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  • 加留部 有哉

プロダクト改善における「神の声」を聞こう カスタマーサポート最前線!

SELECKで取材担当をしている加留部です。このビジネスノートでは、SELECKが取材を通して得たノウハウや動向を深めていきたいと思います。

これまで多くの企業に取材をさせていただいた中で、自分の中で一番インパクトがあった領域は「カスタマーサポート」かもしれません。以前はカスタマーサポートに対して、「大勢のオペレーターが薄暗い部屋の中でクレーム処理をしている」というイメージを持っていました。

けれど今ではその印象ががらりと変わり、個人的にもっとも興味のあるカテゴリーのひとつになりました。カスタマーサポートは単なる顧客対応ではなく「プロダクト改善の起点になる重要な役割」だと気が付いたのです。

そこで今回は、「カスタマーサポートをプロダクト改善にどう活かすか」という視点で、これまでの取材を振り返ります。

もしかしてカスタマーサポートに必要なスキル・マインドって…

誰もが持つべきものなのではないかと思うのです。顧客の声がなければそもそも製品は作れませんし、ファンも獲得できない、プロダクトの改善もできない。商品開発やマーケティングの中心にあるのは疑いようもなく誰かの「声」であり、この声をどう活かすのかということが非常に大切です。

例えば株式会社ミクシィのカスタマーサポートのKPIはもともと「24時間以内の返信率」といった顧客対応に関するものでしたが、現在ではそれがプロダクトに関するKPIへと変化しています。

カスタマーサポートの目的が「顧客対応」から「顧客満足を達成するために顧客の声を聞き、プロダクトの改善につなげる」ということにシフトしたのだと思います。

MS本部では、以前はKPIとして「24時間以内の返信率」といったことを見ていましたが、現在は実際のサービス側の数値と掛け合わせたものを追うようになりました。ゲームであればイベント時のユーザー数のようなKPIと、こちらの問い合わせ率を比較して見るようなことをしています

ユーザーの「不満度ゼロ」が目標!1人ひとりに本気で向き合うミクシィの顧客対応とは

また、顧客の声をしっかりと聞くためには、カスタマーサポートに向かう姿勢も非常に大切かと思います。個人的に非常に「人間愛」を感じた事例が、メイクリープス株式会社のintercomを使ったカスタマーサポートのお話です。intercomはオンラインチャットで顧客対応ができるツールですが、タグなどの機能を活用することで顧客管理をすることも可能です。

担当者の向原さんはintercom上で顧客1人ひとりの情報を逐一更新していて、その情報のことを「カルテ」と呼んでいました。そこにある顧客と1対1の深い関係性には、オンラインチャット画面の奥にある「人の愛」を感じました。お話を聞いている中で「自分が顧客になってこの愛を受けたい…」と思ってしまいました。

全てはお客様のため!「人にしかできないこと」を提供するオンラインCSツール活用法

進化し続けるカスタマーサポートの手法

これまでカスタマーサポートについて一番多く取材したのは、Zendeskといった、メール対応の煩雑さを解消するツールです。問い合わせメールを一元管理でき、それぞれの対応状況や担当者がすぐにわかるようになっています。

膨大な量の問い合わせに少人数のチームで対応する場合に、このようなツールを活用すると問い合わせの効率と質を同時に追求することが可能になります。

▼問い合わせを一元管理するZendesk

このようなツールの登場もあり、以前は一般的だった電話による問い合わせ対応は減少傾向にあります。現にランサーズChatWorkなどでは、「効率が良くない」「ドキュメントとして記録が残らない」という観点から、すでに電話でのお問い合わせを原則的に用意していません。

最近この領域で注目されているのは、やはりオンラインチャットの活用です。プライベートのコミュニケーションがLINEなどのチャット中心になっていく中で、ビジネスにおいてもSlackやChatWorkといった企業向けチャットツールが情報伝達において大きな役割を担うようになっています。

カスタマーサポートにおいても同様で、intercomやZopimといったカスタマイズ性に優れたチャットカスタマーサポートツールが登場しています。このようなツールは機能も充実しており、例えば「Webサイトに訪れたある特定の性質を持つ人」をターゲティングしてこちらからチャット画面を出現させることもできます。

適切なタイミングでチャット画面が出現

タグなどをベースにお客様のセグメント分けが可能

最近では「オンライン接客」というワードも出現し、FlipdeskやKARTEなどを使うと、ECサイトを訪れた人に対してポップアップ形式のチャットで接客もできるようになっています。

ソーシャルメディアから顧客の「生の声」を得ることも可能な時代

また、クライアントの声を資産として活かすために、SNSを中心とした様々なチャネルが活用されるようになっています。TwitterやFacebookで積極的に顧客と交流することで、リアルな声を集めているのです。

特にユーザーの「つぶやき」は、問い合わせのためのものではなく、加工されていない「生の声」です。実際にSELECKでも、ありがたいことにTwitter経由で多くのフィードバックをいただいています。ツイートの収集にはHootsuitを使っていて、そこで得たフィードバックはすぐにZendeskに保存しています。

Hootsuitでサービス周りの人々の声を拾う

気になる声をZendeskへ保存

サービス改善に活きる「声」の獲得に必要なのは、顧客との信頼関係

いただいたすべての声に応えることはなかなか難しいのですが、重要なのはそれをどう活かすかという点だと思います。ユーザーテストを提供する株式会社ポップインサイトの代表、池田 朋弘さんはインタビューの中で、次のように言っています。

中には相反する要望も多くあり、最終的に何を反映したら良いのか迷ってしまうと思います。この問題への対処法は、無視することです。ユーザーは専門家ではないので、実は出てくる要望それ自体は参考にならないことが多いんです

ただ重要なのは、そこから更に踏み込んで「なぜそう思ったのか」ということを徹底的に聞くことです。要望の根底にある理由には個人の趣味嗜好が反映されにくいので、一般性のあるニーズが隠れている可能性が高いんですね。自分が納得できる答えが見つかるまで根掘り葉掘り聞くことで、そこで得た情報を具体的な改善策に生かすことができます

アクセス解析では見えない本質的な課題を抽出!「ユーザーテスト」の意義と進化とは

つまり、お客様からの表面的な要望を丸ごと反映させるのではなく、コミュニケーションを深めることでより具体的な情報を引き出し、それをプロダクト改善に活かすことが重要だということです。

とは言え、コミュニケーションを深めるためにはどうすればいいのでしょうか。株式会社ジェネストリームの代表、秋貞 雄大さんはその答えとして、このように言っています。

例えば新しい機能について質問する際には「どのくらいの頻度で使うと思いますか」と「どのような場面で使うと思いますか」の2軸で聞いています。利用頻度が高くて、多くのシーンで使うことが想定できる機能から優先して実装していくようにしているんです。

ここまで深くファンの方に質問ができるのも、SNS上のコミュニケーションで築き上げた信頼があってのことだと思います。

プロダクト開発にもっと「ファンの声」を!SNSマーケティングの要・Hootsuite

カスタマーサポートからプロダクト改善へとつなげるためには、顧客との信頼を積み上げた上で、具体的で踏み込んだ質問をする必要があるということですね。

チャットでのコミュニケーションはリアルタイム性もあり、人間味も見えやすいので「要望をしっかりと聞いてもらっている」感覚があり、顧客からの信頼も上がりやすいのかもしれません。

もらった「声」をどう活かすか? チームで情報を共有をし、プロダクト改善につなげる

せっかくもらった声も、実際にプロダクトに活かさなければもったいないですね。そこで、チームで貴重な情報をしっかり共有できるのかどうかが鍵になります。

機能面の開発ならエンジニアに、UIの変更ならデザイナーに「なぜ改善する必要があるのか」ということを伝える必要があります。実際にエンジニアが直接、顧客対応を行っている企業もあります。

技術者にも「顧客の声」との接点を! サービスのあるべき姿を導くチャット活用法

エンジニアこそカスタマーサポートを!CSツールとBotの連携が生んだ社内体制とは

オススメは、日報などを使ってその情報を書き残し、共有することです。そうすることで、日常的に顧客との接点がないメンバーもプロダクトを提供している相手の熱量を感じる機会が得られます。

すべての顧客の声を詳細に、熱量も伝わるように書くのは難しいかもしれませんが、その問題は役割を分けてみることで解決します。M.T.Burn株式会社での日報の書き方には、工夫されている点が多いです。

ちゃんと個々の営業マンの「役割をずらす」ことで、情報共有する価値が生まれていくと考えました。並列で働いている営業マンでも、実際には役割が細かく分かれているんですよ。各自が「何を理解し」「何をするのか」を個人個人の役割として明確に定義し、しっかりと言語化しています。

情報共有する奴が偉い!「役割分担+日々発信」のエンジニア文化が組織全体を強くする

これまで見てきたように、いかに顧客の声を拾い上げるか、ということ以上に重要なのは、実際のプロダクト改善につなげるためのチームへの情報共有です。

チームとしてカスタマーサポートに関わり、見識を深めて解釈を繰り返すことで、全員が納得できるサービス改善ができるようになります。

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