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- 染谷 健太郎
「代表取締役CEO」の権限も細分化。ホラクラシー組織LAPRASの代表交代ストーリー
2022年2月1日、創業から5年半というタイミングで代表取締役CEOの交代を発表したLAPRAS(ラプラス)株式会社。
エンジニア向けキャリアマッチングプラットフォーム「LAPRAS」、企業向けAIヘッドハンティングサービス「LAPRAS SCOUT」を展開する同社は、創業以来、そのユニークな組織運営でも注目を集めてきた企業だ。
2018年より、階層のないフラットな組織形態「ホラクラシー(Holacracy)」を採用。意思決定権を組織内に分散させることで、メンバーが自律的に働く組織を作り上げてきた。
▼ホラクラシー組織と従来の組織の違い(編集部作成)
※同社のホラクラシー運営についての詳細は、こちらの記事もぜひご覧ください。
ホラクラシーにおいては、「人」ではなく、意思決定ができる権限を持った「ロール(役割)」で組織が組成される。それは「代表」という役職にも同様に適用されており、通常の会社で代表が担う業務を細分化した上で、色々な人がその機能を分散して担ってきたのだという。
役職よりも先に、「誰がどんな仕事をするか」という実態が自律的に変化し続けるため、今回の代表交代における社内への影響もミニマムに抑えられたのだそうだ。
新代表に就任した染谷 健太郎さんは、「ホラクラシーでは、『営業』といった固定の役割に人が付くのではなく、役割の持ち方がどんどん『その人らしく』なっていく。自分は役職としては『代表』だが、ロールの持ち方は『染谷さん』」だと話す。
今回は染谷さんと、創業者としてこれまでCEOを務めてきた島田 寛基さんに、LAPRASにおけるホラクラシー運営と代表の交代について、詳しくお話を伺った。
一人ひとりが裁量を持って主体的に働くため「ホラクラシー」を採用
島田 僕は学生時代に、京都大学で計算機科学や自然言語処理を研究していて、その後、イギリスのエディンバラ大学でAIに関する修士号を取りました。
そしてイギリスにいた2016年にLAPRAS(※当時の社名はscouty)を創業し、5年半経営をしてきました。自分自身がエンジニアとしてのバックグラウンドを持っていたことが、「エンジニア採用」を最初に挑戦する領域にした理由のひとつでもあります。
▼【左】創業者であり、前代表である島田 寛基さん【右】現代表である染谷 健太郎さん
染谷 僕は新卒でリクルートに入社し、主にSaaSやBPO領域で新規事業を開発していました。そして2018年2月に、主にtoBマーケティングの担当としてLARPASに入り、2020年からは執行役員COO、今月(※2022年2月)からはCEOを務めています。
入社したとき、LARPASには自分のような存在が必要になるだろうと思っていたので、ある程度の裁量を持つことは想定していました。でも、まさか自分が代表になるとは、全然予想していませんでしたね。
LAPRASが展開しているのは、エンジニア向けのキャリアマッチングプラットフォームです。その人のやりたいこと・できることを可視化した上で、その人にふさわしい機会がちゃんと届くことを目指しています。
サービスの大きな特徴としては、Web上でオープンになっているアウトプットから、その人の技術力をスコアリング化、タグ化して、より直感的に伝わるようなポートフォリオを自動で作れることです。
▼エンジニア向けのキャリアマッチングプラットフォーム「LAPRAS」
また2021年7月には、手持ちの職務経歴書をインポートするだけで、自動でプロフィールに取り込める機能もリリースしました。
現在、LAPRAS SCOUTの累計の導入社数は500社を超え、また2022年1月には、LAPRASの登録ユーザー数も2万人を突破しました。特にスタートアップ界隈でスキルの高いエンジニアを採用するにあたっては、定番サービスのひとつとして認知いただいていると思います。
また、弊社の組織の特徴としては、2018年から役職や階層のない組織体制として知られるホラクラシーを導入しています。
ホラクラシーという仕組みを導入している目的は、LAPRASにいる一人ひとりが裁量を持って、主体的に働くためです。
ホラクラシーでは、ロール(役割)にアサインされると、その領域に関する意思決定を自ら行うことができます。稟議や上司の決裁は不要で、自分自身で「何をやるか」を決められるんですね。
「自分の能力を発揮したい」というウィル(意思)を持つ個人にはとても働きやすいですし、主体的に仕事ができる仕組みです。LAPRASとしてはそういった自律的な働き方を実現するために、ホラクラシーを活用しています。
代表という「役割」に適した人は、会社のフェーズによって変わる
島田 代表の交代については、自分のブログにも書いていますが、実は悩んでいる期間がけっこう長かったんです。ホラクラシーもあって、早い段階から権限移譲は進んでいましたが、実際に退任を考え始めるようになったのは2020年頃でしたね。
今後の結果によって決まることではありますが、株主の人たちも自分に投資してくれた中で、責任放棄とも言えるかもしれない。ですが、会社にとって一番良い選択は、新しくバリューを出せる人にどんどん経営を渡していくことだと考えました。
スタートアップにおける創業者の存在は大きいですし、最初の頃は「自分らしさ=会社のカルチャー」である部分もありました。ですがいまでは、「LAPRASらしさ」が確立され、「島田らしさ」よりも強くなっている。
その中で、代表という役割に適した人もフェーズによって変わっていくので、会社としても、創業者としても、やはり最も適している人が担っていくのが良いと感じていました
染谷 代表交代の話は、実は「いつか来るだろうな」とは思っていました。タイミング的には思ったより早かったのですが(笑)。
ただ、「LAPRASらしさ」は、いまいる人たちによって変わっていくものなので、むしろ変化しないことのほうが危ないと思っています。
ですので、良いものはもちろん引き継ぎつつ、要らなくなったものはどんどん捨てていって、常に新しい「LAPRASらしさ」を作っていくことが大事だと考えていますね。
「代表だから◯◯をやる」ことはない。役割を細分化し適材適所を実現
島田 ホラクラシーで運営されているLAPRASにおける「代表」の在り方ですが、そもそも「代表の役割」ってひとつではないですよね。例えば資金調達、メディアへの露出、採用など、会社によって異なると思います。
なのでLAPRASにおいては、「代表取締役CEO」というロールを置いていたわけではなく、その各機能をロールとしてそれぞれ作っていました。会社において代表が担うべき役割を分散して、色々な人が担う、という状態がもともとあったということです。
▼同社のホラクラシー組織(こちらから組織図の詳細をご覧いただけます)
染谷 通常の会社では、代表は色々な役割を担っていますが、それぞれが明文化されているわけではないですよね。「何となく代表がやっている」という感じが実態に近いと思っています。
ですがホラクラシーでは、そのひとつひとつの役割を細分化した上で定義して、それぞれを誰が担うのか、機能を配分できます。
これは代表に限らず、ほかの役員でも同様です。実際に「執行役員」というロールがありますが、「執行役員だからこの役割を担う」ということはありません。あくまでも、対外的に裁量を持っている人を明示するための、「執行役員を名乗れるロール」です。
島田 僕は個人的にカメラが好きだったので、「(自社媒体の)カメラマン」というロールを担っていたこともあります。「代表だから」「役員だから」ということではなく、個の持っているスキルや適性に着目して、適材適所を実現できます。
染谷 ロールの変更も、その役割を任命できるリードリンク(※部署の責任者のような立ち位置)と当人の合意ですぐに行えます。一般的な人事体制の変更の際に行われる、内示、発令を経た施行…といったプロセスは一切不要です。
本人同士が合意したタイミングで、新しく役割を担ったり、あるいはその役割をほかの人に渡していけるので、非常にスピード感を持って組織体制が変化していくことになります。
役職は「代表」、役割は「染谷さん」。役職が実態に追いつく仕組み
染谷 今回の代表交代にあたっては、組織がホラクラシーによって運営されていたことで、それに伴う現場への影響は非常に小さく抑えることができました。
実はこうした組織体制の変化は今回が初めてではなく、2020年にも大きな経営体制の変更がありました。そのタイミングで僕がCOOになり、CTOも交代し、執行役員も増えたんです。
ただ、そのときも今回もそうなのですが、ホラクラシーの場合はまず実態が変わり、対外的な役職が後追いで変わります。なので会社の外から見ると「何があったんだろう」と感じるかもしれませんが、社内ではその人が既に実態としてその役割を担っているので、サプライズ感は全くないんです。
島田 ホラクラシーでは小さいところからどんどん流動的に組織体制を動かせるので、日々変化もしていますし、それに後から大きい役職が追い付いてくる…という感覚です。
染谷 実際に代表の交代を発表したタイミングでは、組織体制に大きな変化はありませんでした。僕自身のロールも、ほとんど変化していません。一応、Generalサークルという組織全体を指すサークルのリードリンクは担うようになりましたが。
島田 僕は退任する直前は、採用、組織回り、PR、MVV関連、あとはファイナンス等のロールを担っていました。
実は経営の決定や事業統括に関しては、昨年から染谷さんが担っている状態でした。ですので、今回は自分自身のロールの引き継ぎはしたものの、短期的にものすごく大きな打撃が起こるということではなかったんですね。
染谷 代表が担う機能はもともとホラクラシーによって細分化されていたので、「代表だからこれをやらなければいけない」ということはびっくりするほどなくて。
ホラクラシーが面白いのは、「営業」といった固定した役割に人が付くのではなくて、ロールの持ち方がどんどん「その人らしく」なっていくことです。僕は役職としては「代表」ですが、ロールの持ち方は「染谷さん」になるんですね。
そういった意味では、LAPRASは「代表の会社」ではなくて、「みんなの会社」だと思っています。なので、代表はきっとこれからも変わっていくと思いますし、それがLAPRASの持続的な強みになっていくはずです。
代表が誰かということより、やはり主体性のあるメンバーによって、会社がどんどん推進されていく状態を作っていくことのほうが、本質的には大事だと思っています。
とは言え、代表交代によるメンバー個人への心理的な影響はあるはずなので、そこは1on1を通じて丁寧にコミュニケーションしていきました。今後も会社として達成したいことは変わらないこと、これまでと同じことを目指していけることを伝えていきましたね。
そうしたことの結果か、代表交代という一見大きな体制変更がある中でも、この間に1名の社員の離職もなく事業を進められているのは非常にありがたいですね。
「人の可能性を最大限に発揮するため」それぞれの新しい挑戦は続く
染谷 LAPRASのネクストチャレンジとして、このタイミングで急に新しい何かを掲げることはありません。
ですが、より会社としての方向性を明確にする意味で、MVV(Mission/Vision/Value)といった理念体系のアップデートに着手しました。そしてその中で、LAPRASの本質は「人が可能性に満ちた存在である」ことを信じることだと定めました。
人の可能性を最大限に発揮するためには、やはりその人が最も可能性を発揮できる仕事とマッチングしていく必要がある。その実現のため、まずはサービス改善が一番大切なので、改めてどんどん取り組みたいと思っているところです。
加えて、おかげさまでお客様も増えてきていますので、組織を拡大させていく必要もあります。その中で、現状の意思決定スピードを維持していくためにも、いまよりさらに分権を進めたいんですね。実際に組織の構造や、ロールの持ち方を変えていっているところです。
島田 僕はこれを機に、改めてひとりの起業家としてチャレンジをしたいと思っています。まだ具体的な事業も会社も存在していませんが、漠然とあるのは、バーチャル世界の価値にベットしたいということです(※取材時)。
バーチャル世界と言うとメタバースやWeb3的なものを想像しがちですが、例えばTwitterも一種の非リアルな世界ですよね。そこで人と人が出会ったり、コミュニケーションをしたり、仕事をする。このようにバーチャルでできることがどんどん広がっていけば、いずれはリアルの世界に匹敵する価値を持つと感じています。
ゆくゆくは、バーチャル空間だけで生計を立てる人も出てくるかもしれません。それは働き方の選択肢を、本当の意味で広げることになるのかなと。
そういった、より自由な生き方を実現したいと日頃から感じていて、残りの人生を使って挑戦したいなと思っています。
LAPRASでは転職機会をマッチングすることで、人がより幸せに働ける状況を作ろうとしていましたが、これからはその選択肢自体を増やす。実はやりたいこと自体はあまり変わっておらず、より抽象化されたようなイメージです。
組織づくりについては、僕はいわゆる普通の組織に所属したことがないので、ホラクラシー以外の形を経験したい気持ちもあります。なので、次はまた別の形にチャレンジするかもしれません。
組織の形態は様々なので、その人の経営スタイルや、事業に合わせた体系を取ればいいですよね。ホラクラシーは、その選択肢のひとつだと思っています。(了)