- ベルフェイス株式会社
- 経営企画室長 兼 組織改善責任者
- 吉本 猛
人事評価は「ありたい組織」へ力学を働かせる仕組み。「市場が決める」制度運用の実態
〜「市場価値」をベースにした評価制度を導入し、早1年半。社員巻き込み型の制度改善と、不安を解消するフォローアップで、納得度の高い評価制度を運用する方法〜
正解がない故に、自社の思想に合わせた設計・運用が求められる「評価制度」。
急成長を続け、直近1年で社員60名→300名規模となったベルフェイス株式会社では、2019年4月に「市場が決める」評価制度を導入。その画期的な仕組みが脚光を浴びたことは、記憶に新しい。
その制度は「市場評価」を報酬のベースとして、目標の達成度を測る「ミッション評価」とバリュー体現度を測る「バリュー評価」の2つの軸から、所定のレンジで加減調整するというものだ。
実際の運用においては、「アンケートを活用して社員を巻き込みながら制度改善する」「基本のレクチャーを行い制度理解のベースを作る」といった工夫を取り入れ、評価制度をブラッシュアップし続けている。
同社で組織改善責任者を務める吉本 猛さんは、「評価制度は『組織をあるべき方向に向かわせる仕組み』であり、その時々で必要な力学が働くように変化させ続けることが大事」だと語る。
今回は吉本さんに、ベルフェイス式・評価制度の全貌と、運用改善の方法について詳しくお伺いした。
※本記事の情報は2020年8月時点のものであり、同社の評価制度の内容は、今後変更される可能性がございます。
「市場が決める」評価制度を導入し、運用開始から1年半が経過
弊社では2019年4月に、旧来の評価制度を見直し、現在の「市場価値」を報酬のベースとした新制度に移行しました。
それ以前は、入社時の給与をベースとして、目標に対する達成度合いで加減算するような仕組みでした。「120%達成であれば、月給プラスXX万」といったイメージです。
この制度における問題は、従業員のパフォーマンスと報酬の実態が見合っていなかったことで。報酬が低い水準でも入社してくれた初期メンバーと、後から高い水準で入社したメンバーとの間にベース給与のギャップが生まれてしまい、その差分を評価では埋められなかったんです。
かと言って、初期メンバーの給与を無条件に上げる訳にもいきませんよね(笑)。どういう視点で、どのように評価すべきかを考えた結果、行き着いた先が「市場評価」でした。
現在は年に一度、社員1人ひとりがキャリアシート(職務経歴書)を作成しています。それを外部パートナー3社に提出して、「その人が転職した際に、同業界・同職種でもらえる報酬レンジ」を見積もりいただく。その上限額を平均する形、つまり業界最高水準の報酬が、給与のベースとなります。
▼市場評価の実施プロセス
ただ、これだけでは「会社として従業員にどう在ってほしいか」を伝えることができません。そこで市場評価に加え、バリューの体現度に基づく「バリュー評価」と、目標に対する達成度合いに基づく「ミッション評価」を報酬に反映しています。
まずバリュー評価は、上長を含む6名からの360度サーベイで行われています。評価者は、バリューに対してそれぞれ1〜4の4段階で評価をつけ、上長のみ2倍の比重でスコアを合算します。その合計値で、全社員を相対評価で5つのランクに分類し、それを元に報酬の加減算を行います。
一方のミッション評価については、目標に対する達成度合いに応じてS〜Cの4段階でランクづけして、それを元に給与が加減算される形です。
▼報酬の算出方法
例えば、市場評価800万円の人が、バリュー評価でS、ミッション評価でAだった場合は、800万+80万(+10%)+40万(+5%)=920万円といった形ですね。
今ようやく全評価サイクルが1周半まわったところですが、制度や運用面をブラッシュアップし続けています。
「バリュー」をどう評価すべきか。その鍵は、可視化と言語化
私は、ベルフェイスの創業時にジョインし、営業やカスタマーサクセスの立ち上げや、プロダクトマネージャーを経験した後、2019年10月に新設された経営企画室に異動しました。現在は、採用から組織開発まで、人事領域の責任者をしています。
経営企画室を発足した当時は、社員60〜70名でしたが、この1〜2年で400〜500名くらいまで組織を拡大させたいという計画があったんですね。その拡大を見据えて、評価制度の刷新がありました。
実際に人数が増え、制度を運用しているうちに、様々な課題が見えてきました。なかでも、特に難しいと感じているのが「バリュー体現」をどう評価するか、という点です。
弊社の場合、バリューについては360度評価なので、「バリューを体現しているとはどのような状態か」「その度合いをどう測るか」という目線が、全員擦り合っているかどうかが重要になります。
ですが、これを擦り合わせるのがなかなか難しくて…。今もまだ完璧ではありませんが、バリュー体現に値する行動の「可視化」と「言語化」がポイントだと思っています。
要は、バリュー体現の行動例を可視化して、目に触れる機会を増やすことが、その基準を浸透させるひとつの手段になるんじゃないかと考えていて。
その目的で、2020年1月にピアボーナスツールの「Unipos」を導入しました。これによって、全社的にわかりやすいものから、なかなか表には出にくいけど実はバリューを体現しているという行動まで可視化されるようになりましたね。
▼実際のUniposでのバリュー投稿(ハッシュタグを活用)
さらに、職種・役職別のバリュー体現をできる限り言語化していく取り組みや、バリューの表彰式を行ったりして、バリュー評価の土壌を作っているところです。
制度改善に「アンケート」を活用。社員を巻き込む仕組みづくり
また制度の改善を進める上では、社員を巻き込み、一緒に作っていくことも大切です。
そこで弊社では、「評価制度に関するアンケート」を半期に一度実施しています。内容は、現行の評価制度に対する満足度と、意見や改善提案などのフリーコメントから成るシンプルなものです。
その上で、マネージャー全員と1on1を実施し、評価制度に対する違和感や課題感などを直接ヒアリングすることもあります。
こうして収集した現場の声を元に、1つひとつ改善を重ねてきましたね。例えば直近で言うと、もともと半期ごとに行っていたバリュー評価をクォーターごとに変更しました。
この背景としては、「半年分のバリュー評価を正しくつけるのが難しい」という評価者の意見や、「直近1、2ヶ月の印象で評価されている気がする」というメンバーの声が多かったことでした。それに対して、まずは頻度で解消できないかを検証しようと思い、評価サイクルを短くした形です。
ただ、現場への負荷が大きくなってしまうと、制度が形骸化する原因にもなりかねません。そこで、1人あたりの評価人数に上限を設けたり、クラウド人材管理ツールを活用したりすることで、評価の頻度を上げても負荷が大きくならないように工夫しました。
また、こうした制度の変更点は、社員にきちんと伝えることも大切です。弊社では、月次の「アップデート会」と呼ばれる全社会議で、根拠や背景とともに必ず報告するようにしていますね。
制度理解と運用のサポートで「評価の納得感」を醸成する
さらに、評価制度の理解を促進するため、評価者・被評価者に対する説明会やレクチャーを定期的に行っています。この制度理解が、評価の納得感を醸成する上では重要だと思っています。
入社して初めて査定を迎えるメンバーに対しては、評価制度の概要や注意してほしい点などを説明し、すべての質問に答える場を用意しています。
360度評価の不満でありがちなのが、「あの人は自分の活動を理解していない」みたいなケースだと思っていて。でも、回答者がその人のすべての活動を見ているわけではないので、当然起こり得るんですよね。
なので、そもそも「360度評価は、その回答者からみた時の事実をフィードバックするもの」だという前提を伝えることで、正しい評価の捉え方ができるようになります。
また、市場評価の仕組みは理解できても、中にはキャリアシートを書くのに慣れていない人もいます。そうした人には、プロのキャリアコンサルタントに作成のアドバイスをもらえる機会を提供することで、不安や懸念を取り除くようにしていますね。
一方、評価者に対しては、フィードバックの注意点をレクチャーする会を設けています。
内容については、「事実情報を元に評価する」「他の人が書いたコメントに対して勝手な解釈を加えない」「フィードバックだけではなく改善につながるアドバイスも伝える」といった基本的なものですが、これを伝えないと、人それぞれ独自のスタイルでやってしまいがちで。
そのため1回レクチャーを受けたらOKではなく、毎期開催して、繰り返し伝えるようにしています。
評価制度は「理想とする組織の方向に『力学』を働かせる仕組み」
私はやはり、評価制度は「理想とする組織の方向に、力学を働かせる仕組み」だと思っていて。
メンバーにこのように行動してほしいという力学を働かせるために「バリュー評価」がありますし、事業目標を達成するという力学を働かせるために「ミッション評価」がある。
また市場評価を組み込むことで、社員は自らのキャリアを考え、自分で市場価値を高めることに向き合わないといけませんし、一方の会社は「ここで働くことが自分の市場価値を高める」と思ってもらえるように努力しなければなりません。
そうした思想を言語化し、制度に落とし込むことが、組織設計において大切だと思っています。
ただ、今も正直、課題だらけですね(笑)。バリュー体現とは何か、どの市場をもって市場価値と言うのかなど、突き詰め出すとキリがないじゃないですか。
でも間違いなく言えるのは、自社を成長させることが、自分たちの市場価値を上げることにつながるということ。そのメッセージを、組織が拡大する中でもきちんと伝えていけるかは大事だなと思っていますね。
また今後、会社のフェーズによって、働きかけたい力学は当然ながら変化していきます。既存のやり方に固執することなく、その時々に必要な力学が働くように、評価制度という仕組みを変え続けていきたいと思います。(了)