• セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社
  • 代表取締役社長 理学博士
  • 阪根 信一

60億円の調達に成功!異色の技術系ベンチャーが資金調達の過程で得たノウハウとは?

〜全自動衣類折りたたみ機の「ランドロイド」を開発する、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ。累計75億円を調達したベンチャーが語る、その道のりと気をつけるべきポイントとは?〜

2016年11月、60億円の資金調達で話題を席巻した技術系ベンチャー、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社。全自動衣類折りたたみ機の「ランドロイド」を始め、世の中にないモノを生み出そうと躍進している。

だが、その資金調達の過程は茨の道だった。「尖った技術ならシリコンバレーの方が調達できる」と現地のVCを回るも「ある理由」から出資を断られた。ヨーロッパのVCを訪問するも理解が得られず、国内でシリーズAの調達を実施。その調達も、「市場が見えない」ために困難を極めた。

それでもシリーズAで15億円、シリーズBで60億円の調達に成功。その背景には独自の技術力だけでなく、使用感をイメージしてもらうためのプレゼンや、投資への考え方が近い経営トップへアプローチするなど、数々の工夫があった。

今回は、同社代表の阪根 信一さんに、資金調達までの道のりと気をつけるべきポイントについて、詳しく伺った。

尖った技術を売りに、シリコンバレーでの資金調達を試みるも…

弊社は「世の中にないモノを創り出す技術集団」をコンセプトに、オーダーメイドのゴルフシャフト、いびき解消デバイスの「ナステント」などを開発しています。

そして2017年3月には、全自動衣類折りたたみ機の「ランドロイド」も発売を予定しています。ランドロイドは、機械学習で衣類の形を判定して、それを元にアームが自動的に最適な形で畳んでくれる家電です。

▼全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」と阪根さん

弊社のようにB2Cの製品を開発・製造するベンチャーでは「どのように資金を集めるのか」は普遍のテーマです。

製造はもちろん、マーケティングやブランディング費用など、他の業種とは桁違いのお金がかかります。さらにB2Bと違って、「開発したいけど売れるかどうかわからない」状態なので、銀行さんに融資の話を持っていってもほとんど聞いてくれないんです(笑)。

そこで弊社でも、2015年5月にはシリーズA(※)として15億円、2016年11月にはシリーズB(※)として60億円の資金調達を実施しました。

※シリーズA/B:ベンチャー企業に対し、出資する段階のこと。一般に、シリーズAは、製品の開発を目的に行い、シリーズBは事業の成功を目的に行う。

シリーズAのとき、最初はシリコンバレーのVCから資金調達をしようと考えていました。尖った技術系のスタートアップだと、日本ではあまり理解してもらえないことも多いので。

ですが、結果的にはある理由から、シリコンバレーでは調達できませんでした。

シリコンバレーVCが出資を断った理由とは?

シリコンバレーでは、有名なVCを3社ほど訪ねました。

まずはナステントの話をしたところ、思いのほか食いつきが良くて。10億円は集めたいなと思っていたので、バリュエーションは50億円を狙っていたのですが、「50億円から100億円はつく」と言われたんです。

「え、まじすか!」と正直驚いたのですが、VCも「すごい会社を見つけたな」という反応で、とてもポジティブに話は進んでいきました。そして次に、「ちなみにゴルフシャフト事業と、開発中のランドロイド事業もあります」とプレゼンしたんです。


すると、その瞬間にシーンと場が凍りついて。「他の事業があるならこれ以上聞く話は無いから、帰れ」と言われてしまって。失礼な人たちだな、とそのときは思ったのですが(笑)、2社目でも、3社目でもまったく同じことを言われたんです。

そして、3社目では「もうこれ以上シリコンバレーを回っても無駄だと思うよ。」と言われたので、その理由を聞いてみました。すると、次のように言われたんです。

「ベンチャーは、天才社長と天才社員たちがひとつの製品に命をかけて全力でやりきって、それでも1%も成功しない世界だ。シリコンバレーはベンチャーの一番苦しいところも良いところも全部見てきた街で、歴史を知りつくしている。いくら技術力があるか知らないけれど、3つの事業を同時に立ち上げてうまくいくはずがない。」

そして、「どうしても複数の事業をしたいのなら、それはヨーロッパやアジアの文化だから、そこで調達した方がいい」と。

複数事業の立ち上げに理解を示す日本のVC

そこで次はヨーロッパへ行き、家電とヘルスケア事業を行っているメーカーのVCにアプローチしました。そして家電分野の投資担当チームに、まずランドロイドを説明したところ、非常に良い反応を示してもらえました。

ただ、ナステントについて説明すると同じように拒否されました。「あなたたち、何がしたいの?」と。そして、「ヘルスケアへの投資はチームが違うので、自分たちでは評価ができない」ということで結局NGでした。

それで日本に戻ってきて、日本のVCから資金調達をすることにしたんです。

欧米と比較すると、日本のVCは、複数事業を立ち上げている事に関しては比較的寛容でした。周ったうちの7割ほどの会社が、「違和感は感じるがNGではない」というスタンスだったんです。

ただ、逆に日本ではシリコンバレーほどバリュエーションがつかないので、そこはハードルでしたね。

2014年当時はハードウェアベンチャーが注目されていることもあり、前向きな反応が多かったのですが、想定するバリュエーションを聞かれて「50億円くらいを考えています」と答えた瞬間、「あり得ない」と(笑)。「しっかり利益をあげてるITベンチャーでも、10億円のバリュエーションはつかないですよ」と言われてしまいました。

最低でも30億円以上は出ないと、折り合いをつけられないと考えていたんです。そのため、ほとんどのVCに断られましたが、数10社も周っていると、あるVCが「33億円のバリュエーションでどうですか」と提案を下さって。そこから話がようやく前に進み、結果的にシリーズAでは15億円の資金調達ができました。

「全く新しい市場」を納得させるポイントとは

私たちが開発している製品、例えばランドロイドは本当に世の中にまだない新しいものです。全自動衣類折りたたみ機の市場なんて無いので、必然的にVCへの説明も難しくなります。

そのため、製品の理解を得やすいようにイメージ映像を作りました。「ランドロイドの大きさはこれくらいで、引き出しを開けて衣類を入れるだけで、綺麗に畳まれて出てきます」というような、使用感が理解できる映像です。


その映像だけでは「本当にできるの?」という話になるので、NDAを結んだ上でVCの方にラボも見てもらいました。人工知能が実際に衣類を畳んでいる様子を見ていただき、納得してもらいました。

マーケットサイズを説明することも重要ですね。いびき解消デバイスのナステントだと、「似たような機能を持った医療機器(CPAP※)は、日本で約30万人の方が使っています。でも市場規模は3,000万人なので、残りの2,970万人に購入いただける可能性のある製品です」と説明していました。

※CPAP=無呼吸症候群を解消するための電子医療機器。送風する装置と管、マスクから構成される。

それに反論される場合は、例えを出すことも大事です。例えばランドロイドであれば、ルンバが日本市場に上陸したときの市場の伸びを用意する。類似の製品が世にない場合は有効ですね。

また、ランドロイドに関しては、「2年前はナステントを見た人も同じように、売れるわけないでしょという反応でした。それが、製品が完成したとたんに変わったので、ランドロイドも絶対にそうなります」とも説得していました(笑)。

60億円の調達!決め手は専門家も納得の技術力

シリーズAが完了した翌月の2015年6月からシリーズBの調達に動き始めました。そして、2016年11月には、シリーズBとして60億円の資金調達を実施しました。ランドロイドを世に出していくため、非常に大きな額の調達になります。

こちらは、家電メーカーのパナソニックさんや、ハウスメーカーの大和ハウス工業さんなど、今後のランドロイドの展開も踏まえた先や、その他の出資者から調達しました。

実際にラボにお呼びして、動いている物を見てもらったのですが、家電メーカーの専門家に見てもらうのは初めてだったので、緊張しましたね。

すると、ラボの案内が終わって会議室に着席してすぐに「素晴らしい技術だと思います。前向きに検討させて下さい」と言われて、こちらが感動しました。一般家電になり得るくらいのシンプルな構造で動いていることを評価していただいたようです。もう10年もかけて開発してきたものなので、涙がでるくらい嬉しかったですね。


そこからは比較的順調に話が進んで、出資いただけることになりました。ある程度、資金の目処がついてからは一気に人も増やして、2015年6月時点で12人だったチームも、今では55人になっています。

尖った製品は、トップに理解してもらうことが必要不可欠

資金調達を行うときには、絶対にトップを説得することが重要です。特に弊社のような尖った製品だと、担当者に見せても理解してもらえないことも多いですね。

実際、大和ハウス工業さんにアプローチしたきっかけは、2014年のイノベーションズリーダーズサミットでのトップの講演です。そこで話されていたベンチャー投資の考え方が我々の目指すところと共通点がすごく多かったため、お声がけさせていただきました。

そういう意味では、合議制のVCからの調達は難しかったですね。ボードメンバーの半数が許可したら出資するというフェアな方式を取っているのですが、私たちはそのようなVCは全滅でした(笑)。尖った製品だと、絶対にマイナス票の方が多くなってしまうんです。

あとは、徹底的に計画の信ぴょう性を作り込むことも重要です。技術という実績と合わせて、ロジックを組み立ててプレゼンを作っていくのですが、今では200ページくらいの資料になっています。

投資契約はきっちりと精査して説明を重ねる

また、資金調達をするなら、投資契約はきっちりと精査した方が良いと思います。VCさんはひな形の契約書を持っていて、それが結構ガチガチのものなんですね。

早く契約を結びたい気持ちがあるのですべて合意したくなるのですが、説明を重ねて自分たちの意志をきちんと伝えるほうが良いと思います。

そして最後に、最も大事なのはやはり執念です。経営をしていると、お金持ちのおじさんの靴をなめてでもお金を持ってこないと会社を続けられない、という瞬間もあると思います。何が何でも集めるという思いで、死力を尽くすことです。


今後は調達した資金も活用して、ゆくゆくはグローバルマーケットを一気に狙いにいきたいと思っています。近々シリーズCも行う予定です。島国の技術では終わりたくないので、日本のイノベーションが世界を席巻するきっかけを作りたいですね。(了)

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