- 株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング
- 取締役
- 坊垣 佳奈
「資金集め」で終わらない。Makuakeがクラウドファンディング市場で勝ち続ける理由
~国内クラウドファンディングサービスで、年間の資金調達額No.1の「Makuake(マクアケ)」。徹底的に差別化を行う、後発サービスならではの戦い方とは~
アイデアの発案者が、その賛同者から資金を調達する仕組みである、クラウドファンディング。アメリカでは2016年の取引額が1,070億円に到達するなど、マーケットのポテンシャルは非常に大きい。
そんな中、日本国内におけるここ1年の調達額ナンバーワンを誇るのが、株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディングが運営する「Makuake(マクアケ)」だ。
▼まだ世の中にないアイディアが掲載される「Makuake」の公式サイト
同サービスは2013年に設立した、競合に比べると後発のサービスだ。にも関わらず、プラットフォームとして成功した大きな要因は、既存のサービスと徹底的な差別化を行い、独自の価値を見出すその戦略にあった。
今回は、Makuakeで取締役を務める坊垣 佳奈さんと、これまで数多くのプロジェクト支援を行ってきたチーフキュレーターの森 恵さんに、詳しくお話を伺った。
「後発」サービスでありながら、調達額No.1を達成したMakuake
坊垣 私はMakuakeの立ち上げから、役員としてサービスに関わってきました。2013年からスタートしたMakuakeですが、実は日本のクラウドファンディングサービスの中では後発に当たるんですよ。
日本では、東日本大震災の直後に、どちらかと言うと寄付金集めや、個人の活動支援を目的とするようなプラットフォームがいくつか立ち上がったんですね。私たちはそこからおよそ2年ほど経って、サービスをスタートしています。
そしてこの1年間では、業界ナンバーワンの調達金額を達成することができました。
なぜ後発でこれだけサービスを伸ばすことができたかと言うと、まず戦略的に「ジャンルの差別化」を行ったことが大きいと思っています。
私たちが注目したのは、主に製造業が関わるイヤホンやバイクなどの「プロダクト」と、映画やアニメをはじめとする「コンテンツ」、そして「飲食店」という、日本が特に強い分野です。既存サービスとの差別化という観点からも、それらの分野を積極的に強化してきました。
▼折りたたみ式電動バイクなど、プロダクト系のプロジェクトに強い
プロジェクトの「見せ方」を、徹底的にコンサルティングする
坊垣 また、サービスのスタート時から、1つひとつのプロジェクトの「見せ方」の部分をずっと重視しています。
できるだけ多くのプロジェクトが、 1円でも多くお金を集められるようにするためには、プロジェクトごとのベースのマーケティングが重要になります。
例えば、プロダクトの差別化ポイントをしっかりと見極め、最適なターゲットに打ち出していく、というようなことですね。
そのためMakuakeでは、「キュレーター」という役割がいて、1人のキュレーターが必ず1つのプロジェクトに担当としてつきます。プロジェクトを成功に導くため、設計からグロースまで丁寧にサポートさせていただいています。
森 私はMakuakeの立ち上げから、キュレーターの業務を担当しています。
基本的にはMakuakeはプラットフォームなので、ページに載せる情報や素材は、実行者さんにご用意いただいています。
その中で私たちキュレーターは、実行者さんと実際に打ち合わせをしながら、一緒にプロジェクトのページを作っていきます。Webページならではの見せ方のノウハウも必要なので、それは個々のプロジェクトごとにお伝えしています。
▼装着イメージなど、プロダクトの良さが伝わる見せ方をコンサルティング
打ち出し方を徹底的に考え、Kickstarter以上の調達額を実現
森 具体例として、2016年9月〜2016年12月の間にMakuakeで2,600万円以上の資金調達を達成した、ワイヤレス・エアー・ヘッドホン「ヴィー・シェア」
のプロジェクトをお話しできればと思います。
▼ワイヤレス・エアー・ヘッドホン「ヴィー・シェア」のプロジェクトページ
こちらは日本のスタートアップが作ったプロダクトなのですが、最初にアメリカ発のクラウドファンディング「Kickstarter」でおよそ2,000万円を集めていたんです。その後、日本に向けての調達を、Makuakeでお手伝いさせていただく形となりました。
しかし、外国人向けに作られているKickstarterのページを参考に見てみると、「Pain-Free Sociable Headphone(耳が痛くならない)」「Sociable(ヘッドホン同士で共有できる)」といった形で、「機能」をメインに打ち出していたんです。
▼ヘッドホンの構造など、機能面をメインに打ち出しているKickstarterのページ
「耳が痛くならない」という言い方は、日本語で言うと「マイナスをゼロにする」表現なんですよね。このメッセージですと、ページを見た人に、プロダクトの良さが伝わりにくい可能性があります。
また、プロダクトのデザインがとてもおしゃれなのに、そのデザインの部分があまり押し出されてなかったんです。モデルさんも、あまりプロダクトのデザイン性とマッチしていませんでした。
そこで、キュレーターである私たちは、日本においてはデザイン性が訴求ポイントになると想定し、おしゃれで新しいもの好きな人をペルソナに設定したんです。
このプロジェクトに限らず、実行者さんが気づいていないターゲット像を、私達キュレーターから提案し、議論しながらプロジェクトページをつくっていくことは多いです。
本プロジェクトは、モード系のモデルがヴィー・シェアを装着している写真に変更し、メッセージも「つけ心地もデザインも最高品質」という表現に変え、プラスのイメージを打ち出したんです。
その結果、2回目の資金調達にも関わらず、Kickstarterを超える26,779,500円もの調達をすることができました。実行者の方自身も、とても驚いてくださったんです。
プロジェクト単位で終わりにはしない!リピート支援に着目
坊垣 またMakuakeでは、創業当初から専任の広報を設置し、会社の広報だけではなく、プロジェクト自体のPR活動を行ってきました。
Makuake自体がインターネットのサービスなので、ソーシャルでの拡散も大切です。ですので、Twitter、LINEといったソーシャルツールも、広報チームが積極的に運用しています。
こうした活動の結果として、今ではMakuake関連の記事が、月に400〜500件ほど世の中に出るようになりました。それだけ露出があるので、オーガニックの流入比率も高いですね。
さらにMakuakeでは、プラットフォームとしてきちんとユーザーに「リピート」していただくことを意識しています。
例えば、プロジェクト単位で実行者の知り合いの方々が支援しに来るようなケースですと、その後のリピートはなかなかないんですよね。
ただMakuakeの場合は、プロダクトやコンテンツといったプロジェクトが多いので、「リピート購入しやすい」んです。例えば「Makuakeでリュックを買ったけど、次はイヤホンも欲しいな」と思ってくださる人を増やすことも、大切だと思っていて。
ですので、リピート購入率についても意識して見ていますし、既存会員へのメルマガなどのアプローチも行っています。メルマガの開封率も非常に高くて、1度メールを打つと、支援額がポンッと伸びることもありますね。
Makuakeを通じて、日本の製造業を変えていきたい
坊垣 近い将来でいうと、今後はもっと地方の伝統工芸や技術を、今の時代に合わせて商品化していきたいですね。
最近、岐阜の関市からペーパーナイフのプロジェクトが立ち上がったのですが、それまでは全く世の中に知られていなかった会社さんの商品が、1ヶ月で3,000個も売れたんです。
クラウドファンディングと言うと、「お金集めするだけでしょう」と思われがちです。でも私たちは、マーケティングやプロモーションの一環としての支援も、ご提供できると考えています。
だからこそ、世の中に必要とされている新しいものが世に出るまでを広くサポートし、日本の製造業を変えることに貢献していきたいですね。(了)