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【ウイスキー樽やご朱印も】日本のNFT活用事例18選!飲食、アパレル、農地活用から寺院まで
一種のバズワードとして、いま多くの人の注目を集める「NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)」。
NFTとは、ブロックチェーン上のデジタルデータにシリアルナンバーを付与することで、替えが効かない唯一無二の存在であることを証明する技術です。
これまでは、デジタル上のデータは複製が容易であることから、データの「所有者」を明確にするのが困難とされてきました。しかし、NFTの技術を用いることでデータに「唯一性」という価値を付与でき、資産として扱えるようになるのです。
とはいえ、具体的にどのような分野やシーンで活用できるのか、さらに、活用することでどんなメリットがあるのか、想像が難しい方も多いのではないでしょうか。
「NFT=アート」というイメージも強いかもしれませんが、実は飲食、アパレル、農地活用から寺院まで、さまざまな領域でNFTの活用は進んでいます。
そこで今回は、さまざまな分野におけるNFTの活用事例18選をまとめてお届けします。NFTの実用的価値についても解説していますので、ぜひ最後までご覧くださいませ。
<編集部より>本記事に掲載している情報は、記事公開時点のものになります。Web3.0の世界は日々変化していますので、「DYOR(Do Your Own Research)」の前提で記事をご覧いただけますと幸いです。記事の内容についてご意見や修正のご提案がございましたらこちらまでお願いします。
▼今回ご紹介する18社の事例
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- NFT保有者でコミュニティを形成し、環境保全に取り組む / Beeslow
- 「Listen to earn」で音楽体験に価値を付与する / PENTA
- NFTでアーティストと社会をつなぐ/ NULL
- ご朱印×NFTで、新たなご縁をつなぐ/ BUSHIDO文化協会
- メニューをNFT化し、スポンサーを募る / こはくの天使
- NFTでローカルの絆を紡ぐ/ 100円たこ焼き
- ウイスキー樽のNFT化で、蒸留時間に付加価値を/ UniCask
- NFTアートを販売し、地域主体の花火大会を目指す / FIREWORKS
- 「デジタル村民」と共に地域創生に挑む / 山古志地域
- 日本初のNFT美術館 / NFT鳴門美術館
- 盆栽×NFTで海外への販路拡大を目指す / BONSAI NFT CLUB
- 農地×NFTで日本の農業問題に立ち向かう / おしながき
- 不動産×NFTで、海外に販路拡大 / マーチャントバンカーズ
- クラフトビール×NFTでステークホルダーをつなぐ/ 横浜ビール
- 音楽×NFTで商用利用を販売、自由な音楽体験を構築 / ABCRECORDS
- NFTの活用で日本酒に新たな付加価値を / Torches
- 詩×NFTで、時間が生みだす変化を価値に / 詩人 黒川 隆介氏
- 未来の活躍に願いを込めて。卒業証書×NFT / バンタン
NFTの価値は「唯一性の担保」だけではない。その「実用的価値」とは?
米アーティストBeepleのNFTアートが約75億円で取引されたり、世界的VRアーティストせきぐちあいみさんのアート作品が1,300万円で落札されたりと、その投機的な側面が注目されがちなNFT。
その活用領域として最もイメージしやすいのは、アートを中心としたクリエイティブ産業ではないかと思います。
なぜならば、NFTが持つデジタルデータの「唯一性」を担保するという性質が、元々唯一無二でコレクターズアイテムとしての価値を持つアートと相性が良いためです。
さらに、アーティストにとっては、NFTを活用することでプラットフォーマーへの依存から脱却し、よりダイレクトにファンとつながりながら自立的に経済活動を行える可能性があります。また、二次流通を通じての利益還元が見込めるなど、その新しいビジネスモデルに期待が寄せられている側面もあります。
しかし、先日公開したSUSHI TOP MARKETING社の記事でもお伝えした通り、NFTの価値は、その「所有」に留まりません。
その本質的な価値は、色々な機能をあとから付与することで価値や体験の拡張ができるという実用的な側面にあります。ですので、クリエイティブ産業に留まらず、さまざまな領域、文脈での活用が期待できるのです。
では実際に、NFTにはどのような実用的側面があるのでしょうか。今回は、こちらの記事(※)を参考に9つ挙げてみます。
①身分証明…米国では市民の33%以上が個人情報が盗難されたことがあるというデータもあり、身分証明×NFTの用途は大きく注目されています。身分証明をNFT化することで、電子署名やオンラインサービスのアカウント認証に利用したり、予防接種証明書などの書類に接続するといった利用方法が考えられます。
②知的財産の所有権の保証…Twitter創業者ジャック・ドーシーのツイートが落札されたという話もニュースになりましたが、それがこの例に当てはまります。
③不動産…不動産の所有権をNFT化することで、ネット上での売買が可能になります。さらに、これまでブラックボックスになりがちだった不動産情報の透明化が図られるため、市場の流動性の上昇や、海外の不動産の売買に必要な手続きの簡略化なども期待されます。
④メンバーシップクラブ…最近、国内でも話題になったNFTプロジェクトNeo Tokyo Punksなどは、NFTホルダーによるDiscordコミュニティを形成しています。このように、NFTの所有=コミュニティへの参加券として利用されているケースも存在します。
⑤チケット…イベントチケットの転売はよく問題にされますが、その真正性を証明するためにもNFTが有効です。二次流通の際に、イベント主催者に売上の一部を還元するといった仕組みも実現できます。
⑥音楽…音楽業界は、レーベルや音楽配信プラットフォームなどステークホルダーが多く、アーティスト個人に入る収入は僅かです。ですが、音楽をNFT化して所有権や使用料を直接ユーザーに販売することで、アーティストが健全に経済活動を行える仕組みを実現できます。
⑦ゲーム…従来はゲーム内のアイテムは個々のサービスに依存していたため、他のゲームとの互換性がありませんでした。しかし、NFTを活用することで、サービスを越えたアイテムの取引・レンタル等を可能にできます。
⑧ドキュメント…法的文書や医療記録、請求書などの改ざん防止のためにも活用できます。
⑨デジタルプロパティ…ドメイン名やユーザー名など、私たちがすでに所有しているデジタル資産を識別・譲渡可能なものにします。
以上、9つの実用的側面をご紹介しましたが、これでもまだごく一部かと思います。NFTはまだまだ黎明期で「バブル」状態にあるとも言われていますが、今後はより社会的価値の高い活用事例も増えていくはずです。
※参考:9 Practical Applications for NFTs beyond Ape JPEGs – shivsak
では早速、現状、どのようなNFTの活用事例があるのかを具体的にお伝えしていきます!
NFT保有者でコミュニティを形成し、環境保全に取り組む / Beeslow
ミツバチの社会性にヒントを得ながら、都市における地球温暖化の抑制のための緑化や、生物多様性の促進などの活動を行う、株式会社Beeslow。
同社は、以前よりワンコインから環境投資ができるサービス「Beeslow Club」を運営しており、そこで集めた資金を活用して、ビルオーナー向けの無料緑化サービスや、自治体と協力して荒廃した公園にハーブを植えるプロジェクトなどを展開してきました。
そうした中で、より持続的かつ自律分散的な活動の展開を目的に、独自のNFTを販売し、そのホルダーを中心としたコミュニティ「Eusocial DAO」の形成を目指すそうです。
販売するのは、ミツバチの群に見立てたピースで構成されたNFTアートコレクション。働き蜂、オス蜂、女王蜂、蜜源植物など複数のタイプがあり、それぞれで価格やユーティリティが異なります。
NFTの販売益は、緑化のためのハーブ苗や土などの購入費に充てられるほか、NFTの制作に関わったクリエイターの方や「Eusocial DAO」に還元されるそう。DAO内では、コミュニティに貢献したメンバーへの報酬や、メンバーが提案する新たな緑化プロジェクトなどに利用されるといいます。
このとき、どのメンバーへいくら支払うか、どのプロジェクトに出資するかについては、コミュニティ内で議論を行い、最終的にはNFTホルダーによる投票で採択されるそうです。この具体的なガバナンスとインセンティブ設計については、コアメンバー内で設計を進めているとのこと。
コミュニティ内では、ハーブについて日々の活動報告などが行われるほか、特定のNFTを購入した人に対しては、動画コンテンツや、収穫したハーブのGiveaway会、アートに関するワークショップ、養蜂体験等のオフラインイベントへの招待も行われるそうです。DAOを起点としながら、民間主体で環境改善のための様々なイノベーションが生まれていきそうな取り組みです。
「Listen to earn」で音楽体験に価値を付与する / PENTA
「Move to Earn(歩いて稼ぐ)」や「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」といった、「”XX” to Earn」という言葉を最近よく耳にするようになりましたね。その流れで、Twitter上で一躍話題となったのが「Listen to Earn」の「PENTA」ではないでしょうか。
「PENTA」は、ブロックチェーン上に構築された音楽を聴くことで暗号通貨を獲得できる、Web3.0のミュージックプレイヤーです。
具体的には、Spotifyアカウントとウォレットを接続することで、再生時間に応じてトークンを獲得できるという仕組みです。このトークンの獲得可能量は、ヘッドホンNFTのレアリティ、レベル、ジャンルによって変化するとのこと。レベルは、追加で暗号資産を支払うことでレベルを上げることができます。
このヘッドホンNFTは音楽の再生時間に応じて修理が必要になる仕組みになっており、利用者は必要に応じて修理を行なったり、ヘッドホンを育てることで、1秒間に獲得するトークンの量を増やすことができます。
最終的には、その蓄積された音声データを元に作成される3Dアバターで参加できるメタバース上のDAOを形成、音に関わる全てのエコシステムがDAO的運用によって実現する世界を目指すそうです。
プロトタイプ版は5月7日にEthereumで既にリリースされており5月30日に終了しています。そして、β版のリリースは2022年の7月を予定しているとのことで、続報が楽しみなプロジェクトです。
NFTでアーティストと社会をつなぐ/ NULL
「アートと社会の接続をテーマに多様な関わりしろの創造」を目的とし、持続的なアートの拡張を模索する集団、TETRAPOD。
その活動の第一弾として、2021年7月に「TETRAPOD APPAREL」をリリースしました。これは、NFTとアート、アパレル、展示空間の4つの要素を融合させ、アート作品に新たな価値を付与するというプロジェクトです。
具体的には、毎月4つのアートワークがNFT化され、それとリンクしたQRコードを添付した衣服がECサイトにて販売されます。そして、これらのアパレル商品が、ポップアップインスタレーションなど様々な形で空間に展示されるという仕組みです。
第一弾は、「すべての音楽を受け入れる」というコンセプトを掲げ、DJイベントやパーティーなどを企画するClub Asiaにて展示が行われました。
▼ClubAsiaで行われた展示イベント
加えて、NFTによって所有者が証明できるため、品質や形状がアップデートされた製品を差額で購入できるという仕組みもあり、同社はこのビジネスモデルを「Apparel as a Service」と名付けています。
具体的には、現在販売されているのはTシャツのみですが、今後ジャケットやパーカーなどにNFTアートを印刷する媒体を変更でき、それを差額で購入できるという仕組みです。
販売側としては、買い切りでなく時代や時期に合わせた商品を提供できることや、購入側としても流行に合わせて同じデザインの服やグッズの購入が可能なので、長期的にアーティストを応援できるといったメリットがあります。
随時、プロジェクトに参加したいアーティストや展示空間を募集されているので、NFTアートの活動に興味があるという方はぜひチェックしてみてくださいね。
ご朱印×NFTで、新たなご縁をつなぐ/ BUSHIDO文化協会
令和3年4月に設立し、三浦半島の寺院を中心として文化観光の推進を行う、BUSHIDO文化協会。同協会は、NFTの「つながり」を証明するという特性に着目し、ご朱印にNFTを活用しています。
BUSHIDO文化協会が拠点としている三浦半島では、「霊場参り」というお遍路(※)のようなものがあり、不動28霊場、地蔵38霊場、観音33霊場などがあります。これらの霊場は1ヶ月間拝観が可能とのことですが、各寺マンパワー不足の中、ご朱印の対面授与が課題となっていたのだそうです。
※お遍路(四国八十八箇所)とは、弘法大師(空海)が修行した88の寺院をたどる巡拝のこと
そこで、QRコードの看板を設置してデジタル朱印を授与することを検討していたものの、画像は複製が容易なことから、「自分が頂いた」という証明に不向きだとして、NFTの活用を検討し始めたといいます。
霊場へのNFT設置はまだとのことですが、すでにOpenSea上ではご朱印NFTが販売されており、コロナ禍中の「オンライン参り」としてNFTを購入される方や、購入後にメタバース上の自分の部屋にお札のように飾る方もいらっしゃったそうです。
遠方で実際にお参りできない人も、本尊への敬意をこめてオンラインで購入することができるので、世界に向けても日本の文化を発信する一つの手段になるのでは、と考えているとのこと。
今後は、霊場参りなどと紐づけることで周遊の喚起なども検討したいとのことでした。NFTを起点に、オンラインとオフラインの垣根を越えたご縁を紡ぐ可能性が感じられるプロジェクトです。
メニューをNFT化し、スポンサーを募る / こはくの天使
徳島県の小松市に位置するカフェ「こはくの天使」では、メニューにNFTを活用した「スポンサーNFT」を販売しています。
メニューにNFTを活用することで、お店のファンである個人がNFTを購入し、お店の維持・発展に貢献できるという新しいスポンサーの形を実現している事例です。
このスポンサーは「株式」に近い考え方といえます。店舗側がNFTの販売益を活用して信頼獲得や認知向上に努めることで、NFTの価値も向上し、ホルダーの転売が可能になります。つまり、NFTが株のような機能を果たすことで、店舗とスポンサーのwin-winの関係を構築できるという仕組みです。
飲食店側においても、熱量の高いユーザーにスポンサーになってもらうことでブランドの認知拡大を期待することもでき、加えて、NFTの二次流通などが活発に行われれば、継続して熱量の高いスポンサーの獲得も期待できます。この際、転売額の一部が飲食店に還元されるとのこと。
2022年2月18日に実施されたファーストセールでは、販売した18個のスポンサーNFTが開始後わずか2分で完売しています。NFTを購入した方が、その後「こはくの天使」のECサイトで商品を注文されたり、Twitter上で店主の方とのコミュニケーションがあったりと、スポンサーとしての関係性に留まらず様々な交流が生まれているそうです。
NFTでローカルの絆を紡ぐ/ 100円たこ焼き
大阪府の高槻市川西町にて営まれている「100円たこ焼き」。同店は、世代を超えた地域内交流を目的として、非常勤として教師を務める川人 佑太さんによって運営されています。
川人さんが教師ということもあり、宿題をしに遊びにくる子供も多いとのことで、子供たちが無料でたこ焼きを食べることができる「たこ焼きチケット」を導入しています。これは、大人が事前にチケットを購入することで、来店した子供たちが無料でたこやきを食べられる、という仕組みです。
このチケットは現在、店頭またはnoteを通じて購入が可能とのことで、地域の人に限らず、SNS上でつながりのある方々が購入されているといいます。
このような取り組みを行う中で、先日SELECKでもご紹介した旧山古志村のNFT活用事例を知り、「たこやきチケットを起点としたトークンエコノミーを構築できるのでは」と、NFTバッチの配布をスタートさせました。
▼同店で配布している「NFTバッチ」
現時点では、NFTバッチは「同店に来店したことを証明するアイテム」としての機能に留まっていますが、将来的には分散型IDとして活用し、イベントへの招待券としての活用も検討しているとのこと。
SNSのフォロワーさんの中には、「NFTをもらうために遊びに行きます!」と仰っている方もいるとのことで、プラットフォームに依存しない形でのオンラインとオフラインの繋ぎ目として機能させることを目指していくそうです。
ウイスキー樽のNFT化で、蒸留時間に付加価値を/ UniCask
蒸留酒の樽管理サービス「UniCask」。同サービスは、2021年からウイスキー樽をNFT化し、その管理・取引が簡単にできるサービスを業者向けに展開しています。
ウイスキーは醸成に長い時間を要し、時間がたてば経つほど価値が上がるという特性をもちます。しかし、蒸留酒を樽で保存して、年代物として価値を向上させられる状態のまま管理・取引を行うことは一部の人々の間でしか行われず、コレクターや愛飲家の方々に届けられないという課題がありました。
そこで、樽自体を小口化してNFTを紐付けることで、「熟成期間」の価値を認めるだけでなく、個人もその価値を享受できるような仕組みを構築しました。
2021年12月には、小口化したウイスキーを「CASK NFT」として初めて一般販売が行われました。記念すべき最初の樽として発売されたのはシングルモルトスコッチウイスキー「スプリングバンク」1991年の樽で、100口に分割された中身がNFTとして販売されたとのこと。
スプリングバンク1991年は既に30年の熟成を経ていますが、さらに20年の熟成の時を経て2041年にボトリング予定とのことで、NFTを購入した方は、CASK NFTを20年後に50年熟成のスプリングバンクと引き換えることができます。
この「CASK NFT」は、1つひとつにトランプの絵柄と数字が付与されており、トランプゲームに参加する際に、持ち札としてデータを利用できたり、勝った場合には景品を獲得できるなど、熟成を待つ間にも楽しめる仕掛けが用意されています。
NFTアートを販売し、地域主体の花火大会を目指す / FIREWORKS
2021年4月に設立し、岩手県陸前高田市を拠点に全国各地で花火に関するイベントの企画・運営を行う、FIREWORKS株式会社。
三陸から〝元気〟と〝笑顔〟を届けたいという想いから「みんなで夢を打ち上げよう。」をコンセプトに、「三陸花火大会」が2020年よりスタートしました。2020年のスタート時から、補助金に頼らず地域への負担が少ない形での運営を目指し、民間主体での収益確保を行ってきました。
そして、2022年の5月に実施された大会では「花火」をテーマにしたNFTアートが展示され、これらの作品はチャリティーオークションが実施されました。今回参加したのは、Skybase、AURORA、Nyice!のNFTアーティスト3名。NFTの販売益は、花火の打ち上げ費用として全額寄付されたそう。
今後も、花火師やアーティスト、様々な業界と共同で「花火」をテーマにしたNFTアートを制作し、全国の花火大会会場や商業施設、デジタル広告等で展示することで、日本の花火産業の価値向上を目指すとのことです。
「デジタル村民」と共に地域創生に挑む / 山古志地域
新潟県長岡市にある山古志地域(旧山古志村)は、2004年の新潟中越地震以降、急激に人口が減少しました。その結果、約2,200人いた地域住民は約800人になり、高齢化率が55%を超えるなど、地域は存続の危機に。
そんな中で2021年12月から取り組まれたのが、山古志村が発祥である「錦鯉」をシンボルにしたNFTアート「Colored Carp」の発行です。
このNFTは、同地域の「電子住民票」の意味合いも兼ねたものです。定住人口にとらわれずにグローバルな「デジタル関係人口」を生み出し、NFTの販売益をベースに独自の財源とガバナンスを構築することで、持続可能な「山古志」を誕生させることが狙いだといいます。
現在は、リアルな人口を超える900人以上もの「デジタル村民」が世界中に誕生しており、Discord上のコミュニティでは、地域を存続させるためのアイデアや事業プランについて議論が行われているそうです。
また2022年2月には、デジタル村民から具体的なアクションプランを募り、投票によって実行する施策を決定する「山古志デジタル村民総選挙」が実施され、「Colored Carp」第一弾セールの売上の一部を活動予算とする形で、当選した4つのプランを実行中です。
※取材記事はこちら:NFTホルダーの「デジタル村民」に予算執行権も。人口800人の限界集落・山古志の挑戦
日本初のNFT美術館 / NFT鳴門美術館
徳島県鳴門市に位置する、日本初のNFT美術館「NFT鳴門美術館」。同美術館は、アート作品に関するNFTの発行、審査、販売、流通が可能なマーケットプレイスの提供を目指して、2021年11月より運営されています。
元々は、「鳴門ガレの森美術館」として12年間運営されてきましたが、積極的に運営がなされておらず、建築物として25億円ほどの費用がかかっていて固定資産税も免除されていたことや、県庁との共同管理の資産でもあるという背景から、ある種の負債になっていたといいます。
また、美術館は「展示」が大目的になっているため、一般的には、入場料による収入と国や自治体からの助成金で運営されており、基本的には赤字だといわれています。さらにここ数年の間は、コロナ禍により入場者数が減少したこともあり、運営方法の転換を目指してリニューアルに至った結果、「NFT鳴門美術館」が誕生しました。
2022年3月にはNouns DAO JAPAN(※)と共催で、二次創作品の展示コンテストも実施されており、コンテストはNFT鳴門美術館のTwitter上で開催され、約150もの作品の中からいいね数が上位7〜8つの作品が実際に展示されたとのこと。
※Nouns DAOとは、Nounders(創設者)によって作られたNFTプロジェクト。24時間ごとに1体ずつNounと呼ばれるNFTが生成され、自動的にオークションにかけられる。この収益は、100%がDAOに還元。そして、競り落とした人はNouns DAOへの参加権利を獲得し、1Noun=1票としてDAOで行われる意思決定に携わることができる。
▼Naruto Museum Pass(左)、NFTメダル(右)
※出典:Naruto Museum Pass – NFT Naruto Museum 公式サイト
また、NFT鳴門美術の入場券として機能するオフィシャルパス「Naruto Museum Pass」も、2022年4月より販売を開始しています。
これは、入場券としての機能以外にも、保有しているNFTの展示権や、アーティストやクリエイターの活動を支援するプロジェクトでの投票権、さらにはメタバース上に構築される「Naruto Meta Museum」上でのNFT展示・個人ギャラリーの保有、といったさまざまな特典がついているそうです。
さらに、4月24日以降に美術館に訪問した人やDiscord上のコミュニティに積極的に参加した人には「メダルNFT」も配布されるそうで、メダルを集めることでパスと交換できるといった仕組みもあるようです。NFTを起点として、ファンと長期的な関係を構築する仕掛けが参考になる事例です。
盆栽×NFTで海外への販路拡大を目指す / BONSAI NFT CLUB
NFTを活用してコミュニティを形成し、国内の盆栽市場の課題に向き合いながらその魅力を海外に届けるプロジェクト、「BONSAI NFT CLUB」。
盆栽業界では、すでに国内外で市場があるものの、盆栽農家の高齢化に伴って海外輸出に積極的に取り組めないという課題が存在しています。そこで、NFTホルダーでコミュニティを形成し、参加者がそれぞれ盆栽を育成、海外へ輸出するという試みを行っているのがこのプロジェクトです。
具体的には、まずBONSAI NFT CLUBのNFTを購入すると、自宅に本物の盆栽が届きます。そして、育成方法が共有されるDiscordのコミュニティに参加し、ホルダーが盆栽について学びながら育成するという仕組みです。
このBONSAI NFT CLUBが配布している盆栽は、すでに2000本以上の海外用盆栽の育成を経験されている、愛媛県の農業法人、赤石の泉さんにご協力いただいているとのこと。
現在、NFTは段階的に販売されており、初月に販売されたNFTによってコミュニティが形成され、次回の販売時には、コミュニティメンバーがNFTの展開をともに企画したり、新たなプロジェクトに販売益を投資したりといったことが行われるといいます。
盆栽は育成年数によって価値が向上するため、将来的には、育成の初期段階でNFTを所有権として販売することも検討しているそうです。
農地×NFTで日本の農業問題に立ち向かう / おしながき
農作物・海産物・伝統工芸品などを生産者からユーザーへ直接届けるECサイト、「おしながき」。同サービス内にて、NFT化された畑や果樹の権利を売買できるプラットフォームが、2022年度中に導入されるそうです。
具体的には、自分がオーナーの畑や果樹でとれた農作物は、自由に加工、配送することができ、NFT化された権利も転売することができるという仕組みです。権利を転売する際に発生する差益の一部は、元の出品者に還元されるとのこと。
農作物をNFT化するという事例は見かけますが、農地自体をNFT化し権利として販売することで、誰でも簡単に農地を所有できるという点がユニークな事例です。
実際、土地の管理や農作業の進捗管理といった課題も少なからずあるとしていますが、農家の後継者不足や、耕作放棄地の増加といった国内の農業問題に加え、食品ロスといった社会問題の解決への貢献が期待されるプロジェクトです。
不動産×NFTで、海外に販路拡大 / マーチャントバンカーズ
※出典:株式会社世界との業務提携による不動産NFTに関する取り組み開始に関するお知らせ – マーチャント・バンカーズ株式会社
不動産投資をはじめとし、ここ数年ではブロックチェーン領域にも踏み込んでいるマーチャント・バンカーズ株式会社。同社は、株式会社世界と業務提携して不動産におけるNFT活用を推進しています。
その最初のプロジェクトとして、同社が保有する山中湖山荘をNFT化したといいます。山中湖山荘は富士山が眺望できる立地で、海外の投資家のニーズも期待できることから、登記簿謄本などをNFT化して販売したそうです。
不動産においては、インターネットがあれば世界中から閲覧はできるものの、海外の不動産を購入するには現地に見に行ったり、煩雑な手続きをしなければならないなど多くの障壁があります。さらに、デジタル上の書類は改ざんが容易で、安全な取引を行うことが難しいという課題も抱えています。
そこでNFTを活用することで、安全に契約を交わしながら取引が簡略化され、これまでリーチできなかった層に対して不動産の販路を拡大できるという狙いがあるといいます。
不動産の売り手としても、不動産をトークン化することで売買コストを下げることもできるので、現実に比べて不動産投資を始めるハードルが低くなるといったメリットもあります。
クラフトビール×NFTでステークホルダーをつなぐ / 横浜ビール
横浜で古くよりクラフトビールの製造・販売を行う横浜ビール。同社は、クラフトビールを通じた様々な地域交流プロジェクトを推進しており、その一環として2022年からNFTを活用した取り組みをスタートさせました。より多くの人にビールの魅力を伝えるとともに、ステークホルダー同士を繋げ、地域経済の発展と文化交流を目指します。
NFTを活用するのは、クラフトビールのラベルアート(2022年6月実施予定)。ラベルにはさまざまな人の想いやストーリーが込められていることや、地域限定ラベル等のコレクターズアイテムとしての価値もあることからNFTとの相性が良く、活用に至ったそうです。
販売益の一部は地域に還元され、NFT保有者がビール生産・販売過程における社会活動に貢献できる仕組みが作られます。その背景として、横浜ビールに利用される水の水源地である山梨県では、過疎化や森林の減少などが問題になっており、ビジネス視点に留まらず福祉活動にも踏み込みたいという思いがあったといいます。
今後は、ビール生産者やラベルデザイナー、ファンの人々の絆を繋ぎながら、より高付加価値の商品を提供できる環境を整え、寄付などを通じた福祉団体などへの支援、新たなNFT企画なども実施していくとのことです。
音楽×NFTで商用利用を販売、自由な音楽体験を構築 / ABCRECORDS
※出典:音源の独占的商用利用を認めた世界最先端の音楽NFTマーケット「ABCRECORDS」始動 – PR TIMES
現状の音楽ビジネスではライセンスが集中的に管理されているため、音源を私的な目的で配信したり、商用利用したりするには許諾が必要で、サンプリングやミックスなどの二次創作が制約されてしまっています。
この音楽ビジネスにおける構造の不自由さを解決したいとの思いから、自身もDJとして活躍する藤原ヒロシ氏によって立ち上げられたのが、音楽NFTマーケット「ABCRECORDS」です。
このプロジェクトを通じて実現を目指すのは主に3つです。一つ目は、NFTを音源のライセンス処理に活用することで、アーティストの商用利用権のオーナーシップを保証すること。二つ目は、音源の商用利用権を付与することで、購入者による商用利用(配信、CD化、リミックスやサンプリング等)を可能にすること。そして三つ目は、所定のNFTマーケットでの転売を可能にすることで、アーティストへのロイヤリティ還元を可能にし、創作活動の持続的サポートを行うことです。
従来は表立って行うことが難しいとされてきた二次創作を推進することで、アーティストとリスナーの垣根を超えたコミュニティの形成や、新たな音楽の市場が形成される可能性も期待され、日本国内の音楽業界にとっては革新的なプロジェクトといえます。
NFTの活用で日本酒に新たな付加価値を / Torches
長野県に位置するクリエイティブ企業Torchesは、小野酒造店を製造販売元とし、日本酒業界の課題解決を目指してNFTを活用しています。
日本酒は、ワインのように熟成・貯蔵をするブランディングが必ずしも適するとは限りません。そのため、消費期限が限られていたり、温度管理が難しかったりといった背景から付加価値をつけづらく、酒造や農家など関連業者の持続可能性を維持しにくいという課題を抱えています。
そこで、日本酒と日本の伝統的なものづくりを総合芸術として追求しながら、最先端のNFT技術を活用することで、「熟成」とは異なる形で日本酒の価値を世界に届けようというのが今回のプロジェクトの目的です。
NFTが活用されたのは、ボトルに施されたアート作品。龍と鳳凰の浮世絵が対となるアートに、製造年のシリアルナンバーが紐づけられます。
対象の日本酒である、純米大吟醸『飛騰 ASCENDING』と『燈火 ILLUMINATING』の購入者で、希望する場合のみ発行されるとのことです。
また、一部は蒔絵仕様(※)で特別版として販売され、それらの売上は農業や酒造りをはじめとした日本の伝統的なものづくりの維持・普及に利用されるそうです。
※蒔絵とは、漆器の表面に金粉・銀粉などで絵や文字などの模様をつける美術工芸のこと
詩×NFTで、時間が生みだす変化を価値に / 詩人 黒川 隆介氏
学生時代から詩を書き始め、「文藝春秋」や「詩とファンタジー」へ詩を寄稿したり、「POPEYE WEB」での連載を行うなど、広く活動を行う詩人・黒川 隆介さん。
NFTはアートの文脈で語られることが多いですが、文章の方がよりデジタル上では簡単にコピーできてしまいます。そうした中で、詩を寄稿してメディアから原稿料をもらうとはいえ、詩で稼ぐことの難しさを実感していたことから、今回のプロジェクトに至ったといいます。
そして、黒川さんの取り組みでユニークなのは、「未完成」の詩がOpenSeaで販売されており、後日、詩の続編が執筆され購入者の元に届くという点です。
作品によって続編配布日が異なるとのことで、特定の日付になると購入者に続編としてのNFTが新たに配布されるとのこと。なかには、続編を届けるまでに最大3年かかる場合もあるといいます。
そして、2022年2月には黒川さんの初NFT作品の発表を記念して、メタバースギャラリーにて作品展が開催されました。VRゴーグル等の機材は不要でPCやスマートフォンなどから、ブラウザ経由で簡単に観覧できる環境で行われ、2月半ばまでの時点でも2万人以上が訪れるなどして注目を集めました。
※出典:【日本初 文学作品のNFTメタバース展】詩人 黒川隆介のNFT作品展を2月3日(木)よりメタバースギャラリーにて開催中 !! – PR TIMES
現時点では続編は一切完成されておらず、続編が届くまでの世の中の移り変わりや、黒川さん自身、さらには購入者の思考の変化を詩に重ねることで、時間と共に価値が高まる作品を表現したいとのことです。
未来の活躍に願いを込めて。卒業証書×NFT / バンタン
※出典:国内初!NFT化された卒業証書を発行~数年後、何億円もの価値になるほどのクリエイターへと成長してほしい~令和3年度バンタン卒業式 – PR TIMES
「世界で一番、社会に近いスクールを創る」というビジョンを掲げ、多くのクリエイター人材を輩出する株式会社バンタン。同社は、令和3年度に実施された卒業式にて、NFT化された卒業証書を発行し、各卒業生が保有するデジタルウォレットに配布したそうです。
卒業証書をNFT化した背景としては、卒業後に、それぞれのNFTが数億円もの価値になるようなクリエイターへと飛躍してほしい、という願いを込めて実施に踏み切ったといいます。
証書のデザインは、同社の卒業生でありEDWINやPRONTOといった数々の企業でアートワークを手がける岡田喜則さんが担当したそうです。
以上、非IT分野におけるNFTの活用事例をお届けして参りましたが、いかがでしたでしょうか。こんな分野でもNFTを活用できるんだ!という驚きもあったかと思います。
NFTを活用するにあたっては、そのホルダー(所有者)とどのようなコミュニケーションを継続して行っていくかが重要です。NFTを活用した新しい事業の展開や自社のPRなどを考えている方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。(了)