- 株式会社GA technologies
- Chief Communication Officer / Creative Director
- 川村 佳央
「社内の下請け」ではダメ。組織と事業を成長させるPR ✕ クリエイティブ集団の在り方
〜「カルチャーの体現者」でなければ意味がない。社内外とのコミュニケーションを担う、「PR × クリエイティブ」のスペシャリスト集団の実態〜
事業成長につながる社内外とのコミュニケーションを強化するためには、どのような体制づくりが必要なのだろうか。
不動産テック総合ブランド「RENOSY(リノシー)」や、不動産管理アプリ「OWNR by RENOSY」などを運営し、X Techで不動産業界を変革する株式会社GA technologies(以下、GA)。
ここ2年で約150名から500名を超える規模まで組織が拡大した同社では、2018年に上場した頃から、組織文化を保存するためのインナーコミュニケーションと、社外のステークホルダーとの関係性を深めるアウターコミュニケーションの双方を強化する必要性を感じていたという。
そこで、コミュニケーションの力で、グループ全体の成長に貢献することを目的に立ち上がったのが、「Communication Design Center(以下、CDC)」だ。
その特徴は、PRとクリエイティブのスペシャリストが集い、PR機能だけでなく、組織文化を伝えるクリエイティブ制作から、イベントの演出、営業に使う動画制作まで、すべてインハウスで手掛ける体制にある。
CDCを自ら創設し、現在も責任者を務める川村 佳央さんは「インハウスのクリエイティブ組織が社内下請け的にならないように、メンバー自身が『カルチャーの体現者』であることが最も大事」だと語る。
今回は川村さんに、CDCの活動の全容と、その思想について詳しくお伺いした。
グループの成長を目指し、コミュニケーションの専門集団を組成
私は、新卒でサイバーエージェントに入社し、営業やグループ会社の代表を経験したのち、電通に7年ほど在籍してクリエイティブ・ディレクターなどを務めました。2018年にGAに入社し、CDCを立ち上げ、現在もその責任者を担っています。
CDCは、「コミュニケーションの力でGAテクノロジーズグループの成長に貢献する」というミッションのもとに発足した、PRとクリエイティブ領域に特化した15名ほどの専門チームです。
▼CDCの組織図
社内外のコミュニケーションを担うPRチームと、グラフィックデザイナーやカメラマン、イベントプロデューサー、映像クリエイターなどが所属するクリエイティブチームから成る組織で、グラフィックデザインの制作からイベント運営、各種PR活動まですべて「インハウス」で行っているのが特徴です。
CDCという名前は、私が電通時代に在籍していた部署からつけた名前で、「目的や課題に対して、手法を問わず、コミュニケーションそのものをデザインすることで解決しよう」という思想が背景にあります。
私が入社した当時、弊社はちょうどマザーズに上場する直前のタイミングで。今後の事業と組織の成長を見据えて、「社外に対するコミュニケーション」いわゆるPR領域と、「社内に対するコミュニケーション」の両方が重要になるフェーズでした。
私たちはまだまだ知名度の低い企業として、どんな社会的価値を提供しているかを示す必要があります。また、「不動産 × テクノロジー」の領域は、マーケット自体が十分に認知されていないので、弊社自身のPRに加え、領域自体の啓蒙が必要だと感じていたんです。
さらに、当時は140名ほどの規模で、急拡大の真っ只中にあったため、熱量を下げることなく、文化を守り、創るためのインナーコミュニケーションも重要になると思い、コミュニケーション領域に注力することを決めました。
社内下請けでは意味がない。CDC全員が「カルチャーの体現者」に
CDCを立ち上げた当初は、まだ「何をしているチームなのか」をうまく伝えられず、採用はすごく苦戦しましたね(笑)。
我々は、コミュニケーションデザインの専門組織をインハウスで創ることにしたわけですが、「組織のカルチャーや想いを知っている」というインハウスの強さを活かしたいと考えていて。
というのも、GAの前に広告会社で13年以上働いてきて、クライアントの社内の隅々まで知った上で発信するというのはすごく難しいなと感じていたんです。社内の雰囲気までは分からない、というか。
もちろん、外部に委託することで「新しい引き出しがでてくる」という良さもあります。ただ、たとえばカルチャーや想いを伝えるものを制作するのであれば、やはり社内のことをよく理解していた方が良いものをつくることができます。
CDCもすべてを内製しているわけではないので、外部パートナーの力が必要な場合もありますが、基本的にはGAの「一番の理解者」である私たちが手掛けたい。
逆に言うと、我々が「社内下請け」のようになってしまっては意味がないんですよね。私たち自身がカルチャーの体現者でないと、創るものに「偽物感」が生まれると思っています。
また、社内向けのものであっても手を抜かないことが大事だと思っているので、どんなに小さなものでも丁寧に仕事をすることを心がけています。
私は、CDCは「組織論的な実験」でもあると思っているんです。マーケティングなどの様々な領域での「インハウス化」が進む中で、クリエイティブ領域にもきっと波がくる。
大企業の事例は多くありますが、創業間もないベンチャーにおいてはまだ存在していません。CDCは、その先駆けになるのではと考えています。
増え続ける「組織の言葉」を整理し、バリューカードを制作
CDCとして取り組んだもののひとつに、バリューの見直しとそれを流通させるためのクリエイティブの制作があります。
当時、3つのバリュー(行動指針)を掲げていたのですが、他にもバリューに近しい言葉が乱立してしまっていました。
というのも、時間が長くなるにつれて、組織の中に存在する「言葉」って自然と増えていくじゃないですか。行動指針や、標語、目標など様々な言葉が生まれてきた中で、優先すべきものがわかりづらくなっていたんです。
そこで、経営メンバーを中心に新たに2つの条文を追加して「GAGS(GA Group Spirits)」という形でまとめ、CDCでは携帯できるサイズのバリューカードを制作しました。
▼CDCが手掛けた「GAGS」のカード
私は、組織文化は「温度と密度」を下げずにいかに保存できるかが重要だと考えています。人数が増えても、「金太郎あめ」のようにどこで切っても文化がインストールされている組織をつくりたい。
そのためには、言葉の定義と、クリエイティブの表現、そしてそれを日々携帯するという行動が伴うことが必要だと思っています。
GAは、M&Aで統合した企業もあり、それぞれ独自の歴史や文化があるんですね。なので、何を共通の価値観とし、個性とするのかを明確にすることで、インナーコミュニケーションをより円滑にできればという意図がありました。
また、半年ごとに開催される「Greatest Awards」という表彰式では、CDCが式全体のプロデュースから、式で用いるムービーの企画制作など、すべての演出を手掛けています。
こうした活動は、やはりGAの一員である私たちがやるからこそ、イベントの中にも組織のカルチャーを散りばめやすくなっていると思いますね。
CDCの「武器」を事業部に発信し、活動領域を拡げていく
CDCは、あくまでPRとクリエイティブを専門とする部署なので、活動するためにはその対象となる「ファクト」、つまり事業やプロダクトそのものが必要です。
一方で、社内の人からすると、CDCは何ができて、普段どのような活動をしているのかが分かりづらいと思っています。だからこそ、私たちはCDCの「武器」を、自ら発信していく必要があると考えています。
そこで作成しているのが、CDCができることを示した「ケイパビリティ資料」です。ケイパビリティ資料では、CDCの各メンバーが何を担当しているのか、そしてどのような手段で事業に携わっているかを明示しています。
▼ケイパビリティ資料の一部
また、普段から事業部のSlackや定例ミーティングに参加することで、PRやクリエイティブの視点でなにか協業できないかを常に考えています。
事業部で埋没しているような事実が、実はPRの種になることもあるので、企画のアイデアをこちらから提案するようなこともありますね。
最近では、事業部とのやり取りがきっかけになり、弊社が運営する不動産の総合サイト「RENOSY(リノシー)」の物件を動画で紹介するサービス「RENOSYルームツアー」の動画撮影も担当しました。
また、こうした仕事をアウトプットする際は、必ず誰が担当したのかというクレジットをつけ、「どんなことができる人なのか、どんな価値を提供できる組織なのか」を社内に具体的に発信しています。
▼実際のSlackの様子
GAGSの中に、「WIN-X(WIN−WINを何乗にもしていこう)」という考え方があるのですが、様々な事業とCDCのケイパビリティを掛け算することで、新しい形に出力されていくとより理想的だと思いますね。
「私たちが存在したから、実現できたこと」を結実させたい
一方で、PRにおける成功とは多くのメディアに露出することではなく、あくまで「事業の成長に寄与すること」なので、そのために必要なコミュニケーションとはなにか?を熟考しながら日々活動しています。
したがって、PRの成果として、リリースの本数や記者にアプローチをした回数などの「行動」と、それが何本の記事やメディア露出につながったのかという「結果」だけでなく、それが社内で取っている各指標とどう相関があったかなどを分析しています。
さらに、できるだけ再現性を高めるためにも、最近は「こういう領域の記事は、記事になりやすい」、「この媒体だと、こういうテーマに興味を持っていただきやすい」などの情報を可視化するようなダッシュボードを作っています。
PRは不確実性が高く、どんなに大きなニュースでもより大きな社会的な出来事があれば、そちらに世の中の視点が集中してしまいますよね。そのため、事業への貢献を確実にするためにも、情報の蓄積と分析は重要だと考えています。
CDCを立ち上げてからは、事業部を越えて「こういうことをやりたい」という話をもらう機会が多くなりました。ただ、やはり私たちの活動が、会社や事業の成長にどう貢献できているのかは、まだまだわかりづらいと思っていて。
貢献を可視化することは、CDCの存在意義に加えて、メンバーが肯定感を持つためにも必要だと考えているので、「私たちがいなければ出来なかったこと」をより結実させて、活動の質と量を上げていきたいですね。(了)