• 株式会社プレイモーション
  • 代表取締役社長
  • 平松 繁和

1ヶ月以上かかる開発はしない。「凡庸」から抜け出す、後発マッチングアプリの勝ち方

〜3年で10以上の新機能をリリース!競合ひしめくマッチングアプリ業界で「差別化集中」戦略を取り、3期連続で右肩あがりの成長を遂げる後発サービスの勝ち方とは〜

競合の多い業界で、後発サービスが勝つためにはどのような戦略を取るべきだろうか。

サイバーエージェント子会社として、「すれ違い」を恋のきっかけにするマッチングアプリ「CROSS ME(クロスミー)」を開発・運営する株式会社プレイモーション。

▼すれ違いを恋のきっかけにするアプリ「CROSS ME」

同社は2016年8月にアプリをローンチして以来、群雄割拠のマッチングアプリ業界で、後発サービスとして勝つために「差別化集中」戦略を取っているという。

その戦略のカギとなっているのが、ユニークな新機能を次々に生み出すサービス開発だ。たった8人の開発体制でありながら、この3年で10以上の新機能をリリースしている。

方針は「1ヶ月以上かかる開発はしない」こと。デザイナーが複数のUIパターンを作成することで、アイデアの確度を高めるスクラップアンドビルドを実行。さらに、小規模チームの特性を活かして密に連携することで、高速サイクルの開発を実現している。

同社代表の平松 繁和さんは「合議ではなく、ひとりが強烈にいいと思ったアイデアを採用することで、凡庸なサービスになることを回避している」と話す。

今回は、平松さんとデザイナーの萩野 久留美さんに、後発サービスの戦略から、開発・デザインの工夫、新規アイデアの生み出し方まで詳しくお伺いした。

競合ひしめくマッチングアプリ。後発の戦略は「差別化集中」

平松 私は、2013年にサイバーエージェントに中途入社しました。そして入社の10ヶ月後に子会社のプレイモーションを設立し、社長に就任しました。

プレイモーションはゲーム会社として立ち上がったのですが、これがなかなか大変で…(笑)。リリース後は赤字続きで、もともと25人いた社員が一時は2人まで減ってしまって。この時は本当につらかったですね。

そこからピボットを考え始めて、自分が興味が持ててかつ市場が伸びていきそうな業界に絞り、2016年8月に新規事業として生まれたのが、マッチングアプリの「CROSS ME」です。

当時、すでに数多くのマッチングアプリが存在していましたが、その多くは「安心・安全」や「婚活」などを打ち出すようなサービスでした。

一方、海外に目を向けると、エンタメ要素の強いカジュアルなマッチングアプリも流行していたので、ここに勝機があるんじゃないかと思ったんです。

また、初期のゲーム事業の経験から、競合ひしめく業界の中では「埋もれたら勝てない」という学びがあって。後発サービスが勝つためには、なにかを尖らせないとダメだと感じていました。

そこで、マイケル・E・ポーターの競争戦略における「差別化集中」のポジショニングを取り、「すれ違いを恋のきっかけにする」というコンセプトで差別化するとともに、首都圏・関西圏かつ若年層にターゲットを絞る、という戦略を立てました。

現在の開発体制は、代表の私がプロダクトオーナーを兼ねている他、企画2名、デザイナー1名、サーバーエンジニア2名、iOS・Androidそれぞれにクライアントが1名ずつの合計8名です。

この限られたリソースでは、「最高品質」を追求してスペック勝負になってしまうと勝てないじゃないですか。その戦いから抜け出すには、いかに新しい価値を生み出し、ユーザーに気に入ってもらえる要素を多く作れるかが大切です。

そこで「ユニークな新機能を、早いサイクルで出し続ける」ことで、差別化の要素を尖らせていく方針にしました。実際に、この3年で「データ分析機能」や「女性限定の掲示板機能」など、10以上の新機能をリリースしています。

UIパターンをスクラップアンドビルドして、アイデアを検証

萩野 私は、2015年に新卒でサイバーエージェントに入社し、2018年3月にプレイモーションに出向しました。

新卒で配属された「Ameba」の部署では、開発体制が大きかったので、最初にオリエンテーション(以下、オリエン)を受けてからデザインを進めるような進行でした。

でも今は、少ない人数で開発のサイクルを上げていくため、ビジネス側にもかなり入り込んで動いていますね。

具体的な要件や仕様をもらってデザインするのではなく、デザイナーが早い段階から入ってある程度「形」にすることで、ビジネス側がアイデアへの確信を強め、意思決定を早くできるようにしています。

たとえば「マイデータ機能」を作った時は、POの平松から「自分がいいねを送っている人の傾向がわかったり、データがシェアできたらおもしろそう」という構想をもらい、UIパターンを作成しました。

具体的には、はじめに大きく6パターンのUIをSketchで作成し、そこからさらにツリー構造のような形でパターンを増やしていきました。

▼実際のUIパターンを並べたSketch画面

データを取りまとめたLP風にしたり、普通の棒グラフで表してみたりしながら「このパターンはありそう」「これはきれいすぎてイメージが違うかも」みたいな感じで、ビジネス側と話し合いながらブラッシュアップしていきました。

その過程では、「イメージとズレているかも」と自分で思うUIがあっても、あえて見せるようにしています。そうすることで「これはやっぱり違うね」という共通認識を取ることができ、舵取りの方向が見つかっていくんです。

▼最終的に決まった「マイデータ機能」の画面

このスクラップアンドビルドを、「これだ」という確信を得られるものが見つかるまで繰り返す。もし見つからないのであれば、アイデアの筋が良くなかったと判断して、開発は行わないですね。

「1ヶ月以上かかる開発はしない」リリース後の反応で判断を行う

萩野 確信の持てるアイデアが見つかったら、仕様を詰め、リリースに向けての開発をスタートさせます。

このエンジニアに渡すオリエンの段階で、デザインの7、8割くらいまでは固まっていることが多いです。イメージしている動きについても、Protopieを使ってモックアップを作成しています。

すると1回目のオリエンで、エンジニアからUIだけでなくUX面の指摘をもらえたりするんですね。これによって、開発が始まった後の大きな手戻りはほとんどありません。

一方で、もちろん小さな手戻りはたくさんあります。ただ、この開発スピードをできる限り上げるため、デザインの進捗はZeplinを使ってエンジニアに共有し、同時並行で開発を進めています。

途中のものであっても、常時共有することでエンジニアが次の作業をイメージしやすくなりますし、怪しければコメント機能で指摘をもらえるので、コミュニケーションが円滑になりますね。

▼Zeplin上でコミュニケーションしている様子

平松 こうした連携は、後発としてのサービス開発をチーム全員が意識できていることも大きいかなと思っていて。限られた開発リソースで新機能をたくさん出すために、「1ヶ月以上かかる開発はしない」と決めているんです。

アプリの機能開発だと、2、3ヶ月〜半年ほどかけて開発するのが一般的だと思うのですが、それと同じスピードでやっていては勝てません。なので、1ヶ月以上かかる見込みであれば、開発を見送るか、機能を削って1ヶ月に収めるかのいずれかにします。

萩野 基本的に、一旦出してみてユーザーの反応から判断すればいいと思っていて。2ヶ月がんばって開発したものが全く刺さらないよりも、1ヶ月でできる範囲で作って出してみて、数字がよければ削った分をプラスで開発すればいいという考え方ですね。

平松 リリース後は、基本的にLTVとCPAに関わる指標を見ています。毎日使うような機能でない場合もあるので、機能の特性に合わせてDAUやWAU、翌日継続率などを指標にしますね。

中にはクローズしてしまった機能もありますが、これに関しては数値よりも、新機能に対してユーザーからネガティブな声が上がっていないかどうか、という定性面から判断しています。

総意をとると「凡庸」になる。ヒットするアイデアの見つけ方

平松 こうして新機能をどんどん出していくには、アイデアの種出しも重要です。私は、日頃から他のサービスを観察することで、なにかしらの着想を得ることが多いですね。

たとえば、ソーシャルゲームのユーザーがキャラクターのスクショ画像をTwitterに上げていたのを見て、Twitterでシェアしやすい機能を考えてみたり、Twitterの婚活アカウントで会員同士が恋愛相談しているのをみて、アプリ内に女性掲示板を作ればいいんじゃないか、と考えてみたり。

Webサービス以外でも、先日、渋谷にある創業100年を超える「改良湯」という老舗銭湯がモダンにリニューアルしたのを見て、自分たちだったらどういう風にデザインするかとか、タピオカ屋があれほど増えた中でどうやって差別化しているのかとか、そういった話をチームでもよくします(笑)。

また、マッチングアプリの特性上、有料会員化率と課金継続率を高めること、そして1ユーザーあたりの獲得単価を下げることが事業成長につながるので、それがアイデアを考える上での大枠になります。

ただ、あとはもう個人の趣味趣向が大事かなと思っていて。みんなで議論をしているとアイデアがだんだん凡庸になってしまうので、合議制ではなくひとりで決断した方がいいと思うんです。

実際、気軽にチャットを開始できる「ちょこっトーク」という機能は、私はちょっとどうかな…と思いましたが、萩野が前からやりたいと言い続けていたので「じゃあいいよ」と言って開発しましたね(笑)。ひとりが猛烈にほしいと思うものであれば、もしかしたらヒットするかもしれない。そう考えています。

萩野 自分でプッシュしてGOサインをもらえた後は、デザイナーの役割を超えて、設計からディレクションまで担当しました。

やりたいという意思の強い人が、その機能開発のプロダクトオーナーとなって進めていくことが多いですね。そうすると、チームの推進力も上がるのかなと思います。

今の「ニッチ」を深めることで、マジョリティのサービスをめざす

平松 こうして特定のターゲットに刺さるような新機能開発を重ねてきた結果、売上、アクティブユーザー数ともに年々伸長しています。リリースから3年で、数多あるマッチングアプリの中でも上位に入るサービスになりました。

▼リリース後の売上(左)・DAU(右)推移

今後は、このニッチを深めていくことで、マジョリティに転換したいと思っていて。マス向けの施策を打つのではなく、あくまで差別化集中の戦略を進めることで、ニッチがマジョリティになる瞬間があると思うんです。

今は「すれ違い」というカジュアルな出会いをコンセプトに刺しているので、そのカジュアルさを他の機能にも展開していって、ユーザーを増やしていきたいと思っています。

萩野 ニッチがマジョリティになるのって、今のタピオカ屋さんも近いのかなと思っていて。昔「パールレディ」という名前で存在していた頃と、今と味や形といったモノ自体は変わっていないじゃないですか。その容器が変わったり、インスタ映えするような見た目の変化が起きたりして、爆発的にマスになったと思うんです。

なので、CROSS MEでもそのきっかけをデザインから作っていきたいですし、ビジネス側とビジョンクライミングをしながら見つけていきたいですね。(了)

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