• 世界へボカン株式会社
  • 代表取締役
  • 徳田 祐希

越境ECの成功をはばむ「集客」「価値」「市場」の3つの壁。乗り越える方法とは?

〜10年間の英語Webマーケティング歴を持つ、世界へボカン株式会社の徳田代表に聞く、越境ECの「三つの壁」とその乗り越え方〜

内需の減少に伴い、外国人観光客のインバウンド消費と並んで注目を集めている、海外向けの「越境EC」。

しかし、英語Webマーケティングに10年ものあいだ携わっている、世界へボカン株式会社の徳田 祐希さんによると、越境ECの成功率はかなり低いという。

越境ECには、「集客の壁」「価値の壁」「市場の壁」という3つの高い壁が立ちはだかっていると言う徳田さんは、数々の企業を支援する中で、その壁を乗り越える方法を編み出してきた。

今回は徳田さんに、3つの壁を乗り越えて越境ECを成功させる方法について、詳しくお話を伺った。

越境ECが注目を集める中、成功をはばむ「3つの壁」とは?

大学時代にイギリスに留学したとき、日本人の主張下手もあってか、日本の魅力が十分に伝わっていないと感じました。そこで帰国後、日本の魅力を世界に伝えようと、英語Webマーケティング支援のベンチャーに就職したんです。

そこで7年勤めた後に、MBOで事業を買い取り、世界へボカンを創業しました。


弊社では現在、海外向けWebマーケティング支援を専門に行っていますが、その領域の中でも特に「越境EC」が注目を集めています。

ですが、越境ECを支援する会社が増え、さまざまな越境ECサイトが立ち上がっている割に、成功しているサイトは少ないというのが現実です。

その理由は、多くの事業者が「わざわざ越境ECをやる必要性」について十分に考え抜いていないことにあります。単に海外で商品を売るだけなら、eBayやAmazonを使うだけで十分なんですよ。

さらに詳しく原因を考えると、越境ECにはその成功をはばむ「3つの壁」があるように思います。

それは、「集客の壁」「価値の壁」「市場の壁」です。

商品への需要がどこにあるのか。「集客の壁」

ひとつ目の壁は「集客の壁」です。越境ECでは、日本の伝統的なものを商品として売ることが多いです。弊社が支援してきたものを例にあげると、甲冑(かっちゅう)や抹茶、漆器などですね。

ただ、こういった商品への需要は、世界全体で見れば非常に珍しいものです。それを購入したいと思っている人たちが、どういうキーワードで検索するのか、どこにいるのかが、クライアントもECをはじめた頃はわからないんですよ。

そのため、「buy MATCHA(抹茶を買う)」といった抽象的なキーワードで全世界に検索連動型広告を出し、十分なコンバージョンが得られないまま予算を消化してしまうことも多いです。これが「集客の壁」です。

この壁を乗り越えるには、キーワードを具体化することが重要です。

まずはキーワードを具体化し、集客の壁を乗り越える

例えば、世界で「MATCHA」というキーワードを検索するユーザーの意図は多岐にわたります。


「MATCHA」について、知りたいのか、購入したいのか。意図が曖昧なキーワードでは、無駄に予算を消化してしまい、日本製の抹茶の購入に結びつかないことが多いです。

また、「buy MATCHA」というキーワードに広告を出稿するだけだと、検索ニーズの絶対量が足りないんです。

なので、特定の高級抹茶の名前や、「お菓子作り」のような用途も含めて、クライアントの取り扱う商材にマッチする具体的な検索キーワードを出稿します。そこでニーズがあるかを確かめ、有効なキーワードと国の組み合わせを見つけ出す必要があるんですね。

検索連動型広告だけでなく、ディスプレイ広告を使って集客の壁を乗り越えるテクニックもあります。

広告の配信先を手動で選べる「手動プレースメント」を使って、同じように中古車を販売しているサイトに広告枠があれば、そこに自社の広告を出稿します。

例えば、クライアントがTOYOTA車の品揃えがよく、激安セールをしていたとします。その時に、中古車販売サイトの広告を、同じく中古車を販売しているサイトの広告枠に出す。

そこで、「うちならトヨタの車の品揃えが良く、激安セールをしていますよ」というような広告を出すと、当然売れますよね。

さらに、車関係のサイトだけではなく、車を輸入する上で必要な税関の処理や、陸送の方法などを調べている人の目に入るよう、関連するサイトにもディスプレイ広告を出してみました。これも効果的でした。

集客しても価値が伝わらずに売れない。「価値の壁」

集客ができたとしても、次の壁があります。それが「価値の壁」です。

そもそも海外の方は日本のことをあまり知らないので、商品の価値を理解してもらうためには、丁寧な説明が必要です。

それなのに、多くの日本企業は英語が得意でないため、自分たちのコアとなるバリューを英語で伝えられないんです。英語でなくても、自分たちで自分たちの価値を正しく表現するのはとても難しいですから。

その価値の壁を乗り越えるには、様々な顧客のニーズに対応したコンテンツを作り上げていくことが重要です。

「抽象的キーワード」に含まれるニーズを振り分け、価値を伝える

例えば、「buy MATCHA」という抽象的な検索キーワードの中にも、さまざまな「検索意図」があります。その検索意図に対応するため、顧客のニーズを細分化して振り分けるよう、サイト構造を変更してみたんです。

それ以前は、ただ商品の抹茶をひたすら並べるサイトでした。それを、「お菓子作りができますよ」「高級抹茶にはこういうラインがあって、これが人気ですよ」「抹茶にはこういう種類があって、こう違うんですよ」といったことを、まず伝えていくように変更しました。

▼アイテムを目的別に掲載して説明を追加することで、意思決定をしやすく


こうして、「buy MATCHA」の中に含まれるニーズを振り分け、それぞれに対して自分たちが提供できる価値を正確に伝えていくことで、「buy MATCHA」という抽象的なキーワードで訪れる顧客もコンバージョンしはじめたんです。

集客の壁を超えるためにキーワードを具体化し、ニーズを確かめてサイトの構造に反映していく。そしてそのニーズに合うように、サイト上で商品価値が伝わるような導線を作り上げていく。

これを繰り返すことで、集客の壁と価値の壁を乗り越えることができます。

国ごとの市場特性をつかまないと売れない。「市場の壁」

ですが、集客に成功し、商品の価値を伝えても、まだ成功しない場合があります。それは、国ごとに異なる事情に対応できていない場合です。これを私は「市場の壁」と呼んでいます。

例えば、以前アフリカ向けの中古車販売サイトを支援していたのですが、ケニアとタンザニアの中古車に対するニーズがまったく異なっていました。

ケニアには中古車の輸入規則があり、8年以上前の中古車は売ることができません。それを知らずに、同じ車両ページにユーザーを誘導してしまうと、タンザニアと比べ、ケニアの人が全然買ってくれない状況に陥ってしまいます。

また、マラウイという国は農業国のため、実りがある春に収入が集中しています。そのため、春から夏にかけては購買意欲が高まりますが、秋冬は物をあまり買わないんです。

そのような年間の購買ニーズなども踏まえて予算配分も変えていかないと、季節要因によりパフォーマンスが落ちてしまいます。

このように、一口に海外といってもさまざまで、国ごとの市場特性を知っていないと、越境ECでの成功は難しくなってしまうんです。

「市場の壁」を乗り越えるには、経験を積んでいくしかない

「市場の壁」に関しては、簡単に乗り越える方法はありません。実際に販売をしていく中で、時間をかけて市場を熟知していくしかないと思っています。

実際、アフリカに対する中古車販売サイトの支援でも、購買サイクルやデバイスの使用状況など、各国の事情が正確にわかってくるのに2〜3年かかりました。

「市場の壁」を超えるためには、しっかりと市場についての情報を蓄積することを日々意識すること、そして、それを引き出す取り組みが必要です。実際に顧客と触れ合っているセールス担当の方に、ヒアリングを行うといったことが重要ですね。

エッジの効いた商材を用意し、その価値を伝えるコンテンツを作る

越境ECの3つの壁を乗り越えたとしても、やはり前提として、商材がよくなければ成功しません。

越境ECで成功する商材は、やはりエッジが効いている商材です。具体的には、「京都の職人が作った茶器」のような、ストーリーが際立っているものか、機能性や価格が優れているものですね。

その上で、しっかりと商品やサービスの価値を伝えるための「コンテンツ」が重要になります。

ただ、日本のコンテンツマーケティングって、サイトの中にブログを立ち上げて、それをひたすら更新していくようなものが多いですね。これではあまり効果がありません。

そうではなく、顧客の意思決定の動線上に、商品の価値を伝え、購入を促すようなコンテンツを配置していかなくてはいけません。それが越境ECに限らず、コンテンツマーケティングで一番重要です。

弊社では、今後も越境ECの壁を乗り越えて、日本の価値を世界に伝える手助けをしていきたいと思っています。(了)

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