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オムニチャネルのキーは、泥臭い巻き込み力!?パルコが描く「メビウスの輪」とは

~パルコの描くオムニチャネルの全体像と、実現のキーとなる店舗を巻き込むノウハウ~

オムニチャネルを推進する上で重要なことはなんだろうか。

全国でショッピングセンターを展開する株式会社パルコ。同社はオムニチャネルに力を入れており、50万ダウンロードを超えるスマートフォンアプリ「POCKET PARCO(ポケットパルコ)」などを開発。

店頭というオフラインでの接客とオンラインでの接客をあわせ、24時間、顧客と接点を持てる状態を目指している。

このオムニチャネルを推進する上でキーとなるのが、店舗の巻き込みだ。オンライン施策が売上につながることなどを店舗に理解してもらい、ブログなどの情報を更新してもらわなければ、オムニチャネルは成功しない。

今回は、同社で執行役としてオムニチャネルを推進する林 直孝さんに、パルコのオムニチャネル戦略の全体像と、実行のキーとなる現場の巻きこみ方について伺った。

パルコのオムニチャネルが目指すのは「メビウスの輪」

パルコは設立して以来、商業施設「PARCO」を運営するショッピングセンター事業を展開しており、販促や情報発信を通じて集客をしながら、ご出店いただいているテナントの皆様の売上高向上に努めています。

一方で、スマホが普及した現在では、店頭(オフライン)で接客したお客様に対し、オンライン上でも情報発信をして、24時間、接点を作っていく必要があります。

これまでは、ご出店いただいているテナントの皆様は店頭での接客・販売でしか顧客接点が作れませんでしたが、Webを通じた情報発信を強化することにより来店前からお客様にアプローチすることが可能になりました。

今は、Web上での情報発信、接客サービスを拡張することを強化しており、ショップスタッフ自らが発信する「ショップブログ」、ショップブログを通じての店頭の商品の取り置きや、Web上での購入ができるサービス「カエルパルコ」を展開しています。

▼Web上での購入ができるサービス「カエルパルコ」


また、自分が好きなショップブログの情報を便利に閲覧できたり、ポイント(コイン)を集めるなど、お得な情報を得ることができる専用アプリ「POCKET PARCO(ポケットパルコ)」をダウンロードしていただくことで、来店時間以外も、24時間お客様と接点を持てるようになりました。

▼お得な情報を得ることができる専用アプリ「POCKET PARCO(ポケットパルコ)」


例えば、POCKET PARCOには来店時の接客を評価する機能がついており、ショップスタッフはアプリを通じて、お客様から評価してもらうことができます。

このように、店頭接客(オフライン)とWeb接客(オンライン)両軸で接客・販売をできる限りパーソナライズし、24時間お客様と接点を持つことがPARCOの考えるオムニチャネルです。

そして、このサイクルをぐるぐると回していくことを、私は「メビウスの輪」と表現しています。

小さく成功事例をつくって、現場を巻きこむ

実は、このオムニチャネルを実現する上で重要なのが、店舗の巻き込みです。というのも、オムニチャネルの全体像を考えるのはオムニチャネルを推進する本部ですが、ブログなどオンライン施策を実行するのは店舗です。

▼ショップスタッフがアプリ上で公開するブログ


店舗のショップスタッフさんに日々、商品の写真を撮影してアップロードしていただいたり、ブログを書いていただかなければ、POCKET PARCOもカエルパルコも機能しません。ただ、日々の業務のかたわら、写真撮影やブログ執筆をしてもらうのは、一定のハードルがあります。

そのため、「ブログが売上に繋がる」という仮説を検証し、成功事例を伴った上で、各店舗に展開していく必要がありました。成果があがるか未知数な中で、いきなり大規模に始めてしまうとリスクが予想されます。


そこで、先進的にブログ接客をされている3店舗だけにお声がけをして、実験をスタートさせました。

3ヶ月ほどのテスト運用の中で、ブログにどのような商品をどのくらいの頻度で掲載すると売上につながるか、検証していったんです。

例えば、静岡でスニーカーを販売する店舗では、店頭で売りづらい商品をブログに掲載することが、販売に繋がったケースなども見られました。例えば29~30センチの靴って、どうしても店頭だと売りづらいのですが、オンラインを活用することで日本全国のお客様にリーチできましたね。

こういった成功パターンが見えてくると、店舗で10個売れる商品が、オンラインを活用すればプラス5個売れるので、合わせて15個在庫を持っておこうという発想ができるようになりました。

このように小さく成功事例を作った後、他店舗へも展開していきました。

その際に大切なのは「これをやってください」というのではなく、「こういう事例があるので、参考にしてみてください」とのみ伝えることです。

先ほどの例だと、「この店ではWebでこれくらい売れたので、あなたの店では在庫はどれくらい用意すると良さそうですか?」という風に伝えます。成果をあげた店舗の声を聞いて、それを分かりやすく事例化して、ほかの店舗に伝えていくことが僕らの役割だと考えています。

eラーニングも現場の巻き込みに使う

このように現場で積極的にWebを活用していただくためには、成功事例が重要です。そして、成功事例を作るだけでなく、店舗に浸透させていくことが必要だと考えています。そこで、我々はeラーニングのシステムを作り、成功事例やノウハウを店舗に配信する取り組みも行なっています。

例えば、オンライン施策が成功している店舗のブログの書き方や、アプリ上の接客評価でいただいたショップスタッフへさんのポジティブな感想などを、フィードバックのために配信しています。

また、オンライン施策で成果をあげている店舗へのインタビュー動画も作っています。インタビュー動画では、現場で役立つ細かいノウハウをお話しいただいてます。

例えば、広島PARCOのショップからは人気番組で広島カープが取りあげられた際に、Twitterのハッシュタグを利用して、放送にあわせて商品情報をツイートしたところ、大きな成果があがったことを共有してもらいました。

▼成功事例をスタッフ間で共有するためのインタビュー動画


こういった細かいノウハウは、本部では気付けない貴重な情報です。我々が1時間語るよりも、当事者であるスタッフさんが2分話した方が、現場には響くのではないでしょうか。

ショップスタッフさんも店舗の売上に貢献したいという気持ちがあるので、こういった情報提供をすることで、積極的にWeb接客にチャレンジしていただく土壌を作っていくことができたのだと考えています。

なお、動画をより快適に見れるようになるため、館内のWi-Fiをご来店されたお客様だけではなく、店舗のスタッフさんにも業務用として使えるよう別途整備しました。

自分のスマートフォンのデータ容量を気にしながらだと、見られなくなってしまうので。短い休憩時間の合間に動画を見るケースも想定されますので、コンテンツは5分くらいで完結するものを作っています。

オムニチャネルの浸透のために、本部の体制も大きく変更

オムニチャネルを推進するために、本部の組織体制も大きく変更されました。もともとは、オンラインのマーケティングチーム、オフラインのマーケティングチームと完全にわかれていたんですね。

本来はマーケティング戦略があって、その実行手段としてオンライン・オフラインがある訳なので、これらが別々に存在しているのは最適な形ではありませんでした。

また、接客などのショップスタッフ教育をするチームもあったのですが、ブログの書き方などのWeb接客と、ロールプレイングなどの店舗でのリアル接客をレクチャーするチームが別々でした。

レクチャーを受けるショップスタッフさんからすると、どちらも同じ接客なのに、講師が異なるという状況でした。

そのため、現在ではそれらのチームを統合し、オンライン・オフラインの教育を同じチームで実施し、よりショップスタッフさんがオムニチャネルへの理解を深められるような体制となっています。

よりショップスタッフにお客さまと向き合ってもらうために

これまで、オムニチャネルを推進するために、最適な組織体制をつくり、eラーニング等によって事例やノウハウを現場に浸透させてきました。

ショップスタッフさんには、よりオンライン施策のノウハウを習得し、積極的にWeb接客に取りくんでいってほしいと思っております。しかしその一方で、現場では従来通り、在庫管理などの日々の業務が発生します。それらの負担をできるだけ軽減するためにも、ロボットの活用も視野にいれています。

アメリカでは、カメラを搭載したロボットが、商品のバーコードを読みとりながら店内を移動し、商品の欠品チェックを行っています。

実際、私達も2016年7月に開業した仙台PARCO2にて、日本でもなじみの深いPepperと自動移動型のロボットNAViiを設置し、接客に活用する実験をしました。

会話をしたりタッチパネルに触れることで、お客さまの向かいたい場所に案内するという取り組みだったのですが、想定以上にお客さまにご利用いただくことができ、ロボットを活用することで、より実現できることがあるのではないかと感じています。

▼仙台PARCO2にてテスト運用されたPepperとNAVii

テクノロジーが進化していく中で、パルコとしては、このような新しい技術が開発されるのを待つのではなく、一緒に実験しましょうとスタンスでやっていきたいと考えています。

本来、人間よりもロボットが得意な業務をロボットに任せて、ショップスタッフさんがオフライン・オンライン双方の接客に時間を使えるようにしていきたいですね。(了)

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