- 株式会社メドレー
- 取締役 CTO
- 平山 宗介
プロダクト側とビジネス側の「対等な関係」がカギ!PM ✕ 事業部長の2TOP体制で挑む事業開発
〜「御用聞き」にはならない。より本質的な課題を解決できるサービスを作るための、プロダクトサイドとビジネスサイドが直接対話するチームづくりとは〜
「Fintech」「Edtech」など、既存産業が抱える課題をテクノロジーによって解決しようとする「◯◯ ✕ IT」というアプローチが注目を浴び、多数のプレイヤーがしのぎを削っている。
医師たちがつくるオンライン病気事典「MEDLEY」等を提供する、株式会社メドレーもその中の1社だ。同社では、オンライン診療アプリ「CLINICS(クリ二クス)」を開発し、現在、全国約300の病院で展開している。
そして、CLINICSの開発チームは、開発サイドであるプロダクトマネージャーと、ビジネスサイドである事業責任者が横並び、という2TOP体制を採用しているという。
これは、「診療」というこれまでインターネットが浸透してこなかった領域で成功を収めるには、「プロダクトの視点」と「ビジネスの視点」をバランス良く取り入れる必要があるからだ。
今回は同社CTOで、CLINICSのプロダクトマネージャーでもある平山 宗介さんと、CLINICSの事業部長(ビジネスサイドの責任者)を務める島 佑介さんに、同サービスの開発ストーリーをお伺いした。
「医療の現場を変える」という信念と共に、新規事業をスタート
平山 私はITベンチャー数社を経た後、レガシーな業界をITの力で変えたいという想いのもと、2015年にメドレーに参加しました。現在は全社のCTOを務めながら、CLINICSのプロダクトサイドの責任者を兼任しています。
島 私は元々、消化器内科医として医療現場で診療を行っていました。現場で日々を過ごす中で、様々な課題を感じ、違った立場からその課題を解決できないかとコンサルティングファームで経験を積みました。
その後メドレーに入社し、現在はCLINICSのビジネスサイドの責任者を務めています。
▼CTOの平山さん(奥)と、医師免許も持つ島さん(手前)
平山 CLINICSはPCやスマホを使って、オンライン上で医師の診断を受けることのできる遠隔診療サービスです。
▼オンライン診療アプリ「CLINICS(クリ二クス)」
2015年に出た厚生労働省の通達を受け、これまで離島へき地に限られていた遠隔診療の範囲が全国に拡大されたことから、これは診療の現場が抱える課題を解決するチャンスだと考え、サービスの開発を始めました。
受託開発スタンスはNG。課題の本質と向き合うための「2TOP体制」
平山 CLINICSのチームでは、プロダクトサイドの責任者である私と、ビジネスサイドの責任者である島の2TOP体制を採用しています。
その理由は、CLINICSのようなリアルな現場に向けたサービスを開発していると、どうしても現場と近いビジネスサイドの力が強くなってしまいがちだからです。すると結果的に、「病院の受託開発」のようなサービスができてしまうリスクがあるんですね。
我々が提供したいのはそのような個別最適化されたパッケージではなく、より本質的で大きな社会課題を解決するためのプラットフォームです。
そのためには、ビジネスサイドの人間が現場から吸い上げてきた要望を単に反映させるのではなく、より大きな視点での課題解決を可能にするチームづくりが必要です。プロダクトサイドとビジネスサイドが、対等な関係を保てるようにすることがそのカギだと考え、2TOPの体制をとっています。
島 ビジネスサイドでも、「課題の本質を見る」いう点は非常に大切にしています。
現場の医療機関の医師やスタッフとやりとりする立場からすれば、ひとつひとつの要望に対応できれば、短期的には楽でしょう。ただ、そこで決して「御用聞き」にならないことが大事ですね。
実際にその要望をプロダクトに反映させるかどうかは、それが単に現場のオペレーション改善になるというより、どの医療機関にも本質的に役に立つユニバーサルな要件であるか否かをもって判断されるべきです。
そういった意味で、「医師と一緒にサービスをつくっていく」というスタンスが重要であり、同じ未来像をもって対等な関係でコミュニケーションをとることが求められます。私自身を含めてCLINICSのチームに臨床現場で働いていた医師が複数いることは、その点では大きな強みだと考えています。
開発側・ビジネス側でダイレクトに意思疎通
平山 また、我々は開発チームとビジネスチームがダイレクトにコミュニケーションを取って進めていくことが大切だと考えています。
島 以前は情報の交通整理を行う、コミュニケーターのようなポジションを入れていました。しかし、ビジネスサイドからプロダクトサイドに何かを伝えようとすると、意図が8割くらいしか伝わらず…。返答が返ってくる時には更に精度が落ちてしまっているということもあったんです。
平山 人を介してコミュニケーションを進めると、どうしても、伝言ゲームのような形になってしまい、意思疎通の精度が落ちてしまうんですね。それでなんとなく、ギクシャクしてしまうこともありますし。
現状の2TOP体制では、プロダクトサイドとビジネスサイドが直接会話することになるので、このようなことはなくなり、情報の伝達がスムーズになったかと思います。
エンジニアと医師。立場が違うからこそ、「対話」と「情報共有」
島 平山と私は、エンジニアと医師という全く異なるバックグラウンドをもっていることから、当初は一緒にサービスをつくっていく上で、双方の考えを理解するのに苦労する場面もありました。
ただ、そこは互いに腹を割って話し合いましたね。そういった意味でも、「間に人がいない、各メンバーが直接対話できるようなチームづくり」ということは効果的だったと思います。
また、日々の業務の中ではツールも活用して「Github(ギットハブ)」と「Slack(スラック)」を連携させ、互いに情報共有をする工夫もしています。
現場の実体験に基づく情報をプロダクトサイドに随時あげられるようにしたり、逆にプロダクトサイドのアップデート情報やその背景などを、随時ビジネスサイドの人間が把握できるようにしたり。双方の情報を可視化させながら、コミュニケーションをとることを意識していますね。
平山 チームとしてプロダクトへの理解を深めることも大切です。そこでビジネスサイドのメンバー向けには、開発の基礎を学んでもらう勉強会を開催しています。
インターネット企業として、本質的な課題解決を目指す
島 これまでCLINICSの普及を進めてきて、少しずつではありますが、遠隔診療という新しい医療のあり方を現場に定着させることができてきていると感じています。
一方で、医療の現場には、まだまだ改善できる部分が多く残されているとも考えています。
現状では、医師は診療に訪れた患者さんの、その時点の症状や体の様子を診察するのが一般的です。しかし今後はウェアラブルデバイスとオンライン診療を組み合わせることで、病院にきていない時の血圧や皮膚の状態などをセットにして診察をすることが可能になってきます。
さらにアプリを通じて受診を忘れていたり、止めてしまった患者さんにリマインドを行い、治療の継続を行うことも可能になるでしょう。新しいテクノロジーを積極的に取り入れ、いかしていくことで、より最適な医療を実現していけるよう、取り組んでいきたいですね。
平山 国としても、遠隔診療の普及を後押ししています。この流れは、これまでITが十分に浸透してこなかった医療の現場に、大きな影響をもたらすチャンスだと考えています。
医療の領域でビジネスを展開するにあたって、医師が社内にいることは弊社の強みです。一方で、我々はあくまでもインターネットの会社です。技術の力を最大限活用して課題を本質的に解決できるよう、自分たちのプロダクトに誇りをもって開発を進めていきたいですね。(了)