- アイランド株式会社
- クッキングラマー・プロジェクト プロデューサー
- 大田 祥子
「ユーザーの体温を感じる」SNS運用を。参加数10万人のインスタコミュニティの作り方
〜その仕様上、データに基づいた改善が難しいInstagram。同サービス上でのコミュニティ運営を成功させる秘訣とは?〜
企業による、Instagramの活用が活発になっている。その中でも、成功事例と呼ぶべき活動のひとつが、日本最大級の料理ブログのポータルサイト「レシピブログ」で2015年7月からスタートした、「クッキングラマー・プロジェクト」だ。
▼ユーザーと共に成長を遂げている「クッキングラマー・プロジェクト」
同プロジェクトでは、Instagramで料理の写真・動画投稿を楽しむユーザーを対象に、「#春の食卓始めました」「#クリスマスハピネス」といった、月ごとのテーマハッシュタグを提案。「#クッキングラム」と共に投稿することを呼びかけている。
特にこの1年で飛躍的に規模が拡大。2017年4月現在、公式Instagramアカウントのフォロワー数は10万人以上、そして、「#クッキングラム」のハッシュタグをつけた累計投稿数は、76万件を突破している。
短期間でこの規模のコミュニティを醸成できた背景には、Instagramならではのハッシュタグの言葉選びや、「リポスト」のノウハウがあった。そしてまた、インフルエンサーを「アンバサダー」として登用し、「ユーザー1人ひとりと泥臭く向き合う」ことを大切にしてきたという。
今回は同プロジェクトを運営するアイランド株式会社でクッキングラマー・プロジェクトのプロデューサーを務める、大田 祥子さんに、詳しいお話を伺った。
1年半で、フォロワー10万人越えのインスタコミュニティを醸成
「クッキングラマー・プロジェクト」は、「レシピブログ」の中のひとつの企画として、2015年7月からスタートしました。私は2016年4月から他の業務と兼務で、このプロジェクトのプロデューサーをしています。
▼最新のハッシュタグ「春の食卓はじめました」(2017年4月現在)
「クッキングラム」という言葉自体は、クッキング(cooking)とInstagramを合わせたもので、弊社の代表が考えた造語です。
特にこの一年での伸びが著しく、2016年4月の時点で6,000人程度だった公式アカウントのフォロワー数は、現在10万人以上。そして3万件程度だった、ハッシュタグ「#クッキングラム」つきの写真の累計投稿数は、76万件を突破しました。
Instagramは、Googleアナリティクス等でも分析できませんし、Instagram社が提供する公式APIで吐き出せる数字もかなり限られています。つまり、いわゆるデータドリブンな運営が、非常にやりづらい状態です。
その中でここまでコミュニティを大きくできた背景には、とにかく地道に丁寧にユーザーさんと関わり、コミュニケーションをとってきたことが大きかったと思います。
「画像」が、コミュニティへの参加ハードルを下げるための切り口
このプロジェクトを始める前、「レシピブログ」としてのInstagram運用はほとんどしていませんでした。公式アカウントを持っていたくらいですね。
その中でInstagramでの企画を始めた背景には、「画像」を切り口として、より多くの方にリーチしていきたいという狙いがありました。
もともと運営していた「レシピブログ」では、おかげさまで16,000人もの料理ブロガーさんに参加いただいていて、ブログ記事を閲覧するユーザーさんは300万人もいるメディアになっています。
でもその一方で、もっと「見て楽しむ」ユーザーさんも、ネットワーキングしていきたいと考えていました。そこで、誰でも参加しやすい「作ったものを撮る」ということを起点にできる、Instagramでの企画を始めました。
プロジェクトを始めたときは、「レシピブログ」をプラットフォームに活用し、告知をしていきました。いまはプロジェクト自体にメンバー登録の仕組みがあるのですが、当時は単に投稿にハッシュタグをつけて、ご参加いただくという形でした。
「レシピブログ」を通じて、お料理好きの方々にコンタクトする術を、既に持っていたことは大きな強みでしたね。全くのゼロスタートではなかった、ということはとてもラッキーだったと思います。
Instagramはここ1年で劇的に変化していて、それによって投稿の内容やコミュニティのあり方も独自の進化を遂げてきました。
その結果、Instagram自体がブログとはまた別の意味で、個性やコミュニケーション力が求められる場所になったんです。現在は「料理」というキーワードの下に、ブログとInstagramという、濃いコミュニティがふたつ集まっているという状態を実現できています。
投稿を増やすためには、「ハッシュタグ」の言葉選びが重要
このプロジェクトを運営していく上では、まず多くの方に楽しんで参加していただくことが大事です。ですので、編集部が主催の投稿企画に関しては、とにかく「取っつきやすい」テーマを設定することを意識しています。具体的に言うと、「ハッシュタグ」の言葉選びには、かなり気を使っています。
まず、ハッシュタグに使う言葉は、具体的に絞りすぎないようにしています。例えば、「#◯◯スイーツ」にしてしまうと、本当にスイーツしか投稿できなくなってしまいますよね。そのような言葉ではなく、ユーザーさんが自分で解釈することができる、もう少し幅広い言葉を選んでいるんです。
例えば、過去に飛躍的に投稿数が増えたきっかけになったハッシュタグは、「#夏を楽しむ食卓」でした。
▼実際に集まった投稿
こういった言葉であれば、具体的に料理のジャンルを絞り込んでいるわけではないので、ハードルが低く、ユーザーさん自身の感覚で気軽に参加することができます。このように、ユーザーさんの感覚的なの部分を汲んであげることを、運営側としては一番大事にしています。
また、ハッシュタグに使う言葉に関しては、事前にInstagram上で検索してみて、結果が「ゼロ」件のものを使うようにしています。
この点、通常のWebサイト運営におけるSEOの考え方とは真逆ですよね。でも実際、編集部主催の投稿企画でハッシュタグを決める際に、Googleのトレンドのようなものを使ったことがないです(笑)。
「ゼロ」件のハッシュタグを選ぶ理由はまず、単純に効果測定がしやすくなることです。企画が終わったあとにまた同じ言葉で検索をすれば、そのヒット件数で、その企画の波及効果がわかります。
例えば以前、「#おいしさトローリ」という言葉をハッシュタグにしてみたことがあるんですね。このハッシュタグは、うちの企画の投稿期間が終わったあともずっと投稿が増え続けていったんです。つまり私たちが呼びかけたことが、自然と広まり、一般化したと考えることができます。
▼実際に集まった投稿
こんな風に、こちらから発信した言葉が一般化すると、何かうれしいですね。私たちが発信したワードが、それだけ、世の中に受け入れられたっていうことだと思っています。
それに、素敵な言葉を選ぶこと自体が、私自身も楽しいんです。例えば昨年末に実施した「#クリスマスハピネス」は、企画を通じて幸せ感があふれる素敵な写真が多く集まり、タイムラインを見ていてとても温かい気持ちになれました。
こんな風に私たちの発信したハッシュタグを通じて、でユーザーさんたちのInstagram投稿が少しでも楽しくなればいいなと願いながら毎回ハッシュタグを決めています。
コミュニティの盛り上げ役!「アンバサダー」の見つけ方・選び方
また、コミュニティを運営する上で非常に大きい影響力になっているのが「クッキングラム・アンバサダー」の存在です。
クッキングラム・アンバサダーには、編集部独自の基準で精査した「インフルエンサー」の方にご就任いただいており、毎月の投稿企画に任意でご参加いただくなど一緒にコミュニティを盛り上げていただいています。また、企業様とのタイアップ企画があった際に、お料理写真の撮影のお仕事を依頼させていただく場合もあります。
クッキングラム・アンバサダーの方たちは、フォロワーの方への影響力も大きく、スタイリングのアイデアやハッシュタグの使い方も先進的なので、トレンドキャッチという意味でも、すごく参考にさせていただいています。私はクッキングラム・アンバサダーの方の投稿はほぼ全員分、毎日見ていますね。
▼アンバサダーのひとり、hiroogwさんのアカウント
現在は101名の方に就任していただいていているのですが、最初の33名だけが公募で、以後はこちらから地道にお声がけしていっています。
Instagram上では、フォロワー数順にアカウントを並べ替えるなど影響力の高いユーザーさんを検索する方法がないので、ひたすら人力で素敵な方を探しています。運営メンバーで「1人10人候補者を出そう!」みたいな形でノルマを決めて(笑)、とにかくアカウントをひとつひとつ見ていくんです。
インフルエンサーをInstagramで探す場合、単純に「フォロワーが多い」という基準だけで選ばないことが大切だと思います。と言うのも、実は情報の拡散においてはユーザーさん同士のコミュニケーションを見ることが大切なんですよね。
時々、フォロワー数は1,500人ほどなのに、毎回の投稿でコメントのやりとりが100件以上あるような方もいらっしゃんですよ。そういった方は、基本的にコミュニケーション能力が高く、私たちから何かをお願いするようなケースでも、丁寧にケアしてくれるんです。
現在のクッキングラム・アンバサダーは、フォロワー数が20万人近い方から、1,500人くらいの方までさまざまな方がいらっしゃいますが、みなさん非常に高いモチベーションでご活躍くださっていて、その情報波及力は絶大です。
丁寧で地道な活動は、ユーザーに伝わる。「リポスト」の活用法
また、コミュニティをしっかり盛り上げていくために、公式アカウントからの「リポスト」をとにかく一生懸命やっています。「#クッキングラム」のハッシュタグがついている投稿の中で、素敵なものを選んで、こちら側のタイムラインに投稿するという活動です。
▼地道なリポスト活動でユーザーとのコミュニケーションを図る
リポストするときには、必ずスタッフのコメントをつけています。「かわいいですね」「おいしそうでおなかが空きました!」のような軽いコメントではなく、お料理写真をディテールまでしっかり見て、時にはキャプション欄やコメント欄でのやりとりまで読み込んでかなり濃く書いています。
と言うのも、私たちはそもそも日々の食卓を素敵にしようとしている人を、全力で全肯定してるんです。そういった気持ちを込めて、自分たちが本当に「おいしそうだな」「素敵だな」と感じることを大事にしていますし、それを表現するようにしています。
ですので、リポストする写真を選ぶのが実はすごく大変で…。リポストはPCではできないので、ひたすらスマホでタイムラインを遡って、おかげでみんな腱鞘炎になったんですけど(笑)。
そのくらい一生懸命選ばせていただいていたら、その結果、ユーザーさんが「クッキングラマー・プロジェクトは、リポストする写真をとても大切に選んでいる」とわかってくださったみたいで。ご本人から「リポストありがとうございます!涙が出るほどうれしいです!」とコメントをいただけたり、、そのお友達からの「おめでとう!」コメントラッシュになることもよくあります。
このようなステータスを作っていくためにも、例えばフォロワー数が多い人の写真だけをリポストする、なんてことは一切しないですね。日々をおいしいもので素敵にしようって思っていれば、みんな私たちの仲間です(笑)。ユーザーさんがキャプション欄の中で「クッキングラムさーん!」なんて、呼びかけてくれることもあるんですよ。
こういった活動って本当に泥臭いのですが、他に何か魔法があるわけでもないので(笑)。本当に人力でがんばっています。でも、ユーザーさんたちもすごく素敵な方が多いので、私自身のモチベーションにもつながっています。
Instagramが期待する以上の、新しい楽しさを届けていきたい
コミュニティを運営する上で大切にしているのは、やっぱり、ユーザーさんを裏切らないことですね。
常に、受け手の方がどういう気持ちで見てくださるか、ということを意識しています。私自身はコミュニティ運営関係の仕事に10年ほど携わってきているのですが、機械を通していても、結局「1PV=1人の人が見た」ということですので、その体温みたいなものを感じながら運営する、ということを本当にずっと大事にしてきています。
Instagramは仕様変更があまりに頻繁なので、ついていくのもすごく大変なんです。ただInstagram側としても、ユーザーさんにより楽しんでいただく意図で作ってらっしゃると思うので。こちらはあくまでもInstagramを使わせていただいている以上、その動きにはしっかりついていこうと。
そこから更に、Instagram側が意図した楽しみ方を越えていけるような何かを、こちら側からも起こせたらいいなと思っています。(了)