- 新日本プロレスリング株式会社
- 管理部 総務人事法務セクション
- 斎藤 順子
社員は「見えないリングで」闘う!新日本プロレスリングの、株式公開を目指す組織改革
〜「普通の会社」を目指して、社内制度を一新!売上100億円の企業を目指す、新日本プロレスリングの組織改革とは〜
1972年に、アントニオ猪木さんによって設立された、新日本プロレスリング株式会社。
同社は近年、株式公開を目指した組織改革に着手している。以前は、規則はあるものの、「みんなが好きなように働く」というスタイルに近い会社だったそうだ。
しかし、売上100億・株式公開を目指すというビジョンを掲げたことをきっかけに、その体質は大きく変化。勤怠管理などの社内制度を整備するといった、様々な改革を進めている。
そんな「プロレスのリング外での努力」も実り、同社の売上は2014年に22億、2015年に27億、そして2016年には32億と、右肩上がりで上昇中だ。
「特殊な業界だからと言い訳せず、会社としてやるべきことに向き合えるようになった」と語るのは、同社で人事・総務を務める斎藤 順子さん。
今回は斎藤さんに、新日本プロレスリングの新たな挑戦について、詳しくお話を伺った。
※編集部より:今回の取材は特別に、オフィスではなく、新日本プロレスリング様の道場にて実施いたしました。
勤怠管理もマネジメントもなし!それでも「好きだから」OK?
私は前職では、金融機関で融資関連の業務を担当していました。もともと格闘技やプロレスの大ファンということもあり、プロレスに携わる仕事ができたら、ということで、2012年の12月に親会社であるブシロードに入社しました。
そこから最初の1年は出向という形で新日本プロレスリングに勤務し、2014年4月に正式に入社しました。2年前からは管理部で、人事・総務領域の業務を担当しています。
私が入社した当時の弊社は、50名に満たない組織でした。実は理由があって、50名を越えないようにしていたんですよ。そこを越えると、産業医さんと契約したり、衛生管理者をおいたりする必要があり、色々と大変になってしまうので。
それが、2013年「売上100億規模の企業を目指す」「株式を公開する」という大きなビジョンを掲げました。そこで初めて、色々と「まずいよね」ということが出てきたんですね。
と言うのも、弊社は私のようにプロレスが好きな人間が多く集まっているので、例えば勤怠管理の仕組みがなくても、連勤が続いても、お給料が安くても(笑)、そういうことで文句を言う人はほとんどいないんです。好きなことを自由な形でやっているので。
それに、経営が厳しい時代もあったので、勤怠や規則云々どころではなかった部分もありました。
いわゆるマネジメントも、あまり機能していないような状態でしたね。ですが、40年以上それで成り立ってきていましたし、離職率も非常に低かったので、それでも特に問題なかったのかもしれないですが。
でも、株式公開となると、何も管理ができていないのはまずいなと。それがきっかけになって、ここ2年ほどは、証券会社や社労士さんに手伝っていただきながら、本格的な社内改革を進めてきました。
残業代を払いたくても、「集計」がないため支払えず…
最初は、「勤怠管理をちゃんとする」ということからスタートしました。もともと勤務時間は決まっていたものの、出退勤時刻がしっかり記録されていなかったんです。
当然のことですが、会社として未払い賃金があっては駄目ですよね。それまでは、みなし残業時間を給与に含むというやり方をしてはいました。けれど、みなし分を超えているかどうかを集計できていない状態、払いたくても未払い賃金があるのかがわからない状態だったんです。
そもそも、勤怠管理をしっかりすることに意味を感じられていませんでした。残業代も給与に含まれていますし、目標がなければ「何のために勤怠管理を一生懸命やるの?」という感じじゃないですか。
そのような雰囲気だった中、株式公開を目指すというきっかけがあって、まずはしっかりと勤務時間を把握し、残業代を支払えるように勤怠管理を整えようということになりました。
それ以前も一応、紙製のタイムカードの機械を社内において、打刻はできるようにしていました。ただ50人までしか使えない機械だったので、そもそも人数的に限界が近くなっていて。
打ち忘れも多かったですし、細かい管理もせずに、ほぼ形ばかりのような状態になっていました。
また、弊社は地方の巡業であったり、営業であったり、外に出ている社員も多いんです。そういった人たちは、会社に置いてあるタイムカードは押せないですよね。けれどそれも、特に管理していませんでした。
管理部としても、「紙のタイムカードをやめたい」という気持ちはずっとあったんですね。集計も、Excelに手で打ち直していたので手間でしたし、入力ミスが起こってしまうこともありました。
まずは「出勤・退勤」の記録を!習慣づけのためのツールを導入
こうした背景から、まず、とにかくルールを徹底していく、ということを始めました。
例えば勤怠ですと、10時から18時までが勤務時間なので、なるべく残業はしないでね、という呼びかけからですね。勤務時間は雇用契約書には書いてありましたが、意識して勤務してた人は一部だと思います(笑)。
同時に、勤怠管理のツールを何か探さなければ、と思っていて。インターネットで「勤怠管理、システム」と打ち込んで調べたりはしていましたが、なかなかどれが良いのかわからなかったんです。
そんな時に、本当に良いタイミングでネオキャリアさんから「jinjer(ジンジャー)」という勤怠管理サービスをご紹介いただく機会がありました。とりあえず話を聞いてみたところ、それがちょうど求めていた条件にハマったんです。
と言うのも、うちは社内の平均年齢も高いですし、これまでシステムをあまり使ったこともないので、とにかく簡単に「出勤、退勤」を日々記録できる、そしてコストが安いというツールを求めていました。
社内制度の整備のスタートでもあったので、とにかく朝来たら押す、帰るときに押す、という癖を付けてもらう。本当に最初は、それだけが目的でした。
実際に、jinjerのデモ画面を見せていただいたのですが、とにかく見やすくてわかりやすかったんです。デザインも白・黒・黄色ではっきりしていて。これなら誰でも簡単に使えそうだな、と感じました。
▼「jinjer」画面イメージ
コストが安かったことも決め手になりました。未知なシステムの導入に、何十万円もかけるのは難しいじゃないですか。失礼な話、最悪失敗してもいいやという気持ちで、導入を決めました。
念のために言っておきますが、勤怠管理は社員のみで、選手は行っておりません(笑)。
社内制度の整備により「ダラダラ残業」を防止。振休取得率もUP
導入に関しては、最初はやはり押し忘れも多かったですね。最初の1ヶ月はテスト期間として、とにかく押してくださいと。そしてその翌月から、残業代をjinjerベースで支給する形にドーンと変えたことで、かなり定着しました。
同時に、残業を事前申請制にしました。定時以外で勤務する場合は、事前に残業理由と時間を紙に記載して、上長と管理部に申請します。これは、わざと残業のハードルを上げて面倒くさくしているんです。
実は以前は、自分も含めてわりとダラダラ会社に残ってしまう人が多かったんですよ。でもそれをまともに集計すると、残業代だけですごい金額になって会社としては困ってしまうので、このような仕組みを作りました。
最初は「いや、もっとやらせてくれよ」「働きたいのになんで残っちゃいけないの?」みたいな声もありましたね。
でも、この制度が定着するに従って、みんな早く帰るようになっていきました。早く帰るメリットを各自が見出した結果だと思いますし、業務中の生産性も上がりました。
他にも、振休制度の運用もしっかり行なうようになりました。土日に試合があることも多いので、その場合は、1週間以内に平日のどこかで休みをとってもらうようにしています。
これも最初は、「忙しいんだから、休む暇ないよ」なんていう声もありました。でも、こちらがしつこく「休んでください」と言い続けたことで、だんだんみんな「休まないと管理部に怒られる」という意識が生まれました。
今では休日出勤した分は必ず平日に休む、という流れになりましたね。「あ、休めるんじゃん」みたいな感覚だったと思います。何ごとも、やってみないとわかりませんよね。
「特殊な業界だから」という言い訳をせず、社内整備を進めていく
このように、株式公開を目指すということがきっかけとなって、会社としてやらなくてはいけないことに向き合えるようになりました。「特殊な業界だから」という言い訳をできなくなりましたね。
実際、プロレスの会社と聞くと、すごく特殊な会社のように思われがちです。でも今は、全然そんなことはないんですよ。社内整備もどんどん進んでいますし、選手たちの頑張りもあって、売上も年々伸びていっています。
売上100億の上場企業を目指して、選手はリング上で、社員は見えないリングで日々闘っています。
社内制度で言うと、勤怠管理の他にも新しい取り組みをどんどん始めています。今年の9月から人事考課制度を導入し、管理者は研修を受けるといったこともスタートしています。
また情報共有という観点から、サイボウズのグループウェアを導入し、少しずつ社内掲示板の活用などを進めています。例えば外に出ているメンバーに朝礼の内容を共有したり、もっと社内での気軽なコミュニケーションを増やしていければと思っています。
弊社は歴史が長い分、根強い慣習もありますが、どんどん新しいものを取り入れて変化していこうとしています。
「普通の会社に」という言い方はおかしいかもしれませんが、何か「特別感」のようなものをもっと失くしていけるように、これからも社内整備を進めていきたいと思います。(了)
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