• 株式会社DeNA Games Tokyo
  • 代表取締役社長
  • 川口 俊

戦略の実行スピードが4倍に!人を育て、経営課題を解決する「REBUILD Board」とは

〜経営戦略の網羅性と推進力に課題を感じ、全社横断の専門組織を立ち上げ。13のプロジェクトを同時進行し、次世代リーダーも育てる取り組みの全容〜

事業と組織の両軸で、全社的な戦略をスピード感を持って推進していくには、どのような仕組みが有効なのだろうか。

モバイルゲームの運営に特化したDeNAの戦略子会社として、2015年に設立された株式会社DeNA Games Tokyo。

2018年に同社の代表に就任した川口さんは、新たな行動指針「REBUILD(リビルド)」の策定などに取り組む一方で、少人数の経営層で担っていた経営戦略の推進スピードに課題を感じていたそうだ。

そこで、事業・組織における全社課題を網羅的かつスピーディーに推進する新たな組織として、今年1月に「REBUILD Board」を発足。13個のプロジェクトに27名のメンバーをアサインし、経営アジェンダに一気に着手することで、戦略実行スピードが過年度の4倍に加速しているという。

今回は代表の川口さんと、コーポレート部部長の徳田さんに、REBUILD Boardの活動における工夫や、そこから生まれた事例について詳しくお伺いした。

全社の戦略推進を担う「REBUILD Board」を立ち上げ

川口 私は大学を卒業後、自動車部品メーカーを経て、2013年にDeNAに入社しました。入社後は「怪盗ロワイヤル」などのゲームを担当し運営に携わっていましたが、2016年にDeNA本社のゲームタイトルをDeNA Games Tokyo(以下、DGT)に移管することになりました。

そこで、DGTへの出向を申し出て、マネージャーや企画部部長を経た上で、2018年8月に代表取締役社長に就任しました。

徳田 私は2014年にDeNAに新卒で入社し、営業や新卒採用・育成担当を経て、2018年からDGTに出向しました。現在はコーポレート部の部長として、人事を中心としたバックオフィス業務全般を担当しています。

川口 弊社は現在、派遣スタッフを含めて240名ほどの社員が在籍しています。2018年に私が代表になり、改めて会社の在り方や企業理念を整理した中で、当時9つあった行動指針が十分に組織に浸透していないと感じたことから、同年11月に新たな行動指針「REBUILD」を定めました。

これは「事業・組織などあらゆるものの前提を根本から見直し、より高い価値を創造する」という想いを込めた行動指針で、現在は組織にも浸透してきている段階です。

しかしその一方で、課題を感じていたのが経営戦略の推進スピードでした。

▼左:川口さん、右:徳田さん

というのも、私たちの組織には、全社横断で戦略を推進するような専任のメンバーがいませんでした。そのため、経営に直結する戦略は私と部長陣の4名で推進していたのですが、日々現場で生まれる課題にも対応する必要があるので、実行スピードが鈍化してしまって。

それに対する責任の所在が曖昧だったり、戦略の優先順位を3つに絞っていたこともあり、事業・組織の両軸で網羅的に戦略が立てられていないといった課題もありましたね。

それらを解決するために、経営戦略に基づくアジェンダを専門に実行・推進する組織として、今年1月に「REBUILD Board」を立ち上げました。

リーダー育成の観点で、各チームから27名のメンバーをアサイン

徳田 REBUILD Boardの一番の目的は「スピード感を持って、網羅的に経営戦略アジェンダを遂行すること」です。それに加えて特に意識したのは、「リーダー育成」と「組織の垣根を取り払う」という観点でした。

弊社はいわゆるマトリクス型組織で、企画、デザインといった職能制組織とゲームタイトル単位の事業部制組織の掛け合わせでチームが分かれています。

これには、この組織形態ならではのメリットがある一方で、事業責任と組織責任が分断されがちで、いずれの観点も持ったジェネラルなリーダー人材を輩出する難易度が高いという特徴があります。

そのため、メンバーの視座を現場から一段上げて全社課題に触れてもらうことで、経営を担うリーダーを育成していきたいという思いがありました。

また、この組織体制はチームの垣根を越えた交流がしにくく、組織ビジョンの体現度が高まりづらいので、全社横断の活動によって組織の結束力を高められればと思っていました。

川口 REBUILD Boardでは、まず1年後に事業や組織として達成したい状態を棚卸しして、13個のプロジェクトを設けることに決めました。そこに、リーダー育成などの観点から27名のメンバーをアサインしました。

これらのプロジェクトは、新規事業、カルチャー浸透などいくつかのカテゴリに分かれています。最終的な意思決定は私が責任を持っていますが、ある程度プロジェクト内で意思決定できるように、カテゴリごとに責任者とリーダーを任命し、スピード感を保ったまま進められるようにしました。

▼「REBUILD Board」の概要

徳田 立ち上げ後、最初に行ったのはプロジェクト推進におけるフォーマットの統一です。ごまかしの効かないシンプルさと網羅性を重視した3枚のフォーマットを用意し、期初にプロジェクトごとに「目的・現状分析」「目標成果・アクション」「タスク・スケジュール」を記載してもらいました。

これはリーダー育成の観点でも、しっかりと自分で戦略を考えてもらう機会になったと思います。

▼プロジェクト推進の統一フォーマット(イメージ)

その後は、隔週で各カテゴリの責任者同士でレビューする場を設け、また約3ヶ月に1度は全メンバーが集まり、「マイルストーンに沿って順調に進んでいるかどうか、遅延している場合のプラン変更、具体的なアクション」などを共有し合う振り返り会を設けています。

着手できていなかった経営課題を、4倍のスピードで実行・推進

徳田 REBUILD Boardを今年4月に発足してから約半年が経ちました。現在進行系ではありますが、その中でもスピード感を持って推進できている事例として、「リーダー育成プロジェクト」があります。

体制としては、異なる職能のメンバーから多様な観点を得ることを狙いとして、私に加えて企画マネージャー・エンジニアマネージャー・人事労務担当の計4名が担当しています。

本プロジェクトではまず、キーポジションの設定とリーダー要件の策定を行いました。

キーポジションに関しては、各種事業の責任者や開発オーナーといった、来年度以降の事業や組織の状況から「重要度が高い◯◯を任せられる人材」を想定して、来年度末までに求められるポジションを洗い出しました。

それらの候補となる人材を本プロジェクトで育成することに決め、同時に社内での人員調達が困難な場合は、採用も視野に入れて充填計画を立てています。

次に、キーポジションごとに求められるリーダー要件をディスカッションしていきました。

具体的には、スキル面を「ビジョニング、人心掌握・グリップ力、戦略・戦術策定、実行管理」の4軸、マインド面を「視座、コミットメント、能動性、安定感・セルフマネジメント」の4軸で設定し、レベルごとに定義しました。

この内容は人事評価制度とは紐付けず、候補人材の育成指標として活用しています。

▼スキル要件を定義したシート(イメージ)

また、この他に生まれた成果物として「打席管理シート」があります。

私たちは「ビジョン・目的設定」「戦略策定」「メンバー巻き込み」「プロジェクト管理」のいずれかの役割を求められるミッションや、リーダーとしての成長機会になり得そうな業務を「打席」と呼んでいます。

1つひとつの打席に求められる要件を「打席管理シート」に可視化することで、適切なメンバーを育成観点でアサインする手段として活用しています。

▼打席管理シート(イメージ)

今はこれらを動かすフェーズに入っていますが、こうした活動は昨年までは本格的に着手できていなかったので、プロジェクト化することで短期間で設計を完了させることができました。

この事例と同様に、13のプロジェクトを同時に推進しているので、過年度の4倍のスピードで経営戦略が実行できるようになっています。

会社の「潮目」を変えるほどの、大きなインパクトを生み出したい

徳田 現在の課題としては、REBUILD Boardにアサインされているメンバーが、主務とREBUILD Boardの活動での工数バランスを取ることの難しさが挙げられます。

彼らは現場でも活躍しているので、負荷がかかったり、主務の忙しさによっては推進力にばらつきが出てしまうため、そこは振り返りながら今後に活かしていきたいですね。

また、プロジェクトごとに役割を分けただけで権限移譲が進むかというと、必ずしもそうではなくて。各カテゴリの責任者が「これは難易度が高いから自分がやるよ」と、プロジェクトの重要業務を手放せなかったりもするんですよね。

そうすると、スピード感を持って経営戦略を進められず以前と同じ状況に陥ってしまうので、意思を持って権限移譲をしていくことが、重要になると思います。

川口 REBUILD Boardを始めたことによる良い変化はふたつあります。ひとつは、事業と組織の経営アジェンダが、両軸できちんと進められていること。もうひとつは、昨年まで4人で進めていたところを、今は27名で推進しているので、会社の課題を自分ごと化するメンバーが増えていることです。

個人的には仲間が増えて嬉しいですし、メンバーが強くなって、その先に会社として強くなっていく手応えを感じていますね。

徳田 私はやっぱり、育成の観点で成長角度がぐっと上がったメンバーや、会社へのエンゲージメントが向上したメンバーが多いなと感じています。

私たちは「全員のREBUILD の熱量が壁をも越えて有機的に拡がる組織」という組織ビジョンを掲げているのですが、このREBUILD Boardの活動によって普段接することがなかったメンバーと熱く議論しながら、共創する楽しさを感じられていますね。

弊社は今、DeNAの子会社としてDeNA本社で生まれた事業を安定的に運営するというフェーズから、私たち自身でも新しい事業を仕掛けるフェーズに移ってきています。

この半年で手応えも感じながら進めているものの、まだ明確な成果が出ているわけではありません。なので、後で振り返った時に私たちがREBUILD Boardの取り組みをしていたからこそ、「DGTの潮目が変わった」と自他ともに認めるぐらいのインパクトを出していきたいと思っています。

川口 私は、事業をさらに拡大していくことに一番わくわくしているので、プロジェクトで描いて今まさに動かしているものを、きちんと形にしたいと思います。

それが達成できた時に、私たちの自己満足ではなく、所属している全メンバーが「DGTに入って良かったな」と思えたり、彼らの人生の中でDGTにいる今がより色濃い時間になれば嬉しいですね。(了)

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