- 文部科学省
- 海外留学創出プロジェクト トビタテ!留学JAPAN
- 西川 朋子
再生回数は13万回超!「ラップ」で留学促進?文科省の動画マーケティングの狙いとは
〜あの文科省が「ラップムービー」を制作!?意外性からバズを狙う、官民協働プロジェクトにおける、新しいマーケティング施策への挑戦〜
文部科学省が2013年10月より開始した留学促進キャンペーン、「トビタテ!留学JAPAN」。官民協働で高校生、大学生の海外留学を支援し、2020年までに累計で約1万人の留学生を送り出すことを目指している。
そんな同キャンペーンが今年の春に発表したWebムービーが、「Dear Father」だ。
留学という新たなステップに挑戦しようとする息子と、そんな息子を応援したい、けれど一方で自分の工場を継いでほしい、と葛藤する父親の会話が、書き下ろしの「ラップ」で表現された、約6分におよぶ大作に仕上がっている。
実際の動画はこちらからご覧いただけます。
同ムービーは「文科省がラップ動画を制作した」という意外性も相まって、配信直後から多くのメディア・SNSの反響を獲得。YouTube上での再生回数も、累計で13万回を突破した。
今回は、同キャンペーンで広報・ブランディングを担当する西川 朋子さんに、「Dear Father」の制作意図、「トビタテ!留学JAPAN」のマーケティング戦略全般について、詳しくお話を伺った。
「お金をかけず、誰も傷つけず、それでもバズる」動画を目指した
「トビタテ!留学JAPAN(以下、トビタテ)」は、文部科学省(以下、文科省)と民間企業が協働で運営する、若者の留学を促進するプログラムです。目的を持って留学をしたい学生に対して、資金を援助しています。
▼官民協働のキャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」
今回の動画企画の背景にあったのは、いわゆる「バズる動画」を発信したいということでした。
「文部科学省がこれを作ったの?」という意外性が話題になることも期待しつつ、押し付けではない形で、留学の「潜在層」にアプローチしたかったんですね。
バズ動画を作りたい、という話自体は文科省の海外留学促進事業の委託先である、博報堂さんと1年半ほど前からしていたのですが、なかなか実現できなかったんですよ。
そもそもまず、「バズる」ということの説明から始めていきましたので。「自然発生的に人を介して広がっていくということなんですよ」って(笑)。
バズるということは、面白さや意外性があるということだと思うのですが、それを公費を使っている国家プロジェクトでやっていいのか、という問題もありまして。
国の仕事では、誰が見ても不快感のないものを目指す必要があり、「突っ込みどころのないもの」になりがちなんですよね。けれどそれでは、バズらせるのは難しいわけで…。
その課題を乗り越えるために、10本以上の企画を博報堂さんと考えました。そしてようやく完成したのが「Dear Father」になります。お金をかけず、誰も傷つけず、それでもバズる、ということを、とことん追求しました。
おかげさまで、YouTubeの再生回数も13万回を突破し、Yahoo!ニュースやめざましテレビなど、思った以上に多くのメディアでご紹介いただくことができました。
「官民協働」のプロジェクトならではの、難しさとやりがい
私はもともと、大学卒業後は、留学情報サイトを運営する会社の経営に携わっていました。その後、PR・マーケティング代理店トレンダーズでプランナーとして働き、新規事業立ち上げの経験を積んだ後、ITベンチャー企業ココナラで広報を務めていました。
そして2014年2月からこのプロジェクトチームに参加し、広報とブランディングを担当しています。
トビタテは官民協働のプロジェクトで、チームも多種多様なメンバーから構成されています。文科省のプロパーの職員だけでなく、私のような民間からの転職組、日本学生支援機の職員、そして大学や、支援企業からの出向という形で参加している人もいます。
そもそもこのプロジェクトは、180社を越える企業からの「人とお金」の支援を中心に運営されているんですよ。特に学生に提供するお金は全額を寄附でまかなっていて、税金を1円も使わないんですね。
今回の動画プロジェクトも、賛同してくださった企業からの寄附と、博報堂さんを中心とした特別制作チームの尽力によって実現しました。
制作を担当してくださった、博報堂のトップクリエイターである市耒 健太郞さんご自身が、留学で人生が変わったという経験をお持ちで。若者を応援したいという熱い思いから、人材集めを含めてほとんどボランティアのような形でご協力いただいたんです。
国家プロジェクトということで、普通ではありえない状況でもご協力してくださるという部分があり、とてもありがたいですね。
私としては、それをいかに最大限に活用してレバレッジを利かせ、日本を変えるようなプロジェクトに盛り上げていけるか、ということが課題かなと思っています。
Webとリアルを組み合わせ、ターゲット層にアプローチ
トビタテのマーケティング戦略の全体図で言うと、ターゲットの中心は高校生と大学生になります。ただ、親御さんや、教職員の先生も関わってくるので…。学生と、それを取り巻く大人たち、というところでしょうか。
やはり若者がターゲットなので、FacebookやTwitterといったSNSは重要です。しかし、その一方で、「学校」というリアルな接点も非常に大きいです。先生の「口」であったり、学校の壁であったり…媒体として最高なんですね。
イベントを行ったり、ポスターを作って送付して、というようなリアルな活動には、お金がどうしてもかかるので…。予算的には、半分半分くらいでしょうか。リアルで接点を持った人を、Webに誘導するイメージですね。
動画に関しては、以前から説明会の様子をYouTubeの公式チャンネルから配信するなど、媒体としては活用していました。その中で今回、「バズを狙う」ような動画を制作した背景には、留学の「潜在層」にアプローチするという目的がありました。
学生を「留学」という視点から大きく分けると、まずは既に留学した実現層が数%、次いで留学をしようと考えている顕在層が、1割ほどいます。そして「興味はあるんだけどまだ自分が留学しようとは思っていない」という、潜在層が4割ほどです。残りは、4割強の無関心層です。
顕在層か潜在層か、どちらにPRの重きを置くかということは、毎年悩むところですね…。
今年は特に、潜在層を重視しています。例えばリアルな説明会を実施しても、そこに来るのは1割の顕在層だけなんです。それ以外の潜在層にリーチするために、今の若者たちの活字離れも踏まえて、バイラル動画という手法を選びました。
「クリエイティブの力」で、感動・共感を呼び起こす
動画の内容を考える上では、学生だけではなく、保護者層の方の留学に対する理解を促進できるようなものを目指しました。そのために「ラップ」という形を採用し、「息子と父親のリアルな会話」を、メッセージ性を持って伝えることにしました。
企画ができてからは、春の新学期に間に合わせるために、約2ヶ月の間に急ピッチで制作しました。制作陣がもう、すごいこだわりで。3秒ほどしか映らないような箇所も、何回も撮影して編集作業を重ねて下さっていました。
いわゆるバズ動画って、短いものが多いですよね。でも今回は6分ほどあって…。正直、離脱されないかすごく懸念したんですよ。それでも結果的にあれだけ見られたということは、クリエイティブの力だと思います。
再生回数が伸びたことも良かったのですが、「感動した」「文科省がよくOKしたな」といった声を、若い世代からも、親御さんの世代からも多くいただけたのは嬉しかったです。
▼実際の、Twitter上の反応
意外性の部分では、ある意味、狙い通りの反応が得られました。それに加えて私たちの留学を促したい「本気度」の部分までが伝わったのかな、と実感できましたね。
今後も認知拡大のため、マスメディアを活用していく
今後はぜひ、このような動画を毎年つくっていきたいですね。今回は「NYに行きたい男の子とそのお父さん」でしたが、女の子バージョンも見たいという声もあるので。今回うまくいったことで、今後も取り組みやすくなりましたしね。
トビタテはまだまだ、社会に認知されていないプロジェクトだと思っています。その課題を乗り越えるためには、今回の動画のように、やはりマスメディアに取り上げてもらえるようにしていきたいですね。
「留学に興味がある」学生自体は、全体の半数近くいるんですよ。それだけの母数があるからこそ、マスマーケティングで全体的な認知度を上げていきたい。留学したいと思う、その1歩手前にいる人を応援していきたいです。
イメージとしては学生が夕飯の食卓で、「夏休み、合宿免許行く?」と話すのと同じレベル感で、「海外のサマースクール行く?」と話題にできるような感じです。
留学を通じて、どこにいてもイキイキと本領発揮できる日本人が増えることが国力アップにつながると信じています。今後もどんどん新しい施策に挑戦して、より多くの学生に留学というチャンスを掴んでもらえたらと思います。(了)