- 株式会社HIKKY
- PRチームチーフ
- 大河原 あゆみ
アバター出社は当たり前!「見た目」から解放された平等な世界を実現するHIKKYの働き方
リモートワークがスタンダード化したことで、VR等の技術を用いて仮想空間上に構築される「バーチャルオフィス」が注目を集めている。
バーチャル空間上のオフィスを利用することで、出勤に要する時間などの「身体的な制約や負担」を減らすことが可能だ。また、自分自身の分身を表すキャラクターであるアバターを用いることで、人の「見た目」から生まれるバイアスを排除できる、という「精神的な効果」も期待できる。
実際にバーチャル空間上のオフィスとアバターを活用することで、経歴や性別を超えた「平等な働き方」を実現するのが、株式会社HIKKYだ。
同社は、VRイベントの企画・運営、メタバースサービスの開発・実験等を展開しながら、100万人を集める世界最大級のバーチャルイベント「バーチャルマーケット」を運営していることでも知られる。
HIKKYでは、設立当初からフルリモートでの勤務体系を採用し、SlackやDiscordに加えて、VRChat上にもバーチャルオフィスを構築。約80名の社員のうち、一部は本名ではないバーチャルネームを使用し、VRChatやGoogle Meetで実施されるオンラインミーティングでは見た目や声をカスタマイズした状態で勤務しているのだという。
▼同社のバーチャルオフィスにおけるミーティングの様子
同社でPRチームのチーフと法人営業を担当する大河原 あゆみさんは「アバターを用いて『理想の自分』になることで、自己肯定感を高め、見た目や経歴に左右されないフラットなコミュニケーションを実現できる」と話す。
今回は大河原さんに、HIKKYにおけるバーチャルな働き方から、そのメリットまでを詳しくお伺いした。
大ブーム中の「メタバース」活用を検証するHIKKYの取り組み
私は元々、放送局でアナウンサーをしていました。代表の舟越とは学生時代からの友人で、HIKKYには出産後に入社し、現在はPRチームのチーフのほか、法人営業も担当しています。
▼PRチームチーフ 大河原 あゆみさん
HIKKYはXR(※)技術を活用したコンテンツの制作から、イベントの企画・運営、さらに最近ではメタバースの活用について、さまざまな企業と実証実験を行っています。
※XR(クロス・リアリティ)とは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった、現実世界には存在しないものを知覚できる先端技術の総称
「メタバース」という言葉がブームになっている一方で、お問い合わせいただく時点では「ニュースで聞くけれど、よくわからないです」という温度感の場合がほとんどです。なので、お客様の状況や課題をヒアリングしながら、メタバースの活用が有効かどうかを一緒に考えさせていただくことが多いですね。
活用が有効そうな企業様に対しては、企画から入らせていただき、バーチャル空間の設計や具体的にどのような成果を生み出すかまで、全体をプロデュースしています。
▼HIKKYが提唱する『オープンメタバース』のイメージ
とくに、日本だけではなく世界に向けてブランディングをしたい、という企業様にはメタバースの活用は非常に向いています。地理的な制約がないことと、メタバースブームも相まって注目されやすく、感度の高い人が集まるのでPR手段としては有効ですね。
ただし、「バーチャルマーケット」という仮想空間上にある市場の存在が一般的にも知られつつある一方で、VRを使用したビジネスがすぐ結果には結び付けられないのが現状です。VRはまだまだ発展途上、過渡期の中にいる状態だと考えています。
お互いのリアルな顔も名前も知らない「バーチャル空間」で働く理由
HIKKYでは、主に3つのツールを活用してフルリモート体制の勤務を実現しています。
まずは日常の社内コミュニケーションを行うDiscord、プロジェクトごとの情報のストックや外部のお客様とのやりとりに使うSlack、そしてバーチャルオフィスの運用や、商品の制作に活用するVRChatです。
前提として、私たちは、たとえ時間や身体的にハンデがある人でも「いつでも、どこでも自由に働ける」環境を目指しています。理由として、世界中にメンバーがいることもありますが、それ以上に各人の才能が最大限に発揮される働き方を目指しているんですね。
その背景には、HIKKYの「バーチャルマーケット」の創始者でありCVOであるフィオの過去の経験が大きく影響しています。
▼CVOフィオさんのアバター
彼は元々、一部上場企業に勤めた後、ベンチャー企業の経営者として働いていたのですが、ある日突然重度のうつ病を患ってしまって。外出や人と話すことが困難な中で、のめり込んだのがVRの世界でした。
VR空間を設計し、そこに経済圏や生活圏を作ったら面白いのではないかと世界に先駆けて取り組んでいたところ、現CEOである舟越と出会ったんです。
こうした背景もあり、HIKKYは設立当初から全員がリモートでの勤務を前提とした働き方をしています。
一部の人は本名ではなくバーチャルネームを使っていたり、Google MeetなどのオンラインMTGでもアバターを映すことでお互いのリアルな姿を知らなかったり、ボイスチェンジャーで声を変えている人もいたり…。こうした働き方が、HIKKYにとっては当たり前のものなんですね。
アバターで「理想の自分」に。見た目から生まれるバイアスを排除
ただ、このような働き方をしていると困ることもあるんですよ。例えば、経理のメンバーが事務処理を行う際に、本名とバーチャルネームをリンクしないといけないので手間がかかります。
けれども、この面倒臭さがあったとしても、バーチャル空間で働くことにはすごく意義があると思っていて。
バーチャル空間でアバターになった瞬間に、年齢や性別などの見た目から得る情報に左右されなくなりますし、過去の経歴も何も関係がなくなって、とてもフラットにコミュニケーションできるんです。
例えば、代表の舟越にいたってはバーチャル空間上では二頭身のスーパーマンの格好をしているので、赤ちゃんみたいで可愛いんですよ(笑)。
実際の舟越は40代の男性で、新入社員にとっては話しかけづらい強面な雰囲気もあるのですが、アバターであれば「ねえ、元気?」とこちらがしゃがみ込んで聞きたくなってしまうような見た目なんですよね。
▼CEO舟越さんのアバター
他にも、HIKKYのメンバーはエンジニアが多く男性比率が高いのですが、8割は女性的な見た目のアバターを使っています。
さらに、バーチャル空間では一瞬にして「理想の自分」になることもできるので、自己肯定感が高まった状態でコミュニケーションを取れる、という点も大きなメリットです。
恋愛も社内コミュニケーションも同じだと思うのですが、自分に自信がないことで、円滑なコミュニケーションが難しい時ってありますよね。一方では、自己肯定感が高ければ会話が楽になる、成果も出る、仕事がもっと楽しくなる、という好循環も起こり得ると思うんです。
舟越の例も踏まえ、人は見た目で喋り方を変えているのだなと実感しますし、「バーチャル空間だからできる会話」も存在すると思います。普段、社長にタメ口なんて使えないですが(笑)、バーチャル空間であればリアルでは言いづらい意見もどんどん言いやすくなったりしますね。
つまり、バーチャル空間上では先入観を持つことなく、お互いに自己肯定感の高い状態でコミュニケーションがとれるので、各人の才能や実力にフォーカスした状態で働くことができるんです。
日常の会話と採用要件で、「支え合い」のカルチャーを醸成する
こうしたコミュニケーションが成立している背景として、アバターを活用していることに加え、日々のテキストコミュニケーションを通じてお互いに支え合う文化が成り立っている、ということも挙げられます。
VRChatのバーチャルオフィスに出社する機会は稀で、普段の社内コミュニケーションや連絡はDiscordやSlackがメインです。Discordは特に作り込んでいて100個ほどのチャンネルがあり、全員が始業時にログインするようにしています。
▼Discord参考画像(Discord公式サイトより)
例えば「わたしはいま」というチャンネルは、何をつぶやいても良いというルールです。「腰が痛い」「コロナで保育園が休みになった」など、日常の些細なことをつぶやける環境にしています。
こうした環境を整えることで、オンラインでは生まれづらいと言われている雑談も、HIKKYでは活発です。
私たちはエンタメを提供している会社なので、雑談がないなんてあり得ないんですよね(笑)。業務の話ばかりで笑い話もなければ、お客様を楽しませることもできないし、雑談の中から生まれるビジネスチャンスも逃してしまいます。
また、このようなHIKKYのカルチャーを醸成している要素のひとつとして「採用」が挙げられます。私たちはVR関連事業を行っているものの、VRやメタバースについて詳しいかどうかはほとんど重視していません。
採用で大切にしているのは、まずは「オタク」であるかどうか。つまり、語れるほど夢中なものがあって、それを追求できる能力があるかどうかという点。そして、VRやメタバースを詳しく知らなくても溶け込もうと思えるか、そして、オタクに敬意を払えるかどうか、という点です(笑)。
そうした人が集まっていることもあり、HIKKYってものすごく「平等」な世界なんですよね。だからフルリモートの環境下で人がどんどん増えても、問題が起きることは少なくて。現在も全職種で人を採用しているので、HIKKYに興味がある方はぜひバーチャルオフィスに遊びに来ていただきたいですね。
バーチャル空間がすべてではない。老若男女が楽しめる世界を実現
▼HIKKYで働く皆さま
メタバースを始めとするバーチャル空間が世の中では注目を集めていますが、個人的にはHIKKYのようにVR空間をオフィスとして使う必要性は必ずしもないと思っています。便利かどうか、みんなが活用できるかどうかという観点ではまだまだ障壁がありますし、わざわざVRヘッドセットを使わなくても、スマホで簡単に参加できるバーチャルな空間もありますから。
その一方で、VRを活用したメタバース空間は、新たな雇用機会の創出には向いていると思っています。
例えば、アパレルショップの「WEGO」さんがバーチャルマーケットに出店された際に、手足が不自由な女性の方を店員として雇用した事例もあります。
同じように、育児や介護で数時間しか働けない、けれども保有しているスキルが高いという方はたくさんいると思うんです。メタバースを活用すれば、そうした方々が活躍できるチャンスを提供できると思っています。
さらに、消費者側にもメリットがあります。例えば、洋服屋で店員さんに話しかけられたくない、オシャレしていないのでハイブランドのお店に入りづらい、といった時がありますよね。ですがアバターを活用すれば、そうした心理的障壁もなく気軽にお店に行けますし、普段よりも濃いコミュニケーションをすることもできます。
例えば車メーカーのAudiさんは、リアルでは接客の機会が1日10組ほどだったのが、バーチャル空間では100人近くと話すことができたそうです。こうした背景から、新入社員の接客トレーニングとして活用したいとも仰っていました。
私たちはバーチャルマーケットを主催していることもあって勘違いされやすいのですが、必ずしもこのバーチャル空間の世界がすべてだとは思っていません。
VRヘッドセットを使えば、よりリッチな世界観を楽しめることは間違いありません。ですが、それが難しい小さな子どもさんからおじいちゃんおばあちゃんまでの幅広い世代の方に、バーチャルとリアルの世界を行き来して楽しんでいただくことが理想だと思っているんですね。
「今、私はVR機器を使っている」「今、メタバース空間にいる」と意識せずとも自然と使ってしまっているくらい、日常にバーチャル空間が溶け込むような世界を目指していきたいと思っています。(了)