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仮想世界と現実をつなげる「XR」とは? VR/AR/MRとの違い、メタバースとの関係性も【事例6選】
「XR(クロス・リアリティ、またはエクステンデッド・リアリティ)」とは、「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」「DR(減損現実)」「SR(代替現実)」といった現実世界には存在しないものを知覚できる先端技術の総称です。
2021年12月17日に公開され話題を呼んだ「マトリックス レザクションズ」。1999年に一作目が公開された同シリーズは仮想空間を舞台にしたSF映画であり、 「目に見えるものが真実とは限らない」という認識に対し、様々な議論を巻き起こした作品です。
昨今、「メタバース(※)」というキーワードが盛り上がりを見せている中、これまではSF作品の中でしか描かれてこなかった仮想空間もいよいよ現実になるのでは、と胸を踊らせている方も多いのではないでしょうか。
※メタバースについてはこちらのSELECK記事をご覧ください。
出典:「ムーンショット型研究開発制度の概要及び目標について」 (内閣府「第48回総合科学技術・イノベーション会議 – 2020年1月23日開催)
そうした中、実は内閣府でも2020年1月に「ムーンショット目標」として6つの目標が掲げられており、その第一目標として「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」という内容が記されています。
具体的には、2050年までに複数の人がアバターを遠隔操作できる空間を実現し、望む人はみな身体能力や認知能力を拡張できることで新しい生活様式を普及させる、というものです。
こうした新たな社会の実現を可能にする手段として欠かせないのが「XR」です。
以前はVRゲームを筆頭にB2C領域で活用されてきましたが、昨今は作業の効率化や生産性の向上に寄与するとして、IT企業に留まらず行政や医療業界、製造業などでも導入されるようになりました。
大手市場調査会社ReportOceanの調査によると、XRの市場は2021年から2026年において62%以上の成長率が見込まれており、2030年には世界のVR・AR市場規模は4,535億米ドルに達すると予測されています。
そこで今回は、「XR」についてその定義や注目されている背景、「メタバース」との関連性、そしてビジネスにおける「XR」の活用事例までを徹底解説いたします。
<目次>
- 「XR」とは何か?
- 「VR=仮想現実」は誤訳だった?メタバースとXRの関係は?
- 「XR」が注目されている3つの背景とは?「DX」の次は「VX」?
- 【事例6選】ビジネスにおけるXR活用の可能性
「XR」とは何か?
先ほどお伝えした通り、「XR(クロス・リアリティ、またはエクステンデッド・リアリティ)」とは「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」「DR(減損現実)」「SR(代替現実)」といった現実世界には存在しないものを知覚できる先端技術の総称です。
技術進歩の中でVRやAR、MRなどの境界が曖昧になったことで「XR」という言葉が生まれました。では、それぞれの技術について説明していきます。
①「VR(Virtual Reality)」(仮想現実)
VRとは、CGや3D技術によって作られた仮想空間を現実のように体験できる技術のことです。
XRの中で最も古い歴史を持ち、初めてVRのコンセプトが登場したのは1935年に発表されたスタンリー・G・ワインボウムのSF小説「Pygmalion’s Spectacles」と言われており、1960年頃から本格的に技術研究が進められました。
日本ではPlayStation VRが発売された2016年がVR元年と言われているように、かつてはエンタメ領域での活用が多く見られましたが、昨今ではVR空間上でのミーティングやオフィス見学、社内研修などを実施する企業もあります。
②「AR(Augmented Reality)」(拡張現実)
ARとは、現実世界にバーチャル情報を重ね合わせて体験できる技術のことです。
VRはあくまで現実世界とは異なる「仮想空間を実現する」のに対し、ARは「現実世界上にバーチャル情報を重ねる」という点が異なります。
身近な例でいうと、2016年にサービスをスタートし社会現象にもなった「ポケモンGO」、写真加工アプリ「SNOW」などが挙げられます。
また、auと渋谷区観光協会、渋谷未来デザインによる共同プロジェクト「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」では、スクランブル交差点でスマホを掲げると、空を魚が泳いだり、天気予報や地図情報が表示されるなどARを活用したコンテンツが披露されました。
▼「バーチャルな渋谷」と「現実の渋谷」に重ねるAR技術
③「MR(Mixed reality)」(複合現実)
MRとは、現実世界とバーチャル情報を融合させる技術のことです。
ARは現実世界にバーチャル情報を重ねて「拡張」する技術である一方、MRは拡張よりさらに「複合」させることでバーチャル情報をよりリアルに感じられるという点が異なります。
Microsoft社が開発した「Microsoft HoloLens」やキャノンが開発した「MREAL」がMR用デバイスとして有名で、シミュレーションの精度を向上できるとして、主に製造業や建築業、医療業界を中心に活用されています。
例えば、東急建設では建設現場に3Dデータを表示することで部材や設備が図面通りに配置されているのかを確認するなどして、業務効率化に取り組んでいるそうです。
④「DR(Diminished Reality)」(減損現実)
DRとは、「消すAR」と呼ばれるもので、情報をプラスするARとは反対に現実世界に存在するものを消して見えなくする技術のことです。
難しく聞こえますが、動画編集で映り込んでしまった不要な情報を削除する技術をリアルタイムに行うようなもので、DR自体は新しい概念ではありません。
⑤「SR(Substitutional Reality)」(代替現実)
SRとは、現実世界に過去や未来、虚構の情報を重ね合わせることで錯覚を起こす技術のことです。
他の技術と異なる点は、SRを用いた映像を見ている人が「今見ている世界は非現実である」ということを認識しない点で、まさに、自分がいる空間が仮想現実だと気づいていない「マトリックス」と同様の世界が実現可能になります。
SRはまだ具体的な活用事例はありませんが、開発元である理化学研究所が「MIRAGE」というパフォーマンスアートを公開しています。同作品は、現実と虚構の判断が難しい中で10分間のパフォーマンスを体感するというものです。
また、SRはその特徴を生かして、人間のメタ認知(目の前で起きていることが現実かそうでないかを判断するための高次認知機能)や、心的外傷後ストレス障害といった心的疾患への心理療法への活用、さらにはインタラクティブなメディア体験装置として、これまでとは全く異なる次世代の表現も期待されています。
VR=仮想現実は誤訳だった?メタバースとXRの関係は?
XRの普及や、メタバースの出現によって近年より身近になった「仮想現実」というワード。
実は、国内においてVRがゲームやアニメなどのエンタメ領域で発展してきた背景には、VRという言葉が輸入された明治時代に「仮想現実」と誤訳されてしまったから、とする説があります。
VRの訳語について、日本バーチャルリアリティ学会は次のような見解を示しています。
バーチャルリアリティのバーチャルが仮想とか虚構あるいは擬似と訳されているようであるが,これらは明らかに誤りである.バーチャル (virtual) とは,(中略)「みかけや形は原物そのものではないが,本質的あるいは効果としては現実であり原物であること」であり,これはそのままバーチャルリアリティの定義を与える.
(引用元:バーチャルリアリティとは – 日本バーチャルリアリティ学会)
誤訳された背景は、VRという言葉が登場する以前に、米IBMが開発したvirtual storage(=virtual memory)を日本IBMが「仮想記憶装置」と訳したことで、VRにも同様に「仮想」という訳が当てはめられてしまったことだとされています。
※参考:VR=バーチャルリアリティは,”仮想”現実か – NHK
つまり、日本では「VR=仮想現実」と訳されたことで、現実とは異なるもう一つの空間を作ろうとする動きと認識されてきましたが、海外ではVRは現実に似せた「疑似現実」を示すことが一般的です。
昨今、海外で「メタバース」というワードがブームになった背景も、この「疑似現実」と差別化する目的があったのではないかとする説もあります。
そして、このメタバースと一緒に語られることも多いVRですが、ここで誤解されやすいのが「メタバースの実現にVRをはじめとしたXR技術は必須ではない」という点です。
実際に空間に入りこむことができるという点で、VRはメタバースと最も相性が良いとされていますが、スマートフォンやPC等でメタバースを体験できるコンテンツが増えています。
加えて、VRで体感できる仮想空間=メタバースという考え方も間違いで、メタバースは以前の記事でもお伝えした通り「同時性及びライブ性を持つ」「同時接続ユーザー数に制限がない」「経済性を持つ」といった条件があり、これらを満たしたものでなければメタバースとはいえません。
つまり、XRで体験できるもの=メタバース、メタバース=XRで実現できるもの、ではなくあくまでもXRはメタバースを実現するための一手段であるということです。
「XR」が注目されている3つの背景とは?「DX」の次は「VX」?
「XR」が注目されている背景をここでは3つ紹介いたします。
まずは、5Gの登場とXR関連製品の低価格化です。5Gによって圧倒的な高速通信と大容量のデータの送受信が可能になり、様々なシーンでXR技術を取り入れやすくなりました。
さらに、かつては非常に高価で一部の人しか手に入れられなかったヘッドマウントディスプレイですが、疲労を軽減するための軽量化も進むと同時に、個人での購入が可能な価格まで低廉化してきています。
そして二つ目は、COVID-19の感染拡大により、急速にXRの需要が高まったことです。人との直接的な接触を避けなければならない状況下でのリアルなコミュニケーションの実現を目指し、様々なツール、アプリケーションの開発が一気に推し進められました。
最後に、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が推進される中でXRの活用も期待されていることです。
コンサルティング会社ITRのマーク・アインシュタイン氏は「世界が共通で抱える社会課題は、DXを推進しても解決できず、DXのより先にあるVX(Virtual Transformation)が必要である」と話します。VXとは、「現実世界と仮想世界を融合することで行う変革」です。
2021年9月のデジタル庁の発足にも見られるように、日本政府は近年DXを推進してきましたが、DXに取り組む企業は未だ15.7%と、7社に1社ほどに留まっているのが現状です。
DXも遅れているのにVXなんて…と感じるかもしれませんが、リモートワークの普及とメタバースの流行により、VXも「取り組まなければならない」時代がすぐそこまで来ているのかもしれません。
※参考:「VX」がDXの次にやってくる、メタバースやデジタルツインの先進事例は? – ビジネス+IT
【事例6選】ビジネスにおけるXR活用の可能性
ここまでXRについて説明してきましたが、最後に、ビジネスシーンにおいてXRを活用した事例を3つのカテゴリに分けてご紹介します。
・業務効率化・生産性の向上
①ARで物流を効率化、作業時間の削減を目指す / 京セラ
京セラではAR技術を活用して物流の効率化に取り組んでいます。具体的には、受入チェックと出荷業務において、データ照合のために事務所と倉庫に行き来しなければならないという無駄に着目。
音声入力によるデータの自動照合やスマートグラスに作業指示を映し出すなどして、作業時間を15%削減することを目指し検証をスタートしています。
※参考:スマートグラスで現場DX、物流業務を改革した京セラの取り組みに迫る – Tech Factory
②XRを用いた自動車整備の働き方改革 / トヨタ自動車
トヨタ自動車は、Microsoft社が初代「HoloLens」を発売した2016年ごろから、自動車におけるXR活用を試み、全国57店舗の「GR Garage」において修理メンテナンスやトレーニングにMR技術を導入しています。
MRを用いて配線図の表示や新車機能の解説、さらには作業トレーニングや遠隔地とのコミュニケーションにも活用されています。
※参考:トヨタが挑戦するxRを活用したもっといいクルマづくりとサービス提供 – MONOist
・採用・人材育成
③2022年度新卒内定者向けにワークショップをVRで開催 / 伊藤忠インタラクティブ株式会社
伊藤忠インタラクティブ株式会社はフェンリル株式会社と合同でVR空間を構築できる「VR VENUE」をリリースしたのに伴い、VRを用いた2022年度新卒内定者向けのワークショップを開催しました。
その内容は、内定者が複数のチームに分かれ、ディスカッション用のVR空間で「次世代の採用イベント」を企画するというもの。優れた企画は2023年度の新卒就活生に向けて展開される予定です。
※出典・参考:伊藤忠商事新卒内定者×伊藤忠インタラクティブ「VR VENUE」、VRを活用した「次世代採用イベント」創出プロジェクト10月25日始動! – PR TIMES
④VRを用いた独自の研修用ゲームを開発 / ケンタッキーフライドチキン
KFCでは新人研修でVRを用いたゲームを活用し、フライドチキンの作り方を学んでいるといいます。脱出を目指すホラーゲーム形式で、研修用とは思えない雰囲気がYoutube上で話題を呼びました。作業内容を支持する声は、ケンタッキーの創業者であるカーネル・サンダースというこだわりも。
・CX(顧客体験)の向上
⑤ 24時間アクセス可能なバーチャル店舗「仮想伊勢丹」/ 三越伊勢丹
2021年3月に、三越伊勢丹ホールディングスはVRを活用したスマートフォンアプリ「REV WORLSD」を発表しました。同アプリは、アバターを用いて仮想都市上の伊勢丹にて実際に商品の購入ができるというものです。
買い物のみならず仮想空間上の人とコミュニケーションを図ることもでき、利便性は高い一方で会話ができないECと比べて高い体験価値が提供可能とされています。接客にも力を入れており、リアル店舗の販売員を3G化したアバターも登場するそうです。
※出典・参考:新たな顧客体験の提供価値を目指す VR(仮想現実)を活用した三越伊勢丹の新たな取り組み – 日経ビジネス
⑥VRを活用したマーチャンダイジング / アクセンチュア
アクセンチュアは、Kellogg’sとQualcommと共同で、視標追跡機能を搭載したVRソリューションを開発。同技術を用いて消費者の視線トラッキングを行い、商品の陳列の最適化を行いました。
具体的には、調査によって消費者の大半が新商品は高めの位置に陳列されていると認識していることが判明し、新商品を低めの位置に陳列してみたところ他の商品の販売も促進され、ブランド全体の売り上げが18%上昇したそうです。
※参考:仮想現実(Virtual Reality/VR)マーチャンダイジング – accenture
いかがでしたでしょうか。「XR」はメタバースの盛り上がりとともに、今後もビジネスシーンにおける活用が広がっていく分野だと考えられます。引き続き、注目していきたいと思います。