- 株式会社サイバーエージェント
- メディアディベロップメント事業本部 局長
- 小越 崇広
エンジニアにデータ抽出はさせない!Excelを脱し、レポート作成時間をゼロにした方法
〜ディレクター全員がSQLをマスター!Datorama、Tableauを活用し、ビジネスサイド主導でデータドリブンな組織を実現させたノウハウを大公開〜
データドリブンな経営を推進したい企業は多い。しかしデータを活用しようとすると、貴重なエンジニアのリソースを大きく使ってしまうと考え、最初の1歩を踏み出すことができないケースもあるだろう。
そんな中、株式会社サイバーエージェント メディアディベロップメント事業本部では、ディレクター全員がSQL(※データベース内のデータの抽出などに用いられる言語)を習得。
さらに社内のデータを可視化するBIツール「Datorama(デートラマ)」「Tableau(タブロー)」を導入し、数値分析のほとんどをビジネスサイドで完結させることに成功した。
※「BIツール」というワードにあまりピンとこない方、初めて聞く方は是非こちらの記事もご覧ください!
結果、毎日3時間以上かかっていたレポート作成の工数がゼロになり、エンジニアもより本来の業務に集中できるようになったそうだ。
今回はBIツール導入時に同事業部で局長を務めていた、小越 崇広(おごし たかひろ)さんに詳しいお話を伺った。
※小越さんの役職は、取材時のものです。現在は、サイバーエージェントの子会社である株式会社AJAで、取締役を務めています。
エンジニアに作業を依頼しなければ、KPIの確認もままならない…
弊社のメディアディベロップメント事業本部は、「Ameba」や「AbemaTV」などが属しているメディア事業部の中で、メディアのマネタイズを担う部署です。
当事業部は全体の約3割がエンジニアで、残りは営業、広告運用のコンサルタント、企画のディレクターといったメンバーになります。
私はもともとその中の、アドテクノロジー局というWeb広告のエンジニアリングをしている組織で、局長を務めていました。
Web広告事業を展開する上では、当然指標が重要になってきます。どれくらい広告が表示されたか、どれくらいクリックされたか、そしてどれくらい売上が上がったか、ということですね。
見るべき指標はそれだけではなく、担当する業務によって、そこから更にブレイクダウンした細かい数字も見る必要があります。
ただ、それらのデータを参照するための管理画面は、以前は顧客向けのものだけ用意していました。
そのため、例えば新しいタイプの広告を配信したときに、それが良かったのか悪かったのかをデータで見ようとすると、毎回エンジニアに依頼してデータを出してもらう必要があったんです。
本来、エンジニアはプロダクトの改善に時間を充てるべきなのにもかかわらず、こうした依頼が来るたびに毎回作業を中断していて…。
さらにエンジニアは、ビジネスサイドから見たら明らかに間違っているデータにも、気が付きにくいんですよね。また、後でビジネスサイドから「やっぱり◯◯も必要でした」と、依頼が二度手間になることもあり、非常に効率が悪い状態でした。
まずはディレクター陣が、自らSQLを叩いてデータを抽出
そこで、まずディレクター陣全員が、SQL(※データベース内のデータの抽出などに用いられる言語)を習得して、必要な情報を自分たちで抽出できるようにしました。
そうすることで、毎日のKPI進捗といった報告書などを作るにも、ビジネスサイドのメンバーが自分でSQLを叩いて、必要なデータを抽出できるようになりました。それを資料にする際には、Excelで加工し、レポートにしていたという感じです。
これは実際やってみて、非常に良かったですね。データが必要な人間がデータを取るので、間違っているとすぐに気が付いて、その場でやり直せるため、非常に効率的です。
エンジニアにとっても、データ出しってあまり面白くない仕事なんですよね。彼らがプロダクト改善や、自分の技術力を上げることに時間を取れるようになったこともすごく良かったなと。
ただ、毎日毎日SQLを書いて、同じように加工していたので、もっと効率化できると考えていたんですね。
特に、毎日の事業部長レイヤー向けの報告資料の作成が、大きな負担になっていました。およそ1.5人で、毎日3〜4時間をかけていたんですよ。
KPIである日次の売上の報告資料も、関数を多用しているためにExcelファイルが重くなり、破損してしまうこともあって。
こういった課題を解決するために、ビジネスサイドだけで運用できるような、BIツールの導入を検討し始めました。
社内のデータを可視化する、BIツール「Datorama」を導入
ツールを選ぶ上でポイントだったのは、まず、エンジニアなしで構築・運用ができること。そして、事業部長が「ひと目で」状態を把握できるようなレポートが作成できること。この2点を重視していました。
事業部長層向けに管理画面を作るのって、大変なんですよね。彼らは、見たい数字もよく変わるし、基本的には2クリック以上しないじゃないですか(笑)。ですので、「これが売上です!」とぱっとわかるような画面で、かつたくさんの変更に対応できる必要があり、それが結構難しいんです。
最終的には、この2軸が実現できることと、外部サービスとのデータ接続が簡単にできることが決め手となって、「Datorama(デートラマ)」を導入しました。
▼ほしい情報を1枚のダッシュボードにまとめる「Datorama」
Datoramaは、様々な外部データソースと連結させることで、ほしい情報を1枚のダッシュボードにまとめることができるBIツールです。
導入にあたっては、事業の健康状態が全部見える化できるデータセットが既に「Amazon Redshift(アマゾン レッドシフト)」に存在していたので、それをDatoramaに取り込む形を取りました。
データセットの構築自体は多少の追加業務がありましたが、そこさえできれば、連携自体は5分ほどで完了しました。
出社したら、まずデータを確認!毎日のレポート作成時間がゼロに
実際にどんなダッシュボードを作成しているのかというと、まず、全体の売上といった主要指標を一覧にした「エグゼクティブサマリ」があります。
▼Datoramaで作成した「エグゼクティブサマリ」
これを、事業部長層への日々の報告にも使っています。ですので、以前レポート作成にかけていた工数は完全にゼロにできました。
他にも、各担当者が自分の業務に必要な数字が見られるように、もう一段階ドリルダウンしたダッシュボードも作っています。
これらのダッシュボードはすべて自動で作成されますし、Excelで作るのとは違って、ミスがないのがいいですね。今は朝出社したら、既にデータが正確に、すべて出ているという状態なので。
これによって、PDCAが1段早まったようなイメージです。数値をダッシュボード化したことで、社内の「共通理解」を生むことができたからですね。
我々は基本的にデイリーの売上を追っているのですが、その調子が良い・悪いというのは、以前はレポートが共有されるまでわからなかったんですよ。でも今は全員がそれを見られるので、そもそも良いか悪いか、という認識が既に合っています。
ですので、「昨日から広告のクリック率が、◯%落ちているのはなぜだろう」というように、具体的な検討事項から議論をスタートできるようになりました。
「Tableau」の活用で、さらにドリルダウンした指標も分析
ただ、リアルタイムの広告の入札ロジックの検証のように、Datoramaだけでは足りない高度な分析もときには必要です。
そのようなときは「Tableau(タブロー)」も使って、さらにドリルダウンしたデータを分析しています。
▼Tableauを使った詳細な分析の例
Datoramaは、簡単に言うと事業の健康状態を表すものです。一方でTableauは、個別の1機能や施策について、当たっているかどうかということをブレイクダウンして見れるものです。
現状、Datoramaに加えてTableauと、Redshiftに直接SQLをたたくことで、ほとんどの分析はビジネスサイドでまかなえる状態になっています。
エンジニアへの依頼も、今は2〜3ヶ月に1回あるかないかまで減らすことができましたね。
新施策の目標設定、バックオフィス効率化…データの可能性は無限
このようにデータを可視化したことで、新しい施策やサービスを立案しやすくもなりました。
新しいサービスを出してからログを設計するのって、大変ですよね。でも今は既にRedshiftにログが入っているので、そことDatoramaをつなぐだけで、検証したい数値を見ることができます。
また、既存事業で様々な指標が可視化されているので、新しい施策の目標値も立てやすくなったと思います。
他にも経理部門では、「今月は請求書をどのくらい発行する必要があるか」という目算も、ダッシュボードを見ることで立てられるようになりました。
今後は、よりデータ活用の幅を広げていきたいと思っています。
このように可視化できるデータは広告だけではないですし、メディア関連のデータが紐づくと、もっとできることが広がります。今後は、こういった数値も可視化することで、売上以外の指標も合わせてサービスを評価していきたいですね。(了)