- スマートニュース株式会社
- クリエイティブプロデューサー(SmartNews Creative HUB)
- 山﨑 佑介
広告もコンテンツ化する時代。SmartNewsに学ぶ、「スマホ時代」の広告の在り方とは
〜宇多田ヒカル、ももいろクローバーZ、そして村上春樹まで。様々な広告を「コンテンツ化」する、SmartNews Creative HUBの哲学とは〜
世界2,000万ダウンロードを超える、スマートフォン・タブレット向けニュースアプリ「SmartNews(スマートニュース)」。
同サービスでは、2016年9月より、新しい「縦型」の動画広告の配信を開始した。
宇多田ヒカルの8年ぶりの復帰作となった「花束を君に」のミュージックビデオや、ももいろクローバーZの「24時間SmartNewsジャック」など、その印象的なクリエイティブを目にした方も多いのではないだろうか。
そんな動画クリエイティブの制作を支えているのが、スマートニュース株式会社で昨年新しく立ち上がった、「SmartNews Creative HUB(以下、Creative HUB)」という体制だ。
Creative HUBは、スマートフォンアプリだからこそできる表現を追求し、広告クリエイティブをより「スマニューらしく」「コンテンツ化」することを目指し、社内外の組織やクリエイターらを横断する形で活動をしているという。
今回は、同社でブランド広告責任者を務める菅原 健一さんと、SmartNewsの広告クリエイティブに課題を感じ、Creative HUBを立ち上げた山﨑 佑介さんに、SmartNewsが目指す姿、そしてスマホ時代の広告の在り方について、詳しくお話を伺った。
「スマニューらしいクリエイティブ」を追求する体制を立ち上げ
菅原 僕は昨年(2016年)の6月1日に、スマートニュースに入社しました。今はブランド広告責任者として、純広告を代理店、クライアントに販売する営業チームを持っている形です。
山﨑 僕は昨年の7月に、マーケティングのメンバーとして入社しました。メインの仕事は、オンラインのアクイジション(新規ユーザーの獲得)です。
各媒体に広告出稿をして、SmartNewsのユーザーさんを取ってくる役割ですね。菅原さんはお金を稼ぐ方で、僕は使う方です(笑)。
そしてそれとは別に、「SmartNews Creative HUB」という体制を、入社1ヶ月ほどで立ち上げました。
Creative HUBは、SmartNewsに掲載する広告やコンテンツ、外部の媒体に出す広告、そういったもの全てにおいて「スマニューらしいクリエイティブ」を作ることが役割です。
制作というよりは、クリエイティブのディレクションを、チームを横断して行っています。周りの人の助けを借りながらですが、実質、ほぼ僕が1人で走っているような形ですね。
広告のクリエイティブが「無難に」なってしまっていた理由とは…
菅原 Creative HUBは、山﨑がSmartNewsのクリエイティブの状態に憤慨して(笑)、自ら挙手をして始めたものなんです。
実は当時、「広告のクリエイティブがイケてるか」「スマニューっぽいか」といったことを、社内できちんと見られていなかったんですよ。
もちろん、ユーザー体験はもともと非常に大事にしているので、広告の審査はしっかり行っていました。嘘はないか、表現が読者に誤解を与えないか、といった点ですね。
プラスとマイナスで言うと「これは駄目だよね」というマイナスの方は、きちんと想定されていたんです。ただそうすると、その基準を突破することがゴールになってしまって。
そうすると結局、「無難なもの」ができてしまっていました。本質的なクリエイティブの部分や、本当に情報価値が高いのか、といった話は置き去りになっていたんです。
そんな中で、当時まだ入社したばかりの山﨑が、Slack(社内チャットツール)の広告関連のチャンネルで、ちょいちょい「これでいいんですか?」という発言をするようになって。
もともとそのチャンネルは営業中心だったので、「受注できた、わーい」といった会話がメインになっていました。
ですので、広告の審査が終わると、そのクリエイティブは自然に受理されていくような流れだったんですね。そんな中で彼がひとり、「これじゃ読者に伝わらないよ!」と怒っていて(笑)。
そして、「この広告、スマニューっぽくないじゃないですか」「もっとこうした方がいい」という具体的な提案を始めたんです。
そうした発言を聞いて、「じゃあやろうか」という話になりました。それはつまり、彼の指摘が正しかったんですよね。
たぶんみんなの心の中にも、ずっとクリエイティブ面が課題としてあったので、「ああ、そうだね」と共感できたのだと思います。そういった経緯で、Creative HUBが立ち上がりました。
「スマホアプリでニュースを読む」ユーザーのニーズを突き詰める
山﨑 そもそも僕自身がよく考えているのは、広告でも記事でも、SmartNewsに来るユーザーが求めている情報を発信していくべきだということです。
これは一例ですが、「芸能ネタをアプリで読もう」という広告を出せば、安く新規ユーザーを獲得できます。ですがその場合、リテンションレート(継続率)が伸びないんです。
その理由は、SmartNewsがやっぱりニュースアプリだからです。芸能ネタではなく、ニュースを見たい人、つまり情報価値が高いものを求める人が、使ってくれているということなんです。
またSmartNewsの特徴として、Webではなく、アプリだけでサービスを提供していることがあります。その前提に立って、「アプリにニュースを見にくるユーザー」の気持ちを考えると、他の情報媒体とは全然違うと思っていて。
例えば、テレビのニュース番組を見る体験と比べるとわかりやすいです。
テレビは、その前に座って何十分の尺でしっかりと見るものなので、キャスターが丁寧に説明しても良いですよね。ですが、SmartNewsは移動時間の中などでサクッと見るものなので、それは違うよね、ということになります。
また、スマホは手元で見るものなので、画面とユーザーとの物理的な距離が近いんですよ。ですので、報道番組でよくあるような「引き」で撮影したものより、もっと「寄り」で、画面にどーんと映っていた方がわかりやすいんですね。
ですが、以前のSmartNewsでは、こういった部分を追求できていませんでした。そこで自分自身で、SmartNewsにおけるクリエイティブを「もっとスマホっぽく、SmartNewsっぽく」変えていこうと思ったんです。
宇多田ヒカル、ももいろクローバーZ…あのコンテンツ作成の裏側
山﨑 Creative HUBとして最初に手掛けたのは、2016年9月に広告配信した、宇多田ヒカルさんの「花束を君に」のオリジナル動画です。彼女の「歌っている表情」にフォーカスしたコンテンツですね。
▼実際に配信された広告の画像(※2016年9月2日6時〜3日5時に掲載)
このようなクリエイティブを作った理由は、彼女の8年ぶりの復帰作ということもあって、ネット上などで「彼女の歌う姿や表情を見たい」という声がすごく多かったからです。
8年間待ち続けたファンの方に向けて「アルバムをリリースしました」だけではなく、ご本人がセルフィーのようなスマホの距離感で歌うことが、ニュースアプリの広告として適しているのではと考えました。
実際、レコード会社さんでも、テレビのサイズ感を基準に作っているミュージックビデオをどうスマホ上で展開するか、ということは悩ましいそうなんです。そんな中で、まさに「これだ」と。
まるで彼女からSnapChatなどで送られてきたような映像を、SmartNewsオリジナルでやらせてください、という提案をさせていただきました。
菅原 山﨑が見ているのは、スマホ上における表現として正しいかということはもちろん、やはりSmartNewsのユーザーにとって情報価値が高いかどうか、なんですよね。
その「価値の高い情報」が、宇多田ヒカルさんの例で言うと「彼女が歌っている顔」だった、ということなんです。
その答えが見つかるまで、彼はずっと探していますね。ももクロさんとのコラボ動画を作ったときは、すごく大変そうでした。
▼実際に配信された広告の画像(※2016年9月7日6時~8日6時に掲載)
山﨑 あの時は、過去9年分の、Webに出ているももクロさん関連の記事をひたすら全部洗ったんです。自分でも「何やってんだろう…」って思いながらも、どんどん好きになってきて(笑)。
でも、やっぱりファンの心理を知りたかったんですよね。ファンにとってどんな情報が価値が高いのか、それを知らないことには、コンテンツを作れないので。
結果的に、今回はももクロさんの1年振りのシングルが「ゴールデンヒストリー」というタイトルであったことと、SmartNewsがニュースアプリだということを考えて、ももクロのヒストリーをまとめて見せてあげるのが良いのではないかと。
実際、再生回数も150万回を越え、とても大きな反響をいただきました。
動画広告って、同じ人に何回も当たらないように、表示回数の制限をかけるんです。でもそうしたら「見られなくなったぞ」という苦情が大量に来て…。それで、YouTubeの公式チャンネルにもその動画を上げてもらったんですよ。
スマホ動画の場合、伝えるメッセージはあくまでもひとつ
山﨑 こうしたクリエイティブを作る際には、「1メッセージ」を強く意識しています。
と言うのも、スマホで動画を見る場合、長くは見ないんですよね。30秒くらいが理想なので、その短い時間の中で伝えられるメッセージは、あくまでもひとつだと考えています。
そのひとつのメッセージを何にするのかということは、毎回、徹底的に考えます。
宇多田さんも、ももクロさんも、良いところを100個挙げることはできると思うんですよ。でも重要なのは、その中で今回はどれを選ぶのか、ということです。
具体的には、宇多田さんの時は「歌っている表情」、ももクロさんの時は「ヒストリー」でした。ちなみに、村上春樹さんの新作”騎士団長殺し”発売の際の全面広告のメッセージは、「本日発売」でした。
▼実際に発売日に配信された広告の画像
村上春樹さんって、事前にタイトル以外の情報を何も出さないんです。皆さんにピュアな気持ちで読んでほしい、という思いがあるそうなので、主人公やストーリーについては、発売まで発表しないんですよ。
いざ発売という時に、一気に情報が出るんです。もはやお祭りですよね。本屋さんであれば、店頭の全面に商品を並べたりすると思うのですが、それをスマホでやろうと、全面広告の形をとりました。
今回は広告から作品のランディングページに誘導したのですが、予想以上に多くの流入があったそうで、嬉しかったですね。しかも広告の配信日には、そのランディングページの訪問数のおよそ半分が、SmartNews経由だったそうなんです。
「枠を買って見せる」広告の時代は終わった。次に目指すのは…
山﨑 Creative HUBとして、数字の目標は特に設定していません。ただ、このような動画広告を評価する上では、「視聴完了率」をひとつの指標にしています。
菅原 視聴完了率が高ければ当然、情報価値が高いということですし、やはり僕たちは、ユーザーにできるだけ長くSmartNewsと一緒に過ごしてもらいたいんですよね。SmartNewsに広告を出稿される企業にとっても、それは同じだと思っていて。
その点、以前の広告業界の考え方だと、テレビであれば、GRP(延べ視聴率)を時間の枠として買い押さえることが主流でした。ですが、スマホの時代になって何が起きたかというと、広告の「スキップ」ができるようになったんですよ。
広告を出す権利は買えても、それを見てもらえるかどうかは、その広告の面白さに関係するようになったんです。そこでテレビの流儀で考えてしまうと、「15秒の枠を買ったのになんで見てもらえないんだ」という話になってしまいます。
ですが、それは受け手のことを全く考えていなくて。最近はWeb広告でも強制視聴の仕組みがありますが、僕はあれ、嫌なんですよね。
スマホはスキップできるのが当たり前なのに、無理やり見せていたら、受け手はその広告主さんに対して「うざいな」という印象を持ってしまうからです。
僕たちはそれを避けたいので、だったら強制視聴はやめましょうと。その代わりに、広告自体を見てもらえるくらいに面白くする。山﨑が目指しているのは、こういうことなんですね。
山﨑 僕はそもそも、SmartNewsの会社のビジョンが大好きで。「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というビジョンなのですが、これってすごく難しいことなんですよ。
「良質な情報」って、今と先月で違うんですよね。もっと言うと、今と1時間後でも違う。それに、「必要」かどうかも、難しくて。
それをエンジニアリングの力でどう届けるか、という課題もあります。そしてまた一方では、コンテンツの力で「必要じゃないと思っていた情報を、必要なものだと感じさせる」ことできると思っているんです。
例えば社会問題であったり、自分が知らないコミュニティーであったり。その情報を知ったことで、より良い明日、より良い自分の人生を実現することも可能かもしれないですよね。
たとえ広告であってもそれをコンテンツ化することで、SmartNewsが目指すような体験を届けることができると思っています。(了)