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【事例7選】「内製化」とは? 多くの企業がシステム開発の外部委託をやめる理由を徹底解説!
昨今、業務委託やフリーランスとして働く人材が増え、業務の一部を外部の協力先にアウトソースする企業が増加しています。
特にシステム開発の領域においては、ITベンダーに外注する形態が一般化。2021年10月にIPAが公表した「DX白書2021」によると、「日本国内において社内システムを自社開発している企業は約31%、顧客向けサービスを自社開発している企業は約19%」というデータが明らかになっています。
その一方、米国では「約60%の企業が社内システム、顧客向けサービスの双方を自社開発している」といいます。
▼顧客向けサービスシステムにおける開発手段の活用状況
出典:DX白書2021 日米比較調査にみる DXの戦略、人材、技術(IPA 独立行政法人 情報処理推進機構)
このように、外部に開発を委託する企業が多い日本においても、近年ではファーストリテイリング社、ベイクルーズ社、エディオン社、良品計画社など、数多くの企業でシステム開発の「内製化」が進められています。その背景にはどのようなメリットや狙いがあるのでしょうか?
そこで今回は、「内製化」の定義から、多くの企業が内製化に移行する理由、各社の取り組み事例までご紹介します。ぜひご参考ください。
<目次>
- 内製化とは?
- 今、内製化が注目されている理由
- 内製化のメリット
- 内製化する際に重視すべきポイント
- 内製化のステップ
- 実際に内製化に取り組む企業【事例7選】
内製化とは?
内製化とは、「外部に委託・発注して製造・制作していたものを、自社で行うようにすること」と定義されています。(出典:大辞泉)
外部に委託することをアウトソーシングと呼ぶのに対し、内製化はインソーシングとも呼ばれます。
企業における内製化の対象として、代表的なものが「システム開発」です。すべての開発業務を内製化する企業もあれば、一部の専門的な業務のみを外部の人材に委託し、それ以外を内製化するという例もあります。
なお、自社で開発環境を整えるものの、開発業務は外部の人材が担うという場合は、一般的には「内製化」とは呼びません。内製化は人材も含めてすべて自社でまかなうことを指しています。
今、内製化が注目されている理由
「業務をアウトソーシングする風潮」は今後も続くかもしれませんが、特に大企業では積極的なシステム開発の内製化が進んでいます。
その背景には、実際にシステム開発のアウトソーシングを経験したことによって、いくつかの弊害が明らかになったことがあります。
まず挙げられるのは、システム開発を外部に委託した場合、「早急かつ臨機応変な対応が難しい」という点です。
例えば、システム障害の発生時には即時の対応が求められますが、外部委託では情報連携を必要とする分、復旧までに時間を要するケースが多くなります。同様に、軽微なシステム改修に対しても、追加コストや反映までの待機時間が生じる傾向にあります。
加えて、市場変化のスピードが早く、各社のDX推進がより一層加速されている現代では、その変化に応じたシステムの刷新や改修が不可欠です。社内にある無数のツール・システムとの連携なども相まって、開発要件はますます複雑化し、より柔軟な対応が求められる時代になりました。
そういった時代背景もあって、あらためて内製化の利点が着目されていると言えるでしょう。
また、事業の根幹となるコア業務を外部に委託した場合には、そのノウハウなどの知的財産が流出することにもなり得ます。
アウトソーシングには固定人件費の削減や、自社にはない専門知識やスキルを享受できるというメリットもありますが、上記のような理由から多くの企業で内製化への移行が行われているというわけです。
内製化のメリット
あらためて内製化のメリットをまとめると、主に以下のようなものがあります。
- 正確できめ細やかな対応や即時対応ができ、業務のスピードアップが可能になる
- 開発しているシステムの全容が把握できる
- 社内に知的ノウハウが蓄積でき、社員の技術力向上に繋がる
- アウトソーシングコスト、外部とのコミュニケーションコストが削減できる
- 外部に機密情報や個人情報を開示する必要がなくなり、セキュリティ体制の強化に繋がる
冒頭の「DX白書2021」内でも、「内製化の最大の目的の一つは、変化への対応スピードを上げることである。社会の変化、社内の変革に迅速に対応できるシステム開発のプロジェクトは、内製化しないとスピードが追いつかない」と明示されています。
しかし、ひと言で「内製化する」と言っても、簡単な道のりではありません。これまで外部に任せていたシステム開発を自社で行うとなると、エンジニアをはじめとするIT人材の採用や育成、労働環境の整備、新たな制度設計など、いくつものステップを越えていく必要があります。
では、システム開発の内製化を検討する際には、どのようなことに気をつければ良いのでしょうか?
内製化する際に重視すべきポイント
内製化を検討する際には、まず下記のポイントを確認しましょう。
- 内製化する対象が、自社の中核となる成長事業かどうか
- 内製化のためのリソースを確保できるか
- QCD(品質・コスト・納期)のバランスはどのように変化するか
それでは、ひとつずつ解説していきます。
【内製化する対象が、自社の中核となる成長事業かどうか】
他社との差別化が重要なキーとなる中核事業では、内製化によって独自のノウハウを社内に蓄積し、エンジニアの育成にも繋げることで、企業の競争力を向上させることができるでしょう。
一方で、重要な機密情報や独自のノウハウを含まず、どの企業でも内容が共通化するような業務であれば、アウトソーシングも適していると思われます。
【内製化のためのリソースを確保できるか】
内製化の際にハードルになりやすいのが、開発に携わるIT人材の確保と育成です。
経済産業省の発表によると、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると述べられています。すでに現状でもエンジニアは争奪戦になっており、特に採用面に関しては、活動の長期化が見込まれるでしょう。
▼2030年には最大79万人のIT人材不足が予測されている
出典:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」
人材の採用が叶った後も、保有スキルに応じた育成に多大な労力を必要とします。雇用に伴う資金も確保しなければいけません。
また、業務によっては、継続的に発生するものもあれば、一時的なものや繁忙・閑散期の波があるものもあるでしょう。そういった観点で、何人採用すべきかを見極め、流動性のある一部の業務は外部人材を頼るなど、全体のバランスを見ながら設計していく必要があります。
加えて、内製化の対象とする業務がその後も永続的に続くとは限りません。しかし、採用の際には直近の業務に必要なスキルに着目して、採用要件を絞り過ぎてしまいがちです。
採用した人材が長きに渡り活躍できるように、育成プランや将来のキャリアの選択肢を含めて、長期的な目線で採用・育成戦略を練っていくことが重要になるでしょう。
※参考:エンジニア100人を採用する!heyの開発組織が描く「攻めと守り」の採用戦略とは
【QCD(品質・コスト・納期)のバランスはどのように変化するか】
システム開発に限らず、物作りの現場で必要不可欠な要素として、日頃から「QCD」を意識している方も多いのではないでしょうか。
QCDとは、Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の頭文字から取った言葉です。重要度が高い順に並んでいて、品質を高めればコストがふくれやすく、納期を早めれば品質が低下するリスクがあるといったように、この3項目は密に連動するものとなります。
内製化をする目的のひとつに「コスト削減」を掲げる企業もありますが、仮に外部への委託費が削減できたとしても、自社のエンジニアの育成が間に合っていなければ、品質や開発スピードが低下してしまう可能性もあります。
内製化することがQCDの向上に繋がるかどうかを念頭に置いて、内製化すべきタイミングや手法を検討すると良いでしょう。
内製化のステップ
企業の状況に応じて内製化までのステップはさまざまですが、エンジニアの人材不足を補うために、内製化を支援する外部サービスを活用する企業も増えています。並行してエンジニアの採用活動をしながら、内製化する業務の範囲を拡大していく形ですね。
ここでは、内製化に役立つツールやサービスの一例をご紹介します。
① プログラミング不要の開発ツールを活用する
プログラミングを必要としない「ノーコード」開発ツールを活用することで、非エンジニアでもWebサイトやアプリの開発に携わることが可能になります。
具体的なツールは過去にSELECKでもご紹介していますので、ぜひご参考ください。また、ノーコードに近い概念として、最小限のコーディングで開発を行う「ローコード」開発ツールも多数あります。
参考:
【最新ツール17選+事例】「ノーコード」のすべてを徹底解説!Webサイト、EC、データベース、アプリ開発まで
【無料プラン登場】Webサイトをノーコード化!「BMS」がサイト更新・評価・改善をまとめて実現【事例3選】
② 「内製化支援サービス」を提供する企業と組む
「内製化支援サービス」を提供する企業とパートナーシップを組み、最終的にはすべての工程を自社で完結することを目指して、徐々に内製化を進めていく手法です。
多くの場合、多数のエンジニアなどの人材が所属するサービス提供元の企業から、自社のチームに不足している人材を補完してもらう形となります。両社で協働してプロジェクトを遂行したり、エンジニアのスキル習得のための研修を実施してもらったりと、そのサービス内容は多岐に渡ります。
出典・参考:マクアケ|スマートフォンアプリ「Makuake」 アタラシイ共創でMakuakeアプリの持続可能な成長を実現(ゆめみ社の支援事例より)
内製化支援の文脈については、「DX白書2021」でも下記のような展望が述べられています。
「今後、ユーザー企業においてDXが進展すると、従来からの受託開発と、内製との使い分けが重要になる。しかし、内製化する過程で必要となるアジャイル開発の考え方や、クラウドネイティブな開発技術などについて、ユーザー企業の内部人材ではすぐに対応できないことが多いため、ベンダー企業が内製開発へ移行するための支援や、伴走しながらスキル移転することに対するニーズが生ずると考えられる」
これらの情報も参考に、自社に合う内製化までのステップを検討してみてはいかがでしょうか。
実際に内製化に取り組む企業【事例7選】
① エンジニアがゼロの状態から内製化を実現 / プログリット
2016年の創業から6年で、のべ1万2千人以上が受講した英語コーチングサービスを展開する株式会社プログリット。同社は、英語学習をアプリで完結させる世界観を描いていたものの、社内にテクノロジーの知見を持ったメンバーが誰もいない状態だったため、制作会社への外注を選択。
しかし、発注後の制作会社の夜逃げから始まり、度重なるトラブルで三度、白紙状態に。そこから、エンジニア採用をスタートして、内製化に至るまでのプロセスを伺っています。
これから開発組織を内製化したい方に向けてアドバイスさせていただくとすると、大きく二点あるかなと思っています。
まずは、エンジニアの採用においては、スキルを大前提にしつつ、人柄や誠実さをしっかり見ていくことが大事だと感じています。
スキルや技術は多少バラバラでもカバーできますが、人間性はそうはいかないので。特に組織の立ち上げフェーズでは、技術力に固執しすぎず、一緒に同じ方向を向いていけるかどうかを見るといいのかなと思います。
そしてもうひとつ、これは非エンジニアの方に向けてですが、エンジニアを信じてあげてください、ということを伝えたいです。
エンジニアの世界って、やっぱりちょっと特殊ですよね。ビジネス側とエンジニア側はどうしても別々に見がちですし、非エンジニアからすると、エンジニアってよくわからない存在だと思います。
ですので内製化をスタートした段階では、うまくコミュニケーションできないことも多いかもしれません。ですが、しっかりと同じ方向を向いてさえいれば、ちゃんとそれに見合った見返りがあります。
最初は我慢することもあるかもしれませんが、エンジニアを信じてあげてほしいなと思います。
② 自社ECを起点としたオムニチャネル施策の中で内製化へ / ベイクルーズ
数多くのファッションブランドと、インテリアやフード領域のブランドを展開する、ベイクルーズグループ。業界の中でもいち早く、自社ECを起点としたオムニチャネル施策に取り組んできた同社は、インターネットビジネスにおける売上拡大に注力する中で、内製化にも着手しました。
まず、自社の機能として抱えるべきものを棚卸しした上で、外注するもの・内製化するものを分け、「コア機能」の部分を内製化することで、自分たちのコントロールで自社サイトを作っていける体制を整えたそうです。
店舗とECの役割を切り分けながら、「顧客体験の向上」と「顧客接点の拡大」を目指した数多くの施策の効果によって、自社ECにおいては5年間で10倍の売上増(※取材当時)に繋がったということです。
参考:「ネット専業」と戦う。5年で自社EC売上が10倍に!ベイクルーズのオムニチャネル戦略
③ 外注の開発スピードに課題を感じ2010年から内製化 / 日本経済新聞社
当初、日経電子版のソフトウェア開発を外部のSIerにほぼ全て外注していたところから、開発スピードを上げるために、2人のメンバーが自発的に内製化を始めたのがきっかけだといいます。
その後、コードを書けるメンバーが20名以上に増え、日経電子版の運営に関わるメンバーは100人を超えるチーム規模になっていました。(※取材当時)
2010年からの移行ということで、早期に内製化にチャレンジし、チームづくりに注力された事例です。
私はもともと企画として、開発のスピード感に課題を感じていました。例えば「こういう機能がほしい」「これを作りましょう」という話をいくらしても、外注している限りなかなかスピードが出ないんですよね。
更に、ひとつの改修につき「これはいくらかかりますよ」という話になってしまって。「これをこっちに動かすだけなのに、そんなにかかるわけがない…」みたいな気持ちがありました。
(中略)
2015年にiPhoneアプリの刷新を内製で行ったのですが、そのアプリはこれまで累計で100万人以上のユーザーの方にダウンロードしていただくことができました。そのあたりから、やっと本当の内製化のステージに入ったかな、という感覚です。
今は社内の技術も、メンバーのレベルも、かなり誇れるようなところまで上がってきたと実感しています。
④ 「俊敏・柔軟・低コストのIT」を目指し、1年で大改革 / エディオン
家電を中心に4つの事業を運営する株式会社エディオン。同社はシステム開発の大部分を外部ベンダーに依存していたため、社内に知見やノウハウが蓄積されず、ベンダーの提案を受け入れるしかない状態に課題を感じていたそうです。
変化の早いビジネス環境に対応するため、俊敏性・柔軟性のあるシステム構築を実現しようと経営陣が決断。そこから約1年で、大規模基幹システムをクラウドへ移行すると共に、内製化を進めました。
同社では「組織のカルチャー変革や人の成長を促す」ことを大方針として、まずは自分で試して、課題にぶつかれば自ら解決するという、小さな成功体験を重ねることで意識改革をしていったとのことです。
出典・参考:“以前はベンダー任せだった”システム開発を1年でほぼ内製化 エディオン、大転換に戸惑う現場を導いた戦略とは – ITmediaエンタープライズ
⑤ 大胆な方針転換にも柔軟に対応できる組織へ / ファーストリテイリング
2016年に数十名だったエンジニアが、現在は100名を超えるまでに拡大した株式会社ファーストリテイリングでは、外国籍のグローバル人材の採用にも積極的に取り組んだといいます。
消費者から求められるものをスピード感をもって実現するために、「開発組織の内製化による高度な技術力の獲得は絶対条件」として、主体的に動けるエンジニアチームづくりに注力したとのこと。
内製開発のアドバンテージのひとつとして、システムに機能を追加しやすくなったため、現場からカジュアルに、新たな取り組みの要望が多数寄せられるようになったそうです。
出典・参考:【リアルとECの融合】「世界最高のシステムづくり」の舞台裏 – NewsPicks
⑥ IT小売業を目指し、海外企業と共にアジャイル開発を実施 / カインズ
小売業界としては珍しい「アジャイル開発」に取り組む株式会社カインズ。インド最大手のIT企業とパートナーシップを結ぶ同社は、海外と自社のエンジニアがひとつのチームを組み、自社がリーダーシップを持つ形で活動しているといいます。
同時に、国内のIT人材の採用を強化するため、都内に「CAINZ INNOVATION HUB(カインズ イノベーションハブ)」を開設したり、エンジニアの働き方に合わせた勤務体系を取り入れた子会社を設立したりと、精力的に働きやすい環境を整備してきたそうです。
同社は「IT小売業」を目指し、2025年にはデジタル戦略本部を430名体制にすると掲げています。
出典・参考:カインズ/デジタルサービス開発でIT開発拠点を稼働 – 流通ニュース
⑦ 「全スタッフIT人材化」で800以上のアプリ内製を実現 / 星野リゾート
国内外に数多くのリゾート・温泉旅館などを運営する株式会社星野リゾートでは、コロナ禍で大きな打撃を受けながらも、数年前から着手していた内製化を強化。
ローコード・ノーコードツールを活用し、スタッフ全員でのIT活用を目指した「全スタッフIT人材化」を促進したそうです。
具体的には、ITチームの半分が中途⼊社のエンジニア、もう半分は現場で働いていたスタッフの異動組という編成チームで、大浴場の混雑状況を可視化する仕組み(温泉IoT)を開発したり、GoToトラベルキャンペーン向けシステムをわずか1カ月で開発したといいます。
これまでに作成されたアプリ数は800件、ID数は2,400件以上に達しており、現場のスタッフ自らが「開発者」となって、より良いサービスを展開していくとのことです。
出典・参考:星野リゾートが800ものアプリを内製 全スタッフIT人材化によって顧客体験を深化
そのほか、 無印良品やMUJIブランドを展開する株式会社良品計画では、2022年8月〜2024年8月の中期経営計画の中で、デジタル組織のプロ化として「プロ人材を100名規模で採用する」と示しています。
同資料内では、良品計画が目指す未来として、2030年に実現したいことも記載されています。そのプロセスにおける重要な戦略のひとつが、自社のデジタル組織・ECサービスの強化というわけですね。
このように多くの企業で、内製化は重要戦略と位置付けられ、推し進められている状況です。
▼株式会社良品計画の中期経営計画(一部抜粋)
出典・参考:株式会社良品計画「中期経営計画 2022年8月期~24年8月期」(PDF)
今回は、企業におけるシステム開発の内製化をテーマに、その定義から各社の事例までご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
採用市場では、IT人材の争奪戦になっていますが、採用後の組織づくりにも課題を持つ方が多くいらっしゃるのではと思います。今後、そのような課題解決の参考になる事例も多く発信していければと思います。
こちらの記事が、各社様がシステム開発の内製化を検討する上で、少しでもお役に立てますと幸いです。(了)