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エンジニア100人を採用する!heyの開発組織が描く「攻めと守り」の採用戦略とは
「今年はエンジニアを100人採用したいと思っています」
ヘイ株式会社の取締役 VP of People Experienceを務める佐俣 奈緒子さんが自社の採用計画を公開したnoteは、たちまち話題となった。
エンジニア採用に取り組む組織の人事や経営層ならば、この挑戦の難易度の高さを想像して思わず気後れしてしまうのではないだろうか。当の佐俣さん自身も、取材中に「本気か? って感じですよね(笑)」とこぼすほど。
しかし、改めて事業の未来を描く中で、この数字をやり切らなければいけないと痛感したと語る。そしてその実現のため、組織づくりや働く環境の整備、更にはより多くのエンジニアにheyという会社を知ってもらうための施策を次々と打ち出した。
具体的には、日本全国好きな街から働ける「WORK LOCAL」をはじめとする、メンバーの働きやすさをサポートする人事・福利厚生制度を発表。加えて、採用コンテンツの拡充や、ポテンシャル採用の強化など、採用市場に向けた「攻め」の施策を展開している。
また並行して、エンジニア組織の「マニフェスト」の制定を行うなど、組織側での受け入れをスムーズにするための「守り」の取り組みも進行中だ。
今回は、この「エンジニア100人採用」の意思決定の裏側、そしてその実現のために行った具体的な施策について、佐俣さんと、同社CTOを務める藤村 大介さんにお話を伺った。
「100人採用」と言い切ることが、コミットメントへの起爆剤に
佐俣 私は2012年に、heyの前身であるキャッシュレス決済サービス会社のコイニーを創業しました。その後、店舗やECサイトに携わる人たちに対して、より幅広い課題解決をしていきたいという背景からストアーズと経営統合をして今に至ります。
現在はheyのVP of People Experienceとして、採用や組織開発に取り組んでいます。
藤村 僕は2020年4月にheyに入社し、同じ年の8月からCTOを務めています。新卒ではSAPのアドオン開発でソフトウェアの開発に携わり、その後はさまざまなスタートアップで働いてきました。
コードを書くだけでなく開発チームのリーダーを担い、直近ではマチマチという企業の共同創業も経験しました。
▼【左】藤村さん 【右】佐俣さん
佐俣 heyの社員数は現在350名ほど。アルバイトや業務委託の方も含めると400名以上の組織です。そのうち正社員のエンジニアは100名ほどですが、2022年は「エンジニア100人採用」を目標に掲げ、この1年間で仲間を2倍に増やしていこうとしています。
藤村 「エンジニア100人採用」を掲げたことには、二つの背景があります。
一つ目は、事業の領域が広がっていく中で、さらなるプロダクト開発が急務であることです。heyを始めて4年経ち、手がける事業も4つに増えました。
ネットショップ開設サービス「STORES」、キャッシュレス決済の「STORES 決済」、オンライン予約の「STORES 予約」、そしてネットショップと連携したPOSレジアプリ「STORES レジ」です。
▼STORESブランドを構成する4つのプロダクト
二つ目は、コロナ禍においてオーナーさんが向き合う課題がより多様になっていることです。例えば小売であればオンラインでの販売が、何かしらのサービスを提供する店舗であれば事前に来店予約することが、どんどん当たり前になっています。
僕らが目指す姿は、STORESブランドのプロダクトで、オーナーさんのデジタル上の課題解決をまるっと引き受けること。そのためには、各プロダクトのユーザーインターフェースを統一しなければいけませんし、データ連携も必要になってきます。
すでにある個別のプロダクトをつなげるのは難易度が高く、もっともっと手を動かしていかなければならないことから、今回の採用計画に至りました。
佐俣 採用計画を考える中で、「heyはとにかくエンジニアを採用をしていくんだ」ということを、社内がより強く認識すること、そして社外でもより多くの人に知っていただくことが重要だと考えました。
そうなると、これはもう言い切ったほうがいいなと思い、「エンジニア100人を採用する」と掲げたんです。
特に社内で目線を合わせて、全員で同じゴールを見ることはすごく重要だと思っていて。今回の採用計画を「100人」と、覚えやすい数字にしたことにもつながっています。
藤村 シンプルな目標が打ち出されたことによって、「100人採用するとしたら何をしなければいけないか」と、組織や施策についてよりシャープに考えられるようになりましたね。
働きやすさをサポートする仕組みと、継続的な発信がカギ
佐俣 今回の採用施策にあたり、取り組んだのが働き方に関する制度の強化です。例えば、2022年2月には「日本全国、好きな街から働ける」「月15万円まで交通費支給」という新しい人事制度「WORK LOCAL」を発表しました。
▼「好きな街から働ける」WORL LOCAL制度
実はこの制度自体は、前年8月に社内ですでに発表していましたが、候補者の方にとっても会社を選ぶ判断材料の一つになるだろうと、このタイミングで社外にも発信することを決めました。
最初は「WORK LOCAL」という名称もなかったのですが、みなさんにわかりやすく伝えられるように、パッケージを作ることを意識しましたね。
また、開発職種の方が使用するパソコンをいつでも最新のものに交換できる制度や、直接ご応募いただいて入社決定した方に、チェアやデスク、ディスプレイ等の購入用に30万円ほどプレゼントする「ダイレクトボーナス」というプログラムも導入しました。
藤村 今はどこの企業さんも、働き方の整備を推進していますよね。とくにエンジニア採用においては、環境整備はもはや最低限必要なものです。さまざまな環境や制約の中にいる方が、それを理由に能力を発揮できないという状況を少しでも減らしたいと考えています。
佐俣 こうした全社にも影響する働き方の意思決定は、藤村を含め経営陣にエンジニアがいるからこそできること。
パソコンの交換制度も、エンジニアの発案です。採用もそうですが、やはり現場に対する感度や解像度が高い人が意思決定の場にいることが重要だと思っています。
また、社外に向けた発信も強化しています。heyにはどんな人がいるのか、どんなことにチャレンジしているのか。良い部分だけでなく課題も等身大に、現場の声やさまざまな社員から直接メッセージを発していくように心がけています。
社員のインタビュー動画「hey People」や、「60秒チャレンジ」もその一環として始めました。
▼同社の採用サイトには、様々なインタビューコンテンツが並ぶ
このような発信を積み重ねてきたことが、少しずつ成果につながってきていると実感する場面も増えてきましたね。面接の場で候補者の方から「このコンテンツを見ました」と言っていただける場面も多いんです。
一つひとつのコンテンツに大きな反響があるわけではありませんが、コツコツとアセットが積まれているのではないかと感じます。やり続けることに意味があるというか。
藤村 プロダクトブログもそうですね。もともとheyでは社内のナレッジ共有という目的でドキュメントを書く文化が浸透していて。もっと仲間を増やすために、外にも発信しようと思ったのが開設のきっかけです。
今は技術的なテーマだけでなく、プロダクトチームのメンバーも参加してプロダクト開発全体のブログという形になっています。
「奇跡的に成り立っている会社」採用も組織づくりも仕組み化へ
佐俣 現状のheyにおける採用体制は、ほぼ「全員採用」です。さまざまな採用チャネルを活用してきましたが、去年1年間を見ると、特にエンジニアはリファラルで入社してくれた人が多いんですね。
全員が「どうしたらオーナーさんの事業が成長するか」と、常にお客様を主語において事業を考え、課題をもっと早く解かなければいけないという危機感を持っているからこそ、周りの人を誘ってくれているのかもしれません。
ですが、言ってしまえばこれはそれぞれの自助努力で採用が成り立っている状態とも言えます。これをいかに仕組み化して、再現性を持てるかどうかが今後の課題です。
より多くの人にheyの存在を知っていただき、ポジティブな形で選んでいただくためのアクションを増やす必要があります。
例えば2021年からは、エンジニア・デザイナー・プロダクトマネージャー職種でのポテンシャル採用を開始しました。
これまでに長期インターンを経て入社いただくケースはあったのですが、学生や第二新卒の方、募集職種での経験がない方からもエントリーを受け付けるようになりました。2022年4月には、8名が入社予定です。
▼ポテンシャル採用のオープンにより、より多様な人材が入社するように
藤村 私はもうすぐ40歳になるのですが。正直に言うと、この世代の人間がCTOをやっていることに強烈な危機感があります。やっぱりエンジニアリングって、何を有効に感じるかだったり、問題解決の仕方だったりというところで、世代によって見えているものが全然違うんですよ。
異なる世代の人たちが仲間に加わってくれることによって、多様性が生まれると思っていますので、新しい視点をぜひ取り入れていきたいですね。
また、仕組みづくりという観点で言うと、採用計画と並行してエンジニア組織体制の強化も進めてきました。その一つが、テクノロジー部⾨のマニフェスト制定です。
エンジニアリングの仕事は、何かを決めることの連続なんですよね。その中で、会社が大きくなってきて、さまざまなバックグラウンドを持つ人が集まる中で、意思決定の軸となる共通言語がほしいなと。
▼同社テクノロジー部門で定めたマニフェスト
制定後は、普段の会話の中でも、マニフェストのキーワードが出てくるようになりました。こうやって軸となるものが生まれ、浸透していくものなんだな、と感じ始めています。
佐俣 heyはこれまで、人も事業も増え続けてきたのですが、実は組織開発を始めたのはこの半年なんです。
それまでは「まずは多くの仲間を集める」ことを中心に取り組んできたのですが、さすがに組織の土台をしっかりしなければ、人が増えても生産性が上がらないという状況になってきています。
実は最近入った人事の人に「この会社は奇跡的に成り立っていますが、皮一枚の状態です」と言われました(笑)。たしかに、今のままではいつかガタが来るだろうと感じていたので、今は仕組み化していくことがとても重要なフェーズだと考えています。
組織が変化する中でも、「Just for Fun」な働き方を実現する
佐俣 heyの設立当初は、二つのプロダクトを50名ほどのメンバーで運営していました。そこから事業フェーズがどんどん変化して行く中で、組織として解くべき課題も変わってきています。
せっかく新たなメンバーに仲間として加わっていただくのなら、既存チームのケイパビリティが広がるほうがお互いにとって良いはず。採用のあり方も日々アップデートを重ねています。
藤村 今後大切にしたいのは、heyの今の良さやカルチャーをきちんと継承していくことです。
例えば、みんなで一丸となって採用する風土や、「オーナーさんの課題を解決したい」というお客様志向など、今は全員が同じ方向を見ているという、すごく濃度の高いカルチャーが育まれていると思っていて。
人数が倍に増えてもその濃度をいかに保っていくかという点は、これからも課題になると考えています。
佐俣 エンジニア100人採用については、まだ打ち出したばかりなので、具体的な手応えはこれからというところです。ですが、社内の全員が「今年100人を採用する」ことを理解していて、それに必要な行動を取り始めている。この意識が揃ったところがとても大きいと思います。
藤村 heyのミッションは「Just for Fun」。エンジニアである僕らも、まさに「Just for Fun」な働き方をしていきたいと思っています。
「フロントエンドのレンダリング速度を上げたい」「10ミリ秒でも動作を早くしたい」など、それぞれが持つこだわりや情熱を一つにまとめて、オーナーさんを支えるプロダクトにする。これからheyに加わってくださる方も含めたみんなの「Just for Fun」が、人の役に立つ形になって発揮されているのをサポートしていきたいですね。(了)
ライター:村尾 唯
企画・編集:舟迫 鈴(SELECK編集部)