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DXの実現に欠かせない「デジタルアダプション」とは? その定義や成功事例などを徹底解説

昨今におけるIT人材不足や市場と消費者ニーズの目まぐるしい変化により、新たなビジネスモデルへの転換、すなわちDXがどの分野でも進められています。しかし現状として、「DXを実践したが思うように成果を出せていない」という悩みを抱える企業は少なくありません。

具体的には、「業務効率化を目的に新しい社内システムを導入したものの、社員が使いこなせていない」という例や、「オンライン完結を目指してサービスの利用案内をWeb上に記載しているが、ユーザーにうまく利用してもらえていない」といった例が挙げられます。

その解決の糸口として近年注目が集まっているのが「デジタルアダプションです。

これはDXの実現に向けたソリューションの一つで、ユーザーが自律的にデジタルツールの機能や使い方を理解し、最大限活用できている状態を指します。あるいは、その状態を実現するまでのプロセスを意味します。

本記事では、このデジタルアダプションの概要やメリット、その効率を上げる「デジタルアダプションプラットフォーム(DAP)」などについて解説します。

実際の導入事例もご紹介しますので、デジタルアダプションについて詳しく知りたい方や、DX施策の効果を上げたい方は、ぜひご覧くださいませ。

<目次>

  • デジタルアダプションとは?DXとの違いも解説
  • 今、デジタルアダプションが注目されている背景
  • デジタルアダプションのメリットと、実現までの5ステップ
  • デジタルアダプションプラットフォーム(DAP)とは?
  • デジタルアダプションの成功事例

デジタルアダプションとは?DXとの違いも解説

冒頭でもお伝えした通り、「デジタルアダプション(Digital Adoption)」とは、新規導入したアプリ・Webサイトなどのデジタルツールを、利用者が最大限活用できている状態のことです。また、システムの定着化に向けたプロセスそのものを指す言葉でもあります。

デジタルアダプションを行う際は、単なるデジタルツールの改良だけでなく「ユーザーの理解度を高める工夫」にも力を入れます。すなわち、ツールの使用方法やメリットがきちんと利用者に浸透しているのか・使いにくいと感じる機能がないかなど、ユーザー目線で分析し対策することが重要です。

なお、顧客向けサービスと従業員向け社内システムの両方を導入している企業であれば、両社の視点に立ったアプローチが必要となるでしょう。

デジタルアダプションとデジタルトランスフォーメーションの違い

似た意味をもつ用語に「デジタルトランスフォーメーション(DX)」があります。その意味は「ITの活用を通じて、ビジネスモデルや組織を変革すること」で、競合他社にはない独自性を確立するのが目的です。

※DXについて詳しくは、こちらの記事もご覧ください。

しかし、単なるテクノロジーの改良や実装だけでは、DXは実現できません。ユーザーが有効活用できるよう、環境整備やサポート体制の充実なども併せて検討する必要があり、その役割を担っているのが「デジタルアダプション」なのです。

なお、DXの実現により得られる主なメリットは以下の3つです。

  • 革新的な生産性向上
    業務の自動化・効率化・働き方の変革でコスト削減が期待でき、さらにはユーザー(従業員)がより多くの成果を生み出せるようになる
  • 既存ビジネスの変革
    顧客との関係性を深め、商品やサービスの改良を行うことで、既存ビジネスのさらなる成長が期待できる
  • 新規ビジネス創出
    これまでにない価値の創出・顧客や市場の創造により、新たな分野に進出したり、新規ビジネスモデルを形にしたりできる

その中でも、革新的な生産性向上に大きく関与しているのがデジタルアダプションです。

今、デジタルアダプションが注目されている背景

デジタルアダプションが注目されるようになった背景には、各組織が抱える「最新のテクノロジーを活用しきれていない」という課題があります。

近年はDXが推奨されるなか、クラウドサービス「SaaS」をはじめ、多くの企業がソフトウェアを開発・導入しました。しかし、効果的な活用に向けた周知やサポート体制が不十分だったために、デジタルツール導入の成果を思うように上げられていないケースも少なくありません。

参考として、2022年10月にWalkMe社と日経BPコンサルティング社による「デジタルツールの利用状況調査レポート2023」が発表されました。調査対象は従業員500人以上の企業で、実際にデジタルツールを活用する従業員が回答しています。

その結果、企業の業界や規模を問わず回答者419名のうち85%以上がデジタルツールの活用が必須であると回答しました。一方で、デジタルツールを導入したものの生産性向上につながっていないと感じる人は60%以上と高い割合になったそうです。

出典:PR TIMES『WalkMe、「デジタルツールの利用状況 調査レポート2023年版」を発表』

当然ながら、システム導入や利用定着にかかる大きなコストを上回るほどの利益を生み出すには、組織全体で効率よく活用できる仕組みづくりが必要です。

そのために注目されている取り組みが、ユーザーのデジタルツール活用を最大化させる「デジタルアダプション」なのです。

デジタルアダプションのメリットと、実現までの5ステップ

デジタルアダプションを行うメリットは、主に「業務効率や生産性の向上」「顧客・従業員の満足度向上」「競争力の維持」の3つです。

社内のデジタルツールを誰もが扱える仕様にすれば、ヒューマンエラー防止につながりワークフローが改善します。また社内システムを専門的に扱う人材や、カスタマーサポート担当者の負担が軽減し、本来の業務において創造性を発揮する機会を増やせることでしょう。

このように業務効率を高められる一方で、社員が抱えていたシステム関連のストレスがなくなり、自社への満足度が向上するメリットもあります。また、顧客へ提供するサービスの質・量の向上も期待できます。

さらに、デジタルアダプションの実現によってDXを進めることで、時代に合わせたビジネスモデルや組織へと軌道修正しやすくなるので、市場での競争力を維持・向上するには欠かせない取り組みだと思われます。

実際にデジタルアダプションを行う際は、以下のステップに沿って進めてみましょう。

1.実施目的と目標を明確にする

前述した通り、デジタルアダプションはDXの実現に向けた戦略の一部です。そのため、何のためにデジタルツールを導入したいのか・何を達成したいのかを、最終的なゴールである「DXの目的や目標」と照らし合わせて決めることが大切です。

目指す場所がはっきりしていれば、本来の目的であるDXと方向性を一致させられる上、どの部門やプロジェクトに時間や費用をかけるべきなのかが分かります。この際に、導入を検討している新システムが既存のものに適用可能であることを確認し、具体的な活用シーンについてもイメージしてみましょう。

2.具体的なアクションプランを作成する

目標達成に向けたプランを作成します。具体的には、成果が出るまでのスケジュール・統括責任者・進捗状況の評価方法などを決めましょう。特に、デジタルアダプションの成果は収益や受注数といった数値では測れないため、目標に沿った指標(KPI)設定が重要になります。

デジタルアダプションの影響が出やすいKPIの具体例は、以下の通りです。

  • カスタマーサポートへの問い合わせ件数
  • カスタマーサポートに必要な人数
  • 各ユーザーのシステム理解にかかる時間
  • 企業の生産性やデータ品質
  • ツール機能の利用率
  • アクティブユーザーの数や割合
  • カスタマーサクセス1名あたりのAnnual Recurring Revenue(年次経常収益)

アクティブユーザーとは「一定期間内に利用したユーザー」を指し、1日・1週間・1ヵ月と期間を区切ることで影響度を分析しやすくなります。

また、年次経常収益とは「(顧客課題を予測・解決して得られる)継続的な年間利益」のことで、カスタマーサクセス1名あたりの金額を推測して効果測定できます。

3.ユーザーに導入メリットを伝える

これまでのシステムを変えると、ユーザーは新たに仕組みや操作方法を覚えなければならず、どうしても負担を感じてしまいます。そのため、導入の必要性や使い方をきちんと説明し、前向きに活用してもらえるような配慮が必要です。

また、導入後はトレーニングを実施する旨や、ユーザーの意見を反映させながら改良を続けていくことも伝えましょう。

4.ユーザー向けのサポートやトレーニングを実施する

導入後は各ユーザーに操作を任せるのではなく、サポートやトレーニング体制を整えることで、デジタルツールの定着およびデジタルアダプションの実現に大きく近づきます。

個別で教えると時間や労力などのコストがかかるため、アプリやWebサイト上に操作ガイドやヘルプボタンを設置するのが有効です。各ユーザーの自己解決力が身につけば、マニュアル作成や講習会実施の負担軽減につながるでしょう。

5.行動分析・フィードバック・改善を繰り返す

本格的な実装後は、デジタルアダプションがどこまで達成できているかを可視化するために、データ収集や分析を行いましょう。おすすめは、ユーザーの利用状況をリアルタイムで追跡できる「デジタルアダプションプラットフォーム(DAP)」を活用する方法で、これについては後述します。

データ分析後は、ツールが直感的に操作しやすいものであるか・必要な機能が揃っているかを確認します。このとき重要なのは、改善に向けてユーザーの悩みや意見をきちんと聞き入れ、問題の原因を特定することです。

問題を特定できたら、計画を見直して対応策を練りましょう。なお、システム上の変更は少なからずユーザーに影響を与えるため、再度ガイドやヘルプボタンで周知する必要があります。

以上が、デジタルアダプションを行う際の5つのステップです。

企業を取り巻く市場・社会・テクノロジーは常に変化しつづけています。そのため、デジタルアダプションは実践と改善を繰り返して対応しつづける「継続的なプロセス」であることを覚えておきましょう。

デジタルアダプションプラットフォーム(DAP)とは?

デジタルツールの利便性向上や、デジタルアダプションのデータ分析には、「デジタルアダプションプラットフォーム(以下、DAP)」の活用が有効です。

これは、ユーザーのデジタルツール活用を促進するために設計された企業向けソフトウェアで、デジタルアダプション実現に役立つさまざまな機能を備えています。

※DAPの一例として、過去にSELECKにて取材した「テックタッチ社」の記事もご参考くださいませ。

▼「テックタッチ」で作成した操作ガイドを表示している様子(イメージ)

DAPの主な機能は次の3つです。

1.ガイド作成機能

操作ガイド・ヘルプボタンを自力で組み込む場合、システム開発・導入と両立しなければならず、大きな負担となってしまいます。しかしDAPを活用すれば、吹き出し・ポップアップ・選択分岐・用語説明などの項目を、画面上で簡単に作成できます。

そのほか役立つ機能は以下の通りで、内容はプラットフォームごとに異なります。

  • 誤入力防止機能:ユーザーの入力ミスをリアルタイムで表示する
  • デジタルガイドの使い分け:条件に応じて異なるガイドを表示させる
  • ユーザーに合った表示方法:日時、期間、ブラウザ、デバイスによって表示方法を変えられる
  • 多言語対応:多言語でのマニュアル作成や操作説明のコストを大幅削減できる

2.データ収集・分析機能

デジタルアダプションの施策を実行しても、いまひとつ効果や課題が見えにくい場合があります。その点DAPを使えば、各機能の利用頻度や時間をデータ取得できるため、ユーザーが使いにくいと感じる箇所を可視化して改善できます。

なお、ユーザーの評価を収集するフィードバック機能が搭載されていることも多く、数値化された定量的データだけでなく、ユーザーの意見から抽出した定性的データも収集可能です。

3.自動化機能

アプリやWebサイトの利用時には、全ユーザー共通の入力操作が少なからず発生します。DAPには定型操作を自動化できる機能があるため、操作の手間を省き、ユーザーの離脱を防ぎます。また、入力内容を記憶し自動入力する機能も使用可能です。

このような機能を備えたDAPを活用することで、システム定着の効率化やユーザーの生産性と満足度の向上、コスト削減(IT関連の教育やマニュアルのアップデートにかかる時間・労力の軽減)などのメリットを得られます。

特にコスト削減については、DAPにおけるデジタルガイド設置に加えて、チャットボットによる対話応対を取り入れれば、ユーザーが自ら学び解決できるようになるため、問い合わせ対応のコスト削減も可能になります。

デジタルアダプションの成功事例

最後に、実際にデジタルアダプションを実現した企業の事例を2つご紹介します。

それぞれどんな課題を抱え、またどのようにそれを解決したのかを参考に、デジタルアダプションの実現に向けてイメージを膨らませていただければと思います。

DAP活用でカスタマーサポートの負担軽減へ / Microsoft社

Microsoft社が提供するサービスの一つである「Bing広告」では、利用に際して困っている顧客から多くの問い合わせがありました。Microsoft社はそんな現状を打破し、顧客がより直感的に製品やサービスの使い方を理解できるようにしたいと考えました。

しかし、情報を提供する場である自社プラットフォームの問題点や改善点を特定できないという課題があったことから、その解決のために取り入れたのがDAPでした。

Microsoft社はDAPの一つである「WalkMe」を用いて、まずはプラットフォーム内のどこに置くべきかを見極めたうえで、サポートとガイダンスを設置したそうです。すると、複雑なプロセスをサイト上で説明できるようになったのに加え、分析機能でユーザーがどこでつまずいているのかも可視化できるようになったとのこと。

また、導入を検討している・あるいはすでに広告利用しているユーザー向けに、Bingの便利な機能を通知できるようにしました。すると、プラットフォームの使いやすさと共に、顧客満足度も向上したそうです。

その結果、カスタマーサポートへの問い合わせ数が13%減少し、ユーザー自身でプラットフォームを活用できるようになったといいます。

参考:Customer Onboarding With DAP: 3 Ways The Digital Adoption Platform Improves The Experience

一気通貫のシステム刷新で、大幅なコスト削減を実現 / オリンパス社

同じくWalkMeを活用し、社内システムを刷新した企業が、医療機器の大手メーカーであるオリンパス社です。

同社は企業効率の追求を目標の一つとして掲げ、それを実現するには「間接業務の効率化」が重要だと考えていました。そこで2019年1月から、クラウド型の経費管理システム「SAP Concur Expense」を導入し、本社社員7,000名向けにシステムを刷新しました。

しかしデータの差し戻しや使用に関する問い合わせ、責任者の対応作業が多く、システムの使いにくさが課題でした。さらには、在宅勤務の機会が増えたことで通勤費の支給方法を実費精算へと切り替えたため、経理財務部門や承認者の業務負担が大きくなる懸念もあったといいます。

そこで2021年1月には、新たにConcur ExpenseへのWalkMe導入プロジェクトを始動し、同年4月には本格稼働へと移行。通勤費・国内旅費の申請やIC精算をスムーズに進められるように利用ガイドを作成するなど、部門に限らず全社員が気軽に使えるシステムづくりを追求しました。

その結果、導入に向けた教育コストを3,600万円、データ修正・システム操作のコストを年間1億円近く削減できたそうです。また、システムが使いやすくなったことで従業員満足度も向上。同社では、今後も社員の意見をもとに改善を続けていく方針を掲げているとのことです。

参考:「デジタルアダプション」を導入したオリンパス、年間で1億円近いコスト効果の内訳

おわりに

今回は、DXの広まりと共に注目度が増してきている「デジタルアダプション」をテーマに、その定義から事例までをご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?

こちらの記事が、デジタルアダプションの基本理解を深め、推進する上で少しでもお役に立てますと幸いです。(了)

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