とは、そもそも働くスタンスというか、念頭に置いているものがまったく違います。

けれど日本でも、ダイレクトリクルーティングが広まることで中途採用の担当者がもっとアクティブに活動するようになります。常にマーケットを見ていて、現場の欲しい人材がどこにいて、どうしたら採用できるかをきちんと社内の人にアドバイスできる。

このような「プロ」として武器を持っている採用担当者の価値が、これからはどんどん上がってくるはずです。パーソナリティも変わってくるのではないでしょうか。ちょっとギラつく感じというか(笑)。

今後、日本の採用はどう変わっていくのか?

今後は、こういったダイレクトリクルーティングという「企業が自分たちの欲しい人材に直接声をかける」というアクション自体が、だんだん特別なものではなくなっていくと考えています。一部のインターネット業界と外資系企業ではもうトレンドが来ていますが、まだニッチなんですよね。

ただ海外にオフィスを持ったり、海外進出を検討する企業も増えているので、そちらをはじめとして広がっていくと思います。

そうすると人材エージェントはなくなるのかというと、そうではなくて、役割が変わると考えています。企業は企業、個人は個人として自分を表現できるようになる必要があるので、「どうやってこの人は自分を表現するべきか」ということをコンサルティングできる人が求められるようになるんですね。

今まではレジュメをフォワードしてフィーをもらっていたビジネスが、本当のキャリアコンサルティングに変わっていくと。そうするとこの役割はこれまで以上に重要になりますし、価値が問われるようになりますよね。

このように、採用の世界も変わり続けていくと思います。ダイレクトリクルーティングに関して、新しい採用手法を取り入れる、という意味で最初はどの企業さんも大変かもしれません。

けれどそこをうまくシフトできれば本当にいい形で回っていくようになると思うので、是非、一歩踏み出してみていただきたいな、と思います。(了)

※ダイレクトリクルーティングについて解説していただいた前編はこちらです。

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