- 株式会社Timers
- プロダクトマネージャー
- 栗城 良規
誰でも使えるデータ分析基盤をBigQueryで構築。「客観的な意思決定」への取り組みとは
今回のソリューション:【Google BigQuery/グーグルビッグクエリー】
〜ディレクターが、SQLでデータ分析を実行できる基盤を構築。分析の効率化、意思決定の高速化、さらには分析の「精度」向上までを成功させた事例〜
カップル専用アプリ「Pairy」や、家族向けアプリ「Famm」を提供する、株式会社TIMERS。同社でプロダクトマネージャーを務める栗城 良規さんは、「Google BigQuery(グーグルビッグクエリー)」をベースとした分析基盤を構築し、ディレクターもデータ分析ができる環境を整えた。
数回の勉強会とレビューを実施するだけで、誰もがSQLを書き、分析をできる文化を作りあげた。その裏には、「ディレクターがSQLを書けるようになるのは投資対効果が高い」という考えと、より付加価値の高い業務に、エンジニアが時間を割けるようにしたいという想いがあった。
今回は、ディレクターがデータ分析をできるようになるメリット、そして実際に起こった変化について、詳しくお話を伺った。
▼同社が提供する、家族向けアプリ「Famm」
ジェネラリストとして、コンサル、ディレクター、営業などを経験
私の今までのキャリアは、ある職種に特化してキャリアアップしてきたのではなく、ジェネラリストとして様々な職種を経験してきました。
野村総研で主に金融機関向けの経営コンサルテーションに従事し、次はDeNAでモバゲーの事業企画・マーケティング・分析業務などを担当していました。その後は、リブセンスで営業やメディア開発のマネジメント、新卒採用の責任者まで経験しました。
その中で分かったのは、自分にできるのは「客観的な視点から、本質に向き合って解決策を導き出すこと」だということです。今までのやり方をフラットに見直し、最高の環境を整えることが私の役割だと考えています。
Timersは、上場や海外展開といった、私が今まで経験したことのないような成長目標を掲げています。扱っている商材も家族や恋愛といった、国や人種問わず中で普遍的なもので、ユーザーの人生を十分に変えられる可能性を秘めていることが魅力的で入社しました。
ディレクターがデータ分析をできる基盤を構築
入社後は、ディレクター、エンジニア、デザイナー全体を率いる立場にいながら、分析基盤の立ち上げも兼務しています。
もともと、野村総研の頃からデータの分析業務を担当していて、DeNAではSQLを書いてデータを抽出するところから任されていました。後ろの席にいるエンジニアに頭を下げなら、必死に勉強していましたね。
私が入社する以前は、ディレクターがデータを見るときは、サーバーサイドのエンジニアに分析を依頼していました。それでは分析結果が出てくるのが遅くなってしまいますし、その後のアクションの意思決定も遅れてしまいます。
それだけでなく、エンジニアの工数を奪うことにもなりますよね。今までの経験から、エンジニアの方々と仕事をするには、彼らの無駄な工数をできるだけ減らし、本来注力すべき開発に集中してもらうことが重要だと考えています。
そのような理由から、ディレクターが自分で分析をできる基盤を構築することは、大きなミッションでした。
データを一元管理するため、BigQueryを導入
大きな方針として、「ディレクターが自分でSQLを書いて分析できる」ということを考えていたので、分析の基盤には、クラウド型のデータウェアハウスサービスである、「Google BigQuery(グーグルビッグクエリー)」を使いました。
AWSのAmazon Redshiftなども検討したのですが、会社でGoogleスプレッドシートを始めとしたGoogleのサービスを中心に使っていたことや、価格、集計スピードの速さなどを総合的に判断し、BigQueryを導入しました。
それ以前は、内部のデータベースと外部ツールに分散して、データを管理していたのですが、BigQueryを導入することで、一元管理できるようになりました。
データベースをまたいで分析しようとすると、どうしても時間がかかってしまいますし、外部ツールだと計測できる数値の正確性に限界があります。それでは意思決定までの時間が遅くなってしまうので、どうしてもBigQueryのようなデータウェアハウスの役割を果たすものが必要でした。
データベースを理解することで、副次的な効果も
「ディレクターがSQLを書く」というと、プログラミングを覚えることのように敷居の高いものに感じますが、そうではないんです。2、3回「これだけは抑えておきたいSQL」という勉強会を開催し、あとは実践でレビューをしていくだけで、基本的な分析を行うスキルを皆が習得できました。
2、3人だけでもSQLを書けるようになると、あとは互いに教え合ってくれるので、今では私はほとんど関与していません。
スタートアップでデータ分析専門の人を雇うのは大変ですよね。SQLを書くだけなら、ちゃんと勉強すればディレクターでも書けるようになる。投資対効果は大きいと思います。
ディレクターが数字を好きに見れるようになると、企画の提案資料に数値を肉付けできるので、企画の精度が上がりますね。他にも、効果検証が早くなった、次の施策を考えるまでのスピードが上がった、という声があがっています。
もう1つ大きい効果だと考えているのが、ディレクターがデータ構造を理解したことです。BigQueryからデータを抽出しようとすると、自然と今のデータ構造を理解するようになります。
すると、新しい機能を付けるときに、「このデータ構造にしておけば、BigQueryで分析しやすい」という提案がディレクター起点で起こるようになりました。ある程度データベースへの理解がある方が言語化しやすく、職種間での認識の齟齬が小さくなるため、開発工数の削減にもつながりました。
分析の手法だけでなく、分析の「精度」にも目を向けるように
ディレクターが自分で分析をすることで、当事者意識が強くなるというメリットもあります。施策のプランニングの時点から、「自分は何を検証するつもりで、どの数字を見るべきか」をより考えるきっかけになります。
また、分析の手法を身につけると、次は本質的な分析の「精度」を上げることを考えるようになったメンバーも多いですね。
あるA/Bテストを実施した時に、Aの施策で数値が上がったんです。普通はそこで「Aを取り入れましょう」となるのですが、本当にAだったのか?と疑って、もう一度データを見てみたんですね。
すると、AとBの母集団の属性に、偏りがあることが判明しました。数字が上がったのは実際の施策の結果ではなく、母集団の作り方が良くなかったことが原因でした。
このように、誤った結果を指摘して、もう1度正確な検証をしましょうという方向性を考えられるようになりました。
データとユーザーのインサイトを交えて、意思決定をしていく
BigQueryによるデータ分析が上手くいったのは、「理由なき意思決定はしない」というスタンスが徹底されていることが大きいのかなと思っています。
意思決定に重要なのは「誰が言ったか」ではなく、ユーザーの声や、行動データという客観的に判断できる材料だという考え方が、経営陣から現場の社員まで浸透しています。
ユーザーの声は、週に2回ほどのユーザーインタビューで積極的に拾い上げています。
弊社のサービスをご利用いただいているユーザーは、とても協力的な方が多くて、依頼をするとすぐに集まるのは嬉しい限りですね。ヒアリングするのは、利用状況や満足している点、不満点、そして新しい企画やキャンペーンへの事前フィードバックです。
そうして開発のあらゆるフェーズでユーザーの声を大切にしながら、実際の客観的なデータと突き合わせて意思決定しています。
弊社は、広告代理店に勤めていたメンバーで立ち上げた会社なので、クリエイティブや直感を大事にする文化があります。一方で、コンサルやIT出身のメンバーもジョインし、データ分析のノウハウも融合し始めているので、その2つのバランスを取っていくことを大事にしています。
これからも、データ分析とユーザーのインサイトを交えて、意思決定を繰り返していき、良いサービスを提供していきたいと思います。(了)