- 株式会社ソウゾウ
- 代表取締役
- 松本 龍祐
CtoCの可能性は無限大!メルカリ アッテの成長を支える、アプリ改善のプロセスとは?
今回のソリューション:【Repro/リプロ】
〜メルカリの新サービス、「アッテ」について、別会社立ち上げの理由や経緯から、アプリ解析ツールReproを用いた開発・改善のプロセスまで、アッテの代表とディレクターが語る〜
2016年3月に正式リリースされたメルカリの新サービス「メルカリ アッテ」は、地域コミュニティに特化した新しい形のCtoCアプリだ。「あげます・売ります」「仲間募集・イベント」「求人」などのカテゴリで、ユーザーは自分の周りの地域にいる別のユーザーと、無料で直接やりとりができる。
メルカリ アッテでは招待制だったベータ版のリリース時より、Google BigQuery を活用した数値データ取得の仕組みと、ユーザー行動動画を分析できる「Repro(リプロ)」を導入。スピーディーにアプリを改善するための基盤を整えていたという。
今回は、同サービスを提供する株式会社ソウゾウ(株式会社メルカリの100%子会社)代表である松本 龍祐さんと、ディレクターを務める田辺 めぐみさんに、サービス立ち上げの経緯から実際の改善プロセス、そして描く未来まで、幅広くお話を伺った。
▼メルカリ アッテの実際の画面
スピード感と技術的チャレンジのため、あえて新会社を立ち上げ
松本 昨年の5月にメルカリに来まして、1年が経ったところです。僕自身は、学生時代に起業した時から、スマホアプリに関わってきています。2011年にリリースした写真加工アプリ「DECOPIC」をヤフーに売却してから、2年半は、ヤフーの中で新規事業や、アプリのUX向上などを担当していました。
メルカリに入ったのは、その成長や、なかにいるメンバーを見たときに、「これは10年に一度の会社なんじゃないか」と思ったからです。
社員数も、私が入社したときには百数十名だったのが、今では300名近い。数年で、1,000人、2,000人規模になっていくのが明らかだな、と。そんな会社の「立ち上げ」と呼べるフェーズに参加できるのは、起業するより貴重な経験になりますし、ものすごいワクワク感がありました。
入社後、最初のクオーターはUS版のWebの立ち上げや、プロジェクトのプロデューサーをしていました。ただもともと新規事業を立ち上げるためにメルカリに来たので、2015年9月にソウゾウを立ち上げ、2016年3月に「メルカリ アッテ」を正式にリリースしました。
別会社を立ち上げた背景には、新しいサービスを作るのであれば、新しいハコで心機一転いこう、というコンセンサスが元々ありました。
また、新規サービスなので、「これどう思う?」とスマホを見せるだけで話を進めていける、コンパクトな体制からスタートしたかったこと、そして技術的に新しいチャレンジをしたかった、ということもありましたね。
メルカリはPHPで開発をしていますが、ソウゾウでは敢えてGo言語を採用しています。これまでメルカリで培ってきたノウハウが使えなくなるデメリットより、新しいことに取り組むメリットのほうが将来的には大きいだろうと。こういった経緯から、今回ははっきりとハコを分けました。
最初は「各自が自走できる」最小チームでスタート
松本 メルカリ アッテの開発をスタートしたのは、2015年10月のことです。初期メンバーは、私と、ディレクターの田辺、エンジニアが2名に外部のデザイナーでした。
田辺もエンジニアも、もともとメルカリにいたときに一緒に仕事をしていたメンバーです。「あとは自分たちで採用して何とかするから、このメンバーだけ、お願いします!」という感じで(笑)、来てもらいました。
田辺 私は1年ほど前にメルカリにジョインし、他のソウゾウ初期メンバーと同様に、USのディレクションを松本と一緒に担当していました。経歴は、NTTデータでプロマネや営業、DeNAでソーシャルゲームのプロテューサーをした後、フリーランスでアプリ開発に関わっていました。今はメルカリ アッテのディレクターをしています。
松本 初日にチケット管理ツールの発行だけしたら、後はみんなが勝手にどんどんスケジュールを立てていってくれて。「あぁ良かったな…これでなんとかなる」って思いました(笑)。一番最初のリリースまでは、開発期間で言うと4ヶ月ほどでしたね。
「招待制」でリリースした初期フェーズから「Repro」を導入
田辺 メルカリ アッテは最初は敢えて招待制でリリースして、こっそり始めました。すぐに見つかってしまいましたが…(笑)。どのような投稿が集まるかをできるだけ早くみたかったので、最初はターゲットユーザーを数千人レベルで集めて、テストを繰り返していたという感じです。
最初に招待したユーザーには知り合いの方もいますが、個人でヨガ教室をされているような、ターゲットになりそうな方をWebで探して、営業のメールを送って声をかけて集めましたね。
そして最初からアプリの各所にデータポイントを仕込んで、投稿数や登録率、離脱率などの重要指標を見ていました。このような数値分析には、メルカリも使っているBigQueryで直接データベースを見られる仕組みと、「Repro(リプロ)」を使っています。
Reproは、ユーザーが実際にどのようにアプリを使っているかを「動画」で見られるツールです。ユーザーが離脱した時の動きや、どこで迷っているか、ということを動画で見ることができます。
▼ユーザーの動きを動画で確認し、プッシュ通知も送れる「Repro」
また、ターゲットに応じたプッシュ通知を簡単に打つことができるんです。まず数字を見ながらクイックに改善していく、ということを考えた結果、導入を決めました。
「アッテ」の改善プロセスの全体図とは?
田辺 アプリの改善全体の話でいうと、大きな機能改善などはスケジュールを引いて動かしています。それと同時に、細かい改善点は気が付いたものをどんどんSlackのチャンネルに挙げていますね。それを自動でスプレッドシートにばーっと移行して、優先順位をつける。
松本 優先順位付けは、1つひとつの改善項目についてポイント付けをしています。ユーザー獲得、登録、継続率などの各項目へのインパクトをポイント付けし、それぞれの施策が何に効くのかを評価します。
その中で、いまは翌日継続率というのが一番大きいKPIなので、そこに加重をかけてソートする。すると、今一番やるべきなのはこれだ、というのが大枠見えてくるんですね。
開発工数も数値で記入しているので、例えば上位10項目に入っていて、工数が1日未満であれば「すぐに取り掛かろう」となるわけです。
基本的には田辺がばーっと点数をつけて優先順位付けをするのですが、複数の画面にまたがるような機能改善や追加に関しては、エンジニア、デザイナー含めてレビュー会をしています。
15分から30分くらいの単位で、ばっと集まって、プロトタイプや仕様をまとめたWkiを見ながら、全員の理解を深めて意思決定します。
細かいパラメーターを変えるくらいのレベルの話は、変えてダメだったら戻せばいいので、もう机で話して、じゃあ変えようという感じで1日単位でやってしまいますね。
Reproの「動画」と「プッシュ通知」機能で、具体的な改善を
田辺 メルカリ アッテはまだリリース直後なので、色々と試行錯誤しながら改善を繰り返しているフェーズです。そこでReproの動画を使うと、数字だけではわからないことが見えてくるのがいいですね。
例えば投稿率で言うと、投稿画面を開いて離脱している人の動きが見えることで、単にそのページを見たいだけだったのか、何かに迷って離脱したのか、ということが指の動きから判断できます。
松本 Reproを使って良かったと最初に思ったのが、アプリの「使い方」を説明するページのユーザーの動きを見たときです。
ユーザーがページの下までスクロールした後に、フッターにあるロゴを押していたんです。僕たちは何気なくロゴを置いていただけだったのですが、実はユーザーはそのロゴで「戻る」と思っていたんです。そういった点に気付くことができると、ユーザー体験の改善につなげていけます。
改善って、基本は積み重ねになりますよね。いきなり何かを切れば数値が倍になる、ということはあまり起こらない。その中で重要になるのはやはりプッシュ通知になります。Reproのプッシュ通知の機能を使うと、仮説検証がカジュアルに試せるのが良いと思っています。
例えば、投稿件数が落ちていて、ドロップしかかっている人だけに絞ってプッシュ通知を送ることもできます。リリース直後からこういったことを気軽に試せたのは便利でした。
CtoC領域における強みは、「メルカリで培った知見」
松本 CtoCのサービスを成功させるためのキーワードとして、ひとつ「安心」ということがあるかと思っていて。Reproの動画を見ていても感じることなのですが、ユーザーさんのプロフィールページをいったりきたりしているのは、その人の投稿に応募していいのか、迷っているのかなと。
そこで、メルカリ上のIDへの「評価」が、そのまま引き継がれる仕組みを実装しました。例えば、「メルカリで300個のいいねがついている人であれば大丈夫なんじゃないか」、という風に、心理的ハードルを越える助けになるかと。
田辺 やはり私たちの強みとして、メルカリを持っていることがあります。KPIを立てる上でも、メルカリがベンチマークになり得る。出品率や投稿率のKPIがある程度決まっているので、それを参考にしながら決める部分がありますね。
また、CtoCに慣れているメンバーが多いですし、ユーザーサポートもノウハウがあります。ユーザーからのコメントでも、「メルカリのサポートがあれば安心です」と言ってもらったりすることもありますね。
メルカリとカニばってもいい。アッテが目指すのは可能性の最大化
松本 メルカリ アッテは、敢えてコミュニティっぽくしていきたいなと思っています。いま、何か特定の趣味や、特定の地域に紐付いてユーザー同士が気軽に会えるようなシステムって、あるようでない。
いまアッテの投稿の量で言うと、意外に「仲間募集」が多くて嬉しいんです。もっと「売ります・買います」に集中するんじゃないかと思っていたので。
性別も年代も違う人たちがアッテを使って集まって、みんなでディズニーランドに行ったり。「料理教えます」「iPhoneの充電ケーブル貸してください」のような、会った人同士の満足感が高い、嬉しい使い方がどんどん広がってきています。
知り合いの会社で、エンジニアのインターンが数時間で見つかったという話もありましたね。
「売ります・買います」の機能は、メルカリとカニバっていいと僕は思っていて。アッテの方では地域の限定があって、いま自分がいるところからバス圏内より遠くの情報は見られない。そういった制限はあるけれど、逆に手数料なく売り買いできる。
それに、例えば「タダでいいから、貰って欲しい!」というモノってありますよね。僕自身、引っ越しのときに無印良品の衣装ケースが余ってしまって…粗大ゴミに出すの、面倒なんですよ。誰かに直接「はい」と渡せれば、それが一番いいですよね。
こんな風に、メルカリにも出せなかった可能性をトータルで最大化できれば、会社全体としても良いことだと思っています。海外ではクラシファイド領域(※目的や地域によって分類された募集広告や告知を、一覧形式で掲載する媒体)のスマホ化はとても流行っていて、誰かが今年中に日本でやると思っています。
それなら自社で取っていったほうがいい。今後もこれまでに培ったCtoC領域の知見を活かしながら、どんどんサービスを加速させていきます。(了)