• 株式会社エバーセンス
  • 代表取締役社長
  • 牧野 哲也

売上目標を追わずに、約2倍の成長を実現!社員も幸せになる、独自の経営スタイルとは

〜創業以来、「売上目標を追わない」経営を継続。ユーザー満足度に紐づく指標だけを追い続けた結果、1年で月間の売上を約2倍に成長させた事例〜

売上の成長は、世の中の多くの企業が最重視することのひとつだ。売上は、成長を測るもっともわかりやすい指標であり、特にベンチャー企業においては、高い成長目標が掲げられることも多い。

一方で、創業以来、売上目標を追わない経営を続けながらも、実際には成長を実現している企業がある。2013年に創業し、出産や育児に関わる情報提供サービスを運営する、株式会社エバーセンスだ。

同社では、ユーザー目線でのサービスづくりを徹底する組織文化をつくるために、敢えて売上目標を追わないことを決めているそうだ。

今回は、同社の代表を務める牧野 哲也さんと、牧野さんの考え方に共感して中途入社された管 偉宏(かん いひろ)さんに、売上目標を立てずに成長を実現するための取り組みや組織運営について、お話を伺った。

売上を追うあまり、互いに疑心暗鬼になる組織にはしたくなかった

牧野 私は、新卒でトヨタ自動車に入社し、その後リクルート、屋外広告のベンチャーの役員を経験し、2013年に株式会社エバーセンスを創業しました。

創業するまで、レクサスの事業開発のようなグローバルな事業や、ゴリゴリの営業も体験していて。その時の体験もあって、私は「大人が幸せそうに働く」組織をつくりたいという想いで、弊社を立ち上げました。

というのも、働いてみてよくわかったのが、日本人って憂鬱に働いている人が多くって(笑)。本来、働くって楽しいものなのに、どうしてこうなってしまうんだろうという問題意識があったんですよね。

また、特に営業組織ですと、みんながそれぞれの売上目標を追うあまり、組織全体がギスギスとした雰囲気になってしまうことってあるじゃないですか。

誰かが成果をあげた際に「単なるラッキーパンチだ」「そもそも、あの人の顧客リストが良いだけだ」なんて声が上がったり…。

本来は、お客様にいかに満足していただくか? を追求すべきですよね。それなのに、競争意識が強すぎるあまり、社内で陰口が増えたり、お互いに足を引っ張りあってしまう。

競争すること自体は悪いことではないですが、結果的に意識がお客様から離れてしまうことは良くないですよね。

こうした原体験から、思い切って「売上目標を追わない」組織を作ろうと考えました。

私は新卒で大手Webベンチャーに入社しました。牧野と同じように、私も「売上目標を徹底的に追う」ということを体験しているんですよね。

しかし途中から、「自分は何のために働いているんだろう?」という気持ちを持つようになりました。

そのため、売上をしっかりと作りつつも、ユーザーの満足度を追及したいと考えていたところ、牧野の考え方に共感し、2016年の1月に弊社に入りました。現在は、マーケティング部のマネージャーを務めています。

売上ではなく、ユーザーの満足度に紐づく指標を追いかける!

牧野 弊社は、妊娠中の方向けに情報を提供する「ninaru(ニナル)」というスマートフォンアプリを中心に、出産や育児に関わる情報を提供するWebサービスを運営しています。

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その収益源は、基本的には広告収入です。アプリやWebサービス上で配信しているコンテンツと関連する広告を掲載し、それがクリックされることで売上が上がる仕組みです。

そして、売上目標の代わりに、コンテンツの読了率、1セッションあたりの訪問ページ数、1PVあたりの収益性といった指標を追っています。


これらの数値は、シンプルに、「ユーザーが満足するものを作れているか」ということを確認する指標です。例えばコンテンツが良いものであれば、ユーザーは最後まで読んでくれるので、読了率は上がり、結果的に記事の下にある広告のクリック率も高くなりますよね。

つまり、ユーザーの満足度を追求することで、それが結果的に売上の成長につながるという考え方をしています。

組織内の役割分担で言うと、読了率を上げ、アプリやWebサイト上に長く滞在してもらうための施策を実行するのが、コンテンツの編集部です。編集部のメンバーは、ユーザーに満足してもらえるようなコンテンツ作ることに集中します。その結果、読了率・1セッションあたりの訪問ページ数が向上し、売上も上がっていくという仕組みです。

そして、マーケティング部は、1PVあたりの収益性を追っています。そのためには、広告のクリエイティブが重要になるのですが、こちらも徹底的にユーザー目線で考えています。


例えば、広告枠に出稿してくださるクライアントさんから、クリエイティブの訴求についてご要望をいただいた際、それがユーザーにとっては決して最適ではない場合もあります。

そうであれば、クライアントさんのご要望を単に聞き入れるだけでなく、ユーザーにとって最適な形で表現できないか提案させていただいています。

そうすることが、最終的にはクライアントさんのメリットになるので、「じゃあ、そちらの表現でやってみましょうか」とご納得いただくことができるんですね。

誤クリックの誘発など、ユーザー目線でない手段は使わない

牧野 私たちはこのように、あくまでユーザーの満足度を追求する指標を追っています。

逆に目標を売上だけに置いていると、例えば「誤クリック」を誘発するようなバナーを掲載してしまったり、ユーザーの満足度を逆に下げるような施策を実行してしまう場合がありますよね。

正直、収益だけを追求するなら、できることはたくさんあるんですよ。例えば、記事を開いた瞬間に画面いっぱいにバーンと広告を固定表示することもできます。あの手法は、収益性が非常に高いんです。他にも、刺激的だったり、人をあおるような文言を使うこともできますし。

でも、そういうものは絶対にやらないようにしています。やはり、ユーザーの方を向いて、本質的に良いコンテンツを届けることが一番だと。広告を出稿いただいているクライアントさんとも、それを前提に話をすることで、長期的な信頼関係が築きやすいと思います。

社外の人が弊社のサービスを見ると「何これ、もったいない。もっとお金になるのに」と思うかもしれません。でもそれでも、創業から抱いている想いがあるので、売上目標は立てず、ユーザー満足度を追い求める組織文化を作ってきました。

経営判断や将来予測、採用や人事に難しさも

牧野 ただ、売上を追わないと言っても、会社を経営していく上でお金は必要ですので、売上計画は立てています。具体的には会社の人数規模から提供できるサービスの大きさを決め、その結果、どれ位の売上があがるだろうという風に、積み上げ形式で計画を決めています。

ただ、売上はあくまで結果指標になるため、将来を予測するのが難しい部分もありますね。その分、キャッシュリスクについては常にシミュレーションして管理しています。

また、採用においても難しさはあります。売上を追い、その中で発生する競争に勝つことにモチベーションを感じられる方もいらっしゃるので。売上や競争以外の部分にモチベーションを見出すことができ、かつ数値を追うこともできるバランス感覚もある方に出会うことは、簡単ではないですね。

牧野 評価制度においても、社員と会社の期待値を擦り合せる工夫をしています。というのも、評価への不満は、組織が一体となって顧客満足度を追うことを阻害するマイナス要因になると考えているからです。

「なんで自分があの人よりも給与が低いのか」という話がでると、組織が疑心暗鬼に陥ってしまいます。

具体的には、半期に1回、社員からライフプランと、そのために必要な給与額の要望を聞いています。会社側からはそのために必要なパフォーマンスを、具体的な業務レベルで伝えることで、評価への納得感を醸成しています。

売上を追わない経営を続け、社会のロールモデルを目指す

牧野 今後も、この「売上目標を追わないスタイル」は続けていきたいと思います。

そして、社会への影響力を考え、5,000人の組織を作ることを目標に掲げています。エバーセンスを、再現性があって、社会のロールモデルになるような企業にしていきたいですね。


私は、ユーザー満足度を追う中でも、しっかりと売上も伸ばし、社員に給与として還元していけるようにしていきたいです。日々、試行錯誤しながら指標を追っていますが、施策を考える際に、現状はまだ感覚値に頼っている部分もあります。

感覚は大切にしながらも、今後は、様々な指標の相関性を読み解いて、より数字で語れる組織にしていきたいです。(了)

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