- Tokyo Otaku Mode Inc.
- Co-Founder/CEO
- 小高 奈皇光
新規事業は「赤字か黒字か」だけで判断しない!ベンチャーが、投資判断に使うべき指標
〜ベンチャー企業における新規事業の評価基準に、「粗利額」を採用。リソースを配分しやすく、事業をグロースさせやすい社内文化を作った事例〜
新規事業へのヒト・カネの投資が妥当かどうかは、どのように判断されるべきなのだろうか。そのためによく使われる指標には、営業利益が挙げられる。その事業が「赤字が黒字か」を見ることで、投資対効果をわかりやすく説明できるからだ。
しかし、営業利益に縛られると、「赤字になるから人を増やしたくない」という議論が起こり、投資のタイミングを逃してしまう可能性もある。
「ベンチャーでは、最初から事業部の収支を見るとリソースが動かしにくくなり、セクショナリズムにもなりすぎてしまう」と語るのは、Tokyo Otaku Mode Inc.の共同創業者で、現在CEOを務める小高 奈皇光(こだか なおみつ)さんだ。
2011年に、日本のアニメやマンガといった文化の海外発信を目的として創業された同社。今や運営するFacebookページは1,900万以上の「いいね」を集め、他にもWebメディアやECサイトを展開中だ。
現在、事業の評価基準として「粗利」が全社に浸透しているというTokyo Otaku Mode。今回は小高さんに、なぜ粗利で事業を評価しているのか、そして粗利文化をどのように社内に浸透させたかについて、詳しくお話を伺った。
Tokyo Otaku Modeの判断指標は、日々の「PSGP」
僕はTokyo Otaku Modeの共同創業者、兼CEOです。もともとCFOもやっていました。
普段は社内/社外問わず、色々な人と話していることが多いですね。人事や組織をどうするか、どの事業にフォーカスして、開発リソースをどこに突っ込むか…。日々、検討しなければいけないことがたくさんあります。
その判断のために数値をどう見るか、ということは、とくにベンチャーですと難しいですよね。例えば営業利益だけを見ていると、すぐに「この事業は赤字だからやめよう」ということになりがちです。将来性を考えた判断がしにくくなるんですよね。
そこでうちでは、各事業の「粗利額」をひとつの基準にしています。ただし一般的な粗利ではなく、独自に送料後粗利、通称「PSGP(Post Shipping Gross Profit)」という指標を作りました。これは、売上から商品原価と送料を引いた額になります。弊社が展開するEC事業では、送料は非常に大事な数字ですので、それを意識できるような指標にしました。PSGPは事業部ごとに測れるので、それぞれデイリーで追っています。
「人を増やすと営業利益が悪化する」という考え方は事業単位ではしない
粗利はシンプルなので、ある商品を300で売って、原価が200だったら、100ですね。でも本当は、この下に社員が20人ぶら下がっている可能性がある。つまり営業利益を見ると、ここは実は真っ赤っかですということもあります。
これをどこまで社内に共有して、判断値にするかということになります。けれどここで営業利益まで見せて判断すると、社内のリソースが動かしにくくなるんです。
例えばある事業に10人が関わっていて、営業利益を見るとマイナス。一方で、粗利が去年は200だったけれど、今年は5,000くらいは出るのではないか。もしそうならば営業利益は無視して、今はそこにリソースを張ったほうがいいわけです。
けれどそこで営業利益を考え始めると、例えば「人を増やすと営業利益が悪化するから…」という話になってしまう。それだと、新しい事業もなかなか立ち上がらなくなってしまうんですね。
要するに、どこまでをガラス張りにするかという程度感の問題ですね。事業がもっと大きくなってきたら、きちんと事業ごとの収支も出すべきだと思います。でも最初は敢えてそこを可視化しない、ということが、特にベンチャーの最初のフェーズではコツな気がします。
事業の理解は絶対!CFOの仕事は、会社そのものの評価を最大化すること
もともと僕は2000年に、メリルリンチというアメリカの証券会社に入りました。当時は投資銀行部門というところで、M&Aや資金調達のお手伝いをしていまして。
ただ、やはり金融は純粋なるエージェントで、自分自身がプレイヤーではないんですね。あくまで主体が別にいて、僕らはそのサポーターです。野球業界で言うと、ダルビッシュを紹介する代理人みたいな。
それで5年ぐらい経ったときに、まだ若いし、敏腕代理人ではなくて、歴史に名を刻むような野球プレイヤーになりたいなと思って。2005年から、インターネット業界に足を踏み入れました。
その後1社を挟んで、ガイアックスで6、7年ほど、CFO的な立ち位置で仕事をしていました。ただCFOって、別に業務がデイリーであるわけじゃないんですね。ですから、僕はCFOという役割はありましたが、普段から事業側の、色々な業務を一緒にしていました。
結局、事業を理解していないと、ファイナンスを語れないんですよ。ファイナンスってある意味、「会社」そのものを売っているわけじゃないですか。会社全体の価値を、株というものに切り出して買ってもらう、という話なので、ある意味社内でもっとも高級な商品です。事業がわかっていないということは、自分が売っているものの構成要素がわかっていないということなんですよね。
ですから肩書としてはCFOだけでも、動き方としては事業部のメンバーと一緒に海外に行って、子会社の立ち上げに行ったり。人事的な部分で面接をしたり、総務や法務、経理にも関わってきました。それに加えて、「交流会で人脈作るぞ!」みたいな。
ガイアックスでもTokyo Otaku Modeでも、CFOとしての動き方というのはずっと一緒です。CFOっていうのはただのラベリングで、結局会社の成功が一番大事ですよね。
独立採算の文化を経験し、「粗利額」を指標に設定
今のTokyo Otaku Modeでは、PSGPという粗利額を見る文化が定着しています。ここに至った背景としては、ガイアックスの事業部ごとの独立採算の文化から学んだことが多いですね。そのメリットもデメリットも、たくさん経験してきたので。
独立採算で考えると、営業利益のプラスマイナスが各事業ではっきりと出ます。毎月の報告で、「B事業はずっとマイナスです」となったときには、いたたまれないんですよね。ただそれでも、粗利は伸びています、といった場合だと、「じゃあ、人が入り過ぎじゃないか」「効率化できるところあるのでは」といった議論になっていきます。
こういった、リソースの配分についての議論をどこまでやるのか、ということなんですね。
それを見てきたので、現在のTokyo Otaku Modeのステージは、事業毎の営業利益で語るという成熟フェーズではなく、まだまだ成長フェーズなのかなと。例えば営業利益で見てしまうと、「営業利益がマイナスになるので、人は増やしたくない」という話になってしまう。そうすると、グロースしたいところに社内リソースを張れなくなってしまいます。
でも、そうじゃない。事業部の責任者には営業利益の責任は追わせないで、粗利額だけを伸ばしてもらう。営業利益は全体コストと考えて、会社として見るので考えなくて良いよ、と言っています。ただ、粗利がそもそも出なかったらダメ、ということも統一しています。
売上→粗利→営業利益。会社のフェーズで視点を変える
企業の成長フェーズにおいて最初のフェーズは、売上だけだと思うんです。事業責任者ってやっぱり、事業(売上)に集中したいですよね。そうすると、最初は販促も考えてトップラインを伸ばす。そこが伸びてきたら、さすがにちょっと真っ赤だから、次は粗利にフォーカスしましょうと。そうすると原価とか収益性を考えますよね。
そして次に人ですね。「すごく粗利が出てるけど、それは100人使ってるから。これ10人で回したらどのくらい営業利益出るかな?」というところまでいくのが、次のステップです。
簡単に言うと、事業責任者が、どこまで経営者の視点になって事業収支を見るか、というだけだと思っています。ただそれを一気にやると大変ですし、セクショナリズムになり過ぎるんです。なので、最初はみんな売上だとカニバらないし、次に粗利、とすれば、自然な形で進んでいくと思います。
新しいカルチャーの浸透のため、「PSGP」という造語を
Tokyo Otaku Modeでも、昨年の前半までは売上を追っていました。そこから粗利にフォーカスして、PSGPという特殊な言葉をつくったんです。そういった造語があると、頭に入りやすいんですよ。
例えば、売上高から原価を引いた売上総利益のようなものについて話しても、頭に入りません(笑)。ウリアゲソウリエキ?みたいな。だから敢えてPSGPという言葉を作って、「PSGP、PSGP」って事あるごとに言って。「PSGPのマキシマイゼーションがみんなのロールだ」って。
PSGPの目標値はデイリーで管理しているのですが、それを達成すると鐘がなるんです。ドラクエの「ティリッティッティッティー」みたいな。これはただ、テンションを上げるための演出なんですけど。
やっぱり数値だけ見ていても楽しくないので、そういった演出をしながら、仕組みやカルチャーを作っていければと思いますね。(了)