• 株式会社Algomatic
  • 代表取締役CEO
  • 大野 峻典

いつでも「捨てる」覚悟をもつ。Algomaticに学ぶ、生成AIネイティブなプロダクト開発

AI技術の進化は日々加速し、その可能性は無限に広がっている。直近では「AIエージェント」が注目され、今後さまざまな企業が自社のビジネスに実装していくことが予想される。

その真価を引き出すには、単に技術やトレンドの動向をキャッチアップするだけではなく、実際に手を動かし、試行錯誤を重ねることが何よりも重要だ。

しかし、数多くのAI技術が登場する昨今、どのように情報収集や技術選定を行い、自社のプロダクトに活用していくべきなのだろうか。

「AI革命で人々を幸せにする」をミッションに掲げ、採用AIエージェント「リクルタAI」や営業AIエージェント「アポドリ」など、生成AIネイティブなプロダクトを展開する株式会社Algomatic

同社では、日進月歩でAI技術が進化する現状を踏まえ、「業務のドメインに精通した人材の採用・育成」と「プロダクトを捨てる覚悟を持った柔軟な仕組み」を重視している。

新しいAI技術が登場すれば既存のプロダクトが陳腐化する、というリスクが常にあるからこそ、これまでのプロダクト開発とは異なる思考が肝になってくるという。

今回は、同社の代表取締役CEOを務める大野 峻典さんと、同社のグループ会社である株式会社Algomatic WorksのCOOである高橋 椋一さんに、生成AIネイティブ時代におけるプロダクト開発の原則や組織づくりについて、詳しく話を伺った。

本でもSNSでもなく、最先端のAI情報を得られるのは「実験」

大野 私は大学時代からスタートアップに関わっており、主にWebアプリの開発に携わってきました。同時に、東京大学の松尾研究室でAI研究にも取り組み、それらの知見を活かして株式会社Algoageを設立しました。

2020年にM&AによりDMMグループに参画した後は、アルゴリズムの販売事業とAIチャットボット事業を展開。私自身は2023年にAlgoageの代表取締役を退任し、新たにAlgomaticを創業した形です。

高橋 私は2023年7月にAlgomaticに入社し、現在はそのグループ会社である株式会社Algomatic WorksのCOOとして事業運営を担当しています。

大学時代はデータサイエンスを研究し、新卒で入社したNTTデータではAIロボットの研究開発に従事しました。その後、ソフトバンクやグッドパッチといった企業で新規事業開発を行ってきました。

▼【左】大野さん、【右】高橋さん

大野 Algomaticでは、営業や人事、エンターテイメントといった領域で生成AIネイティブなサービスを展開し、加えてエンタープライズ企業向けのAIコンサルも並行して手がけています。

そうした中で、最近、「AI技術の動向をどうキャッチアップしていますか?」という質問をよくいただくのですが、これは非常に難しいテーマだと思っています。

情報収集で最も活用しているのはX(旧Twitter)です。本や記事などは、情報がまとめられるまでにどうしても時間がかかるため、半年〜1年ほどのタイムラグがある印象です。

そのため、X上で話題になっている論文や、OpenAIやGoogleといった海外企業が発表するプレスリリースなどを基に、企業の公式発表や論文の原文を確認するという流れで深掘りしています。ただし、X上の情報も、「本当の最先端」と比べるとやはり遅れがあると思っています。

よって、浅く広く情報収集したうえで、より深ぼる方法は「実験」だと感じていますね。例えば、人事業務にAI技術を応用しようとしたときに、「この業務はAIにとって苦手だ」といった細かい課題は、実際にやってみなければ分かりません。

高橋 OpenAIなどの企業が新機能を発表する度に「この業界の仕事はもう終わった」と騒ぐ人もいますが(笑)、AIが「業務の50%はできる」という状態と「業務で100%使える」という状態の間には大きな隔たりがあると思っています。

だからこそ、私たちは「実践」が何よりも重要だと考えていて、業務で実際に使いながら品質を改善し続け、実用レベルまでプロダクトのレベルを引き上げていくことを重視しています。

大野 AIを試す際は、「AIより自分の方が詳しい」と思える領域や職能で実践するのも一つのポイントかもしれません。そうすることで、AIのアウトプットに何が足りないのかがわかりますし、「今後、AIはこう改善されていくのでは?」といった未来予測もできるようになると思います。

AIという領域では「無知の知」であることを自覚して、新しい技術が出たら、とにかく試しに1、2時間でもいいから触ってみる。それだけでも、かなり解像度が上がると思いますね。

AIは「機能の星取表」では比較できない。技術選定で重要な2つのこと

大野 生成AIネイティブなプロダクトを開発するにあたり、私たちが技術選定で大切にしている2つの原則があります。ひとつは、「選んだAIモデルをリプレイスできるよう柔軟に設計すること」、もうひとつは「常に最先端のAIモデルを使用すること」です。

従来のソフトウェア開発では、後から変更するのが難しいタイプの技術選定もあり、そうしたケースでは時間をかけて選ぶのが一般的でした。しかし、AIモデルの選定においては、そのやり方が適していないことも多くあります。

現在のAI技術は、携帯電話の黎明期のように急速に進化していて、たった1年でも性能が格段に向上します。そのため、後からAIモデルをリプレイスしていける前提での技術選定および設計が不可欠です。

高橋 私はよく、「明るく自己破壊しましょう」とメンバーに伝えていて。せっかく1ヶ月かけて開発したプロダクトでも、新しいAIモデルの登場で一瞬で陳腐化してしまうことは現実的に起こり得るからです。

よって、私たちのチームでは「プロダクトを捨てる覚悟を持とう」という考え方を重視しながら、それを単なる精神論として掲げるのではなく「捨てやすい組織設計や仕組みづくり」を大切にしています。

具体的には、Algomatic Worksの鉄則の一つに「安易にロードマップを作らない」という考え方があります。もちろん短期的なものは存在しますが、1年、3年、5年先といった中長期的な計画は立てておらず、これまでのプロダクト開発との違いで最も重要視している点ですね。

大野 コスト面からみても、基本的には、特に検証には常に最先端のAIモデルを採用すべきだと考えています。

例えば、コストを下げるために安価なものを使用してしまうと、アウトプットの質が低すぎるために、中長期で見るとまともな検証にならなかったということはよくあります。

コストや性能の変動が見込まれない前提であれば良いのですが、実際にはモデルの料金はどんどん下がり性能は上がる傾向にあるため、現時点のハイエンドなモデルで検証するほうが未来の先取りとなり、中長期的にプロダクトにとって意味のある検証ができるのです。

AIモデル選定の難しさは、従来のソフトウェアのように「機能の星取表」で簡単に比較できない点にもあります。例えば「文章が生成できる」「画像が扱える」といっても、実際にどこまでのレベル感で性能が良いのかは、使ってみないとわからないところもありますからね。

そのため、例えばGoogleのモデルは大量のデータを扱うことが上手い、Claudeは自然な文章を書くのが上手いといったように、それぞれのモデルが扱えるデータ量・形式や得意分野を定性評価を含め理解した上で、主要なものを試しながら最適なモデルを選ぶと良いでしょう。

高橋 実際、私たちが提供する「リクルタAI」の開発当初は、人なら20万円ほどで終わる作業に、AIで100万円近くのコストをかけているときもありました。一見、筋の悪い意思決定だと思われるかもしれませんが、わずか1年後には数十分の1にまでコストが下がり、ビジネスとして成立するようになりました。

よって、技術選定を行う際には、現在のコストだけでなく、未来の技術進化を見越して意思決定を行うことが重要だと思います。

AIネイティブ時代は、プロダクトを「使う」から「任せる」に変化する

大野 では実際に、AIを活用してどのようにプロダクトを開発していくかですが、まず前提として理解しておくべきなのは、提供価値が従来のITソフトウェアとは根本的に異なりうるという点です。

これまでのシステムは「Aというボタンを押すと、Bという事象が起きる」といったように、明確なルールやロジックで構築されていたと思います。一方で、AIは、例えば文字・音声・画像などの多様なデータ形式かつ非構造化データを解釈しながら、状況に応じて、事前に明示的には定義できないような柔軟な動きができるのが特徴です。

こうした技術的な進化もあり、AIエージェントは「サポートツール」の域を超え、実際に業務を遂行する「擬似的な人材」へと役割を引き上げています。

例えば、営業の領域では「営業パーソンをサポートするツール」ではなく「営業パーソンそのもの」を再現することに焦点がシフトしていて、プロダクトの位置付けが、「使う」から「任せる」へと変わりつつあるということです。車で例えると、「ナビアプリ」から「自動運転」に進化するようなイメージですね。

結果としてユーザーの考え方も、「どのツールを導入するか」から「人を雇うか、AIを雇うか」といったパラダイムへとシフトします。自動運転のように、作業をまるごと任せる対象になるほどプロダクトそのものの存在感は薄れ、最終的に提供される価値は、「成果そのもの」に近づいていく。

なお、だからといって、人が不要になるという話ではありません。各職種の業務プロセスには無数のパターンがあり、専門的な人しか知らない知見も少なくない。そうした専門的な人の思考や判断基準を、AIに教え込んでいく必要があり、人にはそういった形での活躍が求められるようになります。

教えに基づいてAIが人よりも遥かにスケーラブルに稼働してくれるので、その意味では、人のレバレッジはより大きく効くようになるともいえるでしょう。

高橋 そのため、開発チームはこれまで以上に深いドメイン知識が求められるようになり、各専門分野に精通した人から直接学ぶことの重要性が増しています。

よって、「ドメインエキスパートを採用できるかどうか」が成功を左右するといっても過言ではありません。Algomatic Worksでは、CSチームの全員が人事経験者で構成されているのに加え、プロダクト開発の中核には日本の人事業界でトップクラスの人材が参画しています。

大野 他にも、営業AIエージェントを開発しているチームでは、実際にトップセールスマンとして活躍していたメンバーがいたり、エンジニアやデザイナーのメンバー全員が営業のドメイン知識を得るべく、実際に営業代行を経験したりもしています。それくらいやらないと、良いプロダクトは作れないと思っています。

さらにチーム構築においては、ドメインエキスパート以外にも、最新の技術や動向を常にキャッチアップできるメンバーを中心に据えることももちろん重要です。AIの進化は著しく、これまでやってきたことの全てが次の日にはひっくり返る可能性もありますし、キャッチアップし続けること以上に重要なことはないと思います。

弊社では、新しいAI技術がリリースされると全員で試し、学ぶ文化が根付いています。例えば、OpenAIの大きなリリースがあった際には、定常業務を一時停止してでも全員でキャッチアップに集中する時間を設けました。

また、日頃の「最新技術をこんな風に活用してみた」「こういう業務に適用したらこうなった」「この方法はうまくいかなかった」といった情報を、チーム横断で共有する会も開催しています。

▼新しくリリースされたAI技術を学んでいる様子

生成AIネイティブなプロダクト開発における、3つの肝

大野 生成AIネイティブなプロダクト開発で重視しているポイントは3つあります。具体的には、「オンボーディング」「ガードレール」「エバリュエーション」です。

まず「オンボーディング」は、いわばAIが業務に適応するためのコンテキスト理解のプロセスです。AIはご存知の通り、かなり頭がいい一方で、「コンテキスト」を持っていないのが弱みです。一般論は知っているが、特定の仕事を行うための個別の背景は知らないということです。

そのため、AIには事前にその職能に求められる思考やスキル、さらに商品や顧客などの個別情報をコンテキストとして適宜共有しておく必要があります。

次の「ガードレール」は、AIの暴走や誤作動を防ぐためのルールづくりです。AIはある意味「素直な労働者」なので、NG行動を明確に定義しながら、マニュアルを作り込んでいくイメージです。これは人の組織におけるマネジメントにも似ているところがあるかもしれません。

最後の「エバリュエーション」は、AIのパフォーマンスを継続的に評価・改善するプロセスです。どんなに事前にコンテキストやガードレールを作り込んだとしても、想定外のシナリオはゼロにはできませんし、事前に完璧な指示書を作り切ることは難しい。そのため、運用しながら、評価しチューニングし続けることが重要です。

評価軸は、その職能において、実際に人がどのように判断しているかをベースに作っていきます。例えば文章作成であれば、「日本語の正確性」「表現の適切さ」「構成のわかりやすさ」などで、業務に沿った項目や基準を設けて評価の精度を高めます。

高橋 Algomatic Worksでは、一般的に「優秀」とされるAIモデルと、実際に人事業務を「適切」にこなせるAIモデルは異なるという前提で、独自でAIモデルの評価プロセスを構築しています。

AIを活用したプロダクトは、独自の評価指標やデータセットを持っているかどうかで競争力が測られると考えています。そのため、リクルタAIでは、人事業務に特化したデータセットと評価の仕組みを構築し、より精度の高い選考プロセスを実現できるよう意識しています。

「AIが人のとなりで自然と働いている」ような世界観を目指して

大野 私たちAlgomaticは、今年、「AIエージェント」をキーワードとしたプロダクト開発に取り組んでいます。創業当初から営業領域や人事領域のAIエージェントの開発に注力してきましたが、今後はその職能や対応できる範囲をさらに広げていきたいと考えています。

人と人が協働するように「AIが人のとなりで自然と働いている」世界観の実現を目指し、引き続き挑戦を続けていきます。私たちのビジョンに共感いただける方は、ぜひご連絡いただけると嬉しいです。

高橋 人事領域は約10年に一度、大きな外部環境の変化が訪れます。法改正やクラウド技術の進化などがその例であり、そうしたタイミングで新たな市場のリーダーが生まれてきました。例えば、リクルートやパーソル、ビズリーチといった企業が、それぞれの時代におけるカテゴリーリーダーとなっています。

現在、生成AI技術の進化により、人事領域だけでなくさまざまな分野で新たなカテゴリーが生まれつつあります。Algomaticとしては、常に新しいカテゴリーの代表となる事業を生み出し続けることが使命です。

特に人事領域×生成AIの分野では、「この時代を代表する事業」と言われるような存在を目指し、業界のスタンダードを創り上げていきたいと思っています。(了)

取材・ライター:古田島 大介
企画・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)

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