- Onedot株式会社
- Chief Creative Officer
- 坪田 朋
事業アイデアの検証はショートカットできる。「プロ」の判断を活かす新規事業の作り方
〜本質的な課題を発見するユーザーインタビューとエキスパートの知識を活用し、事業開発の精度とスピードを向上した手法〜
ユーザーインタビューを通じて、課題の本質を理解する。複数の事業企画から、確度の高いアイデアを選別する。プロトタイプを使ってユーザーの反応を検証し、コンセプトを磨き込む。
事業開発における、これらのプロセスの精度を高め、スピードを速めるにはどうすればよいのだろうか?
主に中国で展開し、約700万を超えるSNSフォロワーを持つ育児動画サービス「Babily(ベイビリー)」。
▼育児ノウハウ、離乳食の作り方などを動画で紹介する「Babily」
同サービスを開発するOnedot株式会社では、ユーザーの持つ本質的な課題を見極めるため、12枚のカードを使ったユーザーインタビューを行っている。
また、予算や法律といった「アイデアの実現性」を検証するため、スポットコンサルティングサービス「ビザスク」を活用した、エキスパートインタビューを実施。
有識者の意見を聞くことで、実現性の低いアイデアを「足切りする」意思決定スピードが上がり、確度の高い事業アイデアの検証に時間を割けるようになったという。
今回は、同社のクリエイティブチーフオフィサーとして、動画制作の責任者を務める坪田 朋さんに、Babilyの開発エピソードについてお話を伺った。
「中国市場 × デジタルサービス」をスコープに事業を開発
弊社はユニ・チャームとBCG Digital Venturesから出資を受けて創業したジョイントベンチャーです。
2016年7月頃から事業開発をスタートさせ、現在は育児に役立つ1分動画の配信サービス「Babily」を中国と日本で提供しています。
プロジェクトは「ユニ・チャームにとって重要な中国市場のデジタル開拓」というスコープだけが決まっている状態で発足しました。
アイデアありきではなく、育児ユーザーのペインポイントを解決するための事業を立ち上げるために、まず、中国でエスノグラフィックリサーチ(※)を始めました。
※生活者の日常行動を知ることで、異民族を理解する調査
そこで、ターゲットとした出産前後の女性や育児に関わるご家族、ベビーシッターさん、栄養士さんなどを対象に、課題のヒアリングを進めていきました。
本質的な課題は、回答の「1つ目」には出てこない
ヒアリングでは、「表面的な課題から本質を見極めること」が重要です。
シンプルに「困っていることはなんですか?」とだけ聞いた場合、その人が日頃から困ってる課題が返ってきます。
一方で本質を見極めるには、ユーザーが「無意識的に解決している課題」を知ることが大きなヒントになるんですね。
そこで、「キーワードカード」を使ったヒアリングを実施して、それを掘り下げていきました。
▼キーワードカードを使ったヒアリングの様子
例えば「家庭での悩みを教えて下さい」という質問に対して、12枚のカードに、その回答となるキーワードを書いていきます。「祖父母との関係」「自由な時間」といったものです。
そして、「この中で、特に困っていることを3つ教えて下さい」と尋ねるんです。
すると、例えば「赤ちゃんの夜泣き」といった課題が1番目に出てくるのですが、実は「2番目に選んだキーワード」の方が、その人の本質的な課題だったりします。
というのも、1番目よりも2番目に出てくる課題の方が、少し考えた上でひねり出されていることが多いんですね。
なので、事業アイデアを考える上での良いヒントを得るために、ヒアリングの際には2番目以降に出てくる課題にも着目しています。
自己流に課題を解決する「エクストリームユーザー」をヒントに
また、中国における市場調査では、インタビューだけでなく、育児環境の動画も撮影しました。
というのも、やはり動画の方がよりリアルな情報を関係者にシェアする事ができます。
例えば、子供に怪我をさせないよう机の角にマスキングテープが貼ってある様子を撮影します。その動画を、チームメンバーやステークホルダーに説明する際に見てもらうと、説得力が増すんです。
さらに、インタビュー調査をしていると、多くの人が課題に挙げていることをすでに自己流で解決している「エクストリームユーザー」の人々に出会うこともあって。
そして、「彼らが実践していることをマス層に届ければ、サービスとして成立するのではないか?」というイメージで、事業アイデアを考えていきます。
例えば、中国は共働き・外食文化なので、女性が料理をしない家庭も多いです。離乳食作りをキッカケに料理を始める方も多いので、母親や友人に聞いたり、本を読んだりしています。
ただ、本に書いてある「ニンジンを4分の1にカットして、裏ごしして下さい」という文字情報だけだと、具体的な切り方がイメージできずに困ってしまう人も多くて。
しかし一部のユーザーは、日本人が作ったYouTube動画を見て学習し、その課題を自ら解決していたんですね。
この事実を知って、テキストメディアが多かった中国で、育児のノウハウ動画を提供すれば課題を解決できるのではないか? という発想からサービスが生まれました。
課題解決のアイデアを「社内ピッチコンテスト」で洗い出す
こうして、現地での70人以上へのインタビューを通じ、様々な課題が浮かび上がってきました。
それらの課題を解決するアイデアを「ピッチコンテスト」で募集したところ、ソーシャル系からハードデバイスまで様々な案が出てきました。
ここから、1人1票を投票する形で、5案ほどに絞り込みました。この段階では、サービスのスケーラビリティやビジネスモデルは考慮せずに、ユーザーニーズの有る無しを基準に判断しました。
というのも、売上を意識しすぎると、どうしてもイノベーションが生まれにくくなってしまうと思っていて。
また、ビジネスとして成立させるために、予算や法律などの制約条件をクリアできるかということも考える必要がありました。
例えば、「ハードデバイスを作る」というアイデアの実現性を検証するために、現地の工場へ発注した際にどれくらいの費用がかかるのか? といったものですね。
ただ、ネットや本で調べるとどうしても時間がかかりますし、詳しい情報が手に入らないこともあります。
そこで、その領域のエキスパートにインタビューができるスポットコンサルティングサービス「ビザスク」を利用することにしました。
実現性の「検証」はショートカット。エキスパートから情報を得る
ビザスクを利用するにあたっては、まず、自分たちの要件に合うエキスパートの募集要項を公開します。
その募集に対して直接応募をいただくケースもあれば、登録されているエキスパートに、こちらからアプローチすることもできます。
ビザスクには、優秀な方がたくさん眠っているんです。そこで、経歴を見た上で様々な分野のエキスパートの方に「ご相談したいです」と連絡しました。
例えば、「中国の工場にハードデバイスの開発を発注したことのある方」「離乳食コンテンツの監修者」「WeiboやWeChatの公式アカウントを運用したことがある人」といった方ですね。
こうした方々と1〜2時間のディスカッションを行うことで、1〜3万くらいの費用で、かなり有益な情報が手に入りました。
また、ここで意識したのは、自分たちから情報を開示することです。
というのも、一方的に情報を聞こうとするよりも、インタラクティブに情報を提示する方が、相手から返ってくるリターンが大きくなるんですよね。
このように、アイデアの実現性を有識者にパッと聞いてしまうことで、難しいものはすぐに「足切り」するか、もしくは提案してもらった解決策を模索していきます。
自分で調べると数時間かかってしまうようなことも、プロに聞けば10分で解決できることもあります。
ビザスクを活用することでアイデアの検証をショートカットでき、より確度の高いアイデアの検証に時間を割くことができましたね。
プロトタイプを作り、最適なカテゴリと動画の尺を検証
こうしてスケーラビリティやビジネスモデルを考慮した結果、社内投票で絞り込んだ5つの案のうち、2〜3案が残りました。
並行して、エクストリームユーザーから得たヒントをもとに、「情報を動画化したら、わかりやすくノウハウを学んでもらえるのではないか」というBabilyのコンセプトを固めていきました。
そして、動画の最適なカテゴリや尺を検証するため、複数のジャンルで、30秒〜3分の長さの異なる動画をプロトタイプとして作りました。
それをターゲットとなる幼児を持つ母親に見てもらい、インタビュー形式で感想をヒアリングしていったんですね。
すると、「こんなに長いのは見ない」「速すぎて作り方がわからない」といったフィードバックを得ることができました。
また、実際に動画をSNSに配信してみたところ、料理の下準備を省いた動画だと、やはり「カットの仕方がわからない」といったインタビューと同様のコメントがバーッと並びました。
これらの反応を踏まえて、コンテンツのニーズや、最適な動画の長さを検証していきました。
中国で成功する「日本発スタートアップ」を目指す
こうして、約半年の準備期間を経て、2017年2月にサービスをリリースしました。
その後、SNSで約700万のアカウントからフォローされ、今では、動画1本あたり300〜400件のコメントがつくサービスにまで成長しました。
日本の育児ノウハウは、とても体系化されています。ですので、今後も子育てをされている方々に、Babilyを通して役立つ情報を発信していきたいですね。
また、日本のスタートアップで中国市場にチャレンジしている会社って、あまりないんです。視察には行くんですけど、実際に中国で事業をしているケースってそんなに多くなくて。
サービスをどんどん成長させて、「日本の企業でも中国で成功したね」と言われるまで持っていきたいですね。(了)