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「UXは遅効性の漢方薬」DMM.comラボに学ぶ、「ユーザーを見る」組織文化の作り方

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デジタルコンテンツ配信、FX、英会話、そして3Dプリントサービスに至るまで、幅広いビジネスを展開するDMM.comグループ。同社でUXチームの設立に関わり、マネジメントを行う井上 誠さんは、「いまDMMに必要なのはユーザー視点で考える文化」だと語る。

世界的なバズワードである「UX」だが、その概念に企業としてどう取り組むか、ということはひとつ大きな課題だろう。井上さんは1年に及ぶ草の根活動を通じて、社内にUX文化を浸透させてきたという。「定性的なデータを拠り所とするUXは、グロースハックとは異なる中長期的な目線が必要」と語る井上さんに、UXチームの立ち上げから、UXという考え方を全社に浸透させていくまでのストーリーを伺った。

Webデザインって何? から始まった、DMMでの10年

大学を卒業して、まだ新卒制度もなかったDMMに、大学に貼ってあった求人広告を見て入社しました。大学では染物の研究をしていたんですよ。もともとはデザイナーになりたかったのですが、大学ではそれを学ぶことができず…。でも将来はやっぱりデザイナーになりたいということで、募集があったDMMに入社したんです。

当時はWebデザインのことも、DMMのことも知りませんでしたし、部屋にインターネットすら引いていませんでした。そんな中でDMMに入社を決めた理由は、まず少しでもデザインに携わりたいとと思っていたこと。あと半分くらいは、何社も落ちて卒業も間近で、「なんでもいいから就職したい!」という気持ちで(笑)。

金沢の事務所で採用されたのですが、本当は1年で辞めて東京に出ていこうと思っていたんです。でも結局、次々に新規サービスが立ち上がり、自分の役割も会社自体もどんどん変わっていく、飽きさせない魅力がこの会社にはあるんですね。そんな感じで、もう入社して10年になります(笑)。

ユーザー目線の社内文化を作るため、UXチームを立ち上げ

2013年に本社でデザインチームを立ち上げようということになり、役員の赤坂とふたりで東京に出てきました。それからは、東京デザイン部のマネージャーとしてお仕事をさせていただいています。

デザイン部は、デザイン作成だけでなく、フロントエンド開発、改善提案、UXなど「ユーザーが触れるもの」すべてを担当しています。僕は部署の全体を見つつ、UXチームを担当しているという形です。UXチームでは、弊社サービスのUXを調査・分析して、改善案を一緒に考えています。

デザイン部の中では、UXチームが一番新しい組織です。ただ、チームができる前から1年ほど、ずっと草の根活動のようなものを続けてきました。サービスは、やはりユーザーを見なければいけないですよね。でも弊社の場合、その意識はあったのですが、きちんとできていないのが実情でした。

もともと男性ユーザーが多くユーザーの年齢も社員と近かったんです。男性社員であれば正直、UXのことを調査しなくても、直感の意見でも有効だったんですね。その成功体験があったので、「ユーザーを見よう」「PDCAを回そう」といった空気は非常に薄かったですね。

今は他の市場にもどんどんサービスを打ち出している中で、今度はちゃんとユーザーを見なければならない。個人的に、そこに対する疑問やもやもやが日々蓄積されていた部分がありました。そこで、社内に「ユーザーを見る」というUXの文化を根付かせるため、ボトムアップの草の根活動から始めていきました。

ひたすら社内のミーティングに参加する「草の根運動」を続けた

最初はHCD-net(NPO団体「人間中心設計推進機構」)の外部講師の方を招いて、半年間、東京と石川で有志でセミナーを開催しました。定時後に3時間ほど、隔週で全12回。なかなかヘビーでしたね。

そのセミナーを通じて人間中心設計専門家の資格を取り、社内の様々なミーティングに自ら出向いて「UXでこういうアプローチをとれば参考になるかもしれませんよ」と言って回るという、本当に地道なところから動いていきました。チーム立ち上げから現在まで、そのアプローチは続けています。

ワークショップはツール、大事なのは「問いを立てる」こと

いまはその草の根活動が実って、少しずつ案件が増えてきました。デザイナーから依頼を受けたり、社内セミナーを通じて問題意識を持った人から依頼を受けています。依頼を受けると、基本的には人間中心設計に基づき、調査や分析、プロトタイピングなどを行ってUXを設計しています。

UXチーム内だけで進める調査、分析も多いのですが、事業部を巻き込んだワークショップを開催することもあります。とあるアプリのUIの有効性を検証するためにアクティングアウトという手法を使ったこともありました。

参加者をユーザー役、対応役、などに振り分けて、台本を作って寸劇をするんですね。演じる中で「あれ、今の流れにちょっと無理がある気がした。」「こんなことは実際にやらないよね」といった、気付きを参加者全員で共有することができます。普通にUIをレビューしてもらっただけだと各々の主観ベースで議論が進んでしまうため、声の大きい人の意見が通ってしまいがちですから。

一方でワークショップやそういった手法は、結局議論のツールでしかありません。大事なのは、いかに不明点や課題を浮き彫りにできるかということだと思います。様々な人が色々な立場から考えることで、チームとしての議論の質が上がりますし、ユーザー視点のアイデアが出てくるようになりました。

重要なのは「問いを立てること」だと思っています。「身体の調子が悪いんですね、じゃあ中を開けて見てみましょうか」なんて、酷い医者みたいなことができるわけもないので。きちんとヒアリングをし、どこが悪いのか見当をつける。その上で解決策を考えていく必要があります。

UXの成果は遅効性。まずは合意形成を成果として捉える

今UX業界でも、世界的に課題になっているのは「成果」の部分だと思います。例えばWebサービスのUXを考えたときに、いくら「使いやすいですね!」と言われても、それが売上に直結するわけでもありません。根拠が定性的なデータであることも多いので、いつでも使える評価基準は存在しないんです。

この部分は、中長期的な目線で見ていく必要があると思っています。即効性があり指標が明確なグロースハック的なアプローチとは違い、ユーザー体験というあやふやな指標をもとに継続的に取り組んで行くことで効果がでる漢方薬のようなものです。

とは言えこれから先、継続的に案件に関わってUXへの社内理解を作っていくためには、KPIのような成果を見える化していきたいと思っています。

今の段階では、僕たちが重視しているのは「合意形成」を取っていくことです。これまでの案件でもそうだったのですが、ユーザーインタビューやユーザーテストなどの「実際にユーザーが発言した事実」を元にして、話をファクトベースで進めていくと建設的に議論を進めることができます。そこで大切なのが合意形成だと思っていて、これがないと鶴の一声や、直感で物事が決まってしまうと思うんです。

デザインって、揉め始めると議論の終わりが見えづらくなってしまうと思います。だからこそ、きちんとベースになるユーザーの事実を確認し、議論が起きそうな時は細かに合意形成を取るようにしています。

「正しさの押し付け」をしていませんか?

また、UXという概念に関する「正しさの押し付け」をしないことも最初は必要不可欠だと思います。「ユーザーをみることが大切なんです」「そのためにはこのアプローチが必要なんです」なんて理想論はみんな当然わかってるけど、納期との兼ね合いで出来ないということがほとんどなので。

まだ実績半ばだから偉そうなことを言えないということもありますが、こういう方法だと意見が衝突しがちです。そこで僕たちとしては、UXについては課題が上がったときに話すようにしています。「その問題、UXのこういう手法を使えばわかるのでやってみませんか?」といった感じです。

サービスを運営していてユーザーのことが大切じゃないって思っている人なんていないはずです。誰だってユーザーのためにサービスを作っています。それなのに改めて「ユーザーのことをもっと考えましょう!UXが大切なんです!」と言われると誰だってカチンときますよね。UXって言葉そのものにアレルギー反応を示すようになってしまいます。

最初はできることから少しずつ、信頼を積み上げていかないといけないと思います。そのためには正しさを押し付けるのではなくて、問題を感じているときに解決策のひとつとしてUXを提案するのが一番いいと思います。

スタートアップなら、今すぐUXについて体系立てて考えるべき

UXというものを組織に浸透させていくのは、非常に難しいと思います。やはりどの企業さんも苦戦されている気がしますね。「今やらないといけないのはわかるけれど、何からやればいいんだろう」という状態。でも、そこには答えはないんですよ。なぜなら組織によって答えが違うから。

組織がまだ固まっていない、スタートアップのようなところはユーザーテストや簡単なインタビューからでいいので「ユーザーを見る文化」を早めに作ったほうが良いと思います。一度根付いた文化を変えるのは本当に大変です…。

組織が大きくなると難易度が増していきます。定性的なデータを拠り所とするUXでは、数値を根拠にしづらい。「この案件で何がどう改善するの?」と問われると数字が好きなステークホルダーの場合、納得してもらうことが出来ません。大人数に同じ目標を目指してもらうために数字で判断してるのに、より良いユーザー体験の創出という目標にはガンになるのは皮肉な気がします。

企業の戦略としてUXに取り組んでいる他社さんも増えてきました。僕たちもまだ道半ばですが、成功事例を積み重ね、組織にUX文化を根付かせていきたいと思います。(了)

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