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  • CloudSign事業部長 弁護士
  • 橘 大地

1年半で6,000社が導入!「PMF」を実現した、新規サービスの開発・拡大プロセスを公開

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〜新規事業で、本当のPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を実現させる方法とは? リーガルテックの領域で「Winner takes all」を目指す、弁護士ドットコムの事例を紹介〜

2015年10月からサービスの提供を開始し、わずか1年半で導入社数が6,000社を突破。さらに、これまでの退会社数はゼロ。そんな快進撃を続けるサービスが、「契約手続き」をWeb上で完結させるサービス「CloudSign(クラウドサイン)」だ。

CloudSignは、「印刷・捺印・郵送」という契約に関わる手間を、圧倒的に効率化するSaaSプロダクトだ。これだけのスピードでサービスを拡大できた大きな理由としては、PMF(プロダクトマーケットフィット※)を完璧に実現し、ユーザーの課題を最適な形で解決するサービスを提供できたことが挙げられる。

(※顧客を満足させる最適なプロダクトを、最適な市場に提供している状態のこと)

今回は同サービスを運営する弁護士ドットコム株式会社で、事業責任者を務める橘大地さんに、「100社以上にヒアリングをした」というサービスのリリース前から、現在に至るまでのマーケティング・営業のノウハウを具体的にお伺いした。

「退会社数ゼロ」の理由は、PMFの最適化!

弊社は2005年の7月に設立し、もうすぐ13年目に入るところです。弁護士という存在をより身近にしたいという思いから「弁護士ドットコム」を運営してきて、それで上場も果たすことができました。

▼日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」

そこから、社長である元榮(もとえ)が、弁護士時代から契約実務に関する課題をかかえていたこともありスタートしたのが「CloudSign(クラウドサイン)」です。契約の締結や、契約書の保管・管理をすべてWeb上で完結させるサービスなのですが、弊社としては、上場後初の新規事業になります。

▼Web上で契約を結ぶことができるクラウドサービス

上場前から、上場後のロードマップを引いている中で、ひとつの目玉にあったのが電子契約でした。弁護士の仕事の中でも、契約業務ってとても面倒くさいんです。大量の紙が必要で、印鑑押して郵送して、やり取りに何週間もかかります。

そこに課題感があったものですから、クラウドサービスの世の中への普及が進み、かつ当社としても上場したことで、知名度や信頼性も向上しているこのタイミングでやりたいねと。

2014年の12月に上場して、2015年の2月に当時の責任者と、エンジニア2、3名のプロジェクトが発足しました。そして2015年の10月にローンチし、現在の導入社数は6,000社を越えています。

このサービスが特徴的なのは、これまでの1年半で、退会社数がゼロなんです。SaaS系のサービスですと、退会率が一番見る指標かと思うので、それがゼロというのは「聞いたことない」とよく言われますね。

その理由は、細かい機能の問題ではなく、私たちが解決しようとした課題と、CloudSignが提供する解決策が非常にマッチしているからだと思います。いわゆる、プロダクトマーケットフィットが最適な状態にあるんですね。

リリースまでに、100社にヒアリングを重ねてターゲットを検証

私自身は、もともと企業の法務、そして弁護士事務所でベンチャー企業の支援をした後、2015年11月に弁護士ドットコムに入社しました。今は、CloudSignの事業責任者を務めています。

サービスの始まりについでですが、CloudSignを最初に契約していただいたのは、大手の人材系の企業さんでした。

一般的なクラウドサービスの場合、「イノベーター」と呼ばれるベンチャー系のインターネット企業から普及して、徐々に認知を拡大して大企業に至る、というストーリーがあるかと思います。

ただCloudSignの場合、リリース前にユーザーヒアリングをする中で、大企業の方がやっぱり紙の契約数がべらぼうに多く、ベンチャーより困っている、ということがわかって。

かつ、大企業から始めると、そこからのグロースが早くなると考えていたので、リリース前から大企業にアウトバウンドでずっと営業をしていました。まだサービスのコンセプトしかなくて、パワポ資料の段階からですね。プロトタイプができて実際の画面をお見せできたのは、リリースの2ヶ月ほど前でした。

大企業の中でもとくに、「紙が多い業界」を優先的に回っていました。日本ですと、人材、金融、不動産です。その中でも法令やセキュリティの面を考慮すると、人材業界が導入しやすく、かつ契約の個数も多いので、まずは人材業界を攻めていきました。

最終的に、リリースまでにおよそ100社ほどを回りました。ヒアリングの段階で、もう「導入します」と言ってくださった企業さんがいたので、開発やデザインは、営業と並行して進めていました。

根強い「慣習」の壁を越えるには「体験」と「導入事例」が必要

初期の段階でもっとも大変だったのは、「はんこ文化」ですね。慣習の壁です。CloudSignは「紙と印鑑」を「クラウド」に置き換えるので、押印の手間が発生しません。契約の種類にもよるのですが、多くの契約は、この方法で締結ができます。

けれどそれに対して、「コンセプトはわかったけど、本当にそれでいいの?」という、人間の心理的なものがやはり根強かったです。そこはもう、ロジックではないんですね。

そういった方に対しては、まずサービスを体験をしてもらいました。すると、契約が締結できるまでのスピードに、皆さん驚かれるんですね。以前は1、2週間ぐらい紙をやり取りしていたのが、クラウドサインだと1日でできる。ビジネスがものすごく迅速化されるので、そこに皆さん感動されるんです。

また、導入事例の力も大きかったです。大企業を中心に導入企業が増えていくと、心理的なハードルを越えて「◯◯さんも導入しているなら大丈夫だね」という印象に変わっていきました。

ただリリースから半年ほどは、やはり苦労しましたね。契約までのリードタイムで、1年以上かかった企業さんもいます。

最小限の機能でリリース。追加機能の優先順位の決め方は?

リリースは、いわゆるMVPで、本当に最小限の機能でスタートしました。そこで新しい機能をつけていく上では、まず、ユーザーヒアリングをものすごくしています。

既存のユーザーに対してのアンケートも何度も実施していますし、あとは「Intercom(インターコム)」というカスタマーサポートのためのチャットツールを導入しているので、そちらを通していただいたご意見も見ています。

▼Intercom上でのカスタマーサポートの様子

カスタマーサポートは専任の担当者がいるのですが、Intercomに届いたユーザーからの問い合わせやご意見は、すべてチャットツールの「Slack(スラック)」に自動で通知させています。過去の問い合わせやその返答が、すべてSlackにアーカイブされているイメージです。

▼Intercomに届いた問い合わせはSlackに通知される

Intercomは、ユーザーにタグをつけることができます。例えば「◯◯という機能がほしい」という人が何人もいたら、その人たちにタグをつけておいて、その機能が追加されたときにIntercomで個別に通知を飛ばすこともできます。

このような方法で集めたユーザーの声は、毎月棚卸しをして、プロダクトロードマップに落としています。向こう1年分は、何をするかは基本的に決まっていますね。

とはいえ、アンケートで集計した結果順に開発をしているわけではありません。こちらで便利な機能を考えて、見立てています。例えば全ユーザーが喜ぶものと、大企業だけ喜ぶもの、ベンチャーだけが喜ぶもの、と分けたときに、最初はグロースを早めるためにも、大企業向きの機能を優先的に作りました。

新規ユーザーの獲得のためには、メールマーケティングを駆使

現在は、導入社数が6,000社以上に拡大しました。マーケティングに関しては、BtoBの王道的な施策はひと通り実行しています。いわゆるSEMのリスティング、Facebook広告、展示会への出展、また、2017年1月からオウンドメディアも開始しています。

▼電子契約に関する情報を発信するオウンドメディア

現在、ユーザーの方にサービスを知っていただくきっかけは、大きく3つに分かれています。

まずCloudSignを経由して、他社から契約書を受け取った場合です。契約書を扱うという性質上、必ず2社間で利用されるので、バイラル的にユーザー数が増えていくことが特徴です。

また、社内での情報共有・口コミなどから知っていただく場合や、Webメディアでの露出・私たちが行っているコンテンツマーケティング経由でサービスを知っていただく場合があります。

CloudSignを知ってもらったあとは、「資料請求」や「無料登録」につなげるために、主にメールを使ってアプローチをしています。

例えば、我々のWebサイトから、Intercomを通じてご質問をいただいた方には、その後1日目、2日目、3日目と、内容の違うメールが自動で送られるようになっています。3日目には、クラウドサインの導入を検討するための、社内稟議向けの資料をプレゼントしていますね。

▼サービス説明に加え、資料のダウンロードも促進

実はこういったメールマーケティングも、すべてIntercomを使って実行できます。ここがIntercomの強いところですね。例えばメールマガジンのタイトルを2通り用意するといったような、A/Bテストも簡単にできます。

以前、法律について教えるコンテンツを「法律を解説します」というタイトルで流していたのですが、なかなか堅苦しくて、開封率が50%を切っていたんですね。

でも、そのタイトルを「法律ガイドをプレゼントします」と、ちょっと柔らかくしただけで、開封率が15%ぐらい上がったこともありますね。

営業の仕事は、「心理的なハードルを解除すること」

現状、無料登録をしているユーザーを有料登録に導くプロセスは、ある程度確立されています。現状、ユーザー数が1名で、月に10件までは無料なのですが、企業で使う場合はほとんど2名以上が関わるので。使っていただければ、課金もしていただけるイメージです。

けれど、まだ登録もしていない方に対しては、営業もアプローチしています。方法としては、「bellFace(ベルフェイス)」というオンライン会議ツールなどを使って商談を行っています。現在、専任で営業をしているのは1名ですね。

▼ベルフェイスでの商談画面

営業の仕事は、「はんこがなくても本当に大丈夫なのか」といった心理的なハードルを解除することです。その壁さえ乗り越えれば、あとはメールマーケで必要な情報をコンテンツ提供させていただいているので、課金までに至る道は自動化できていると感じています。

営業に実際行くかどうかは、業種と従業員数で企業をセグメント分けして判断しています。例えば不動産の賃貸借契約は、法的にクラウドサービスが使えないんですね。そういった要素を考慮して、我々の方でフィットする業種をリスト化しています。また従業員数が多ければ、紙の契約は多くなる傾向があるので、そこも重視しています。

法律の世界に、テクノロジーでイノベーションを起こしていく

実は先進国の中でも、最も電子契約が普及していないのが日本なんです。そして我々も、日本の「はんこと紙」という慣習に基づく取引を、まだ1%もリプレイスできていないと思っています。

ただ一方では、競合が参入しづらい状況は既に作ることができていると考えています。と言うのも、2社間以上で使うサービスなので、周りの企業がCloudSignを使っていると、わざわざ切り替える理由がないんです。つまり、ネットワーク効果が発生しているんですね。

このままいけば、「Winner takes all」の状況を実現できるのではないかと思っています。今後もサービス拡大のスピードを速めていって、日本の商取引のスピードを上げていきたいですね。

また会社としては、CloudSignだけでなく、様々なリーガルテックサービスを世の中に普及させていきたいと考えています。既に、企業の法務相談や、契約書のレビューをAIが自動で行うサービスの実証実験も開始しています。

法律に関わる業務は、まだまだITによるイノベーションが可能な領域だと考えています。これからも引き続き、サービス拡大に努めていきたいですね。

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