- 株式会社スマートドライブ
- CRO(Chief Revenue Officer)
- 弘中 丈巳
市場の認知をどう「正す」? SmartDriveが、大規模カンファレンスに投資した理由
〜社運を賭けて、1,500名規模のカンファレンスを主催!自社の認知変容と市場の開拓を同時に実現した、スマートドライブの取り組みを紹介〜
会社のビジョンや事業内容と、市場の認知にギャップがある。そのような課題に対して、どのような取り組みをすべきだろうか。
自社開発のIoTデバイスを通じた車の走行データの収集・解析や、それらを活用したデータプラットフォームなどを展開する株式会社スマートドライブ。
「移動の進化を後押しする」というビジョンを掲げる同社では、一事業である「車両管理サービス」のイメージばかりが市場で先行してしまう、といった課題があったそうだ。
その認知を変革し、日本社会におけるモビリティの進化に向けた動きを加速するため、2019年11月に「Mobility Transformation」という大規模カンファレンスを開催。
▼実際のカンファレンスの様子
モビリティの垣根を越え、周辺業界の企業を交えたセッションを実現し、当初の目標を上回る約1,500名の集客を達成。
このカンファレンスを通じて、世間からの企業認知を大きく変容させ、ホンダ社をはじめとした大企業との協力関係の構築に成功している。
今回は、同社でCROを務める弘中 丈巳さんと、マーケティング・PRを担当する大里 紀雄さんに、カンファレンス開催までのプロセスや、その後の変化について、詳しくお伺いした。
SaaSからコンサルまで、複数の道のりから収益の最大化をめざす
大里 私は、前職のマルケトで顧客のマーケティング支援などを経験し、2019年の3月にスマートドライブに入社しました。現在は、マーケティング、PRを担当しています。
弘中 私も前職が大里と同じで、コマーシャル事業部の責任者を担当していました。スマートドライブに大里を誘ったのは私なのですが、大里の前のめり具合がすごく、結局3日遅れで入社しまして大里の後輩になりました(笑)。
現在は、スマートドライブのCRO(Chief Revenue Officer)として、収益の最大化をミッションに、マーケティングからセールス、カスタマーサクセス、ビジネス開発までの最適な体制づくりを担っています。
CROは、分業体制になりがちなSaaSの企業が、レベニューという観点から組織に横串を通す役職として置かれているのが一般的だと思います。
ですが弊社の場合は、事業内容が多岐に亘るため、一般のSaaS企業よりも収益というゴールに至るまでの登り方が多いんです。
具体的には、法人車両をWebやスマホでリアルタイムに管理するSaaS「SmartDrive Fleet」や、車両に搭載するセンサーデバイスの販売、移動データを利活用するコンサルティング、移動データを基軸にした新サービスの開発のご支援、といった事業があります。
そのため、SaaSのユニットエコノミクスだけで収益性を判断することができません。
▼左:弘中さん、右:大里さん
たとえば「毎月50件の商談を獲得し、内15件を受注する」といったシナリオも収益の基盤をつくる上では当然重要なのですが、「大手企業とアライアンス契約を結び、アライアンス先を増やす」なども、今後の成長カーブを考えると同じくらい重要です。
つまり、複数の道からどれを選べば最短距離で成長でき、且つ中長期の強みになるかを考え、意思決定をする必要があります。
そこでCROとしては、SaaSのMRR(月次収益)だけでなく、事業ごとのTCV(合計発注額)や、サービスとコンサルの受注比率(金額、件数)、各事業におけるSAM(獲得し得る市場規模)、現在のメンバーのスキルセットなどを見ながら、長期的な発展を見据えて体制を作っています。
大里 ここで難しいのが、PRやマーケティングで。ユーザーのペインに刺さるSaaSを訴求した方がマーケティングしやすい一方で、世間に「SaaSベンダー」として認知されてしまうと、自らのポテンシャルを狭めてしまう。そのため、収益を上げながら正しい認知を形成する、という絶妙なバランスを模索していました。
企業認知の変容と市場啓蒙のため、大規模カンファレンスを開催
弘中 弊社は「移動の進化を後押しする」というビジョンを掲げて、3つの領域で一気通貫した事業を展開しています。
あらゆる移動体のセンサーデータを収集する「データインプット」、収集したデータの利用価値を高める「プラットフォーム」、 これらのデータを活用して周辺業界へのコンサルティングや新規事業の開発を行う「データアウトプット」です。
大里 私たちは特定のユーザーのペインを解決するのではなく、モビリティの変化・発展とともに社会を変えていくプレイヤーを目指しています。
でも実際には、SaaSの事業が目立っていたために「車両管理サービスの会社」としての認知が大半で…。今のまま発展したとしても、掲げたビジョンに近づけないのではないかという危機感がありました。
車両管理は、モビリティで何かをすると決めた末に行き着く解決策ですが、私たちとしては、モビリティデータの利活用をお客様に提案したり、協業から新規ビジネスを作ったりしていきたいと思っていて。
つまり、モビリティで何かをしようと思ったその時に「スマートドライブ」が思い浮かぶ、という状態を作りたかったんですね。そこで、スマートドライブが「モビリティデータプラットフォーム」の会社だという認知を、早急にとる必要がありました。
弘中 また、自社の認知形成とは別に、社会におけるモビリティの進化に向けた動きを加速したいという思いもあって。
というのも、国内ではモビリティにおける何らかの新しい取り組みがあっても、実証実験で止まってしまい、MaaS(※)で具体的なビジネスを展開している例はこれからのことだと思います。
※Mobility as a Service:あらゆる移動手段をITでシームレスに結びつけ、人々が効率よく、かつ便利に使えるようにするシステムのこと
こうした状況下では、そもそもMaaSの正しい認知やモビリティの未来を啓蒙していかないとマーケットが広がらない。これは誰かがやらなければ、市場自体が縮小していく可能性があることだと思っていました。
大里 そうした背景から、自社の認知を正し、市場を啓蒙するモメンタムをつくるために、2019年11月に「Mobility Transformation」という大規模カンファレンスを開催することにしました。
1,500名超えの集客と、各界リーディングカンパニーの登壇を実現
弘中 事業とマーケットの状況を考えると、「もうこのタイミングでやるしかない」と社運をかけた大勝負でしたね。
なので、リード獲得や受注目標などから予算を考えたわけではなく、あるべきマーケットを作るために、多少コストが膨らんだとしても、最高のコンテンツを準備して絶対にやり切ろうと決めていました。
大里 カンファレンスの企画から実行までは、およそ半年かけて取り組みました。集客目標を1,200人におき、「みんな命を懸けてやるしかない」という感じで(笑)。Web広告はもちろん、社員総出で知り合いに声をかけたりして、かなり泥臭く集客を行いました。
また企画のコンセプトには「業界を越えた様々な人が、Mobility領域でコラボレーションできる場にする」を定めました。
というのも、MaaSというと今は「移動」の部分に焦点が当たりがちですが、移動が変われば住み方も変わるし、物流も、保険も、法律も、連鎖的に変化していきます。
また、既存のモビリティ産業、特に自動車産業においては、完成車メーカーに部品メーカーが連なるピラミッド型の構造がありますが、こうした垣根も越えていきたいと考えていました。
弘中 このコンセプトを元に、セッション内容のイメージと登壇企業様の候補を決めて、バイネームで1社1社地道に打診していきました。
打診に対しては、「こういうイベントを待っていました」といったような反応でコンセプトに賛同いただける企業様が意外にも多く、わりとスムーズに決まりました。
また、大企業の方々から「ベンチャー企業とつながりたい」というご要望もあったので、登壇企業にベンチャー企業をうまくミックスすることで、登壇により前向きになっていただけたのかなと思います。
結果として、ジャガー・ランドローバー・ジャパン社の代表取締役を筆頭に、大企業からベンチャーまで錚々たる面々のセッション登壇と、ウサインボルト選手のゲスト登壇なども実現でき、約1,500名が参加するカンファレンスとなりました。
カンファレンスを通じて得た信頼が、コンペでの勝利を後押し
大里 カンファレンスを通じて、自社の認知や立ち位置に大きな変化がありました。
弘中 実はちょうどカンファレンス前後に、ホンダ社の2020年に発売予定のEVバイク「BENLY e:(ベンリィ イー)」に搭載するテレマティクスのコンペがあったんです。
弊社を含めて10社ほどに声掛けがあったのですが、最初はやはり車両管理サービスの会社だと認知されていましたし、コンペも優勢ではない雰囲気を感じていました。
そもそも16兆円近く売上のある同社が、大企業も参加するコンペの中で我々のようなベンチャー企業を選ぶ理由もないですし、厳しい状況だなと思っていました。
大里 一方で、コンペと並行してカンファレンスのセッション登壇の打診も進めていたんですね。私たちが目指している世界観を形にするためのカンファレンスなので、是非ホンダさんと一緒にやりたいとお伝えしていました。
弘中 そして、カンファレンスが形になってきた頃から、コンペの風向きが変わってきて。最終的に、ホンダ社のカンファレンスの登壇が実現し、コンペも勝ち抜くことができました。
振り返ると、ホンダ社に提案していた「四輪でのテレマ実績」「ホンダ社との中長期シナリオ」「自社でのサービス拡充」「エコシステム」という我々の強みが、カンファレンスを通して、より具体性をもって伝えられた結果かなと思っていて。
コンペ受注が決まった後も、カンファレンスを通じてホンダ社の上層部の方々にも弊社を認知していただくことができ、非常にスムーズに進んでいきました。
大里 また、カンファレンスの開催をきっかけに、世間からの認知にも変化を感じています。
たとえば、他の展示会でも、カンファレンスに参加した方からお声掛けいただくことがありました。その内容も、以前のような車両管理ではなく、より抽象度の高いことがかなり増えたように思います。
弘中 「モビリティの課題に対して、スマートドライブという解決策がある」という認知が、少しずつ出来てきたかなと感じていますね。
「モビリティの課題解決=スマートドライブ」の認知を広めていく
弘中 こうした変化によって、営業活動がかなりスムーズになりました。事業や理念など、スマートドライブという会社を理解していただくのに必要な時間が、以前の1/3くらいになりました。
たとえば、顧客の事例に対する関心度が高くなったり、予算や発注の有無といったヒアリングしづらいことも聞きやすくなったりして、いわゆる「不信、不要、不適、不急」といった営業のハードルの中でも、特に「不信の解消」に効果が出ています。
大里 またセールスだけでなく、マーケティングの効率もかなり良くなりました。カンファレンスのWebページ経由でのリード獲得が増えているので、CPAがかなり下がってきています。
弘中 今回のカンファレンスを通じて、社員が会社に対する自信を持てたことも大きかったですね。
集客から当日の運営まで社員全員でやりきったことで、スマートドライブのビジョンや取り組んでいる事業に対する意義を、自分ごととして感じてもらえたかなと思っています。
私は、スマートドライブが「新しい言葉」にならないといけないなと思っていて。何かの検索をする際に「ググる」と言われているように、「モビリティ課題を解決する=スマートドライブする」と言われるくらいの認知を作りたいと思っているんです。
そのためのメンバーも、積極的に募集しています(笑)。この成功体験を今回限りで終わらせることなく、今後も、業種業界の壁を越えたコラボレーションを継続していきたいですね。(了)