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ITの「ア」の字も無い?タクシー業界を改革するJapanTaxi、アプリリニューアルの軌跡

〜毎日4万件のエラー、分析系ツールなし、2万行のソースコード…。伝統的な産業のIT化を目指す、JapanTaxiの取り組みとは〜

2015年、株式会社日交データサービスから社名を変更して誕生したJapanTaxi株式会社。日本交通株式会社を母体とし、タクシー配車アプリやドライブレコーダーの開発などを手がける、テクノロジー企業だ。

そんな同社も、数年前まではITの「ア」の字もない状態だったという。「全国タクシー」アプリはリリースされていたものの、毎日4万件のエラーが出ており、分析系ツールも入っておらず、まさに「奇跡的に動いている状態だった」という。

その状態からエンジニアを集め、プロジェクトを立て直し、2016年9月にはアプリのリニューアルが完了した。そのプロジェクトを支えたのが、CTOの岩田 和宏さんとエンジニアの大崎 壮太郎さん。

今回はその2人に、JapanTaxiがエンジニアリングの組織に生まれ変わるまでの変遷と、リニューアルプロジェクトの進め方について、詳しく伺った。

ITの「ア」の字も無かったタクシー業界に入社

岩田 弊社は日本交通を母体とする会社で、以前は日交データサービスという社名でした。2015年にJapanTaxiとなり、タクシー配車アプリ「全国タクシー」やドライブレコーダーの開発を行っています。

私は日交データサービスの頃に入社しましたが、それまではずっとWebやアプリのベンチャー企業にいました。違う業界を見てみたいなと思ってレガシーな産業の会社を探している中で、たまたまCTOを探しているという話をもらったんです。

▼左:岩田さん 右:大崎さん


日本交通は会長の川鍋がメディアで答えていることを読んでみても面白いし、一度会ってみようと思いまして。でも実際に面談に行ってみると、背広を着た人たちがバッっと並んでいてITの「ア」の字も無く、話も全然合いませんでした(笑)。

それで一度お断りしたのですが、ビジョンは大きくて面白かったので、「もう一回会ってくれ」と何度か言われているうちに、試しに入ってみようという気になり、CTOとしてジョインしました。入って2週間くらいでやっぱり後悔したんですけど(笑)。

大崎 私も前職はWeb系のスタートアップでした。そろそろ別のことをやりたいなと転職先を探していたところ、JapanTaxiを見つけて。

タクシー会社って、入りたいと思っても入るのは難しいじゃないですか。貴重な経験だなと思って応募してみたんです。今は主にサーバーサイドのエンジニアとして、開発に携わっています。

ノードキュメント、2万行のソースコード…

岩田 弊社が提供しているタクシー配車アプリ「全国タクシー」は、2016年9月にリニューアルしました。”ブルックリン”をテーマにしたデザインになっています。

▼スマホで簡単にタクシーを呼べるアプリ「全国タクシー」


このリニューアルプロジェクトは私が入社する頃には構想がありましたが、当時の状況は予想以上に大変でしたね。アプリには分析系のツールは全く入っておらず、1日4万件くらいのエラーが出ていました(笑)。

ドキュメントは無いし、AndroidアプリもひとつのActivityが2万行あったり、奇跡的に動いているような状況でしたね。

これはもうネット系の人材を入れて、組織を作り直していくしかないなと。もちろん教育する余裕もないので、自律した人を採るための採用活動を始めていきました。

採用は絶対に妥協しない。エンジニアは全員で面談

岩田 あらゆる人材紹介エージェントに声をかけて、説明会をして、採用を強化していきましたね。1日に何10通も書類を見て、週20人くらいと面談したりと、粘り強く進めていました。

募集要項には「3,500台のタクシーが常に位置情報やステータスを上げていて、1日で何百万レコードにもなるデータを分析したり、機械学習に応用できる」といったように、話を聞きたくなるようなネタを一生懸命書いていましたね。

大崎 私もその募集を見て入ったのですが、当時はほとんど妄想のような状態でしたね(笑)。でも今では現実になりつつあります。

岩田 人は欲しいけど妥協はしたくなかったので、内定を出す人は応募者のうち数%でした。エージェントには嫌われてしまうんですけど(笑)、こだわらないといけないポイントですね。

厳しく見極めるためにも、最初の頃はエンジニア全員が採用面接に出ていました。1人でもNGを出したら不採用にします。エンジニア以外にも、私含め4人いるCxOには休日を使ってでも絶対に会ってもらっていました。

内定を出したとしても、この業界だとやはり「嫁ブロック(※)」のようなものはありましたね。「華々しいIT業界にいたのに、なんでタクシー業界にいくの?」と。そうならないためにも、家族にどう説明したらいいのかという相談も受けますし、会社の説明を丁寧にしたり、川鍋が候補者の奥さんに手紙を書くこともありました。

※既婚男性が妻に転職を反対され、内定辞退に追い込まれること

アジャイルでは回らない?情報共有と自律性が大事

岩田 人を採りながらのプロジェクトなので、人が入るたびに状況が変わったりして大変でしたね。凄いレベルの高い人が入社したときには破壊的創造が起きて(笑)。「こんなんじゃダメだ」と作り直しになることもありました。

大崎 プロジェクトのタスクは「Backlog(バックログ)」で管理していました。しっかりとしたアジャイルではなく、目の前のタスクをどんどん消化していくように進めていました。本当に2週間ごとに人が増えたりするので、立てた予定がすぐに変わってしまうんですよ。


人が増えるので、情報共有にも気をつけていました。開発に必要な情報の共有には「esa.io(エサ)」を活用しています。必要なドメイン知識も「タクシー業務知識」というページを作り、それを全員が好きなように編集しています。

▼esa.io上で共有されている「タクシー業務知識」

すべてを説明していられないので、新しく入った人を一日放っておいたとしても、必要なことが吸収できるようなドキュメントになればなと考えています。自走できる人であれば、必要なドキュメントは自分で探して、無ければ質問できるので、いまのところ問題はおきていません。

データの活用も進め、タクシー業界のIT化を実現したい

大崎 Androidアプリは2016年9月、iOSアプリは10月にリニューアルが完了して、開発もようやく落ち着いてきました。

今では一歩引いた視点から見られるようになったので、これからはスクラムでプロジェクトを回していこうと取り組み始めています。技術的にも、いまMicrosoft AzureにあるシステムをAWSに移行するなど、やりたいことは多いですね。

岩田 今後はグロースハックにも力を入れていきたいなと思っています。Treasure DataやFirebase Analyticsを活用して分析を進めていきたいですね。Firebaseはプッシュ通知の機能もあるので、アクティブユーザーを伸ばすような施策も考えています。

溜まっているデータを活用して、ドライバーさんをお客さんが多い所に誘導したり、運転データをドライバーさんの評価に反映したりといったことも試していきたいと考えています。

タクシーだけでなく、「移動で人を幸せに」というのが弊社のテーマなので、タクシー業界をうまくIT化してそれを実現していきたいですね。(了)

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