• 株式会社ディー・エヌ・エー
  • ライブストリーミング事業本部 Pococha事業部 事業部長
  • 水田 大輔

プロダクトマネジメントは「国造り」。Pocochaの急成長を支える哲学とフレームワーク

プロダクトマネジメントは「国造り」。Pocochaの急成長を支える哲学とフレームワーク- SELECK

社会や顧客のニーズが多様化している昨今、プロダクト開発はその複雑性を増す一方だ。各社のプロダクトマネージャーは、その複雑化をできる限り抑えながら、生み出す価値を最大化するためにさまざまな工夫を凝らしている。

株式会社ディー・エヌ・エーが運営するライブコミュニケーションアプリ「Pococha(ポコチャ) 」。同アプリは、2022年9月末時点で国内累計429万以上のダウンロードを誇り、米国やインドにも進出。ユニコーン企業に匹敵するペースでその売上を伸ばし、グループ内での稼ぎ頭として順調に成長を続けている

そんなPocochaが2022年8月に公開した「Culture DeckPC版スマホ版)」では、同アプリのこれまでの軌跡やプロダクト戦略について、透明度高くオープン化。

また、Pocochaというプラットフォームを「国」と捉える独自のプロダクトマネジメントの考え方やフレームワークを公開したことでも話題となった。

具体的には、Pocochaを運営するための「行政機構」として、組織を3つのメインプロトコルに分化。一例として、コミュニケーション設計を担う「ソーシャルネットワークプロトコル」は、いわば「国土交通省」のような役割を担い、Pocochaという国の中で情報が流通するための道を設計しているのだという。

そして各プロトコルには、専門職としてプロダクトマネージャー(PdM)ならぬ「プラットフォームマネージャー(PfM)」を配置。PdMとPfMが協働することで、複雑性の高いプロダクト開発において、より多くの人の声を取り入れた意思決定を可能にしているという。

今回は、Pocochaの事業部長とプロダクト責任者を務める水田 大輔さんに、Pocochaの「国造り」の仕組みや独自のフレームワーク、さらにその背景にある考え方について、詳しくお話を伺った。

T2D3ペースで成長中のライブコミュニケーションアプリ「Pococha」

僕は今、ディー・エヌ・エーのライブストリーミング事業本部でPocochaの事業部長と、プロダクトの責任者をしています。「プロダクトオーナー」や「プロデューサー」と呼ばれることもありますね。

もともとは、大学の在学中にスタートアップを創業して、失敗の経験をかなり積んできました。多くの方に支援をいただきながら5年経営したのですが、プロダクトとしては本当に鳴かず飛ばすで…。

その後、事業をディー・エヌ・エーに売却したのですが、売却後に社内で事業をひとつ立ち上げることが条件だったんです。そして実際に籍を移してから、最初に立ち上げた事業がPocochaになります。

プロダクトマネジメントは「国造り」。Pocochaの急成長を支える哲学とフレームワーク_SELECK(水田さん)Pocochaは「ライブコミュニケーションアプリ」というジャンルの、スマートフォン向けのアプリケーションです。

スマホで気軽にライブ配信と視聴ができることが特徴で、YouTubeやTikTokのように動画編集や企画等の専門知識がなくても、気軽に配信者(ライバー)として自分の周りにファンコミュニティを生み出すことができます。

▼気軽にライブ配信を行う、もしくはその視聴ができるPococha

Pococha世に言う「インフルエンサー」ほどではないですが、最終的には自分自身が、ファンの人にとってかけがえのない存在になる。我々はライバーさん全員にそういった体験を届けられるようなプラットフォームを目指して、Pocochaを作っています。

2017年のリリース後は、いわゆるT2D3ペース(※)で売上も伸びており、海外リリースも行いました。組織規模も現在は200人を超え、来年(2023年)はさらに150人を増やすことを目標に、採用活動をがんばっています。

※ARRを1年ごとに、Triple(3倍)、Triple(3倍)、Double(2倍)、Double(2倍)、Double(2倍)と成長させていくモデル

▼Pocochaの売上成長の推移(同社提供)

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「国造り」をプロダクトマネジメントのメタファーとする理由

Pocochaでは、「国」をメタファーとしてプロダクトマネジメントを実践しています。まずはその考え方に至った背景をお話ししますね。

Pocochaのように、一人ひとりの人間が集まって価値を生み出すサービスには様々なものがあります。例えばTikTokやYouTube、Discordなどです。

そうした数あるプラットフォームやコミュニティの中で、Pocochaの特徴として挙げられるのは、まずユーザーさんが「ここで暮らしている」と言っても過言ではないほどに滞在時間が長いこと。さらに、Pocochaから得る収益が、ユーザーさんの生活そのものを支えている側面があることです。

実際、ライバーとしての活動を始めて、これまでやっていたパートタイムやアルバイトを辞め、1日に6時間、8時間という時間をPocochaで過ごす方も増えています。そうなると、現実世界の中でもとても重要な存在になりますし、プラットフォームとしてユーザーさんの人生を責任感を持って引き受けていかないといけないと思っていて。

つまり運営は、ある種「政府」のような責任を持った立場として、Pocochaという「国」を造っていかなければならない。このように考えたことが、プラットフォームをマネジメントする上でのメタファーを「国」とした出発点でした。

プロダクトマネジメントは「国造り」。Pocochaの急成長を支える哲学とフレームワーク_SELECK(水田さん)そして2年ほど前から、実際に国を造るように色々なことを包括的かつ多面的に考えるようになったことで、プロダクトマネジメントがしやすくなったと感じるようになりました。

そもそも昨今は、Pocochaに限らずプロダクトの複雑性が高まっていくトレンドがあると思っていて。何年もプロダクトを作っていても「実はこれも考えておかなければいけなかったけれど、今まで気が付かなかった」みたいなことがどうしても出てきてしまうんですよね。

そうなると、「じゃあプロダクトマネジメントにおいて一体何をどこまで考慮すればいいんだ」という話になるわけです。そして、「これさえちゃんと考え抜けていれば、良いプロダクトにしていける確信を持てる」ための「何か」を探し始めました。

その中で、コミュニティ運営について学ぼうとプラトンの『国家』や、ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』といった学術書を読んだんです。するとだんだん、これまでの歴史を通じて人類がチャレンジしてきた「国の造り方」の領域の中に、Pocochaというプラットフォームのマネジメントに生かせるものがあるんじゃないか、と考えるようになりました。

そしてPocochaのNo.2で副事業部長でもある鈴木にこの話をしたところ、本当に芯を食った反応をしてもらえて。そこから自分だけではなく、みんながこの考え方でプロダクトマネジメントができる方法がないかと考えて、独自のフレームワーク化を進めていきました。

オリジナルのフレームワークを活用し、Pocochaという国を造る

実際に、どのように「国造り」を行っているかというと、国家運営のための行政機構をモチーフとして、プラットフォームを運営する組織を大きく3つのメインプロトコルに分けています。具体的には、人々をつなげるインフラを敷くソーシャルネットワーク、法や文化をつくるガバナンス、経済政策を行い競争環境を適正化するエコノミックの3つです。

Pocochaを運営するチーム全体は、この3つのメインプロトコルと、それをより分解した8つのサブプロトコルによって構成されています。メンバーはそれぞれが特定のプロトコルに属し、専門的な知識を習得しながら、プラットフォームの開発、運営を行っていきます。

このフレームワークを、我々はPocochaのロングテールPF FlyWheelと呼んでいます。

プロダクトマネジメントは「国造り」。Pocochaの急成長を支える哲学とフレームワーク_SELECK.006また、これらのプロトコルをトライアングルで表現したものが、「プラットフォームマネジメントトライアングル(PfMトライアングル)」です。いわゆる「プロダクトマネジメントトライアングル(PdMトライアングル)」と対になるようなフレームワークになります。

プロダクトマネジメントは「国造り」。Pocochaの急成長を支える哲学とフレームワーク_SELECK.007PfMトライアングルとは、Pocochaというプラットフォームをマネジメントするために必要な、専門的な知識やスキルを可視化したものです。

どんな領域のプロダクトであっても、そのビジネスが立脚するドメイン領域の専門知識、いわゆるドメインコンテキストは必要ですよね。その知識があればあるほど、その領域では当然活躍しやすくなると思います。

とはいえ、じゃあ「◯◯の勉強をしなきゃね」と言われても、どこから手をつけて知識を深めていけばいいのかわからないじゃないですか。

そこでPocochaでは、「Pocochaというドメインコンテキストの専門家」になるための知識をトライアングルの形で定義することで、一人ひとりが専門化していけるようにしています。

例えば、自分がどの領域にフォーカスしていくべきかを考える時のキャリア面の指針として、このトライアングルを見てもらっています。他にも、新しい企画をする際に「この三角形のどの領域が重要か」を考えることで、その領域に詳しい人の協力を仰ぐなど、事業の見取り図的な役割も果たしてくれています。

またPocochaには、プロダクトマネージャー(PdM)に加えて、プラットフォームマネージャー(PfM)という独自のポジションが存在しており、このトライアングルはPfMマネージャーという専門ロールを定義するものでもあります。

PocochaにおけるPfMの役割は、先ほどのPfMトライアングルにある要素を、実際にプラットフォームに組み込む(実装する)ことにコミットすることです。いわば、PfMトライアングルの各領域の専門家であり、リーダーでもあります

例えばエコノミックプロトコルのPfMであれば、経済学や経済政策の学術書を読んで徹底的に勉強してもらったりしていますね。その中では、「もう自分たちだけでずっとやっていくのは無理だから、経済学者をアドバイザーとして招集しよう」といった判断も行います。

いわば、Pocochaにおける有識者がPfMなんです。彼らのあらゆる声をすべて聞いた上で、それをプロダクトに生かしていくことに責任を負うのがプロダクトマネージャー(PdM)ですね。現状、組織内にPfMは15名ほど、PdMは5名ほどです。

より良いプラットフォームを実現するために、組織にはPfMとPdMの双方が必要であり、互いがあってこそ意味を成す両者が協働していくことで、より良いプロダクトを作っていけると考えています。

※上記のフレームワークやその背景にある考え方については、水田さんのnoteもぜひご覧ください。

複雑な物事を考えやすいようにシンプル化するのは「逃げ」

PocochaのCulture Deckを読まれると、思想やコンセプチュアルな考え方が強い組織だという印象を持たれるかもしれません。ですが、今の考え方に至る2年以上前の方が、もっとそれが顕著だったんです。

というのも、以前はある種、「水田の思想に乗れるか、共感できるか」で物事を判断するようなシーンも多かったんですね。それが今では「国造り」がモチーフになったことで、誰かの思想ではなく歴史的に証明されている考え方や研究をベースに判断ができるようになりました。

僕の思想ではなく、より学術的な意味で多くの人のレビューや批判にさらされた上で、それをくぐり抜けてきたものが今の考え方のベースになっているので。Pocochaが目指しているものの正当性や可能性について、よりロジカルに腹落ちできるようになったと思います。

現在のPocochaにおける意思決定プロセスには、まずプロトコルベースで考えられているプロダクトのロードマップがあります。

▼実際のロードマップのイメージ(同社提供)

プロダクトマネジメントは「国造り」。Pocochaの急成長を支える哲学とフレームワーク_SELECK.008例えば、ソーシャルネットワークプロトコルは、国造りで言うと国土交通省のような役割を担っています。

国土交通省が日本全土を走る道や交通手段をデザインするように、ソーシャルネットワークプロトコルでは、Pocochaにおいてどんな情報が誰に届いて、どんなコミュニケーションをしてもらうことがよりプラットフォームの繁栄につながるのか、ということを、5年先くらいまで国家計画のようにマップ化しています。

その上で、OKRを使ってこの四半期にやることを決めて動いていく形です。その際には、ソーシャルネットワークから提案されたアイデアだったとしても、「これはガバナンスの観点からはこうだ、エコノミックからはこうだ」という形で、PfM同士が提案し合い、プロトコルをまたいだチームを編成して進めていきます。

また、Pocochaでは「難しいことを難しいまま考える」というカルチャーも大切にしていて。複雑なものを過度に簡略化したり、自分が考えやすいようにシンプルに物事を捉えるのは、国造りにおいては逃げだと思っています。

実際、Pocochaの場合は先ほどお話したようなフレームワークがあっても、意思決定は簡単にはならなくて、難しいままなんですよね。それをそのまま受け入れてより良くしていくということも、政治に近いかなと感じていて。

例えば日本で何かひとつ政策を考えるとしても、議会で議論するだけではなく、有識者会議を開いて360度色々なところからアイデアやアドバイスを集めていますよね。

そこで、「いや、そんなに色々なことを言われても全部を満たせないので、有識者会議はやめます」となったら、国民としてはすごく怖いじゃないですか。

ですのでプラットフォームを造っていくにあたっても、きちんと全部の専門家の声を聞いて、なるべくそれぞれの意見を尊重する。そうすることで、ユーザーさんからも信頼されて、任せてもらえるような存在になれると考えています。

「プラットフォーム批判」の声も聞こえてくるが、その本質は…

少なくとも2022年現在で言うと、いわゆるGAFAMを筆頭に、プラットフォームビジネスはある意味「最強のビジネスモデル」と認識されていますよね。ですのでまだまだ今後、プラットフォームビジネスの領域でチャレンジする新規事業やスタートアップは増えてくると思います。

その中で将来、PocochaのPfMという役割が先行事例として社会的に評価されて、色々な会社が求めるような存在になっていればいいなと思います。ですので今後も、PfMに関する啓蒙や、社会への提案を積極的にやっていきたいですね。

一方で、昨今ではWeb3の流れの中で、従来の株式会社を主体とする中央集権的なプラットフォーム運営を批判する考え方も出てきています。ですが重要なことは、責任を分散することではなく、責任をどう負うか? だと考えていて。

例えばWeb3の世界では、プラットフォームは透明性が低いと批判されていますが、少なくとも今のPocochaはWeb3のどのプロダクトやプロジェクトよりも透明性高く、説明責任を果たしていると思っています。

具体的には月に1回、2時間半〜3時間くらいをかけて、僕自身がプロデューサーとして「Pocochaというプラットフォームがどこを目指していて、そのために何をするのか」をユーザーさんに向けてお話ししています。

▼実際に行われた「ポコフォーラム」のアーカイブ動画

つまり、Web3だから良くてWeb2だからダメ、という話ではなくて、具体的にどんな説明責任をどれくらい果たせているかが重要だと思っています。

現在のPocochaのDAUは20万人ほどですが、この毎月の場のPVは数千〜1万くらいあるんです。そして皆さん、プロダクト開発に関する専門的な説明を聞いているうちに、どんどん賢くなってきているんですよ。

僕自身、なるべく専門的な話もそのまま伝えるようにしていることもあり、ユーザーさんのリテラシーがどんどん上がっていて。Culture Deckや僕のnoteを読んで引用リツイートでコメントをくれたり、「もっと深いところを知りたい」と言ってくださったりしているんです。

こうしたユーザーさんの賢さやリテラシーの高さは、プラットフォームの民度や健全性に強く関わってくるので、非常に重要だと捉えています。

一例として、ジョン・デューイというアメリカの哲学者が書いた、アメリカが独立して民主主義国家になった時のことを考察している『民主主義と教育』という本があります。その中で彼は、「アメリカ政府が賢いのではなく、アメリカ市民が賢い。市民が賢いことがアメリカの強さの源泉になっている」ということを説いているんですね。

運営側である僕たちが賢くなることももちろん大事ですが、それだけだとやっぱりダメで。良いプラットフォーム、国を造るために原動力となるのはやはりユーザーさんなんですよね。

僕自身はあくまでも、このように歴史的に読み継がれてきた人類の英知を根拠に、自分の取り組みを自信を持って続けていきたいと思っています。Web3かWeb2かは関係なく、それがたとえどんな困難な意思決定、説明責任であっても目を背けず、一歩一歩、アプローチを続けていきたいですね。

そしてPocochaでは、今まさに人々の人生を変えているこのプロダクトの可能性に賭けてみたいという方を募集しています

まだまだ、未完成なチーム、未完成なプロダクトです。今回の記事を読んで、Pocochaのこれからに興味を持ってくださった方がいれば、ぜひお話ししたいです。もちろん、関連するドメインの話や知見・情報交換をご希望の方もご連絡お待ちしています!(了)

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