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約900名がエントリー!「学生の知名度ゼロ」BtoBスタートアップが挑んだ初めての新卒採用

Nint_新卒採用_SELECK

スタートアップが、新卒採用に踏み切るタイミングの見極めは非常に難しい。圧倒的な成長のためには即戦力を増やすことが重要な一方、会社に愛着を持ちやすい新卒メンバーが、組織にとって重要となるフェーズもいつか訪れるだろう。

2018年に株式会社アドウェイズから独立する形で立ち上がり、ECビッグデータSaaS「Nint ECommerce」を展開する株式会社Nint

独立当時は数名だった同社も、現在は国内で80名ほどが所属する組織へと成長した(親会社であるNintホールディングスを含む)。そして2021年12月には、「新卒一期生」である23卒の採用活動に踏み切った。

まだまだ成長途上のスタートアップであり、さらに事業領域がBtoBであるため、「学生の知名度はほぼゼロ」という状態だったという同社。しかし、およそ3ヶ月という短期集中型の活動でありながら、約900名のエントリーを獲得。当初の目標を超える5名の入社意向を得ることに成功した。

CHROとして新卒採用をけん引した唐澤 一紀さんによると、その成功要因の大きなものには、主に一次面接で行っていた同社オリジナルの「ライブワーク型面接」にあるのだという。

「ライブワーク型面接」では、一般的な面接のような質疑応答はなく、学生はその場で共有されたマーケティングに関するワーク(課題)に取り組む。その様子をリアルタイムで面接官に画面共有し、最後は課題について1on1形式でディスカッションを行うのだそうだ。

この方式により、学生、面接官、さらには採用活動をする人事にとっても、通常の面接では得られない数多くのメリットがあったのだという。

今回は唐澤さんに、Nintが新卒採用に踏み切った背景から戦略の立て方、さらに「ライブワーク型面接」の運用について、詳しくお話を伺った。

アドウェイズから独立し4年目で「新卒一期生」の採用に踏み切る

僕は、2021年12月にNintホールディングスに入社し、現在はCHROとして、事業戦略・事業計画を実現するための組織づくりに取り組んでいます。あるべき理想形に対しての課題を見つけては、それを組織開発や採用、社内制度など、打てる手を使って解消していく…ということを日々行っています。

弊社は「データで世界を自由にする」というミッションを掲げ、日本ではNintホールディングス株式会社と株式会社Nintを合わせて80名ほどが所属するスタートアップです。

提供しているのは、AIやクローリングといった技術を用いたECビッグデータSaaS「Nint ECommerce」です。Amazonや楽天市場、Yahoo!ショッピングといったECモールで「何がどこで、どのくらい、いくらで売れるのか」をリサーチできるSaaS型のツールになります。

▼「Nint ECommerce」の製品イメージ

「Nint ECommerce」の製品イメージもともとは株式会社アドウェイズの中で立ち上がり、中国で展開していた事業なのですが、2018年に独立しました。その際には、まだ人数も二桁いかないような組織だったのですが、事業、組織ともに順調に成長を続けてきました。

僕が入社してすぐに新卒一期生である23卒の採用活動を始めたのですが、実は株式会社Nintの代表である吉野は、アドウェイズの新卒一期生だったんですね。

ですので経験値として、新卒が会社に与える影響をもともとポジティブに捉えていました。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を大切に会社を運営していきたいという思いも強く持っていたので、新卒採用はその最も強い打ち手の一つとも考えていたんですね。

▼Nintが掲げるミッション

Nint_ミッションやはり新卒は、中途と比較すると社会人としてゼロから会社のMVVを吸収して、まっすぐに育ってくれる存在だと思います。そういった人が会社に一定数いる状態を作れたら、周りの社員も良い影響を受けるでしょうし、より会社全体としてMVVの浸透が進んでいくだろう…ということが狙いでした。

「知名度ゼロ」BtoBスタートアップの新卒市場での戦い方は…?

23卒の採用に本腰を入れ始めたのは2021年12月ですが、最初は情報収集や媒体選定を行っていたので、実際に学生さんとお会いするようになったのは1月末からでした。そこから約3ヶ月で、約900名の応募と、もともとの目標4名を超える5名の入社意思をいただくことができました。

大手が採用し終える夏ごろまで活動するような企業も多数あるため、長期戦で採用活動を行うことも考えましたが、我々の場合は敢えて短期集中型を選択しました。というのも、まだまだ長丁場を戦う組織的な体力があるわけではないので…。期間を短くすれば、その間だけ人員を増やす、といったこともやりやすいなと。

媒体に関しては色々と検討したのですが、最終的にはほぼ株式会社RECCOOが運営する「エンカレッジ」さんのみになりました。さまざまな企業に一括エントリーした学生さんにこちらからスカウトを送れる仕組みなので、我々を全然知らない学生さんにもアプローチできるかなと(笑)。

▼Nintホールディングス株式会社 CHRO 唐澤 一紀さん

Nintホールディングス株式会社 CHRO 唐澤 一紀さんそもそも、NintはスタートアップかつBtoBということで、学生さんの知名度は全然なかったんですよ。実際に僕が面接の中で「知ってました」と言われることは一度もなかったですし、本当に「知名度ゼロ」という状態でした。

ただ、今回驚いたのが、世の中には「チャレンジしたい」学生さんも本当にたくさんいるんだなと。「入社したい会社ランキング」といったものを見る限り、大手志向・安定志向が強いように思っていましたが、実際に我々が接した学生の方の中には、挑戦したいというマインドを持った方がいっぱいいたんですよね。

我々は知名度がなかったこともあり、「新卒一期生」というキーワードを全面に押していったので、そういったカラーの方が応募してきてくださったのかもしれませんが。

媒体上の打ち出し方としては、他にも、学生さんが興味がありそうな「マーケティング」「データサイエンス」といったキーワードはしっかり見せるようにしていました。

結果、想定していた倍以上の応募があったので、上記のようなキーワードの掛け算の威力は大きかったと思っています。

エントリー後の流れとしては、まずは説明会か、我々が「ハーフデイ」と呼んでいる半日のワークショップにご参加いただき、そこから一次、二次面接、適性検査を挟んで最終面接という形でした。

説明会は認知というよりアトラクトのフェーズに入っていきますが、そこで自社の強みをしっかりと打ち出せたことも大きかったと思います。

まず事業自体が国内にほぼ競合がおらず、独自性の高いものであること。加えて、すでに日本と中国をあわせて延べ4,000社以上のお客様にお使いいただいているというファクトもあるので、「この会社、知らなかったけど実はめっちゃ面白いんじゃないの?」と思っていただけるだけの材料があったんですね。

「夢」を語るスタートアップと思いきや、「実績」で語れるものがある。この「ギャップ」も大きかったのかなと思っています。

成功の肝は、見極めとアトラクトを凝縮した「ライブワーク型面接」

次のプロセスは面接ですが、今回の新卒採用が成功した一番の肝は、主に一次面接(オンライン)で行っていた「ライブワーク型面接」にあったと思います。

「ライブワーク型面接」とは、「この商品とこの商品、発売するならどっち?」といったマーケティング関係のテーマを出して、学生さんに考えていただく。その思考の過程を、Zoomで画面共有をしていただいてリアルタイムで面接官が見る、というものです。

その後は、学生さんの解答を聞き、先輩と後輩の1on1のように、「最初に◯◯を検索したのはどういう目的があったんですか?」「◯◯の世界シェアを調べていたけれど、どうしてですか?」「他にどういうデータがあったら良かったと思いますか?」という形でディスカッションしていきます。

実際の調べ方のプロセスや解答の背景についてコミュニケーションする中で、適性を見ることができますし、こちらからもアドバイスができます。さらには解説として、「弊社のサービスを使うとこういったデータが見られるので、こうやって考えていく方が妥当かな」といった話もできます。

Nintホールディングス株式会社 CHRO 唐澤 一紀さんつまり、誰がどんな風にNintのサービスを使うのか、具体的な顧客体験を紹介することができるんです。すると学生さんも、「なるほど、たしかにこういうデータが見れたら嬉しいな」といった形で、サービスへの理解が深まるんですね。

実は最初の段階では、2月に1週間ほどのインターンを実施しようとしていました。ですが、就活のピーク時である2月に、学生さんが名前も知らない会社に1週間も時間を注げないじゃないですか。

そこからどんどんプログラムを短くしていって、最終的に半日になり、先ほどご紹介した「ハーフデイ」が生まれました。そしてさらにそこから試行錯誤する中で、「ハーフデイ」のワークとしてすごく良さそうなものができて。

いっそこれを一次面接にすればすべて解決されるのでは? と思ったのが始まりです。インターンを通じてお互いを知ろうとしていたのを、より短い時間にぎゅっと押し込むことを考えた結果、この「ライブワーク型面接」が生まれました。

また、このワーク形式を取り入れた別の目的として、当時頭を悩ませていた「面接官のトレーニング問題」の解消があります。我々は初めての新卒採用ということもあり、面接官の中にはそもそも面接をしたことがない、という人もいて、経験値のバラつきが大きかったんです。でも、このワーク型面接は、面接ではなく会話なので、トレーニングが少なくて済むんですね。

しかもいまの時代、面接でプライベートなことを聞かれたくない方も増えていますし、その上オンラインですから、コミュニケーションが一層難しいじゃないですか。その中で、ワーク形式にすることである程度のクオリティを担保できて、コントロールを効かせられることは非常に大きかったですね。

今回は、一番最初にこの「ライブワーク型面接」をさせてもらった学生の方に、「申し訳ないのですが社内で勉強するために動画を撮らせてもらえないでしょうか?」とお願いして、その動画を社内に展開する形で面接官にはインプットしてもらいました。ちなみに実はこの時の方が、最初の内定者になったんですよ。

面接官側としても、この面接形式は、特にアトラクトが非常にしやすかったようです。我々のようなリソースが限られているスタートアップにとっては、現場的にも嬉しい方法だったと思います。加えて、こうしてエネルギーのある学生さん達と接することで、モチベーションも上がったと言っていましたね。

学生の皆さんからは、「こんな形式は初めてで、最初は画面を見せることに緊張しました」といった声はありました。ですが、ワークを進めているうちに、どんどん気にならなくなってくるようで。総じてポジティブに捉えてくれていましたね。

「スタートアップって、こういう新しい選考スタイルにもチャレンジしていくんですね」と、好意的に受け取ってくれる方も多かったです。

こうして、応募から説明会、一次面接という流れの中で、「会社のことを知った上で、サービスを触ってみて、なるほどと思う」という入社意向を上げる体験を自然に作ることができたんですね。

「短期集中」だからこそのテクニックも。24卒もさらなる挑戦に挑む

今回の取り組みを振り返って改めて難しかったなと思うのは、短期集中型だったので、PDCAをめちゃくちゃ速く回す必要があったことです。仮に5ヶ月あれば、最初の2ヶ月を回して振り返って後半改善しよう、とできますが、そんな余裕はなかったので。方針を変えるとなるとすべて大急ぎだったので、とても苦労しましたね。

例えば当初は、一次面接の通過率が想定よりかなり高くなってしまって。みんな初めての新卒採用で応募してくださって嬉しいので、「誰も落とせない」という気持ちになっていたんですね。

このままだと二次面接や最終面接で相当の渋滞が起こると予想されたので、急遽、大きく軌道修正をしました。例えば、評価が3段階だったものを5段階にする、といったことをしましたね。

というのも、面接官に聞いたところ、3段階の同じ評価の中にも「上の評価に近い方」などというものはあると。であれば、それを分解しようという発想でした。そこを分けることができれば、あとは人事側で上位の◯◯%が通過する、といった形で判断ができるので。

この段階からまた面接官のトレーニングをやって…ということはもうタイミング的にも難しかったので、テクニカルな方法で修正しました。

Nintホールディングス株式会社 CHRO 唐澤 一紀さん来年も新卒採用には取り組む予定ですが、もう「新卒一期生」という言葉は使えなくなるので、それによってどれだけ学生さんの反応が変わるのかは未知数だなと思ってます。もしかしたら一番大きな武器を取り上げられることになるかもしれないですが、下駄をはかない状態でどれだけ戦えるかは楽しみでもあります。

次回は、もう少し早期から取り組みたいと思っていて。今回は2〜3月がピークでしたが、次は10月くらいから、荒れ狂ってる海原に出てやっていこうかなと(笑)。

Nintはビジョンとして、「データの価値、人の可能性が輝く世界」ということを掲げていて、人の成長をとても大事にしています。ですので、事業を通じて人を成長させるために、社内でもいろいろな仕掛けをフラットに考えていきたいなと思っています。

まだまだスタートアップなので、事業も採用もかなり柔軟に考えていくことができます。この自由度の高さは、自分も、これから入社してくる方にとっても非常に面白いチャレンジになると思います。(了)

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