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【国内外・事例6選】話題のバーチャルオフィスツール、どう使う?各社おすすめの使い方を大公開
今回ご紹介する「バーチャルオフィス」とは、Web上に構築された疑似的なオフィス環境のことです。
2021年8月にMeta社がVR空間で勤務ができるサービス「Horizon Workrooms」を発表したことをきっかけに、「バーチャルオフィス」という言葉が再び注目を集めました。
▼Horizon Workroomsの紹介動画
従来、バーチャルオフィスという言葉は「住所や電話番号をレンタルした架空のオフィス」として、郵便物の受け取りや保管、電話の受付や転送をしてくれるオフィスの一部機能をサービス化したものを指すことが一般的でした。
しかしコロナ禍を経て、リモートワークと出社を掛け合わせたハイブリッドな働き方を導入する企業や、オフィスを手放す企業も増えてきました。こうした流れから、Web上の仮想空間としてのバーチャルオフィス市場が盛り上がりをみせています。
実際に、IT業界で市場調査を行うITRによると、国内の市場規模は2020年度には3億2,000万円となり、前年度から6.4倍に拡大しています。今後も市場は活性化し続け、2020年から2025年のCAGR(年平均成長率)は96.8%になるという予測もあります。
▼図.バーチャルオフィス市場規模推移および予測(2019~2025年度予測)
出典:ITR「ITR Market View:ビジネスチャット市場2021」
加えて、コロナ収束後も約6割の人が在宅勤務を希望しているとする調査結果や、約44%の人がメタバース上で働くことを厭わないと回答している調査もあり、バーチャルオフィス市場は今後より一層注目されていくでしょう。
そこで本記事では、バーチャルオフィスの定義からそのメリット、ツールの選定基準や国内外の活用事例までを詳しくご紹介します。
<目次>
- バーチャルオフィスとは?よくある2つの誤解
- バーチャルオフィスで重要な「アバター」、その定義と歴史
- バーチャルオフィスにはどんな種類がある?
- 【事例6選】国内外のバーチャルオフィス活用事例
バーチャルオフィスとは?よくある2つの誤解
「Web上に構築された疑似的なオフィス」であるバーチャルオフィスを導入することで、物理的に出社せずとも、社内メンバーとWeb上で同期的なコミュニケーションをとることが可能になります。
しかし、Meta社の「Horizon Workrooms」やMicrosoft社の「Mesh for Teams」の3Dアバターのイメージが先行していることもあり、バーチャルオフィスはインターネット環境を整えたり、VR機器を揃えるのにコストがかかるのでは…と感じている方も多いのではないでしょうか。
これはバーチャルオフィスに関するよくある誤解のひとつですが、「VR機器がないと、バーチャルオフィスを利用できない」というのは間違いです。
VR機器がなくても、Webブラウザから簡単に参加できるバーチャルオフィスも数多くあります。これらの具体的なツールは後半でご紹介します。
また、「バーチャルオフィス=メタバース」という認識も、よくある間違いです。バーチャルオフィスには、オフィスをバーチャル空間上に再現するものや音声に特化したものなど様々なタイプが存在するため、必ずしもすべてがメタバースとはいえません。
※メタバースの定義について詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください
バーチャルオフィスが注目されている背景には、メタバースの概念が広まったことやXR機器の開発が進んだことが挙げられます。加えて、いわゆる「Zoom疲れ」や偶発的な会話の不足、帰属意識の低下といったリモートワークに起因する諸課題の解決が期待されていることも挙げられます。
特に、Zoom疲れは深刻な問題として取り上げられています。The Journal of Applied Psychologyの研究によると、カメラをオンにして通話した人の疲労感はオフにしていた人よりも高く、その疲労は当日だけでなく翌日のパフォーマンスにも影響するそうです。
他の研究でも、セルフビデオをオンにした状況では、自分の外見に不満を持つ人ほどビデオ通話の疲労感が高く、これは女性の方が顕著だといいます。
こうした背景も踏まえ、バーチャルオフィスを構成する要素の中でも鍵を握るとされるのが「アバター」です。
実際に、カメラを使用せずにアバターを用いることは疲労感を軽減させるだけではなく、「孤独感を無くし、共存感覚を生み出す」「リアルの会話よりも快適に感じる人もいる」とも言われています。
参考:The Top 5 Evidence-based Benefits of Using Avatars for Your Next Virtual Event – MooTUp
バーチャルオフィスで重要な「アバター」、その定義と歴史
出典:WHAT IS AN AVATAR, REALLY? – X PRIZE
昨今、メタバースと共に語られるこの「アバター(Avater)」という言葉ですが、その語源はサンスクリット語で「(神や仏の)化身」を意味する「アヴァターラ」だとされています。
現代においては、インターネット上の掲示板やSNS、オンラインゲーム等で利用される「自分の分身」としての画像やアイコン、3Dキャラクターを主に指します。
コンピューターの世界で初めて「アバター」という言葉を使ったのは、1985年に発表されたアクションアドベンチャーゲーム「Ultima IV」です。しかし当時は、「自分の分身」を意味せず、別の意味で使われていたといいます。
「自分の分身としてのアバター」が初めて登場したのは、メタバースの元祖とされるロールプレイングゲームの「Habitat(1986)」です。日本では、Habitatを日本仕様に変更する形で富士通が開発した「富士通 Habitat(1990)」をきっかけに、現代の私たちがイメージする「アバター」が広く知れ渡りました。
▼「富士通Habitat」の画面
出典:『Habitat II』サービスのコンセプト – 富士通
アバターが活用された背景には、Habitatの制作者たちが「バーチャル空間の価値はそこで活動する人々のインタラクションの程度によって価値が左右される」という考えの元、「アバターはコミュニケーションを促進する」という仮説があったからだといいます。
当時は商業的な文脈でアバターの価値が語られていましたが、アバターを活用した方がコミュニケーションが促進されるという仮説は、リモートワークでバーチャルオフィスを活用することがコミュニケーションの一助になることを示唆しているのではないでしょうか。
参考:水越 康介,「最初のアバター系サイトとしての富士通 Habitat」,2006.02
バーチャルオフィスにはどんな種類がある?
では、バーチャルオフィスにはどのような種類があるのでしょうか。ここでは3つのタイプに分けてご紹介します。
①VRやMRといった最先端の技術を用いてオフィスを再現するタイプ
まずは、Meta社の「Horizon Workrooms」やMicrosoft社の「Mesh for Teams」のように、VR技術を活用し、まるでリアルなオフィス空間にいる感覚で共同作業ができるタイプです。3Dのアバターをメインに活用し、表情や音声だけでなくボディランゲージも含めた会話ができることが強みです。
▼Microsoft社の「Mesh for Teams」
出典:Mesh for Microsoft Teams aims to make collaboration in the ‘metaverse’ personal and fun
神経科学を研究する企業Neuronsは2017年に、バーチャル空間でのコミュニケーションが人々にどのような影響をもたらすかを研究しています。
バーチャル空間で会話した人々の脳波を分析した結果、退屈でもなく刺激も過剰でない、情報を処理・記憶するのに最も理想的な認知ゾーンでコミュニケーションを取れていたといいます。
さらに、個別インタビューではおよそ93%の人が「バーチャル空間で会話した相手を好きになった」と回答し、内向的な人ほどこの傾向は顕著だったそうです。
出典・参考:How Virtual Reality Facilitates Social Connection – Meta for Business
②アバターやアイコンを用いて自然発生的なコミュニケーションを促すタイプ
2つ目は、アバターやアイコンを用いて自然発生的なコミュニケーションを促すタイプです。2Dでは、「oVice」や「Gather」「Remotty」、3Dでは「cluster」や「RISA」が知られています。
▼「Gather」で作られたバーチャルオフィス
「ビジネスメタバース」を提唱するoVice株式会社CEOのジョン・セーヒョン氏は、3Dメタバースはデバイス依存とネットワーク依存が発生するためビジネスと相性が悪く、「oVice」はあえて2Dにこだわっているといいます。
実際、VR機器を使用するバーチャルオフィスは、人のデバイスのスペックやインターネット環境に左右されてしまうことや、長時間利用による疲労問題などから、普及が難しいと言われている側面もあります。
③音声コミュニケーションに特化したタイプ
そして最後に、音声コミュニケーションに特化したタイプです。以前にSELECKでもご紹介した「Tandem」や「SpatialChat」などが当てはまり、国内発では「roundz」というツールが知られています。
▼「SpatialChat」の紹介動画
音声に特化したタイプは、「普段から本格的なバーチャルオフィスツールを使うのはハードルが高い」「人数が多くないので手軽なツールを試したい」「パソコンへの負荷が軽い方が良い」という方におすすめです。
【事例6選】国内外のバーチャルオフィス活用事例
ここまでバーチャルオフィスについて説明してきましたが、最後に、バーチャルオフィスの活用事例を8つご紹介いたします。
・国内
①約200名が参加!バーチャル空間で「お産合宿」 / GMOペパボ
GMOペパボ社は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、2020年1月からリモートワークでの勤務が増える中、同年の4月からバーチャル空間共有サービス「cluster」を活用しています。
有志のエンジニアが東京オフィスの会議室や共有スペースを3Dで再現したことで、非常にリアルなオフィス空間が実現されています。
過去には、内定者向けの「バーチャルオフィスツアー」や、オフィスで実施していたストレッチ教室など、様々な取り組みをcluster上で実施したそう。その中でもユニークなのが、「バーチャルお産合宿」です。
この「お産合宿」は同社が2007年から実施している開発合宿で、エンジニアに限らず様々な職種の人が1泊2日の合宿に参加し、開発と品評会(アウトプット)を行うイベントです。新型コロナの感染状況も鑑み、このお産合宿を、2020年はバーチャルオフィス上で実施しました。
▼「バーチャルお産合宿」の様子
発表に必要な3枚のスライドさえ用意すれば何でもアウトプットしても良いとしたこと、そして宿泊が不要になったことで参加のハードルが下がり、通常30名程度の参加者が約200名まで増えたそうです。
参加者の方からは、「隙間時間で色々な展示をみれてよかった」「メカニカルな展示以外にもいろいろな展示があって楽しかった」等の声があったといいます。
また、同社では同時に「Gather」も活用しており、2021年の春には社内交流イベントとしてお花見を実施したそうです。
▼同社のお花見の様子
Gatherはアカウント作成が不要で、自分のアバターを設定するだけで入室が可能です。従って送別会や歓迎会、社外の人も巻き込んだクリスマスパーティーなど、単発のイベントに向いているとのこと。
会場のカスタマイズも可能なので、お花見当日はオフィスがある渋谷、福岡、鹿児島を感じられる仕掛けも施され、大変盛り上がったそうです。
ブルーシートの上で食事を囲みながら談笑したり、ベンチシートで休憩したり、焚き火を囲みながら生演奏が行われたりと、同じ空間にいながらも自分の好きな楽しみ方ができるのがとても嬉しいですね。今年もあと1、2ヶ月でお花見シーズン。ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
② VR空間上での「取材」も。様々なツールをどんどん試す / ゆめみ
インターネットを主とした開発・制作・コンサルティングの内製化支援を展開する株式会社ゆめみ。ホームオフィスからのリモートワークを社内標準とする同社では、メンバー同士のコミュニケーション・交流の場として複数のバーチャルオフィスツールを導入しています。
例えば2021年から導入した「oVice」では、下記のような取り組みが実施されているそうです。
- 毎日15時〜15時30分を「雑談タイム」と定め、総務メンバーがラウンジに待機。リモートワークにおける雑談コミュニケーションを活性化。
- 主にエンジニア向けの勉強会を開催。直近では「Flutter 雑談会」や、外部の技術イベントを一緒に視聴する会などが実施された。
- 有志社員が運営する「スナック」を開店。専用の背景を作成し、YouTubeで無声映画を画面共有で流すなどムードづくりも工夫。
▼【上】「スナックそめやん」の様子 【下】ある日の雑談タイム
他にも、実験的に「Gather」を活用したり、「Horizon Workrooms」を利用したVR空間での対談取材を実施したりと、リモートワークにおける最適な環境を常にアップデートし続けています。
▼「Horizon Workrooms」上にバーチャル支社を構築し、取材の場として活用
バーチャルオフィスには誰でも自宅からアクセスが可能なため、気軽に新しいツールを試すことができるのも魅力ですね。
③採用候補者の方に「会社の雰囲気」を感じてもらう / ミラティブ
スマホ1台でゲーム配信ができるアプリを提供するミラティブでは、2021年10月から「Gather」を導入。
もともとは、2020年3月にフルリモートワークへと移行した際に様々なコミュニケーションツールを試験的に導入していたそうですが、なかでもGatherが同社のカルチャーに一番フィットしていたことで全社導入を決定したそうです。
基本的には、日々の気軽な業務相談、部ごとの日次・週次ミーティングや部内・全社交流会といったシーンで活用しているといいます。
▼同社の普段のバーチャルオフィスの様子
Gatherの高いカスタマイズ性を損なわないように、またバーチャルオフィス自体に愛着を持ってもらうため、ルールを作りすぎないようにしている点がポイントとのこと。
そして同社では、採用においてもバーチャルオフィスを活用。その目的は、フルリモートワークで伝わりづらくなった「会社の雰囲気」を候補者の方に感じてもらうことだそうです。
具体的には、まずバーチャルオフィス上で実施しているミーティングに参加してもらい、普段のチームコミュニケーションの雰囲気やチームが抱えている課題感などを知ってもらいます。その後、バーチャルオフィスのツアーも実施するそうです。
実際に参加した候補者の方からは、「ミーティングの雰囲気がよく、メンバー同士の関係性の良さも見えてよかった」という声があがり、その場で選考に進むことを決めた事例もあるとのこと。
「Slackの活用の仕方で会社のカルチャーがわかる」とよくいわれますが、バーチャルオフィスの使い方を通じて会社の雰囲気やカルチャーを知ってもらうことが主流になる日も、そう遠くないかもしれません。
④社外向けのイベントは「事前資料」で参加をスムーズに / ジョイゾー
サイボウズ社のアプリ「kintone」の開発支援などを行うジョイゾーはフルリモートでの勤務を行っており、2020年から「oVice」を導入しています。
出社と同時にoViceにログインし、また任意参加ではありますが、朝の9時半から業務前の雑談を実施。ミーティングの際には、oVice上の会議室も利用しているそうです。
基本的にリアルのオフィスと同様、執務室やパブリックエリアにいる状態は「話しかけていいよ」という合図。また、コミュニケーション活性化のため、毎日同じ場所で作業しないということも意識しているといいます。
2022年2月には、社外向けイベント「スナックジョイゾー」を開催。元々はオフラインでの実施を予定していたものの、コロナの影響もありバーチャル空間での実施に挑んだとのこと。
▼イベント開催中の様子
認知が広まってきているとはいえ、実際に触ったことがある人はまだまだ少ないバーチャルオフィスツール。はじめて体験する方もいることを踏まえ、oViceの使い方をPDFにまとめ、参加者の方に事前に共有したとのこと。
▼実際に配布された資料の一部
事前に社内でリハーサル等も行いながら声の聞こえ方等もチェックしたそうで、その内容を元に資料も作り込んだそうです。
バーチャルオフィスツールを活用してイベントを実施する場合、こういった気遣いは参加者にとって嬉しいかもしれませんね。
・海外
⑤世界中の人が集まる無限オフィス「Nth Floor」 / アクセンチュア
大企業における導入の一例として、アクセンチュアの取り組みを紹介します。
同社では、マイクロソフト、AltspaceVRと共同で「Nth Floor」と呼ばれるバーチャルオフィスを構築。ここには世界中の従業員がアクセスでき、実際に会話ができるとのこと。「Nth Floor」の「N」は構築できる仮想フロアが無限であることを意味しています。
Nth Floorはサミットや会議、採用イベントや新しいテクノロジーの発表会、研修などで活用されているといい、開催内容や目的に合わせて最適な空間が構築されています。
さらに、VRの専門家のひとりはNth Floorを利用して、毎週火曜日に社内外向けに炉辺談話会を開催しているそうです。具体的には、「バーチャルイベントの課題」「VR空間における放送の未来」といったトピックを設け、第三者の専門家を交えながらディスカッションを行っているといいます。
⑥バーチャルオフィスでコストを削減し、ビジネスを急成長 / eXp Reality
eXp realityはアメリカのワシントン州に住所をもちながら、フルリモートでの勤務を導入している不動産仲介会社です。オフィスにかかるコストを削減し、不動産仲介料の手数料を下げることでビジネスモデルを急成長させた企業として知られています。
同社は、バーチャルオフィスを開発するVirBELA社が開発した「eXp World」という専用のソフトを用いて、毎日バーチャルオフィスに出社しているそうです。湖やサッカー場などユニークな休息の場も設けられているため、移動中にコミュニケーションをとって交流を深めることも可能とのことです。
最後に、バーチャルオフィスにさまざまな種類がある中でどのような点に注意して選定すべきか編集部でポイントをまとめてみました。こちらもぜひ、参考にしてみてください。
いかがでしたでしょうか。「バーチャルオフィス」はリモートワークの普及と共に、コミュニケーションを補完するものとして活用が広がる分野だと考えられます。引き続き、注目していきたいと思います。(了)