- 株式会社クト
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- 松浦想
1ヶ月でA/Bテスト123回!マッチングアプリ「Pancy」、「後発」の戦い方とは
〜後発でマッチングアプリ市場に参入したPancy。ユーザーを理想的な体験に導くために、多くのA/Bテストを繰り返して見えてきた傾向とは?〜
インストール後の初回体験を成功させ、ユーザーの継続利用を促す。そして、サービスに「ハマる」体験に導くことで、課金率を高めていく。
これがユーザー課金モデルを採用するアプリにおける、グロースハックのプロセスだ。
複数の先行プレイヤーが存在する中、価値観の相性でつながることをコンセプトにしたマッチングアプリ「Pancy(パンシー)」が2017年10月にリリースされた。
▼価値観診断でつながる恋活・婚活マッチングアプリ「Pancy」
同サービスの運営では「プロフィール登録率」「いいね!数」など、ユーザーをアプリの体験にハマる行動に導くべく、プッシュ通知とアプリ起動時のポップアップを組み合わせたA/Bテストを高速で実施。
その結果、課金率を大幅に改善することに成功したという。
今回は株式会社クトにて代表を務める松浦 想さんに、サービスリリースの背景から、ユーザー獲得の手法、そしてインストール後の体験を最適化させる施策についてお話を伺った。
「いいね!格差」を解消すべく、相性で選ぶアプリを開発
弊社は2017年10月に、価値観診断でつながる恋活・婚活マッチングアプリ「Pancy」をリリースしました。
Pancyは、異性のプロフィールを1人ずつ見て気になった相手に「いいね!」を送り、「ありがとう」が返ってきた相手とメッセージのやりとりができるという、いわゆるマッチングアプリです。
他のサービスとの違いは、30問の価値観診断の結果に基づいて、相性ピッタリな相手がレコメンドされる点です。
▼価値観の相性が良い相手がレコメンドされる
既存のマッチングアプリは「いいね!」を送る基準が見た目やステータスになってしまうことが多く、サービス内で、人気のある方とそうでない方の「いいね!格差」が生じてしまっていました。
そこで、外見ではなく、内面を重視したアプリを作ったらどうなんだろう? と思いまして。
ターゲットユーザーである数十人の知人に協力してもらい、2人の異性の写真と相性を載せた紙を見せて、どちらか一方を選んでもらうテストをやってみたんです。
すると、60%ほどの確率で「見た目よりも相性の良さで選ぶ」ということがわかり、これはチャンスがあるのではと、開発を始めました。
既に先行プレイヤーはいたものの、マッチングアプリ市場は現在もかなり伸びています。且つ、ユーザーは複数のアプリを同時に利用していることもわかっていたので、まだ勝算の余地があると考えました。
リリースキャンペーン後のDAUの落ち幅が、想定外の数値だった
KPIとしては「MAU」「課金率」「課金単価」の3つを掲げています。最初はとにかくMAUを伸ばすために、インストール数と継続率を追っていきました。
まず、ユーザーの獲得については「価値観診断」というコンセプトが女性に受けて、オーガニックを中心にインストール数が伸びましたね。
よくFacebookで、「何とか診断」の結果がシェアされているのを見かけますよね。日本では診断サービスがとても身近なこともあり、これが結構受けたんです。
また、男性は「期間限定で無料でメッセージし放題」という、当時、どのマッチングアプリも実施していなかった大胆なキャンペーンを打ちました。
後発でリリースした分、Pancyをインストールする理由をしっかり作ってあげる必要があったので、他社がやっていないマーケティング施策に、果敢に挑戦しました。
ただ、反響の一方で誤算もありました。キャンペーン終了後に大体7、8割くらいは継続して利用してくれるのではないかという想定に対して、結局残ったのは5割くらいでした。
無料だから使ってくれただけであって、「お金を払ってまで使いたい」という方はそこまで多くなかったというギャップはありましたね。
また、広告プロモーションについては、最初はFacebook広告のみを配信していました。しかし、キャンペーン終了後に無料訴求ができなくなったことや、競合他社の配信強化により、CPIがかなり高騰してしまったんですね。
そのため、プロモーション戦略をイチから見直しました。具体的には十数媒体へ出稿を開始し、デイリーでパフォーマンスを見ながら、効果的なチャネルへの予算配分を行いました。
その結果、Facebook広告だけを運用していた時と比べて、CPIを50%程改善することができ、リリース後の半年間で、インストール数を数十万件まで伸ばすことができましたね。
価値観診断は「体験のリッチさ」よりも「簡単さ」が重要
インストール後は、価値観を診断する30の質問に全て回答してもらうため、途中でいかに離脱させないかがポイントになります。
▼30の質問に5段階で回答する価値観診断
開発段階で何人かに触ってもらったのですが、診断だけで平均で約3分以上かかっていて、結構離脱するユーザーも多かったんですね。
次の質問に切り替わるときに、画面がくるっと回転するリッチなモーションをつけていたことで必要以上に時間がかかっていました。また、かかる時間や今の進捗が分からないという理由で離脱されることが多い状況でした。
そのため、ひとつの質問に回答した後、次の画面に切り替えわるスピードを2倍ほど早めて、サクサク動くように改修したり、回答進捗や平均の回答時間を表示した結果、当初より離脱率を20%ほど改善しました。
ユーザーにとっては体験のリッチさよりも、できるだけ楽に回答できて、進捗状況がパッと見でわかりやすいことが重要だということを学びましたね。
地道なA/Bテストを通して、ユーザーにアプリ内での行動を促進
そして、ログイン後は、プロフィールを入力する→「いいね!」を送る→ありがとうが返ってきて、マッチングする→メッセージを送る→返信がくる→返信を見るため有料会員に登録する、という流れで体験が進んでいきます。
この一連のプロセスの中で、まず重要になるのは、初回ログイン時の「いいね!」数です。
この数が翌日以降の継続率に大きく影響するため、プロフィール入力後に「30分間限定でいいね!し放題」というリワード施策を打っています。
▼アプリ内で表示されるポップアップ
この施策によって、当初と比べて、初回ログイン時の「いいね!」数と、インストール翌日の継続率が大きく改善しました。
この「いいね!」数は、マッチング率と課金率に大きく影響します。
そこで、「Repro(リプロ)」を活用して、初回ログイン時だけでなく、その後も特定の条件をもつユーザーに向けて、同様の施策を実施しています。
具体的には「ログイン履歴」「いいね!数」などの複数の条件から絞り込んだユーザーセグメントに対してプッシュ通知を送って、アプリ起動時に特定のポップアップを表示しています。
そして、施策を実施する際は、毎回プッシュ通知の文言を2種類作成し、どのパターンの開封率・アクションのコンバージョン率が高かったのかを検証しています。
▼Reproを活用して、施策のA/Bテストを繰り返す
例えば「今日アプリを起動していない」かつ「昨日いいね!を送った数がn件未満の男性ユーザー」を2グループにわけて、訴求内容の異なる2種類のプッシュ通知を送ります。
その後、結果がRepro上で確認できるので、試した施策のうち、どちらの反応が良かったかをスプレッドシートに記録していきます。
そして、次に施策を実施する時には、同じセグメントに向けて「前回パフォーマンスが良かったメッセージ」と「新しく試すメッセージ」を送ってみる、という形で地道にA/Bテストを繰り返しています。
プッシュ通知で「マッチング率」「メッセージ送信率」を改善
「いいね!」を送った後のマッチング率は、相性に加えて「サブ写真の枚数」「自己紹介文の有無」「好きなこと・趣味」など、そのユーザーのプロフィール登録率によって変わってきます。
そのため、例えば「3日以内にアプリを起動している」かつ「自己紹介の文章を登録していないユーザー」に対して、その登録を促すプッシュ通知を送って、プロフィール登録率を高めていきます。
こうして、マッチングが成立した後、メッセージを送っていないユーザーに向けては「あなたの返信を待っている方がいます」というプッシュ通知を送って、メッセージの送信を促進しています。
注意点としては、あまりたくさん送りすぎるとプッシュ通知の許諾をオフにされる可能性があることです。そのため、Reproを利用したプッシュ通知はユーザーあたり1日3件までに抑えて運用していますね。
1人ひとりのユーザーに、より最適化させた体験を提供していく
こうして、Repro導入後の1ヶ月で123回のA/Bテストを実施した結果、課金率を大きく改善することができました。
その中で見えてきている勝ちパターンもあって、例えばプッシュ通知の文言は、ひとけを出して、その先に相手がいるようなリアルな雰囲気を作ると反応が良いですね。
また、相性が90%以上の相手だとマッチング率が最大2倍になるなど、どんどんデータが溜まってきています。
そのため、アプリ内での行動履歴に基づいて、よりマッチングしやすい相手を優先して表示するような形へと改善していきたいと考えています。
あるいは、マッチング後に「どういうメッセージを送ればいいのだろう?テンプレを使ったら他の人と被るしな…」と感じているユーザーもいると思います。
そのためには、過去のデータを学習させて「このユーザー同士だと、こういうメッセージを送れば返信率は上がる」というようレコメンド機能も実装して、より一人ひとりのユーザーに最適化させた体験を提供していきたいですね。
このような体験の改善を進めて、相性の良い出会うべきふたりがもっと簡単に出会えるような世界観を作っていくことができればと思います。(了)
※その他のアプリマーケティングの事例については、こちらをご覧ください。