- 株式会社エスキュービズム
- 代表取締役社長
- 薮崎 敬祐
5回作り直すのが当たり前!?IoTをリーンスタートアップで作る、その手法とは
〜作り直しが難しいハードウェアの世界で、「5回の作り直し」が当たり前というエスキュービズム。プロトタイピングを繰り返してIoT製品を作る、そのプロセスを公開〜
無駄な物を開発するリスクを極限まで下げる、リーンスタートアップ。MVPと言われる「最小限の機能にしぼったプロトタイプ」で、仮説検証を繰り返す手法だ。
Webサービスやアプリなどのソフトウェア開発において、多くの企業が実践するリーンスタートアップだが、ハードウェア開発ではあまり一般的ではない。
そんな中、IoT機器の開発にリーンスタートアップの考え方を取り入れているのが、株式会社エスキュービズムだ。IoT機器を数多く開発して世に送り出している同社は、開発リスクを極限まで下げ、多くのプロダクトを短期間で開発している。
今回は、同社で代表取締役社長を務める薮崎 敬祐(やぶさき たかひろ)さんに、リスクを抑えたIoT開発について詳しく伺った。
リクルートを卒業し起業。早期にIoTの分野へ参入
2004年にリクルートに入社し営業に従事した後、2006年にエスキュービズムを設立しました。
リクルート時代の経験から、顧客の声をしっかりと聞き、そこにきちんと解決策を提示すれば売れる、という自信はありました。その上、今の時代はバイトでも月20万円くらいは稼げるので、起業してもほとんどリスクが無いなという考えがベースにありました。
弊社は、ECから事業を始めましたが、その後、POSや通販、アプライアンス(家電)、自動車販売などの事業を開始し、2014年頃からはIoT事業にも取り組んでいます。
現在開発、販売しているIoT製品は、時間貸し駐車場の管理をする「eCoPA(エコパ)」、スマホで解錠できる「スマート宅配BOX®」、飲食店向け新型コールベル「noodoe(ヌードー)」など多岐にわたります。
▼時間貸し駐車場の管理をする「eCoPA(エコパ)」
IoT開発も、リーンスタートアップは可能?
新しいIoT製品の開発には、リーンスタートアップの考え方を取り入れ、リスクを最小化して進めています。近年は3Dプリンタなどの登場によって、ハードウェア開発もリーンスタートアップの発想で進められるようになってきています。
いきなり製品化するのではなく、試作品(プロトタイプ)を作り、顧客に見せて反応を見て、改善を繰り返すことで、低予算で顧客に受け入れられる物を作ることができます。
製品ができるまでに、平均で5回くらいは作り直しますね。また、作り直す時はゼロベースで発想するのですが、その時に「100個はアイデアを出す」ということを大事にしています。
だいたい70〜80個目ぐらいに良いアイデアが出るんですが、意外とみんなアイデアを出せないんです。20個出たら、まあまあ上出来です。多くの人が7、8個くらい出して、「すげえ、これいいじゃん」って盛り上がっちゃう。
そうなると、1つのアイデアに固執してしまい、そのアイデアを壊すことが怖くなり、5回も作り直すことはできません。あくまでも、ゼロベースでたくさんアイデアを出すことが重要なんです。
「Wi-Fiの無人貸し出しBOX」も、実は全く別物だった…?
現在、スマート宅配BOXを応用して、羽田空港でWi-Fiルーターを無人貸し出しするサービスを、株式会社ビジョンさんと共に開発しています。
▼スマート宅配BOX
実は、このサービスもリーンスタートアップの考え方で、スクラップ&ビルドを繰り返した結果できたものです。
このプロダクトは当初、「薬局の薬を無人で受け取れる宅配BOXがあったら面白いね」というところからスタートしました。そこで、町工場で箱を作り、Bluetoothで開閉できる鍵をつけたプロトタイプを作りました。
▼スマート宅配BOX
このプロトタイプなら、量産するわけではないので数十万円で作れます。
しかし、顧客にプロトタイプを見せると、店頭オペレーションや法律などの理由で、製品化には至らないことがわかりました。
「物」を見せることで、初めてイメージできる
その後、ある家電量販店さんが、修理の受け取りのために、2、3人が24時間体制で張り付いているとお聞きしました。そこで、このプロトタイプを持っていってみたんです。
「これを置けば人件費が安くなりませんか?」という話をしたところ、「薮崎さん、毎日夜中に120個ほど受け取りがあります。この宅配BOXを120個置くスペースはどこにあると思いますか?」って言われちゃったんです(笑)。
この提案は製品化されませんでしたが、このように「物」を見せて、やり取りを繰り返すことが重要です。
というのも、「物」を見せることで、やっと顧客の中でイメージがわき、議論が起こり、ニーズがつかめるんです。「沢山の人が修理の受け取りに来るから無理だね」「テレビが入らないね」といった、具体的な話ができるようになります。
逆に、物を作らずに「IoTで解決したい課題を教えてください」と質問をしても、「うーん…」となってしまうんですよ。
いくつものプロトタイプを経て、最終的な形に
その後、宅配BOXに保温機能を付けて、お弁当受け取りの行列解消のアイデアとして提案しました。スマホで先に注文しておき、宅配ボックスで受け取ることができれば、並ばずに済みますよね。
ですが、このアイデアも具体的な物を見せると、「行列解消は嬉しいけど、食品の衛生に問題がある」といった具体的な話が出てきて、廃案になりました。
その後、株式会社ビジョン様との話し合いの中で、羽田空港のWi-Fiルーターの貸し出しカウンターに、正月やお盆などの繁忙期に行列ができることを知りました。
本人確認、端末確認、付属品確認などを対面で対応していたため、Wi-Fiルーターの受け渡しまでに時間がかかっていたそうです。
そこで、Wi-Fiルーターが無人で受け取れる宅配BOXとして、プロトタイプを運営会社のビジョンさんに提案したところ、良いねという話になりました。
そこから、宅配BOXを小型化し、ロッカーのような形にして、それぞれに鍵のモジュールを付けました。そして、事前にWebで予約しておけば、24時間Wi-Fiルーターを受け取れる、今の形にしたんです。
▼スマート宅配BOX
IoT開発は、赤字をあえて出す!
このようにプロトタイプを作って顧客ニーズを確かめても、ヒットするかはわかりません。その顧客に受け入れられても、それ以上多くの顧客に受け入れられるか、わからないからです。
ただ、ハードウェア製品だと、例えば中国で作ろうとすると「原価5,000円にするなら最低ロットが10,000です」と言われるんです。これでほとんど売れなければ、約5,000万円の損失になります。
10個のプロダクトを出して、そのうち9個が失敗するとしたら、この方法はリスクが大き過ぎます。
私の考えだと、単価を下げるために10,000個作る必要は全くない。原価が20,000円になっても良いので、まずは100個だけ作って、売値を15,000円くらいに設定する。売るたびに5,000円の赤字になりますが、100個200万円で、検証ができます。
完売したら、また作れば良いんです。ヒットして量産できれば、すぐに取り戻せるので、まずは赤字を「あえて出す」発想の方が、ハードウェア開発では正しいと思っています。
今を「より良く」するIoTの領域で、今後も挑戦を続けたい
IoTは、コンビニのように、今後生活の中に当たり前に溶け込んでいく概念だと思います。コンビニは今では5万店舗以上ありますが、まだ100店舗くらいしかなかったときの感覚が今のIoTだと思います。
物とインターネットがつながると、単純に今より「良く」なるんです。今でもAmazonなどがテレビに挿して使うスティックを出すなど、少しずつ物がネットにつながるようになってきていますが、これからも劇的に変わっていくと思います。
私も、次の時代のテレビを生み出したり、IoTの分野で次々と挑戦していきたいですね。(了)