• 東邦レオ株式会社
  • 広報室 室長
  • 熊原 淳

日経媒体に180回掲載!メディア露出が難しい広報の武器「軸ずらしPR」とは!?

〜一見、メディア露出が難しそうな企業でも、PRを成功させるノウハウをご紹介〜

「会社の知名度が低い」「事業内容が地味で、メディア受けしなさそう」「話題性のある取り組みがない」…。

メディア露出をひとつの目標に活動する特性上、こんなことで頭を悩ます広報担当者は少なくないのではなかろうか。

1965年に建築資材を販売する会社として創業した東邦レオ。同社は、一見メディア露出が難しそうな事業内容にも関わらず、「軸ずらし」という独自の手法を用いることで、日経媒体だけでも累計180回も掲載されることに成功している。

今回は、同社で広報を担当する熊原 淳さんに、多くのメディア露出を実現させてきた「軸ずらし」の具体的なテクニック、メディアとの関係の作り方、そして、それらの裏側にある広報マンとしての哲学について、お話を伺った。

引っぱりだこの環境ブームが終焉し、状況は一変

東邦レオは1965年に創業し、建築関連の事業と、ビルや商業施設、住宅に庭園を創出する屋上緑化事業等を展開しています。

▼東邦レオが展開する屋上緑化事業


私は新卒で入社して、今年で22年目です。土壌改良材などの販売営業を担当した後、2003年に、情報化社会が叫ばれていた背景もあり、広報を半ば勝手に立ち上げました。

それまでは社内に広報機能はなく、何が正解か分からないまま、もがく日々を送っていたのですが、2005年から2007年にかけて転機が訪れました。

今から思えば環境バブルとも言える状況です。当時はヒートアイランド問題が一般的にも注目されはじめた時期で、屋上緑化は、都会の真ん中に緑を植えるというという性質上、エコという言葉にぴったりのトピックスでした。

そのため、メディアに引っ張りだこな時期があり、「ガイアの夜明け」「ブロードキャスター」「ワールドビジネスサテライト」など、著名な番組にも取り上げていただきました。メディアの方から連鎖的に取材依頼をいただける夢のような時期でした。


ただ、リーマンショックで企業の投資熱が一気に冷めたことで、この分野の成長が鈍化し、我々の事業に対するメディアからの関心も大きく落ちてしまいました。

記者さんに、それまで通り提案したところ「そんな手あかのついた言葉、なぜ今取り上げる必要があるの?」って言われてしまいました。ここから、広報としての本当の活動が始まりました。

「一方で」のポジションを取る、軸ずらし

環境分野を含め、企業の投資マインドが大幅に下がり、屋上緑化というキーワードではメディアに見向きもされなくなってから、どのようにすれば関心をもってもらえるか、改めて考えはじめました。

まず、メディアに取り上げてもらうためには、社会がそれを欲しいと思っているタイミングで、社内の情報を適切な媒体に届けることが大切です。

そして、これだ!というキーワードを選んで、さぁメディアにアプローチしようと考えた際に、やはり「日本一の◯◯」「日本初の◯◯」のような条件をもっている会社、いわゆる王道でないとメディアから興味をもってもらいにくい訳ですよね。


これが「自分の会社はネタがないので、メディアに取り上げられるのは難しい…」と広報担当者が考えてしまう理由です。では、その条件をもっていない私たちがどうするかというと、キーワードに対して軸をずらし、「一方で」という打ち出し方をするんです。

例えば、企業での働き方が注目される中、メディアが各社の制度について取り上げることがあったとします。「リモートワーク」「ノー残業デー」などが出てくるかと思いますが、その際に「一方で、あえて制度を設けていない会社もある」というポジションでの掲載を狙うんですね。

どういうことかというと、TVでも新聞でも、何かのキーワードに基づいて企業を取り上げる際には、1社だとその企業の宣伝のようになってしまうため、複数社に取材して掲載するのが一般的です。

そのため、競合ひしめく王道ポジションを狙うのではなく、あえて「一方で」という別軸のポジションを狙います。それにより、情報のスパイスとなる「ユニーク枠」として掲載してもらえることが多いと感じています。これだと、特別なことをやっている訳ではない企業であっても、チャンスはありますよね。

「高齢化」の軸ずらしで、自社サービスを一般紙に

具体例で言えば、社長が朝礼で「女性の働き方に関する制度を作ってしまうと、かえって柔軟な個別対応がしづらくなるので、あえて制度を設けていない」と話していたことを思い出し、記者さんに報告したところ、一般紙に取り上げていただくことができました。

あるいは、「高齢化」といえば人間を思い浮かべますが、「一方で、樹木も高齢化しています」という切り口で、メディアに投げかけたこともあります。これは何かというと、よく、道路のコンクリートが割れて、地上に木の根っこが伸びてきていることがありますよね。

▼ 根上がりの様子。歩行者にも危険が及ぶ恐れがある。


これを根上がりと呼ぶのですが、道路の地下がガチガチに固められているために、根の成長と舗装やコンクリートが衝突を起こして発生してしまうんですね。この現象を解決するために、独自開発の特殊な砂利を地下に敷き詰めて、根っこが入る隙間を作ることで根上がりを防ぐ技術があるんです。

▼ 東邦レオが開発した、根上がりを防ぐ独自技術


通常であれば業界紙の方にしか関心を持っていただけない分野です。しかし今回は、「樹木の高齢化によって発生する根上がりを防ぐことで、人々の歩行の安全を実現しています」という打ち出し方をしました。すると一般紙のくらし面に取り上げていただくことに成功しました。

メディアの担当者に、圧倒的な印象を残す紙芝居広報

こうやって世の中のトレンドを読み、選んだキーワードから少しずらすことで、メディア露出を成功させてきました。

一方で、良いキーワード選定が出来たとしても、アプローチ先であるメディアの記者さんひとりひとりと関係性を築くことが出来ていなければ、取り上げてもらうことはできません。そこで私が取り組んでいることが2つあります。

1つめは「紙芝居広報」です。これは何かというと、メディアの方と初めて会う際に、自社の紹介を紙芝居を使ってやるんです。例えば、「私が今からプレゼンするのは、樹木の◯◯がもたらす新◯◯ビジネスです。◯◯には何が入ると思いますか?」というようにクイズ形式にしたりします。


あるいは、「本日は日本列島に台風が近づいていますが…」のように、その日限定のスライドを入れたりもしますね(笑)。内容自体も相手に合わせて30パターンほど作っています。このように紙芝居で説明をすることで、相手に強烈な印象を残すことができました。

メディアとの付き合いには、短期的な利益を求めない

記者さんと関係性を築くために取り組んでいることの2つめは、「新聞記事のデータベース化」です。記事を読んだ際に、どの記者さんが、どんな記事をどのタイミングで書かれていたかということを、自らエクセルにコツコツと書きためていくんですね。もう3,000件ぐらいになっているでしょうか。

そして、「この人にいつか会ってみたいな」と頭の中に入れておくと、いざ会う機会があった時に「◯◯さん、この間、こんな記事を書いていましたよね」と話しかけることができ、一気に距離が縮まります。

このようなメディアの方々との関係を構築するための考え方を、私は「10年思考」と呼んでいます。というのも、紙芝居をしても、エクセルに記事を書きためても、すぐにメディアに取り上げられる訳ではありません。


ただ、そうしておくことで、例えば数年後に「紙芝居の熊原です」とメールをした時に、私の顔は覚えていなくても、紙芝居の広報の人というのは何となく覚えてもらえていることが多いですね。エクセルへの書きためも同じで、いつかその記者さんと会えるラッキーなひと時のための準備なんです。

また、手法のみならず、接し方も大切にしています。気持ちの貸し借りは絶対あると思っていて、今すぐに掲載されそうにない案件であっても、記者さんが求めている情報を提供したり、何かしら力になろうと心がけています。

短期的には成果に繋がらなくとも、10年スパンで見た時に、いつか実を結ぶための種まきをコツコツとやっていくことを大切にしています。

人の心を動かすことが広報の醍醐味

このように、長い期間でメディアの方々との関係構築を考え、トレンドになっているキーワードから軸をずらすアプローチをとることで、どんなに会社が無名で、事業内容がメディア受けしなさそうであっても、取り上げてもらえるチャンスはあると思います。

約13年間、広報活動をする中で、このようなスタイルにたどり着きました。この仕事の醍醐味は何と言っても、自分が発信した情報によって、人々の共感を呼び、心を動かすことができることだと考えています。


私は、広報の業界における流通貨幣はお金ではなく、心だと思っているんですね。自分が伝えた何かで、人の心が動いて、生活が変わって笑顔になる。その結果としてビジネスになれば、広報として、これ以上にありがたいことはないですよね。

10年思考の考えでいくと、今、広報として13年目ですので、2クール目に入ったところです。これからも、人々に共感していただき、心を動かせるような、そんな広報活動に取り組んでいきたいですね。(了)

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