- 株式会社Gunosy
- 執行役員 新規事業開発室長 / CTO
- 松本 勇気
マネジメントは「役割」。CTO・VPoE・VPoPが3頭分立する、Gunosyのエンジニア組織
〜マネジメントを分離し、組織を立て直す!「ミドルマネジメントの擁立」「1on1の導入」「現場の小さな意思決定」など、Gunosyのエンジニア組織運営を公開〜
情報キュレーションサービス「グノシー」「ニュースパス」「LUCRA(ルクラ)」などの多角的なメディア展開で急成長を続け、ブロックチェーンなどの新技術系R&Dにも取り組んでいる株式会社Gunosy。
同社は、2015年4月に東証マザーズへの株式上場(※その後、2017年12月に東証一部へと市場変更)を果たしたが、当時上場に向けて組織が突き進む中で、マネジメントを強化できず、組織全体が疲弊してしまう状態にあったそうだ。
そこで組織を立て直すべく、CTOによる1頭体制を変更。
マネジメントとプロダクトオーナーの役割を切り離し、CTO(技術責任者)・VP of Engineering(マネジメント責任者)・VP of Product(プロダクト責任者)の3頭体制に組織を移行した。
そして、「マネジメントは『役割』のひとつ」という考え方を持ち、チーム単位でも、各プロダクトオーナーに対してヒューマンマネジメントの面でVPoEが支える形を取っているという。
また同時に、「1on1における課題発見や次アクションの明確化」「数値ベースで自走する文化づくり」「小さな意思決定を現場に委譲」といった仕組みでも、その組織を支えている。
今回は、同社のCTOである松本 勇気さんに、3頭分立の背景からGunosyの組織体制について、余すところなくお伺いした。
※VP of Engineeringについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
組織を立て直すため、CTO・VPoE・VPoPの3頭体制へ
私は、Gunosyが東証マザーズに上場した後の2015年9月に、CTOに就任しました。
その当時、上場までのスピードが非常に早かったこともあり、会社の成長に組織設計が追いついていかず、エンジニアにも大きな負担をかけてしまっていて…。
私がプロダクト成長の責務を負いながら、同時に30人ほどのエンジニア全員のマネジメントをしなければならなかったのですが、正直、ひとりで30人をみるのは現実的ではありませんでした。
本来、マネジメントの仕事は、「事業目標の達成」をゴールとして「メンバー1人ひとりが能力を100%発揮できる状態」を作ることだと思っています。
そのためには、日々の変化に気づいてケアしたり、キャリアプランを一緒に設計したり、といった細かなコミュニケーションが必要だと思うのですが、それが足りていませんでした。
そこで、組織を立て直さないといけないという危機感から、私がCTOに就任し、同時に「VP of Engineering(以下、VPoE)」という役職を作り、マネジメントの業務を切り離しました。
それから、CTOが技術、VPoEがマネジメントで責任領域を分けつつ、しばらくの間は二人三脚で、組織の体制をイチから作り直していったんです。
今でこそVPoEという役割をよく見かけるようになりましたが、当時は国内でそれを取り入れている企業が少なく、最初は本当に手探りの状態で。
「どうしたら良い組織になるだろう」と頭を悩ませながら、まずはCTO・VPoEとエンジニア全員との「1on1」をしていくことから始めました。
その過程で、マネジメント意識が芽生えてきたメンバーに対し、少数チームの責任者としてのミッションを課すことで、現場の「ミドルマネジメント層」を立てていきました。
そうして、組織の立て直しがある程度落ち着いてきた頃に、よりプロダクトサイドも攻めていく体制にするため、その責任者として「VP of Product(※以下、VPoP)」を新設し、現在の3頭体制になりました。
※Gunosy社内では、VPoPというタイトルが明確に用意されているわけではなく、開発本部長となっている。
3者のミッションを明確にすれば、連携は自然と生まれる
CTO・VPoE・VPoPは、それぞれの担うミッションに従って、互いに連携して動いています。
まず、CTOの役割としては、「経営面での技術的な意思決定」に責任を持つことです。
具体的には、新規事業をつくるような場面において、技術面での正しい意思決定ができるように、日頃から新技術の研究をしています。例えば、xR(AR /VR /MR)やブロックチェーンの研究などがそれにあたりますね。
そして、「その技術が、5年後10年後の会社にどのような影響を与え得るか」を経営層としての立場から判断しています。
一方で、私は個々のプロダクトに対して、予算の分配や、成長のための戦略といった細かい部分には関与していません。このプロダクトにおける責務を担うのが、VPoPという役割です。
最後に、それを支える開発メンバー全員が「100%のエネルギーを発揮できる状態づくり」に責任を持つのが、VPoEになります。
具体的に言うと、エンジニア1人ひとりが満足した状態で長期にわたり働くことができ、さらにGunosyに共感する新しい仲間をどんどん受け入れられる状態をつくるための「ヒューマンマネジメント」がミッションになります。
このように3者のミッションを分立させることで、それぞれが自分の役割にコミットできる体制を作っています。
そのため、「互いに連携する」といっても、実際には定例ミーティングみたいなものはほとんどなくて。
というのも、各々のミッションが明確なので、その実現に対して最適な行動を取っているだけなんですね。すると自然に、互いの活動が重なり合う部分も出てくるので、そこで協力し合っています。
マネジメントは「役割」のひとつ。1on1では次アクションを明確に
全社的に、CTO・VPoE・VPoPの3者が分立しているのと同様に、チーム単位でも、マネージャーとプロダクトオーナーはそれぞれ独立した「役割」を目指しています。
そのため、チームによっては、エンジニアではない人がマネジメントをしている場合もあります。
マネジメントはあくまで「役割」のひとつなので、必ずしも技術力がある人ではなく、マネジメントに最も適した人がやるべきだと思うんです。
また、その体制を立て直す際に意識的に作ったのが、前述した「1on1」の仕組みです。
現場のマネージャーとメンバー間だけでなく、現在60人ほどのエンジニア全員が、VPoEとも定期的に1on1を行っています。
ここでは、ただ話を聞いてコーチングするのではなく、「実行すべき具体的なアクション」を明確にし、課題を放置しておかないことが重要です。
例えば、「この技術がよくわからない」という課題があるとしたら、「この人はこういう経験があるから、相談してみたらどうかな」とか、「過去のプロジェクトの、ここのコードが参考になるから見てみなよ」といった道標を示します。
その上で、本人がアクションを決めて実行し、マネージャーはその課題がきちんと解決されているかどうかを、次回の1on1の場で必ず確認するんです。
そうすると、「自分の悩みを聞いて、解決に向かって一緒に動いてくれる」というマネージャーと組織に対する信頼感が生まれ、その人のパフォーマンスが上がりますし、より「質の高い」新たな課題が出てくるようになります。
このような密なコミュニケーションが、やはり組織を作る上では非常に大切だと感じますね。
「大きな意思決定」はCTO、「小さな意思決定」は現場に委譲
また、組織の特性として、創業当初から「数値ベースで自走する文化」が根付いています。
会社の重要な数値指標(KPI)が何であるか、その目標値と今の数値の乖離がどれくらいで、それに対する課題は何が考えられるか、といったことを、マネージャー・メンバー問わず全員が理解できるように活動しています。
そのため、私はCTOとして、会社の「こう在るべき」に関わるような「大きな意思決定」はしていますが、それ以外の「小さな意思決定」に関しては、すべて現場に任せています。
そこに明確な基準はありませんが、「ライブ動画を『グノシー』に載せよう」などの中長期的なものや、短期的でも「若干飛び地にあるけど、取り組むべき技術かどうか」といった判断は、CTOが行います。
なので、例えば「プロダクトに新しい技術を使いたい」といった現場の声に対して、私からは特に「ノー」と言わないんです。むしろ、どんどん使ってほしいと思っています(笑)。
ただ、そのための「基本ルール」だけは整えていて。例えば、「ロールバックできないものは入れない」とか「SREなど信頼性を担保できるチームからのレビューを必ず受ける」といったものです。
このようなルールをきちんと守ることが、現場レベルでの「小さな意思決定」を可能にしており、数値をベースにメンバーが自走できる組織体制を支えています。
3頭体制で生まれた「余白」は、R&Dとチームづくりに投資する
一方で、会社としてより中長期を見据えた技術開発を行うため、2016年に新規事業開発室(以下、R&D室)を立ち上げ、これまで、xRやスマートスピーカー、ブロックチェーンなどの研究を行ってきました。
また、私はとにかく技術を触るのが大好きなので(笑)、個人的にも新しいガジェットや技術が出たらすぐ試していますし、海外に行って最先端の技術を学んできたりもしています。
このようにR&Dにまとまった時間を使えるようになったのも、やはり3頭体制にして役割を分けたからこそだと思っています。
そこで創出された「余白」の時間を使って、遊びを持たせることで、新しい事業が生まれてくるのだと思うんですよね。
また、以前と比べると、CTOの目線から「チームづくり」に頭を使える時間も増えました。
と言うのも、Gunosyが持続的に発展していくためには、新しい技術に取り組んだり、新規事業を回したりできる、CTOに近い役割を担える人材がもっと必要だと考えています。
そのため、開発メンバーの技術面での成長や、新たなエンジニアの採用については、最近よく考えていますね。
採用の実務面についてはVPoEがみていますが、技術的なブランディングの観点から、今の取り組みやエンジニア組織についてどう発信するかについては、CTOの役割だと考えています。
そのため、現在研究しているブロックチェーンに関する勉強会「blockchain.tokyo」を開催したり、各部署でブログを書いたりして、自分たちの取り組みや知見を共有するなどの情報発信をしています。
会社全体を、ひとつの「プロダクト」にして透明度を高める
こうして、3頭体制にして組織を立て直したことで、エンジニアの定着率が向上し、Gunosyの将来を見据えた新しい研究開発にも時間をかけられるようになりました。
そして今、新たに取り組みたいこととしては、いわゆる「Corporate Engineering」ですね。
技術を通じて、会社全体をひとつの「プロダクト」のようにしたいと思っています。
エンジニア組織だけでなく、Gunosyで働く社員全員がスムーズに仕事ができて、「最高の生産性を発揮できる状態」にしたいと考えていて。
その実現のため、キーワードになるのが「transparency(透明性)」です。
私は、オープンにするべきではない、例えば人事に関する話などを除けば、すべてオープンにされるくらいがいいと思っているんです。
少なくともクローズドな情報があったとしたら、「なぜオープンになっていないか」の理由がわかるくらいの状態にしたいと考えています。
今よりさらに高い透明度で、全員がお互いの業務や考えなどを共有し、最高の生産性を発揮できるような環境をより整えていきたいと思います。(了)
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