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AGI(汎用人工知能)・ASI(人工超知能)とは何か? 基礎から最新動向、事例まで徹底解説

AGI(汎用人工知能)・ASI(人工超知能)とは何か? 基礎から最新動向、事例まで徹底解説

人工知能(AI)の進化に伴い、「AGI」や「ASI」という用語がビジネスシーンでも注目を集めています。

AGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)は、人間と同等レベルの幅広い知能を持つAI、そしてASI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)は、人間の知能を遥かに超えるAIを指します。

AI研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル博士が、AIの能力が人間の知性を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」の到来を予言するなど、AGI/ASIの実現時期は長く議論の的となってきました。

それがChatGPT登場以降の技術の急速な進化により、近い将来にAGI/ASIが登場する可能性が生まれているのです。

そこで今回は、AGI/ASIという概念の基本から最新動向、具体的な活用事例、ビジネスにもたらす可能性とリスク、そして将来の展望まで解説します。

目次

  1. 「AGI」「ASI」とは?その概要から注目の背景まで
  2. 「AGI」「ASI」の実現に近づく、代表的なAI開発企業の動向
  3. 製造・金融・医療も。業界別の最新AI活用事例
  4. 「AGI」「ASI」によるビジネスの可能性・リスクは?
  5. 「AGI」「ASI」に実現に向けた今後の展望

「AGI」「ASI」とは?その概要から注目の背景まで

まずはAGIとASI、それぞれの定義をおさえましょう。

AGI(汎用人工知能)とは

AGIは「Artificial General Intelligence」の略で、人間と同等の知能を持ち、様々な問題に柔軟に対応できるAIを指します。特定のタスクだけでなく、あらゆる知的作業を人間と同じようにこなす能力を持つとされます。

AGIの主な特徴は以下の通りです。

  • 複数の異なるタスクを学習・実行できる能力
  • 新しい環境や状況に適応できる柔軟性
  • 人間のような理解力と推論能力
  • 経験や収集データからの自己学習能力

ASI(人工超知能)とは

ASIは「Artificial Super Intelligence」の略で、AGIからさらに進化した、人間の知能を遥かに超えるAIです。ASIは自己改良や学習を通じて自律的に進化し、あらゆる分野で人間の能力を凌駕するとされています。

ASIの主な特徴は以下の通りです。

  • 人間の知能を全方位的に超える能力
  • 自己学習・自己進化による無限の能力向上
  • 人間には解決できない複雑な問題の解決能力
  • 自我意識や創造力、感情認識能力の可能性

従来のAIとの違い

現在の一般的なAIはANI(Artificial Narrow Intelligence、特化型人工知能)とも呼ばれるように、音声や画像の認識など、限られた領域で能力を発揮します。比較すると、AGI・ASIには以下のような違いが挙げられます。

知能の範囲と深さ

  • ANI:特定の限られたタスクのみに対応
  • AGI:人間と同様の幅広いタスクに対応
  • ASI:あらゆるタスクで人間を超える能力を発揮

学習能力

  • ANI:事前に定められたデータから学習
  • AGI:経験から学び、新しい状況に適応
  • ASI:自己学習と自己改善を無限に継続

自律性

  • ANI:プログラムされた範囲内でのみ動作
  • AGI:独自の判断で多様な問題に対処
  • ASI:完全に自律的で、人間の介入なしに高度な判断と行動が可能

現在の開発状況

2025年現在、世界の主要なAI開発企業や研究機関はAGIの実現に向けて急速に研究を進めていますが、完全なAGIはまだ実現していません。現在のAI技術は特定の領域では人間並みあるいは人間以上の能力を示すこともありますが、汎用性や自律性においてはまだ発展途上と言えます。

しかし大規模言語モデル(LLM)の発展をはじめ、OpenAI、Google DeepMind、Meta、Anthropicなど、世界的な企業たちがAIの開発競争でしのぎを削っており、AGIの実現に着々と近づいていると見られています。

「AGI」「ASI」の実現に近づく、代表的なAI開発企業の動向

ここでは代表的なAI開発企業、各社の取り組みについてご紹介します。

1. OpenAI

OpenAIは「人類に利益をもたらす汎用人工知能(AGI)の普及と発展」を明確な目標に掲げており、AGI開発の最前線に立っています。2022年11月にChatGPTを発表して以降、次々と高性能なAIモデル「GPT」シリーズをリリースしており、2024年には人間のように考えを深めながら回答を生成する「推論」の能力をもつo1を公開。

2025年4月には、複雑な推論、コーディング、数学、科学といった分野での能力が大幅に向上した新推論モデル「o3」「o4-mini」を発表しました。

AGI(汎用人工知能)・ASI(人工超知能)とは何か? 基礎から最新動向、事例まで徹底解説.002出典:https://openai.com/ja-JP/index/introducing-o3-and-o4-mini/

2. Google DeepMind

2023年4月、GoogleはAI研究部門のGoogle ResearchのBrainチームとDeepMindを統合し、「Google DeepMind」として再編しました。これはOpenAIのChatGPTなどの成功に対抗する動きと見られています。

Google DeepMindは「Gemini」シリーズを開発し、2024年には「Gemini 2.0」を発表、2025年2月からは「Gemini 2.0 Flash」「Gemini 2.0 Pro」の一般提供を開始しています。

AGI(汎用人工知能)・ASI(人工超知能)とは何か? 基礎から最新動向、事例まで徹底解説.003

出典:https://ai.google.dev/gemini-api/docs/models?hl=ja

Google DeepMindのデミス・ハサビスCEOは「AIそしてAGIは、歴史上最大の社会的、経済的、科学的変革を推進する可能性を秘めている」と述べており、AGI実現に向けた積極的な姿勢を示しています。

3. Meta

Metaのマーク・ザッカーバーグCEOは「責任を持ってオープンソース化を目指す」方針のもと、AGI開発に取り組んでいます。同社は「Llama」シリーズなどの大規模言語モデルを公開し、研究コミュニティに広く提供。2025年4月には、「Llama 4」を公開しています。マルチモーダルに対応する同モデルは、テキスト、画像、音声、動画を処理し、生成することができます。

AGI(汎用人工知能)・ASI(人工超知能)とは何か? 基礎から最新動向、事例まで徹底解説.004出典:https://www.llama.com/

4. Anthropic

元OpenAIの研究者が創業したAnthropicは、「安全なAI」を重視した研究開発に取り組んでいます。同社が開発するAIモデルは「Claude」シリーズと呼ばれ、2024年3月に発表の「Claude 3」には、最も高性能なモデルで複雑な推論タスクなどに適する「Opus」、回答の品質と出力スピードのバランスが取れた「Sonnet」、コスト効率の高い「Haiku」があります。

2025年2月には、シリーズの最新モデルとして「Claude 3.7 Sonnet」が公開されました。

AGI(汎用人工知能)・ASI(人工超知能)とは何か? 基礎から最新動向、事例まで徹底解説.005出典:https://www.anthropic.com/news/claude-3-7-sonnet

ソフトバンクグループ孫正義会長のAGI/ASIに対する発言

AIの領域に長く注目してきたソフトバンクグループの孫正義会長は、同社主催のビジネスカンファレンス「SoftBank World 2023」で、AGIについて「人類の叡智の総和の10倍」と定義し、「10年以内に実現する」と予測しました。さらに2024年の「SoftBank World 2024」では、AGIの達成時期を「2〜3年後」に前倒しし、その後10年以内に「人間の叡智の1万倍」のASIが実現すると述べています。

孫氏はAGIの世界が到来すると、教育や医療、自動運転など全ての産業に影響を与え、人間の生き方や社会のあり方も変革されると予測。「AIは最強の味方だ、最強のパートナーだ、最強の道具だと思って、あらゆる進化を遂げていくことです」と述べており、AIとの共存の必要性を強調しています。

2025年1月には、ソフトバンクグループ、OpenAI、Oracleなどが中心となって、アメリカ国内に大規模なAIインフラを構築する「スターゲート構想」を発表。同プロジェクトの総投資額は4年間で5000億ドル(約78兆円)にも上るとされ、AGIの研究開発を強力に推進することを目的としています。

製造・金融・医療でも。業界別の最新AI活用事例

現時点で真のAGIやASIは存在していませんが、その前段階となる高度なAI技術はすでに様々な業界で実用化が始まっています。以下では、AGI/ASI実現への道筋を示す先進的なAI活用事例を業界別に紹介します。

1. 製造業での活用事例

製造業では、現在のAI技術を活用した自動化や生産最適化が進んでいます。例えば、IBMシーメンスはAIを活用してサプライチェーンの最適化を進め、原材料の適時配送とコスト削減を実現。また、インテルはAIを活用した検査システムと自動化により、高い製品品質と生産性を達成しています。

デロイトの分析によれば、製造業におけるAI採用は2025年以降さらに加速。製造業のデジタルツインが進化し、複数人が同時にリモートから仮想空間でシミュレーションを行い、リアルタイムでの意思決定が可能になると予測されています。

AGI(汎用人工知能)・ASI(人工超知能)とは何か? 基礎から最新動向、事例まで徹底解説_製造業.0012. 金融業での活用事例

JPモルガン・チェースは AI分野での先駆者として、2018年にAI研究部門責任者としてマヌエラ・ヴェローソ氏を採用し、金融業界のリーダーとしての地位を確立しています。CEOのジェイミー・ダイモン氏の発言によれば、同社は2000人以上のAIと機械学習の専門家を雇用し、400以上のユースケースを本番環境で稼働させているとのことです。ソフトウェアエンジニアリングや顧客サービスでのAI活用を推進しています。

ゴールドマン・サックスもAI技術の採用に積極的で、2025年1月にはAIアシスタントを発表。JPモルガン・チェースとモルガン・スタンレーとともに、世界の三大投資銀行として生成AIツールを従業員向けに導入しています。

3. 医療業界での活用事例

医療分野では、マイクロソフトが2024年から、生成AIを活用した医療・ヘルスケア分野での収益獲得を強化しています。ペンシルベニア州に本拠地を置き、総合医療システムを提供する非営利団体のWellSpan Healthは、マイクロソフトのAI搭載診療ツール「DAX Copilot」を導入

DAX Copilotは臨床ノートの作成を自動化し、手動でドキュメントを作成する負担をなくすことで、医師が患者の診断に集中できるようにしています。WellSpan Healthの調査によれば、DAX Copilotを使用した医師の94%が患者との対話の質が向上したと回答し、85%がワークライフバランスの改善を実感しています。

「AGI」「ASI」によるビジネスの可能性・リスクは?

ここまでAIの活用の最新動向を見てきましたが、AGI/ASIが登場することで、さらにビジネスの可能性が広がる一方、大きなリスクが生まれる懸念もあります。

1. ビジネスにおけるAGI/ASIの可能性

■生産性の革命的向上

AGIの実現により、これまで人間にしかできなかった複雑な知的作業が自動化され、生産性が飛躍的に向上する可能性があります。特に日本のような少子高齢化が進む国では、労働力不足の解消に大きく貢献することが期待されています。

■イノベーションの加速

AGIは人間のエキスパートでも数年から数十年かかる研究開発を短期間で行える可能性があります。新素材の開発や薬品の設計、エネルギー問題の解決など、様々な分野で革新的なソリューションを生み出すことで、ビジネスの可能性を大きく広げるかもしれません。

■意思決定の質の向上

AGIは膨大なデータを分析し、様々な角度から考慮した上で最適な意思決定の提案が可能です。経営判断や戦略立案において、人間の認知バイアスを補完し、より客観的かつ包括的な視点を提供することができます。

■新たなビジネスモデルの創出

AGIの登場は、これまでにない新しいビジネスモデルや産業を生み出す可能性があります。完全にパーソナライズされたサービスなど、人間の想像を超える創造的な製品・サービスの開発などが考えられます。

2. AGI/ASI導入に対する批判的見解、懸念点

■技術的な実現可能性への懐疑論

AGIに対する楽観的な見方が広がる一方で、技術者や研究者の間には「そもそもAGI/ASIは実現するのか?」という強い懐疑論も存在します。

■倫理的・哲学的な問題

AGIやASIが人間レベルの知能や自己意識を持つとしたら、それらは道徳的地位や権利を持つのかという哲学的な問題があります。

■実存的リスク(人類存続への脅威)

ASIが人類の存続と相容れない行動目的を持った場合、実存的リスクが現実化する可能性があります。こうした懸念から、「高度なAIによる実存的リスクを緩和するためには、AIアライメント(高度なAIが人類存続と矛盾しないように訓練すること)を徹底する必要がある」という主張もあります。

■雇用と経済格差への影響

AGIが人間の知的労働の多くを代替することで生じる雇用問題は、深刻な社会課題となる可能性があります。

■コントロールと監督の課題

AGIが自律的に行動し、自己改善を繰り返す場合、人間による制御が困難になる可能性があります。この「制御問題」に対してGoogle DeepMindのデミス・ハサビスCEOは、安全性の確保を重視する姿勢を示しています。

AGI・ASIの導入は、ビジネスにおいて多大な可能性を秘めていますが、それに伴うリスクも無視できません。企業は、これらの技術の進展を注視しつつ、倫理的・社会的な側面も考慮した戦略を策定することが重要です。また、政府や国際機関との連携を強化し、適切な規制やガイドラインの整備を進めることで、AGI・ASIの安全かつ有益な活用が期待されます。

「AGI」「ASI」の実現に向けた今後の展望

では、AGI/ASI時代の到来に向けて、企業や個人はどのように備えればよいのでしょうか。以下では、いくつかのポイントをまとめてご紹介します。

■技術動向の継続的モニタリング

AGI/ASI技術の進展は極めて速いペースで進んでいます。企業は最新の研究動向や技術開発を継続的にモニタリングし、自社のビジネスへの影響を定期的に評価することが重要です。特に、OpenAI、Google DeepMind、Meta、Anthropicなどの主要AI開発企業の動向は注視すべきでしょう。

■段階的な導入戦略

AGIへの移行は一夜にして起こるわけではなく、徐々に高度化していく過程と考えられます。OpenAIが提案する5段階のAI進化モデル(チャットボット→推論者→エージェント→イノベーター→組織)を参考にすると、現在は第2段階から第3段階への移行期と位置づけられます。企業は現在利用可能なAI技術から段階的に導入を進め、組織の適応力を高めていくことが望ましいかもしれません。

▼OpenAIが提案する5段階のAI進化モデル

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■人材育成と組織文化の変革

AGI/ASI時代には、人間とAIがどのように協働するかが重要になります。AIと効果的に連携できる人材の育成や、AIを前向きに活用する組織文化の醸成が求められます。

■倫理的フレームワークの構築

企業はAGI/ASIの導入に際して、独自の倫理的ガイドラインやガバナンス体制を整備する必要があります。AIの判断プロセスの透明性確保、データバイアスの検出と修正メカニズム、倫理的判断を要する状況での人間の関与ルールの設定などにより、社会的信頼を獲得することが重要です。

■産業エコシステムでの協働

AGI/ASI技術は単一企業の取り組みだけでは十分に活用できません。業界団体や研究機関、政府との協働を通じて、共通の標準やベストプラクティスを形成していくことが望ましく、特にデータ共有プラットフォームの構築や、業界標準のAIガイドラインの策定などが重要となります。

■継続的な教育とリスキリング

AGI/ASI時代には、職業や必要とされるスキルが急速に変化する可能性があります。生涯学習と柔軟なキャリア設計がより重要になるでしょう。企業は従業員のリスキリングプログラムへの投資や、新たな職種の創出に積極的に取り組むべきです。

■社会的セーフティネットの再構築

技術変革に伴う雇用構造の変化に対応するため、社会保障制度や教育システムの見直しが必要になる可能性があります。企業も社会的責任の一環として、この議論に参加することが期待されます。

■国際的な規制と協力

AGI/ASIの発展は国境を越えた課題です。国際的な規制枠組みやガイドラインの形成に向けた取り組みが重要になります。

おわりに

いかがでしたでしょうか。AGIとASIの実現は、単なる技術的進歩を超えて、ビジネスと社会全体に根本的な変革をもたらすと考えられます。そしてソフトバンクグループの孫正義会長が主張するように、その実現が早まる可能性もあります。

急速な技術の進化に対して、これから準備と適応が求められます。近い将来に訪れるかもしれないAGI/ASI時代に向け、今回の記事が参考になりましたら幸いです。(了)

文:加藤 智朗
編集:舟迫 鈴(SELECK編集部)

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