- 株式会社スープストックトーキョー
- 取締役 兼 人材開発部 部長
- 江澤 身和
広告には頼らない。スープストックトーキョーのブランド力を育てる、12の人事制度
〜広告の力ではなく、「ブランド力」で成長を続けるスープストックトーキョー。「ブランドを体現する人」を育てる、そのユニークな人事制度とは〜
2016年2月、株式会社スマイルズから分社化した、株式会社スープストックトーキョー。実は同社は、広告に頼らず、客数と店舗数を着実に伸ばすことに成功している。
その要因のひとつは、「世の中の体温をあげる」ことを理念に掲げる、同社のブランド力だ。そしてそのブランド力を作るのは「人」だと、取締役の江澤 身和さんは語る。
同社では分社化を機に、188人の社員と約1,500人のアルバイトを「ブランドを体現する人」にするべく、人事制度を一新したそうだ。
ブランド力を高める人事制度とは、果たしてどのようなものなのか? そして1,688人を巻き込むために、どのような施策を行ったのだろうか?
今回は、ブランドを体現する人を育て、顧客の共感を広げていくまでの取り組みを、詳しくお伺いした。
まずは「目の前の人」へ。ブランド体現者を育てる仕組みに着手
株式会社スープストックトーキョーは、2016年2月、株式会社スマイルズから分社化した会社です。スマイルズではここ8年間、スープ事業以外にも、ネクタイブランドやリサイクルショップなど、多方面に事業を展開してきました。
その中で、これまで17年間続いてきたスープストックトーキョーというブランドをより磨いていくために、ひとつの会社として分社させるという形をとりました。
私はもともと、スープストックトーキョーにパートナー(アルバイト)として入社しました。その後、内部登用で正社員になり、店長を任せていただいたり、冷凍スープ事業の立ち上げに関わってきました。
そして現在、スープストックトーキョーの取締役と、人材開発部の部長を兼任しています。
人材開発部は、人に関わることを徹底的に行う組織です。188人の社員、約1,500人のパートナーさん向けの人事制度を整えたり、採用活動を行っています。
特に人事制度は、分社をきっかけに最も注力してきたことのひとつです。全社横断プロジェクトとして「生活価値拡充委員会」を立ち上げ、「ブランドを体現する人」を育てる仕組みを整えていきました。
これは、「ブランドは人が作っていくもの」という考えからです。
弊社は、「世の中の体温をあげる」という理念を掲げています。スープストックトーキョーとして独立した今こそ、目の前の人の体温をあげることができるメンバーを増やすことで、ブランドをもっと研ぎ澄ませていきたいと考えていました。
社員だけではなく、アルバイトも巻き込んだ人事制度を!
そこで私たちは、メンバー1人ひとりがやりがいを感じ、ブランドを体現する人になれるよう、新しく12の人事制度を作りました。
▼スープストックトーキョーの、12にわたる人事制度
お店での嬉しい出来事などを共有する社内SNS「Smash」や、「体温をあげた」取り組みを表彰するSST(スープストックトーキョー)グランプリ、バーチャル社員証など、様々なものを作りましたね。
これらの制度は、もちろん社員だけではなく、パートナーさんのためのものでもあります。今や約60店舗を展開する中で、188人の社員だけが「世の中の体温をあげていきたい」と思っても、それではお客様に伝わらないんですよね。
ただ、お客様と直接触れ合うパートナーさん1,500人が、社員と同じ意識やマインド、温度感でメッセージを伝えていけば、必ず伝わると思っています。
弊社ではブランドに共感してくれている人の数として、客数をメインに追っているのですが、これらの制度を導入後、確実に増加してきています。
社内SNSで、アルバイトが全社に発信!全員を巻き込むポイントとは
制度のひとつである社内SNS「Smash」は、社員・パートナー関係なく、誰もが投稿できるコミュニケーションの場です。
▼誰でも発信が可能な社内SNS「Smash」
もともとは社内報として7年前にはじまったのですが、「どんなことでやりがいを感じたか」「何を思っているのか」を相互に発信できるよう、今年の3月に、SNS機能をつけてリニューアルしたんです。
投稿される内容は、お店での嬉しい出来事や、店舗を横断した懇親会の様子、パートナーさんのインタビューなど様々です。
▼【実際の投稿】忘れ物を手紙と一緒に送ったら、温かい返事が届いたお話
運営開始から半年が経ちましたが、今では毎日のように各店舗のパートナーさんから投稿があり、店舗や役職も超えたコミュニケーションが生まれています。社長の松尾や私も、よくコメントしていますね。
こうしたSNSがあると、「誰かに見てもらえている」と感じることができ、モチベーションアップにもつながってくると思います。
私と松尾が「カレーストックトーキョー」という、スープ専門店なのにスープを一切売らない1日限りの営業の日に各店舗を回ったときも、パートナーさんの姿勢がとても前のめりで。後でその様子をSmashに投稿したときも、みんながリアクションしてくれました。
ただ、Smashへの投稿は、1,700人近くのメンバーが見ていることもあり、特にパートナーさんにはハードルが高いものでした。
そこで、Smashをどんどん活用してもらえるよう、各エリアの社員の中で、そういった活動が好きだったり得意な人をアンバサダーに起用していきました。やはり人を巻き込むためには、近くにいる人、小さいコミュニティから、想いを連鎖させていくしかないと思っているからです。
そのため、社員自身がまず行動を起こして、アンバサダーがパートナーさんの背中を押してもらうことで、徐々に盛り上げていったんです。
「体温があがった」が成果!パートナーの士気を高める表彰制度
制度の中でも特に「温度感が高まった」と感じるのは、SSTグランプリですね。これは、実際に体温をあげた取り組みについて、みんなの前で発表する大会です。
60店舗のうち、予選で選ばれた9店舗が出場するのですが、他の店舗のパートナーさんたちも見に来るんですよ。
パートナーさんにとって、同じパートナーという立場の人の取り組みは、何より刺激になるんですよね。私自身もパートナーだった時、パートナー同士で意見交換をしたり、何かを考えることがモチベーションに繋がっていました。
▼実際のグランプリの様子
また、この表彰制度は、売上や客数といった定量的な成果で評価を行うものではありません。そもそも「世の中の体温をあげる」という抽象度の高い理念は、定量的な成果では現れませんが、そういった部分にこそ、重要な取り組みが隠れているためです。
「こうすることで笑顔が見られました」「お客様の体温があがりました」ということが、そのまま成果として発表されています。
今年グランプリを取ったのは、店舗から帰るお客様に「今日もよい一日を」と声をかける、仙台店の取り組みです。
お客様からは、「帰る時の一声が嬉しかったです」「ちょっと落ち込んでいたけど元気になりました」といった声を対面やメールでいただくなど、世の中の体温が確実にあがっていることを実感しました。
このイベントを通じて、発表したメンバー、聞いていたメンバーともに、士気が上がりましたね。
実際、1度目のグランプリでは聴講していたメンバーが、「私もあそこで発表したい」と奮闘し、2回目にはステージに上がることができたり、これをきっかけに社員になった人もいます。
「出戻り」も歓迎!ブランドへの共感の輪を起点にした採用制度
また、採用に関わる人事制度も整備しています。
私たちは、広告を打って100人を集めて、そのうち10人を選ぶのではなく、理念や商品に共感してくれた10人に来てもらい、彼らを採用できることを理想としています。
その方がブランドへの共感度が高い人を採用できると思っています。
そのため、既に弊社で働いていて共感度の高い人に、「この人だったら合うかも」という方を連れてきてもらうための「パートナー紹介制度」を用意しています。紹介した人が採用された場合に、インセンティブを付与する仕組みですね。
また、退職した方には全員、「バーチャル社員証」を渡しています。この社員証を持っていると、働いている人と同じように割引が適用されます。さらに、また弊社に戻ってきた際に特典をお渡しする「ウェルカムバック権」も付与されます。
せっかく私たちのブランドに共感してくださった方々なので、今後もつながっていきたいという想いからです。実際、この権利を使って、パートナーとして戻ってきてくれた方もいますね。
広告は出さない!人から人へ、ブランドへの共感を広げていく
弊社では創業時から、こちらからお金を出して広告を掲載するということは、基本的に行っていません。
これは、お客様からお客様へ、ブランドへの共感が口コミで広がっていくことが大切だと思っているからです。不特定多数の方に向けられた広告よりも、自身が信頼している方からの言葉の方が心に響くと考えています。
今後スープストックトーキョーの肝となるのは、やっぱり、ブランドを作り上げる1人ひとりのメンバーだと思っています。
これからも「ブランドを体現する人」を増やしていけるよう、仕組みを整えていきたいと思います。
そうしてスープストックトーキョーというブランドを、お客様がホッとできたり、「あそこに行ったら元気になれる」と感じてもらえる、特別なものにしていきたいと思います。(了)
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