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  • SELECK編集長
  • 舟迫鈴

【連載:成長組織のリアル】製造業×BtoBの「スルメ的」面白さを伝えたい。キャディ開発組織が挑む壁

キャディ様_seleck

【Sponsored by 株式会社ゆめみ】本シリーズ「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(以下、RJP)」は、「企業が『リアルな現状』を語ることが素晴らしい」という世界を作ることで、採用のミスマッチを減らしていきたいという思いから生まれた特別連載企画です。

急成長スタートアップ組織の実態について、良い面だけではなく課題も含めた「ありのままの姿」を、インタビューを通じて深堀りしていきます。

インタビュアーを務めるのは、スタートアップの内製化支援を行うと共に、RJPを以前から推進している株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行さんです。

第3弾となる今回は、2017年にキャディ株式会社を共同創業し、CTOを務める小橋 昭文さんにお話を伺います。

「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」をミッションに、製造業の受発注プラットフォーム「CADDi」を運営する同社。2021年8月には、シリーズBラウンドにて海外を含めた複数の投資家から総額80.3億円の大型資金調達を行ったことでも話題になりました。

今回スポットライトを当てるのは、現在40名強が所属するキャディの開発組織2023年までに180名規模に達することを目指し、「スケールする事業をスケーラブルにしていく」ための組織づくりに取り組んでいます。

エンジニアの採用競争が激化する中でのキャディのエンジニア採用、そして開発組織づくりのリアルとは?

一本釣りの採用で多様性が生まれたがゆえの課題」「技術的ハードルが高い会社という認知」「『想像がつかない』事業における惹きつけの難しさ」等々…キャディの開発組織が向き合う課題と目指す未来について、詳しくお聞きしました。

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「生きるか死ぬか」の創業時から、4年で40名以上の開発組織に

片岡 本日はよろしくお願いいたします。小橋さんは、幼少期からアメリカにお住まいだったんですよね。

小橋 そうなんです。大学・大学院もアメリカで電子工学が専攻で、卒業後はApple米国本社でハードウェアの開発に携わってきました。実は2017年の末にキャディを創業するまで、あまりクラウドサービスは触ってこなかったんです。

HTMLは2000年代に少しやっていたのですが、そこから10年以上もギャップが空いていたので、一気にHTML1.0から5.0に変わったみたいな(笑)本当に、学びながら走るような形でやってきました。

片岡 すごく意外です。最初の頃は、お一人でプロダクトを作られていたんですよね。

小橋 そうですね、何も知らないところにぽんっと置かれたような感じでした(笑)開発のお作法的なこともあまりよくわかっていなかったので、いま見るとちょっと気持ち悪いところもあります。痛い目に遭いながら、睡眠削りながらやってましたね。

▼キャディ株式会社 共同創業者/CTO 小橋 昭文さん

キャディ_小橋さん

片岡 なかなかハードな感じですね(笑)「エンジニアがチームになったな」と感じられたタイミングはどのくらいですか?

小橋 最初のエンジニアが入ったのが2018年の頭で、その後しばらくは並走で何とかなりましたが、5〜6人になると変わりましたね。もう少し、お互いの関係性やタスク分担を考えるようになり、開発手法もスクラムっぽく回していったり。

さらに10数人になってくると、評価や給与の決め方など、もうちょっと仕組みを考えるようになりましたね。創業したばかりの頃は「まずは会社が生きる死ぬか」ですから、評価制度なんて考えてもいなかったので。

いまではデザイナーやプロダクトマネジャーを入れると40名以上の開発組織なので、また全然違う課題が生まれてきています。そろそろ組織作りのことも、色々と考えていかないといけないフェーズに入りました。

片岡 すごいですね。この数年で、世界が何回か変わった感じですね。

「一本釣り」の採用が、多様性のある開発組織を生み出した

片岡 今日はエンジニアの採用と組織づくりがテーマですが、そもそも、生きるか死ぬか状態だったときのエンジニア採用ってどうされていたんですか?

▼【左】株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行さん

キャディ小橋さん_ゆめみ片岡さん

小橋 どうやってたんでしょうね(笑)最初はTwitter経由だったり、業務委託からのコンバージョンだったり…と言うのも、私、日本人の人脈は皆無だったので。

その後はインバウンドもアウトバウンドもありますが、基本的には「一本釣り」です。その結果として、良く言うとすごく多様性のある組織になりましたね

業務基幹システムをやっていた人もいれば、ゲームを作っていた人もいる。それが強みになっている部分もあれば、逆に難しさもあるなと思います。

例えば「レビューとは何ですか」といっても、会社や文化によって違いますから。そういったことがまだ、擦り合っていない部分があるんですよね。

片岡 そこを決めていくのは大事ですね。現状のキャディの文化はどんな感じですか?

小橋 キャディの場合、組織の多様性に加えて、作っているものが色々あるんです。基幹システム系、数学的なアルゴリズム、図面やドキュメントの管理、新規のSaaS…開発チームも、いまはざっくり5つに分かれています。

そうなると、チームごとに「何を大切にするか」が違いますね。例えば基幹システムの価値観としては、データを絶対欠損させない、なくさないことが重要。一方で画像解析アルゴリズムになると、過去のデータは学習に使うくらいで、それよりは精度を追うわけです。

各プロダクトがそれぞれに適した文化を持っていることが、キャディの特色でもあります。

片岡 たしかにそこまで作っているものが違うと、なかなかひとつに括るのは難しいですね。

小橋 「20年間CADの世界極めてきました」といった職人の技を持つ人もいれば、ソフトウェア開発の経験を積んできた人もいますからね。

この「幅を許す」ことには、私たちのバリューのひとつである「卓越しよう」という言葉が反映されていると思います。キャディは「テクノロジーすごいね」「(代表の)加藤さんすごいね」と言っていただくことも多いのですが、実は「掛け算」があるということがすごいんだと思っていて

現場に多様性に基づく強い技術的な武器があって、さらにオペレーショナル・エクセレンスと、製造業におけるドメイン知識を持っている。この3つのかけ算で、これまで実現できなかったことができると考えています。

キャディの採用ハードルは高い? スキルより思考の柔軟性を重視

片岡 リファラル採用はどうですか? スタートアップだと、初期はほぼリファラル…というパターンも多いのかなと。

小橋 開発組織ということで言うと、実はリファラルはあまり多くはないのですが、精度は高いです。エンジニアがけっこう慎重なので、フィットが高くないと紹介しないんだと思います。

片岡 そのフィットというのは技術レベルなのか、事業課題への共感なのか、どっちなんでしょう?

小橋 両方、一定あると思います。ジョブ・ディスクリプションを書いているときもそうなのですが、実際は「or条件」でも、「and条件」で考えてしまいがちじゃないですか。なのでハードルが上がっているのかなと思いますが、それをなんとか下げていきたいなと。

片岡 あくまでも外から見てですが、キャディさんは採用ハードルもちょっと高そうなイメージがあります(笑)

小橋 そうなんですよね(笑)例えばTechBlogを読んでいただくと、「だいぶ尖ってるな」とどうしても思われちゃうのかなと。

キャディ小橋さん

実際にこれまでの組織づくりの順番としても、最初は即戦力が最優先で人を育てている時間もないじゃないですか。そこからチームが拡大して色々な人が必要になりましたが、まだ即戦力の採用をしていた歴史のほうが長いので、どうしてもイメージが偏りがちだろうなとは思います。

その上で、キャディの採用基準が高いか低いかで言うと、一定レベルは担保しているかなと。ただ、それは純粋のハードスキルというより、思考の柔軟性を重視しています。

片岡 と、言いますと?

小橋 「この言語が書けるか」といったことはあまり重視していないんです。実際、コーディングテストもあまりやりません。チェックボックスをチェックする面接ではなくて、一緒にあるべき姿を考えるような、ディスカッション形式になることが多いです。

例えば、「こういうシステムを作りたかったら、どうデータ構造を持ちますか」「どんな例外が起きそうですか」といったことを聞いたり、「このフレームワークが存在している意義は何か」といったことを話したりしますね。

片岡 面白いですね!でもこれ、記事に書いてしまったら、みんな対策できてしまうかな?

小橋 いえ、そこは大丈夫だと思います。こうしたことを考える思考をもともと持っているか、ということなので。

たまに候補者の方から「コーディングの試験もないのに、本当に見極められたの?」と聞かれることもありますね。でも、会話を通じてお互いアウトプットすることで、一緒に働きたいかどうかが見えてくると思っています。

製造業でBtoB。想像のつきにくい「スルメ」的な面白さをどう伝える?

片岡 ゆめみのエンジニアに聞いても、キャディさんと言えばRust(※プログラミング言語)だし、わりとギークなイメージがあると言ってましたが、ここまでお話を聞いていると違った印象も出てきました。

小橋 AtCoder(※競技プログラミングサイト)でリーチが広がったこともあって、そう解釈されやすいんだと思います。言語選定によって、組織の動きが推論されるということは、実は想定外でしたね

そもそも、キャディは言語にこだわりはなくて。最初はライブラリの関係でC++を使っていて、そこからGoも試しましたし、最近はKotlinもわりと安定してきたので少し使い始めたり。オールTypeScriptのプロジェクトもあったりします。

片岡 何でも柔軟に取り入れるんですね!その中のひとつとして、Rustを選んだだけということですね。

小橋 「こうやるべきだ」という宗教的な人がいないんです。データセンターに泊まり込むみたいな、ITがブラックだった時代を知っている人たちがいることもあって、手段ではなく「どうすれば事業が進むのか」を第一に、常に考えるんですね。

片岡 小橋さんもハードウェアから、いきなりモダンなWeb開発の世界に飛び込んだ人ですもんね。モダンじゃなかった時代の「課題解決のためには全部やるでしょ」という文化が反映されているというか。

製造業の課題を解決するには、ありとあらゆることをやらないといけない…というすごさを感じます。

ゆめみ片岡さん

小橋 そうですね、でもあまり社外にそれが伝わっていないのかなーと思うこともあります。

他にも採用で難しいのが、基本的に、製造業って「想像がつかない」んですよね。日々使っているようなアプリだったら「あの機能ね!それは改善したいわ」と親近感を覚えやすいですが、「製造業…?」みたいな。

片岡 (笑)

小橋 なので、惹きつけと言いますか、候補者の方が腹落ちするところまでに結構パワーかかります

実際、製造業の事業やデータの構造を見ていくと、簡単に想像できないほど闇が深いんですよね(笑)BtoBの経験がある人はその面白さがわかりますが、ずっとtoCをやってきたような方だと、ちょっとピンと来ないと思います。この面白さをうまく伝えられるように、発信や採用活動を頑張っていますね。

片岡 実際には、バリバリのコンシューマー系から転職された方も多いんですよね。そういった方が、入社したら「何これ、面白いわ」となったようなケースもありますか?

小橋 最初は表面的に面白そうだと思っていたけれども、やってみたら、もっと面白かったみたいな方はよくいますよ。「スルメみたい」って言われたことあります(笑)噛めば噛むほど味が出てくると。

片岡 (笑)奥深いんですね。どういうスルメ感があるのかもう少しお聞きしたいんですが…

小橋 ER図を見ると、大体びっくりされます。一般的なソフトウェアだったら、10〜15くらいですが、うちだと50くらい余裕でいくので。それに決済も、いまどき「手形」ありますから。

他にも、例えば色を塗るときに、WebだとRGBのカラーパレットで指定できますよね。でも製造業だと、RGBではない製造業用のカラーコードがあるし、それさえ使わなくて、手元の色見本で合わせることもあるんです。

キャディ小橋さん

小橋 「これ、データ構造としてどうやって表現するんだ」っていう(笑)「何色?」「白………?」みたいな感じですよ。

片岡 (笑)

小橋 画面上のデジタルと、物理的なものづくりにおいて、情報を同期しないといけないんですよね。表現力が両側に必要なので、これが一番難しくて。こういった難しさを解決する面白さが、スルメ的なんだと思います。

事業のスケールを、いかにスケーラブルにしていくか

小橋 これまでお話したような、エンジニア採用における「印象と実態の乖離」を調整することは、一定重要かなと思っています。もちろん、そこに銀の弾丸みたいなものはありませんが。

いまも試行錯誤を続けていますが、最近では「CADDi Next Stage」という形で、より中の情報を開示していくようにしています。TechBlogも、ある程度技術のことは書いているので、もう少し「事業課題 × 技術」の領域に踏み込むなど、アウトプットの質を少し変えていきたいですね。

他にも、一定選考が進んだ方に対しては、NDAを結んで、可能な範囲で中の情報を共有できるようにしています。私たちの船橋にある物流拠点をご案内することもよくあるんです。私は今日の午前中も船橋でしたし、しょっちゅう行っています。

片岡 求める人物像という意味でも、事業理解を深めることが大切そうですね。

ちょっと気になったのですが、キャディさんの開発組織、もしくは小橋さんご自身が「こういうところは全然できていない」「ここはちょっとダサいと思っている」みたいなことってあるんですか?

ゆめみ片岡さん

小橋 …私、英語だと人格が変わっちゃうんですよ。かなり口が悪くて(笑)

片岡 (笑)

小橋 もともと日本の文化が全然わからなくて、創業してから色々と勉強したんです。でも例えば、「いらっしゃいませ」という挨拶があるじゃないですか。あれはいまでも正直、「うるさいな」って思っちゃう。でも、仕事のマニュアル、礼儀だと思うしかないなと。

片岡 ちょっと英語人格が出てきたような…

小橋 あとは、1年くらい前まで私が腕力で30人以上を直接マネジメントしていたんですよね。それを引き継ぎきれていない部分があって、まだひずみがありますね。組織づくりは、まだまだ発展途上です。

先ほども言いましたが、多様性のある組織だからこその目線合わせが必要になってきています。

片岡 なかなかパワーが要りそうです。となると、わりとビシビシとしたマネジメントがあっても良いかもしれないですね。それこそ、小橋さんの英語人格で…(笑)

小橋 (笑)これまでの経験からですが、「いま、緊急事態だ」という切り札をいつ切るか、ということは常に考えています。いつも緊急事態だと麻痺してしまうので、いつ強めに言うかは、すごく貯金してます(笑)

片岡 急に「アメリカ人来た」みたいになるかもしれないですね(笑)

最後に、先日の大きな資金調達もありましたが、その使途を含めて開発組織の展望をお聞かせいただければと思います。

小橋 2023年までに、いまの4倍以上の180人体制の開発組織をつくることを掲げています。逆に言うと、このくらいの組織でなければ実現できないような世界観を、キャディは目指しているということです。

既存事業の拡大に加えて、これまで蓄積してきたドメインや流通のナレッジを使って、より直接的なソフトウェアのサービスを製造業の領域で展開していきます。そうなると当然、人が必要になってきますし、さらに組織が拡大すれば、それをちゃんと回せるような人材も必要になってきます。

さらにグローバル展開も見据えているので、英語対応のようなこれまでになかった課題も増えてくると思います。こうした様々な組織的、事業的、技術的な問題に対して、それぞれとどう向き合うかが今後の一番の課題です。

事業を大きくスケールさせていく中、そのスケールをいかに、スケーラブルにしていくか。人海戦術ではなくて、仕組みで解決するということですね。

1年後には、いまの現状が10年前くらいに感じられてすごく懐かしくなる…くらいのスピード感で、進化していければいいなと思っています。

片岡 小橋さん、本日はありがとうございました!(了)

株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行さんより対談後記

ゆめみ片岡さん_取材後期

インタビューをさせていただく前は、小橋さんの華々しいご経歴もあり、キャディさんに対しては「テック志向」というイメージを個人的には持っていました。

ところが、実際の小橋さんは、チャーミングでもあり、腕力もあり。加えてキャディさんの事業も泥臭くスルメのように噛めば噛むほど味わい深いなど、印象とのギャップが大きかったです。

思い返せば、インターネット黎明期では、開発者にも「技術は無ければ作る!」という「技術者精神」がありました。キャディが立ち向かう世界には複雑な現実があり、モダンな開発文化で育ったエンジニアから見れば、未開の地だと思います。

しかしだからこそ技術者精神、開拓者精神を刺激されるのだと、小橋さんのインタビューを通じてワクワクする感覚を抱くことができました。

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