- 株式会社SmartHR
- サーキュレーションマーケティングユニット チーフ
- 藤田 隼
「人と情報」を紡ぎ、循環させる。SmartHRサーキュレーションマーケティングの全容
〜組織横断的なマーケティング・ブランディング活動で、社内外のつながりを深化する。「顧客が新たな顧客を呼ぶ」循環を生み出す、SmartHR独自のマーケティング戦略とは〜
「顧客が新たな顧客を呼ぶ仕組み」を作るには、どのようなマーケティング戦略が有効なのだろうか。
クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を展開する、株式会社SmartHR。同社は、2020年7月に組織横断でマーケティング・ブランディング活動を担う「サーキュレーションマーケティングユニット」を設立。
立ち上げの背景には、各施策やコンテンツの連動性を高めることと、「顧客が新たな顧客を呼びたくなる」という好循環を促進するという狙いがあったそうだ。
この新体制によって、インハウスエディターと他事業部の連携が強化され、ユーザーの「温度感」に合わせたコンテンツ設計が可能になり、既存顧客からの紹介経由の商談が増えるなどの変化が生まれているという。
今回は、サーキュレーションマーケティングユニットを統括する藤田 隼さん、メンバーの大久保 志朗さん、カスタマーサクセスチーム(以下、CS)に所属する篠原 恵利子さんに、サーキュレーションマーケティングユニットの役割と、事業部間の協働について詳しくお伺いした。
「お客さまがお客さまを呼ぶ」循環作りを目指して、ユニット設立
藤田 僕は、2017年にSmartHRに入社後、オウンドメディアの運営や導入事例の制作などを担当し、2020年7月に「サーキュレーションマーケティングユニット」を立ち上げ、統括を行っています。
このサーキュレーションマーケティングユニット、通称「サキュマ」では、「お客さまがお客さまを自然と呼びたくなるような循環型の仕組みづくり」を目指して、他チームと協働しながら組織横断的に活動しています。
▼マーケティング組織の構造(同社提供)
具体的な役割は、主に3つです。
ひとつはオウンドメディアの運営やeBookなどのコンテンツを制作する「デマンドジェネレーション(下記図内①)」、ふたつめはユーザーイベントの企画・運営を通じてお客さま同士の繋がりをつくる「カスタマーアドボカシー(下記図内②)」、そしてお客さまが新たなお客さまを呼びたくなるような循環を生む「サーキュレーション(下記図内③)」です。
▼ダブルファネルにおけるサーキュレーションマーケティング施策(同社提供)
現在サキュマに所属するメンバーは、もともと「メディアユニット」の編集者としてコンテンツ制作に携わってきましたが、以前は各施策に連動性がなく、自分たちの活動が事業のスケールに寄与しているかがわかりにくかったんですね。
また、社内では編集スキルを生かした受動的な「何でも屋さん」になることが多く、マーケティングとしてのキャリアの拡張性に課題を感じていました。
その一方で、導入事例の取材やユーザー会を通じてお客さまとの関係性が深まった結果、新たなお客さまを紹介してくださったり、イベント登壇に協力してくださったりと、好循環が生まれていたことに気づいて。なかには、メールの署名欄にSmartHRの導入事例のURLを記載してくださる方もいらっしゃったんです。
こうした背景から、「循環型のマーケティング」を確立するために「編集」という観点から顧客接点を生み出すことで、事業成長に貢献しながらもインハウスエディターのキャリアにも拡張性が生まれると考えて、サキュマの設立に至りました。
他部署と連携し、顧客の「温度感」に合わせて施策の連動性を高める
藤田 サキュマの設立からまだ1年も経っていませんが、いくつもの変化が生まれています。
まず、組織横断でコンテンツディレクションを行うようになったことで、お客さまの「温度感」をふまえたアクション設計が可能になり、従来の「点」ではなく連動性を持った施策を打てるようになりました。
というのも、以前は事例記事の取材を終えたあと、僕たちがお客さまとの接点を持ち続ける手段が少なかったんです。今はユーザー会を主催していることもあって、導入事例の取材を通じて仲良くなった方を招待するなど、継続的なコミュニケーションを取ることができていますね。
また、他チームの依頼に応えるだけでなく、交流するなかで得られた情報をもとに、ウェビナーやカンファレンスに登壇いただくお客さまを推薦することもあります。その登壇内容もコンテンツ化し、最適なチャネルでお届けできる体制もできました。
さらに最近では、セールスチームとも連携を強化中です。たとえば、導入直後に導入背景や今後の展望を聞くアンケートをセールスメンバーからお客さまに送付してもらうことで、いつ、どんなストーリーで導入事例として取材すると良いかを設計できるようになりました。
その結果、取材打診までのリードタイムが大幅に縮まり、導入後2日で打診を承諾いただいたケースもあります。
肝心の「循環」部分に関しても、既存のお客さまを通じて新たな商談につながったケースが増えてきました。
このように、サキュマのメンバーが直接お客さまと関わる機会が増えたことで、「会社」対「会社」ではなく、「人」対「人」の繋がりが生まれていると感じています。
以前、SmartHRを導入いただいたお客さまが、事例取材やユーザー会への参加後、関係会社での導入を推進してくださることになり、サキュマのメンバー個人に進め方の相談をいただいた時は、その関係値の変化を実感しましたね。
CSとの連携で、ユーザーとの中長期的コミュニケーションを実現
篠原 私は、2018年にSmartHRに入社し、現在はCS内のサクセスコミュニケーションチームに所属しています。
サクセスコミュニケーションチームは、コンテンツの企画・提供をはじめ、機能説明を行う「SmartHRスクール」や各種ユーザー会を開催しており、サキュマが立ち上がってからはユーザー会やコミュニティの立ち上げを一緒に担当するようになりました。
正直、CSは目の前のお客さまに集中することが多いので、イベントを開催しても「開催するので精一杯」で終わっていたことも多く、それをどのようにブランディングに繋げるかを考えるのが難しかったんです。
そこで、お客さまが求めている情報を明確に把握しているCS側の強みと、編集力やマーケティングスキルといったサキュマ側の強みを合わせられるようになったことで、より質の高いユーザー会を実施したり、コンテンツを生み出し、中長期的な目線でお客さまとコミュニケーションできるようになった実感があって。
サキュマがコミュニケーションの土壌を整え、私たちがその後のタッチポイントでフォローすることでアップセルやクロスセルにつながったケースもあり、事業上のインパクトも少しずつ創出できていると感じています。
また、CSがお客さまとコミュニケーションをとる際は、どうしても打ち合わせや商談といった形になってしまうのですが、サキュマのメンバーが第三者的な立場から関わってくれることで、関係性がより深まっているとも感じていますね。
相談しやすい「ななめの関係」で、顧客と人対人の関係性を築く
大久保 僕は、2019年にSmartHRに入社しました。現在はサキュマに所属してオウンドメディア「SmartHR Mag.」の編集長を務めながら、ユーザー会をはじめとしたコミュニティの企画・運営を行っています。
僕自身も、「ななめの関係」でお客さまとコミュニケーションをとれることがサキュマの強みだと感じていて。家族には言いづらいことも相談しやすい「いとこのお兄さん」のような立ち位置だと思っているんですね(笑)。
営業やCS担当とは異なり、第三者的な僕たちだからこそ、商談で言いづらいことや本音をお話しいただけることもありますし、「SmartHRさんみたいなノベルティグッズを作りたいんだけど、どこに発注してるの?」といった個人的な相談をいただくこともあります。
また、お客さまと個別にオンラインでお話しした際に「イベントを通じて普段は出会えない方々と話すことができ、とても嬉しかった」という言葉をいただくこともありました。
こうした「人」対「人」の関係性の構築や、コミュニティやコンテンツ作りはインハウスエディターだけでは絶対にできません。僕らが旗振り役となって、いかに情報や知見をもった社内の人を巻き込んでコラボレーションを生むかが重要だなと思っていて。
そのためにも、巻き込むプロジェクトがいかに価値があって、面白いものかという「お祭り感」を醸成することがポイントだと感じています。
なので、成果が生まれた時はリアルタイムに組織全体に共有して、記事のPV数といった数値的な結果だけでなく、お客さまが評価していたポイントやフィードバック、記事には掲載しきれなかったこぼれ話なども伝えるようにしています。
お客さまの声やコンテンツの反応をこまめに共有すると、やっぱり関わったメンバーがすごく喜んでくれるんです。そういったポジティブな空気感の醸成は意識的にやっていますね。
「人」の繋がりを起点に、新たなコラボレーションを生み出したい
藤田 サキュマを立ち上げたことで業務範囲が広がり、編集という「肩書き」がひとつの「職能」に変わりました。ユニット立ち上げ前の課題だったキャリアに関しても、拡張性が生まれたと感じています。
今後は、「循環」の機会を生み出していきたいです。そこで、具体的なサービスの活用イメージを知りたい商談中のお客さまと既存のお客さまがコミュニケーションできる場づくりや、お客さまからの活用事例の発信を後押しするような仕組みを検討中です。
また、サービスの導入を増やすだけではなく、長く使い続けていただくための仕組みづくりも、CSと連携して実践できればと思っています。僕たちの活動で、より多くの「人」起点のコラボレーションを生み出せたらいいなと思いますね。
大久保 僕も、本当に価値のある場やコンテンツを通じてお客さまの「熱狂」を生みながら、事業の成果につなげることが理想的だと思っています。
お客さま自身が目指す理想状態やキャリアを叶えるためにSmartHRのプロダクトはもちろん、コンテンツやコミュニティを活用していただき、「すごい人たちが生まれる影にSmartHRあり」といった世界観を作れたら面白いですね。
篠原 私もCSという立場から、コミュニティやコンテンツを通じてお客様にとって新しい体験を提供し続けたいと思っています。
また、お客さま同士の「横のつながり」を強化することも新たなサポートのひとつだと思っているので、今後もそのチャレンジを続けていきたいです。(了)
【読者特典・無料ダウンロード】UPSIDER/10X/ゆめみが語る
「エンジニア・デザイナー・PMの連携を強める方法」
Webメディア「SELECK」が実施するオンラインイベント「SELECK LIVE!」より、【エンジニア・デザイナー・PMの連携を強めるには?】をテーマにしたイベントレポートをお届けします。
異職種メンバーの連携を強めるために、UPSIDER、10X、ゆめみの3社がどのような取り組みをしているのか、リアルな経験談をお聞きしています。
▼登壇企業一覧
株式会社UPSIDER / 株式会社10X / 株式会社ゆめみ