- ICONIC Co., Ltd.
- マーケティング部 クリエイティブディレクター
- 本田 光人
勝手な仕様変更の原因は文化の違いだった?グローバルマネジメントから学んだ視点とは
〜グローバル組織が抱える、「文化背景の違い」という問題を、サービス作りの強みに転換させる方法とは?〜
組織のグローバル化が進む中、多様なバックグラウンドを持つメンバーと働く人も増えているのではないだろうか。
日本人がベトナムで創業したICONIC CO., Ltd.は、グローバル人材紹介サービスを日本に「逆輸入」し、日本市場への展開も進めている。そのサービスサイトの開発拠点はベトナムにあり、メンバーの大多数は現地のベトナム人だという。
そこで問題になるのが、異なるバックグラウンドを持つ人へのマネジメントだ。実際、同社では「エンジニアやデザイナーが勝手に仕様を変更する」という問題を抱えていた。しかし、その原因を紐解いていくと、「新たな視点を発掘できる」というメリットとなった。
今回は、マーケティング部でマネージャーを務める桝田 亮さんと、同部署でクリエイティブディレクターを務める本田 光人さんに、グローバル組織でのマネジメントノウハウについて詳しく伺った。
ベトナムを拠点に、人材系サービスを手がける
桝田 私は前職のリクルートで新卒採用のプロダクトマネジメントやディレクションを担当した後、2015年9月にICONICに入社しました。現在はマーケティング部を統括しています。
▼マーケティング部 マネージャー 桝田 亮さん
弊社は、アジアを中心としたグローバル人材紹介サービスと、組織人事コンサルティングを営んでいます。元々ベトナムでスタートした会社ですが、いまは逆輸入する形で日本でもビジネスを広げています。
本田 高校を卒業してから、ずっとWebディレクターを務めていて、2016年6月にICONICに入社しました。最近ではベトナムにいながら、アジアの4ヶ国に向けた人材サービスのサイトリニューアルを実施しました。
弊社はベトナムに本社があるので、会社全体で見ると日本人は完全にマイノリティです。マーケティングの部署でも日本人は私と桝田だけで、あとの8人はベトナム人です。
そのような環境でしたので、サイトリニューアルのプロジェクトでは、メンバーのマネジメントでいくつかの課題にぶつかりました。
メンバーの勝手な判断の理由は、文化背景の違いから?
本田 1つめの課題は、デザイナーやエンジニアに依頼した仕様が、いつの間にか変わってしまうという現象が頻発していたことです。
▼マーケティング部 クリエイティブディレクター 本田 光人さん
普通に考えればありえないことなんですが、独自の判断でボタンが削除されていたり、デザイン自体が大きく変わることが多々ありました(笑)。
どうして仕様を変えたのかを確認すると、「こっちの方が良い」「あれは要らないと思った」と言うんです。独自の判断の理由はあくまでも「ユーザーとして私はこう思う」という意見から出ているもので、悪気は無いようでした。
これは、文化背景が大きく違うことも一つの原因です。国によって好む色彩やデザインの流行りも違いますし、ネットの通信速度が違えば使える技術も変わってきます。例えば、日本によくある動画を埋め込んだページは、ベトナムには少ないんです。
ただ、「仕様どおりに作って下さい」と言うだけでは、納得できずに動けなかったりする人も多いので。そこで、日本人特有のWebの文化や、要件の本来の目的を説明していく取り組みを始めました。
感覚の違いをすり合わせることで、新しい視点を得る
本田 まずは、リニューアルのゴールや理由をしっかりと説明し、どうすればそのゴールに辿り着くのかをディスカッションしました。
もちろんサイト自体は日本人向けで、ベトナム人にはわからない部分もあるので、1つひとつ説明が必要です。説明する際には、曖昧な説明や感情的な話はできる限り避けるように気をつけました。
実際に共有を進めていくと、感覚がまったく違う部分も多く驚きましたね。
例えば、人材サービスに登録するときに、なぜこんなにも項目が多いのかと彼らは言います。ベトナムでは、職務経歴書を直接登録するケースが多いので、最低限の項目以外に入力を求めないスタイルが多いようです。また、アピールするべきUIは原色のほうが良いという感覚。
他にも、「キャリアを詰んだ人が、わざわざWebサイトで自分のキャリアを入力するのはあり得ない。LinkedInのアカウントで十分」という意見もありました。
日本だと、LinkedInログインを使っているサービスはあまり無いですよね。だから私たちにはその感覚は良くわからなかったのですが、そのアイディアを受けてLinkedInログイン機能を追加しました。
こうしてディスカッションを重ねた結果、メンバーが「もし日本人なら」という発想で意見を出してくれるようになりました。実際に、その意見を取り入れて改善するポイントも増えていきました。
プロジェクト管理の課題には「JIRA」を!
桝田 もう1つ課題として出てきたのが、プロジェクト管理についてです。
当時はExcelを使ってスケジュールを管理していて、何となくの最終目標と、ざっくりとした途中のスケジュールだけがある状態でした。
ディレクターやデザイナーは、デザインとページのコーディングがいつ完了して、いつオープンするのかという大雑把なスケジュールでも十分なんですよ。でも開発メンバーは、1つひとつの細かい開発工程まで考えていないといけない。このバランスがうまく取れていなかったんです。
ディレクターは開発の工程を3営業日で考えていたのに、確認が漏れていて直前に「あと2日かかります」ということもよく起きていました。納期が、努力目標レベルに落ちていたんです。
そこで開発メンバーを対象に、プロジェクト管理ツールの「JIRA(ジラ)」をしっかりと活用することで改善を図りました。
以前からJIRAは導入していたのですが、あまり使いこなせていなかったので、その反省を踏まえて本格的に運用していきました。
▼細かい開発タスクは「JIRA」で管理
一方、ディレクターやデザイナーにとっては、JIRA上で管理の状況を見ても細かすぎて全体が俯瞰できないので、大まかなスケジュールは「Googleスプレッドシート」で管理しています。本当に細かい開発のタスクだけを、JIRAに移して管理している状況ですね。
▼大まかなスケジュールはGoogleスプレッドシートで管理
なぜこのスケジュールなのか?を理解させることが重要
桝田 ベトナムの方たちも、別に能力が無いからスケジュールを守らないという訳ではありません。この納期に収めることがなぜ必要なのか、スケジュールを守ることが今後のビジネスにとってどれだけ重要なのかを、理解してもらうことが大切です。
あとは、KPIへの意識付けです。KPIである会員登録が伸びないということは、UXが悪いのかもしれないし、SEOが悪いのかもしれない。その原因を考えられるようにして、きちんとKPIにコミットする意識を植え付けられたことは大きいですね。
こうしてマネジメントの改善を行うことで、各自が責任を持って業務に取り組んでくれるようになりました。開発も「作ったら終わり」ではなく、何度もチェックを重ねてクオリティを上げるようになっています。
日本のノウハウだけでは戦えない世の中に、多数の観点を
桝田 私はリクルートで10年間制作を担当してきましたが、自分のデザインやシステム、サービスに対する考え方は、日本文化に基づいたものでしかないと思っています。
一方で外国人メンバーから上がってきたサイトの改善案は、私たちには思いつかない発想の観点を持っています。そしてその中には、その国特有のものではなくて、日本でも利便性が高くなるようなアイディアがあるんです。
最近、マレーシア発のサービスが国外で活躍するケースが多いのですが、これは多民族国家であることが影響していると考えています。自分たちのためだけに作るのではなく、みんなが使いやすいようにと考え尽くしているんです。
これから日本が世界と戦っていく中で、日本のノウハウだけでは戦っていけないので、そうしたマルチナショナルなUXを考えていくことが重要だと思います。
本田 日本人が働く場所が日本に限られていると、それだけで可能性がとても限定されてしまいます。これからは、日本人が進学や就職だけでなく、新しいサービスを作る上でも海外という視点をもっと持てるようになると嬉しいですね。
そのためにも弊社のサービスを通じて、海外に向けた視点やその機会をもっと提供していけたらと思います。(了)