- ロクシタンジャポン株式会社
- デジタルマーケティング部 EC/DMOマネージャー
- 川崎 千絵
ECと店舗の「顧客の奪い合い」に終止符!ロクシタンのオムニチャネル戦略とは
〜「Adobe Campaign」を導入し、Webとリアルの顧客データを統合。数々のデータドリブンなマーケ施策で、オムニチャネルでの売上を拡大する取り組みを紹介〜
1976年、南仏プロヴァンスで誕生したコスメティックブランド「L’OCCITANE(ロクシタン)」。
同社は設立以来、DM(ダイレクトメール)を通じたリアルなコミュニケーションによって、顧客を拡大してきたという。
しかし、SNSやECといった顧客接点の多様化により、Webとリアル双方の顧客データを活用したマーケティング施策を行う必要性が出てきた。
それに伴い同社は、「Adobe Campaign(アドビ キャンペーン)」を導入。
ECと店舗の顧客データを統合し、分析を行った結果、見えてきたのは「ECと店舗の双方で購入をする」オムニチャネル顧客の重要性だった。
そこで、それぞれ別の目標を追っているECと店舗の「垣根」を取り払うため、CRMチームのKPIをオムニチャネル顧客からの収益に設定。
「ロクシタンのファン」そのものを増やすために、Webとリアルを連動させた、データドリブンなマーケティング施策を行った結果、オムニチャネル顧客の数が前年比で27%増加したという。
今回は、ロクシタンジャポン株式会社でEC事業のマネージャーを務める川崎 千絵さんと、CRMを担当する宇野 慎一さんに、顧客データ統合の背景からオムニチャネル施策までを、詳しくお伺いした。
DMから始まった、ロクシタンのBtoCマーケティング
川崎 私は2011年に、ロクシタンに入社しました。現在はデジタルマーケティング部で、EC領域を執り行うチームのマネージャーをしています。
宇野 私は2015年の入社以来、CRMを担当しています。
CRMチームはもともとデジタルマーケティング部に所属していましたが、ECと実店舗の顧客データを一元化するために、マーケティング部の管轄に移りました。
現在は、顧客のセグメント分析や各種レポーティング、購買行動に基づいたメールマガジンの配信などを主に行っています。
【左】川崎さん、【右】宇野さん
川崎 弊社には、ロクシタンならではのユニークなDMで、お客様を増やしてきた歴史があります。日本に進出した当時も、お客様にメッセージを添えたDMを送り、コアなファンを増やしていったそうです。
▼実際に送付されている、DMのイメージ
現在もDMは重要なマーケティング施策のひとつなのですが、年間15回、かなりの部数を送付しているので、コストも膨大になります。
果たして本当に費用対効果があるのか? ということが、議論されるようになってきました。
しかし、当時は店頭の購買(POS)データと顧客データが紐付いておらず、DMの効果については感覚値でしか測ることができなかったんです。
そうした課題感もあり、2015年10月、顧客情報の一元管理を目的として「Adobe Campaign」を導入しました。
ECとリアル店舗の顧客データ統合により、顧客行動を可視化
川崎 Adobe Campaignは、ECシステムとPOSシステムの双方に連携した、マーケティングオートメーションのツールです。すべての顧客情報を管理する、データベースとしても活用されています。
導入以前にも、お客様が店舗で貯めたポイントをECのポイントと合算する、といった連携は一部ありましたが、購買履歴は統合できておらず、不完全な部分も多くありました。
現在は、ECと店舗で顧客IDが共通化されており、お客様がどこで購入をされても、全てのデータがAdobe Campaign上で紐づくようになっています。
顧客データが統合されたことで、新たな気付きも出てきました。一番意外だったのは、ECと店舗のどちらでも購入経験のある、いわゆる「オムニチャネル顧客」が数多くいたことです。
それまでは、ECと店舗で異なる担当部署が、それぞれのお客様に向けた施策を行っていたんですね。
それが、いざデータを統合してみると、「あれ、これ同じお客様だ」って気が付いたりして(笑)。
そして、オムニチャネル顧客の購買履歴をみると、通常の単一チャネルの方に比べ、2〜3倍近く購入頻度が高いことがわかったのです。
こうした発見から、マーケティング施策も各チャネルで独立して動くのではなく、Webとリアルで連携をし、オムニチャネル顧客を増やすことが重要だと考えるようになりました。
CRMチームのミッションは、Webとリアルの垣根を取り払うこと
宇野 CRMチームは、オムニチャネル顧客の「人数」と、そこから得られる「収益」をKPIとして追っています。
ECと店舗で別々の売上目標を持っているので、どうしてもお互いに「店舗(逆の立場ではEC)のお客様が奪われる」という考え方が抜けませんでした。
そうした背景もあり、Webとリアルのクロスセルを促進するため、今期から「Webインセンティブ」という仕組みを導入しています。
これは、店舗に来たお客様がECで購入された場合、その売上を管理会計上の売上として、店舗に還元する施策です。
例えば、店頭にいらしたお客様の探している商品がWeb上にしかなかった場合、店舗からすると自分たちの売上に繋がらないため、紹介する動機づけが発生しにくいことが多々ありました。
どうしても当事者として自店舗の売上目標を追っているとそこに意識が偏ってしまうため、CRMチームが客観的なデータを伝え、「ロクシタンのお客様」として垣根を持たないよう働きかけています。
こうした施策により、今期のオムニチャネル顧客の数は、前年比27%増で推移しています。
セグメント分けしたメルマガの配信で、開封率が通常の3倍に!
宇野 また、顧客分析だけでなく、メールマガジンの配信にもAdobe Campaignを活用しています。
以前は全てのお客様に同じメールを送っていたのですが、どんどん配信回数が増えてしまったことで、購読をやめてしまう方も中にはいらっしゃいました。
そこで、様々な顧客情報からお客様をセグメント化して、1人ひとりのお客様に合わせたメールの配信を始めたんです。
川崎 現在、メールマガジンは大きく3種類あります。
1つは、全員に配信する新製品の「プロモーションメール」、次に、性別や年間購入額といった顧客属性に合わせた「セグメントメール」、そして最後が、お客様の誕生日や、購入履歴、キャンペーンへの応募などを起点とした、「リレーショナルメール」です。
これらの中で、いま伸びてきているのが、最もパーソナライズされているリレーショナルメールですね。
先日、とある商品のサンプリングキャンペーンを実施したのですが、その1週間後に送付したリレーショナルメールでは、開封率とCVRが非常に高くなりました。
▼実際に配信されている、ロクシタンのメールマガジンの冒頭
通常の開封率はそのメールの半分くらいなので、やはりお客様のその時々のニーズに合わせたメールをタイミング良く送ることは、非常に重要だと実感しましたね。
宇野 メールの出し分けは、Adobe Campaign上で条件分岐が設定できるようになっています。「どのお客様に」「いつ」「どの内容を」送るかというシナリオを設定し、自動でメールを送っています。
データ活用で、サンプリングや「休眠顧客」の掘り起こしに成果も
川崎 私たちはロイヤルカスタマーを増やすひとつの指標として、「スキンケア商品の購入有無」を追っています。
これはギフト目的だけではなく、毎日使うスキンケア商品をご購入いただくことで、定期的にリピート購入をしていただくためです。
その施策のひとつとして、今年の6月から、化粧水、美容液、クリームのスキンケアのルーチーンステップを試せるサンプルセットを、ご購入時に選ぶことができるキャンペーンを試験的に始めました。
▼ほしいサンプルセットを選ぶことができる
▼実際のサンプルセットのイメージ
このキャンペーンを行う際にも、Adobe Campaignに蓄積されたデータを活用しました。
まず、ECで購入歴のあるお客様全員を、「既存顧客」もしくは「新規顧客」、「スキンケア商品を購入したことがある」もしくは「スキンケア商品を購入したことがない」という2軸を掛け合わせた、4つのセグメントに分けます。
そしてそれぞれ、サンプルを付与するお客様のグループ、付与しないお客様のグループを作りました。
そしてサンプルセットをご購入者に付与し、その1週間後にAdobe Campaignを使ってフォローアップメールを送りました。
ロクシタンには、ハンドクリームやボディクリームのみを購入されるお客様が多くいらっしゃいます。これまで私たちは、EC上で、そのようなお客様にスキンケア製品も合わせて購入していただくことは非常に難しいという印象を持っていたんです。
ですが結果的に、この施策は想定していた以上に商品購入につながって。
当初は投資回収までに1年かかると予想していましたが、開始2ヶ月目で目標とするROIを達成することができたんです。
セグメント別の効果検証ができたことで、よりターゲットを絞った施策の道筋も見えてきましたね。今後は、パーソナライズサンプリングを行い、さらに効率を高めてROIを上げていくのが次の目標です。
宇野 さらに、データの統合によって「休眠顧客の掘り起こし」でも成果が出始めています。
「最終の商品購入後、ある一定時期を過ぎると復活する可能性が低くなる」ということは過去データからわかっていました。そこで、その1週間前に「1週間限定」、前日に「本日限り」という期間限定のGWP(※)キャンペーンのメールを送ったんです。
▼期間限定のプレゼントキャンペーン実施
※Gift with Purchase:商品ご購入時に他のギフトをプレゼントをする、販売インセンティブ施策。
この結果、休眠顧客から復活したお客様の割合が、何もしない場合に比べて10%~15%上昇しました。データに基づく施策は、やはり効果がありましたね。
Webで得た知見を、リアルのマーケティングに活かしたい
川崎 今後はECやメールマガジンなどで得たデータを実店舗にも活かして、いかに効率的に施策を打っていくか、が重要だと考えています。
Webはトラッキングが可能なので、購入された場所やタイミング、来店のトリガーになったクーポンや集客施策など、様々なデータが取れているんですね。
この顧客データをあらゆる角度から分析し、よりパーソナライズしたお客様へのアプローチを考え、実店舗のマーケティングにも活かしていきたいと思っています。
既にECで実施したサンプリング結果をもとに、店頭でのサンプリングをするアクションも進行中です。
宇野 また、現在CRMチームでは、デジタルの知見を活かして「リアル店舗版のA/Bテスト」にも取り組んでいます。
これは、外部システムを導入し、エリアや立地などの売上に相関のある店舗をグルーピングして、そのグループごとに複数の施策を出し分けし、効果検証をする取り組みです。
今後も、よりWebで得た知見を実店舗に応用して、オムニチャネルのマーケティングで「ロクシタンのファン」をさらに増やしていきたいですね。(了)